既存のものか、それとも未知なるものか?

 

 これが、クビナガザメ!!!、でございます^^)↓。さあ、これなる”復元”について考えてみよう。

  

 

 

 このイラストに関する議論はまあ本文でするとして、これ自体はかなり奇妙なイラストであること否めません。例えば、サメが鰓まで海上に出すなんてことが自然な状態であるんでしょうか?。それからこの歯、ちょっと強調しすぎですね。とはいえ、首以外の身体はこんなものかな?。

 目撃された死体に比べても”首”が長いですけど、パースだと思って下さいな^^)

 一応、背景にびっくりしているサーファーが小さく描かれています。

 

     

 さて、2002年、北村のところにある仕事が舞い込みました。神奈川県の海岸に流れ着いた動物の死体を復元したイメージイラストを描いてくれ、そういわれたのです。死体を見たい人は有名なオカルト雑誌、ムー、2002年3月号、pp63~65を見て下さい。小さな頭骨と”首”に見える長い脊椎の列、比較的ほっそりした胴体、ヒレ状になっているとおぼしき尾があることが分かります。

 

 さて、この写真を見れば一目瞭然、これはサメの死体です。さて、それはともかくとして、北村が受けた依頼は、

 ”この死体を首の長いサメとして復元したイラストを描いてくれ”

というものでした。最初は正直とまどったのですけれど、科学という哲学から離れた立場で描くということに納得した次第。

 

 そもそも、科学ではこうした死体をどう考えるでしょうか?。あまり知られていませんが、サメは頭の骨、というか脳を包む箱状の軟骨が身体に対して小さいのですよね。生きている時、外見からそうは見えないのは、頭骨についている下顎と上顎、そして頭の後ろに鰓を支える骨が何列もついているせいです。

 ではそうした骨格をしているサメが死ぬとどうなるか?。死んで腐敗が進むと顎と鰓を支える骨が落ちます(大村、望月、神谷 s53 pp15を参考)。そうなると小さな頭骨と胴体の間にはかなりスペースが空くことになります。これが”長い首”に見えることが知られています。

 1977年、ニュージーランド沖合いでトロール漁船が”首の長い謎の死体”を引き上げました。すわ、首長竜の死体か?!、と騒がれたのですが、サメが死ぬと先ほどのべたような外観を呈することから考えると、死体の正体はウバザメなど大型のサメの死骸であろうと考えられています(同上 pp11~16を参考のこと)。

 

 ニュージーランド沖で見つかった謎の死体。いわゆる”ニューネッシー”ですね。ひどく腐敗が進んだ死体で、死後6ヶ月あまりという推論があります。全長は10メートルあまりあったようです。漁船の上でしたから、ただちに海上投棄され、写真と目撃談、ヒレの一部が残されました。

 また、ウバザメというのは大型のサメでNelson 1994 では、最大15.2メートル、少なくとも10メートルだそうです。大きいですねえ。プランクトンを大口を開けて海水から漉しとって食べる動物です。

 

     

 

 とはいえ、以上の見解に反論する人もいるでしょう。例えば、

”未知動物の死体かもしれないものを、既存の生物の枠内に安易に当てはめているだけではないのか?”

というものです。

 

 おそらく、この意見は正しい。特に”安易”という言葉を”最短”という表現に代えれば、それはまさに科学の考え方であろうと北村は考えています。科学には”最節約:most parsimony”という言葉があります。単純にいうと、

 

 1:同じ事柄を説明できる仮説は幾つあるか?。それは無限にある

 2:無限の仮説の中からどれを選ぶか?

 3:矛盾がなく、仮定や説明がもっとも少ない仮説を選ぶ

 

以上のような考え方です。これは”オッカムの剃刀”という言葉でも知られています。科学における基本的な考え方のひとつですね。

 科学は、このような基準で選ばれた仮説が”かならず正しい”と主張しているわけではありません。無限の候補の中から仮説を選びだす基準に”最節約”を用いているというだけです。しかし逆にいうと、科学は、

 ”最節約でない仮説を選ぶ根拠はない”

と見なしています。つまり、”首が長く見えるサメの死体”の正体を”クビナガザメ”とみなす根拠はない、そう科学は考えています。実際、積極的な証拠もない状態で”新種”であるとか、あるいは”未知種”ということはできません。

 

 だが、仮にそうした科学の哲学から離れたらどうなるか?。その時、”首が長く見えるサメの死体”は”クビナガザメ”であるという仮説が選ばれる余地が出てきます。上のイラストはそういう立場で描かれています。さて、あなたはどう考えますか?。

 

 参考文献:

 Nelson 1994. Fishes of the World 3ed John Wiley & Sons,Inc

 大村、望月、神谷 s53 瑞洋丸に引き揚げられた動物の死体の鑑定ー比較形態学の立場からー 瑞洋丸に収容された未確認動物について 日仏海洋学会 1978 pp11~16

 

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