M87 (NGC4486)
おとめ座銀河団の中心にある超巨大楕円銀河 メシエ87
2020年1月6日 3:00のM87
スケッチ上の連なった円は35・5倍の視野を示し、左がM87 右(方位でいうと東)にM89 M90 が見えています。これら三つのメシエ天体はいずれも銀河。中でもM87はぱっと見ても分かる大きな白い点で、見た目は尾を引かない彗星のよう。しかしコアのようなものは見えません。あるいはコアが大きすぎて、このように見えるということでしょうか。にじんだ恒星のように見えるM89 中心に明るいコアを持つものの、楕円のうっすらした姿を見せるM90 これらの銀河と比べると、M87は圧巻の姿を見せています。
スケッチの大きな円は75倍の視野を示し、三つのメシエ天体、それぞれの姿を描きこんでいます。左下の大きな円に描いたM87は見ての通りまん丸。ハッブル分類ではE1、すなわちほんの少しだけひしゃげた楕円銀河ということですが、見た目はまん丸の円。
おとめ座ε星ビンデミアトリックス(Vindemiatrix)から、しし座の尻尾であるデネボラ(Denebola)の間に群がる無数の銀河たち。これがおとめ座銀河団で、無数の銀河が集まって一団となっています。以上のスケッチで描いたM89もM90もこの銀河団の一員。そしてこれら銀河たちの中央にいるのがM87 その質量は太陽の3兆倍。われわれの銀河の10倍以上の重さを持つ超巨大楕円銀河であり、近隣の宇宙では最大級の大きさを誇る銀河です。
M87は電波源としても知られています。電波を発する存在として知られたのは1948年。最初はM87とはわからなかったので、電波源として、おとめ座A(Virgo A)の名前が付けられました。その後、電波を発する場所を詳しく特定したところ、おとめ座AがM87であることが確認されたました。そしてM87はその明るい中心核から5000光年に及ぶジェットを放出しており、電波はこのジェットから出ています(残念ながら自分が持っている口径30センチではジェットの視認はできません)
中心にひそむ巨大ブラックホール
ではM87はどのようにしてジェットを放出して、電波を放つのか? 答えは中心にあります。M87は中心が非常に明るいので、それだけたくさんの星が集まっていることが分かります。星が集まるとは、右往左往する星たちをまとめる重さがあるということ。しかし調べてみると、これほどの星をまとめる重量を持つにしては明るさが足りないことが分かってきました。輝く星だけが集まって、自らを自分の重さでまとめているのならもっと明るくなるはず。しかしそうではない。だとしたら、大量の星を集める暗くて重い天体が中心に潜んでいることになる。計算するとこの暗い天体は、太陽の30億倍以上の重さがなくてはいけません(質量は後に修正)。ごく単純な説明は、M87の中心には巨大ブラックホールがあるというものでした。 Young et al 1978, [Evidence for a supermassive object in the nucleus of the Galaxy M87 from sit and CCD area photometry]
巨大なブラックホールがあればジェットと電波の放出も説明できます。ブラックホールに落下するガスは円盤を描いて落ちていく。この時、ガスは互いにぶつかり合って高温になって光を放ちます。この光の圧力で一部のガスが回転軸へ押し出される。これがジェットであり、電波を生み出す源となります。
さて、私たちの銀河系中心にひそむブラックホールは推定、太陽の370万倍、お隣のアンドロメダ銀河のブラックホールは3000万倍。これらに比べるとM87が持つ推定30億倍がいかに桁外れか分かるでしょう。しかもM87までの距離は5500万光年。この距離でこの大きさなら、M87のブラックホールは最も大きく、最もはっきり見えるブラックホールということになります。2019年には電波望遠鏡を組みわせることで高解像度を実現、M87が持つブラックホールの姿が確認、発表されています。そして現在推定されるこのブラックホールの質量は太陽の65億倍です。The Event Horizon Telescope Collaboration 2019, [First M87 Event Horison Telescope results. I. The shadow of the Suppermassive Black Hole]
参考:[Burnham's Celestial Handbook]