深海生物のひみつ 2011年8月29日発売
PHP研究所
1400円 イラスト/テキスト:北村雄一
2012.03.30 修正:
本書の62〜63ページで紹介したテンガンムネエソのイラストに間違いがあります。63ページにあるイラストキャプションでは「望遠眼で、水晶体は黄色」とありますが、確認したところ、テンガンムネエソ(Argyropelecus hemigymnus)の水晶体は無色でした。つつしんで訂正したいと思います(ちなみに元のイラストで水晶体を緑色に描いているのは黄色の水晶体を持つ魚の眼は、生きている時、しばしば緑色に見えることが由来です)。
また、テンガンムネエソ属の中で黄色い水晶体を持つのは、正しくはナガムネエソ(Argyropelecus affinis)でした。テンガンムネエソのより妥当なイラストは以下左、右側は同属別種で黄色い水晶体を持つナガムネエソのイラストです。
本の概要:
今回の本は深海生物のイラスト図鑑です。イラスト図鑑にはイラスト図鑑の長所があるので、その説明を少ししましょう。イラストではなく、深海生物の写真を見たい!! というのはよくある要望なのですが、この要望には以下に示すように、ちょいと無理難題な側面があります。
1:水は不透明な物体なので水中では遠くの生物は見えない(鳥を撮影するように魚を撮影するわけにはいかない)
2:深海調査は科学調査なので娯楽や遊びでやっているわけではない
3:確実に成果を上げるために、採集する生物は、偶発的に遭遇した場合を除くと、あらかじめ確実に採集できると分かっている生物にほぼ限られている
4:多くの場合、熱水噴出孔に群れる化学合成生物群集のように、特定の場所にいて、数が多く、動かない、あるいは逃げない生物、が採集されることになる
5:こうして採集された生物を現場、あるいは船の上で撮影する
6:以上の理由から、写真にこだわる限り、いつも同じ面子になる
まあ、写真を見たいのは分かりますが、写真にこだわる限りは本としてはすぐネタ切れになってしまいます。それでも近年は観察機器の発達とネットによって、かなり色々な深海生物の画像が見れる時代になりました。非常にありがたいことですが、とはいえ、これを集めれば本になるのか、というと正直難しいところでしょう。ネットで無料公開しているからといって、そういう画像を集めて無料で本が作れるわけではありません(詳しいことを知りたい人は著作権や人件費などに関して調べてみて下さい)。
それに実はネットで見れる深海生物の画像もそれが本来の色や姿であるのか分からない場合もあります。明らかに標本を動かして背景を合成している動画もありますし、それ以前に、魚だろうがイカ、タコだろうが、死ねば色が変わります。発見当初から何十年も色が真っ黒だと思われていたコウモリダコなど良い例でしょう。それにそもそも標本写真すらまともにないマイナーな深海生物なんてざらにいます。採集された深海生物は大概、損傷していますから、復元図しかないものとかもいます。写真にこだわる限り、そういう様々な深海生物は永久に紹介できないでしょう。
言い換えればまあ、その限界を突破するのがイラスト図鑑、というわけですね。そういうわけで今回の本ではメジャーな種類も入っていますが、基本、マイナーで、この機を逃したらもう紹介できないだろうものも含めて描きました。また。あえて付け加えるのなら、こうでもしないと深海生物の広い紹介ができない理由は、水が不透明な物体であることに原因があること、そこに注意するべきでしょう。私たちはプールや海を青く描くのにも関わらず、水が不透明な物体であることを忘れがちです。
参考文献:
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Fishes of the North-earstern Atlantic and the Mediterranean, vol.1
Fishes of the Western North Atlantic part four
Fishes of the Western North Atlantic part five