ふしぎな深海魚
太平洋をわたってみよう
2013年4月発売
汐文社
2300円+税 本文執筆・イラスト:北村雄一
概要:
児童向けの本を多く作っている汐文社さんから出した三冊シリーズの絵本第二巻。
本を開いた時のサイズ、つまり見開きがB4。35ページで2300円という結構なお値段です。三冊シリーズすべてを買うと税込みで7000円を越えます。もともと図書館に入れて子供に深海と自然の面白さを伝えようという主旨で作られたものなので、個人が買う事はあまり想定していません。写真が載っているに違いないとか、そういう期待を持っている人には向かないものです。個人で買うとしたら図書館や書店で、まず現物を取って確認した方が良いでしょう。
ちなみにリンク先のアマゾンには書評で星一つのものがあり、この絵本がご本人の期待と想像からかけ離れていた様子がうかがえます。写真が良かった、とありますが、これはその証拠。
ですが、海を見れば分かるように水というのは不透明な物体です。事実、海の底はよほどの浅い水深でない限り見えません。せいぜい数メートルが普通です。これは誰もが知っていることでしょう。そもそもそれゆえに深海は暗く、そして見通す事の出来ない未知の世界となりました。深海生物の写真が見たいという願いは、深海生物の写真がほぼ存在しないか、あまりにも被写体が偏っているという現実の裏返し、そのものでもあります。
そして以下に述べるように、この絵本の主旨は相模湾から太平洋プレートの生まれ故郷であるガラパゴス近海まで見ていこうというものです。被写体に偏りのある写真でこのような本を作るのは無理な話。それゆえ残念、写真が良かったというちょっと現実的でないお願いには応じることができません。というか、それはほぼ不可能なので、写真が見たい人はググった方が無難です。
*なお、検索する時は和名ではなく学名か英語名で行った方が良いでしょう。また、学名でググって出てきたからといって、その画像がその生物のものなのかは保証の限りではありません。当然、誤同定ということがありえます。ググる場合には論文や検索図鑑などが必読なので、必ず図書館で借りるなどした上で、それを手元において付き合わせてください。また、同定に必要な形質は解剖学的な用語なので、解剖学に詳しい本も必要です。ただし、同定に必要な形質は、写真に写っていないことが普通ですので、見たいものを見つけたい人は気長にこの作業を行わねばなりません。写真がネット上にないとか、それ以前に、写真そのものが存在しない深海生物もいるので、すべてが無駄に終わる可能性も念頭に入れておいてください。
登場する生物と本の構成
この本は神奈川県にある相模湾の海底から始まります。相模湾は三つのプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートの三つが会合する、世界でも珍しい場所です。それゆえ、地震も多く、地質活動による湧水とそれに群がる化学合成生物群集などが見られる場所でもあります。相模湾には相模トラフという海溝の一種があります。絵本はこの相模トラフに沿っておき合いへと進み、東京湾の先にある東京海底谷を抜け、千葉県の房総半島の沖合を通り、日本海溝まで向かいます。そうして海溝の谷を上り、太平洋の深海底を進み、最後は太平洋プレートの生まれ故郷である、ガラパゴス近海の海底と、そこにむれる化学合成生物群集を見て終わる、というものです。
相模湾の斜面ではトリノアシ、ハシキンメ、キンメダイ、オキナエビス、ユメカサゴを見ます
その先ではリュウグウノツカイ、サガミハダカ、サガミソコダラ、タカアシガニを
相模湾の水深1000メートルでオンデンザメやホラアナゴ、クロヌタウナギ、フジクジラ、そして化学合成生物群集であるサガミハオリムシとシロウリガイを、それをあさるエゾイバラガニを見ます
その先では東京海底谷と合流し、ユウレイイカ、ラブカ、ミズウオ、ミツクリザメ、トカゲギス、ナガヅエエソ、イバラヒゲ、クロコソギスを見ます
その先、3000メートル以深ではユメナマコ、ソコボウズ、ベニオオウミグモ、キャラウシナマコを
日本海溝内部ではシンカイクサウオ、ヨコエビ、クマナマコが、その最深部ではヨミチヒロウミユリとカイコウオオソコエビが登場します。ここは水深9200メートル、海溝三重点という場所です。
この先は深海平原です。シンカイヨロイダラ、エウリセネス・グリルス、チョウチンハダカ、キロサウマ・マレーイ、シンカイエソがいます
そしてガラパゴス近海の熱水噴出口にいるのが、ベンティエラ・サルフリス、ブルカノオクトパス・ハイドロサルマリス、テルマルケス・ケルベロス、アルビノカリス・ルカス、そしてガラパゴスユノハナガニ、ガラパゴスハオリムシ、ガラパゴスシロウリガイたちです。
巻末にそれぞれの生物の学名と簡単な解説がつきます。