暴君
ある国にとてつもない暴君がいた。彼は国のあらゆる権力、軍隊・政治経済も完全に支配していた、そして当然のように法律も裁判も暴君のものだった。ある日、いつものように暴君は宮廷で裁判をとりおこなった。国中すべての裁判を彼が行っているわけではないが、暴君はしばしば裁判を自らの手で行った。彼は暴君といわれるほどには気紛れであったり残酷ではなかったが、冷酷無慈悲であった。
最初にひとりの男が兵士に連れてこられた。
「罪状はなんだ?」
暴君が聞くと兵士は答えた。
「強盗であります」
「なぜ強盗をしたのか?」
暴君がそう尋ねたので男は答えた。
「生活に困っていたのです」
暴君が兵士を見たので。兵士は答えた。
「本当であります」
そこで暴君は答えた。
「では法律の定めたところにしたがい斬首にせよ」
兵士はそのとおりのことを行った。
次にまた別の男が連れられてきた。そして暴君は男に尋ねた。
「罪状は何か?」「分かりません。私は街頭で施しをしていただけです」
暴君が兵士を見たので、兵士は答えた。「施しに並んだ人間で道がふさがってしまいました。」
「なるほど、それは罪である。しかしこの罪に明確な法律がない。」
暴君はそういうと男に聞いた。「なぜ施しをしたのか?」
「分かりません、ただ私は施しをしたかったのです」「なるほど、ではこの男を斬首にせよ」
暴君がそういうと兵士は尋ねた。
「なぜ斬首にするのですか?」
「彼は私に自分のしたことの理由をいわなかった。それなのに私が彼を斬首にする理由をいう必要があるのか?」
兵士はしばらく考えると言った。
「なるほど分かりました」
はたして兵士は言われた通りのことを行った。