Decapoda デカポーダ/十脚類(目) ヘリトリマンジュウガニ Atergatis reticulatus ヘリトリマンジュウガニはまるっこい姿をして力強いハサミを持った海産のカニです。生きているところは見たことがありませんが、岩場の潮間帯下から水深30メートルまで分布。この甲羅は2004年の夏、江ノ島の海岸で拾いました。
口の輪郭が四角、顔の前方にトゲがないことから方頭群。歩脚が4対であること、甲羅が楕円に近く、後方がせまくなって全体として扇形になることからオウギガニ科。甲羅の幅にくらべて触角の間が狭く1/4ぐらいであること。甲羅の側面が板状にはり出すことからマンジュウガニ属(Atergatis)。表面に多数のしわがあること、甲域という甲羅を大きく区分する部分がはっきりと溝で区別されることからヘリトリマンジュウガニであると考えました。分布は青森西岸から房総半島、九州、だそうです。(参考:原色日本海岸動物図鑑[II] 保育社:「原色日本大型甲殻類図鑑(II)」保育社)
分類群の名称は「原色日本大型甲殻類図鑑(II)」を使用。
デカポーダの分類(暫定的):
甲殻類や十脚類の分類がどの程度系統を反映しているのか?、そもそもどの程度系統が分かっているのか?。その問題はこのコンテンツの下:デカポーダの系統と分類、でもう少し話すとして、ここでは「動物系統分類学」7(上) 節足動物(I)総説・甲殻類、であげられた分類体系を示しておきます。
→Natantia(ナタンティア:遊泳類)
→Penaeidea:クルマエビ類(クルマエビ、チヒロエビ、サクラエビ、)
→Caridea:コエビ類(ヌマエビ、ヒオドシエビ、ホッコクアカエビ、モエビ、テナガエビ、スジエビ、テッポウエビなど
→Stenopodidea:オトヒメエビ類(オトヒメエビ、カイロウドウケツエビ)
→Reptantia(レプタンティア:歩行類)
→Palinura:イセエビ類(Eryon、イセエビ、ウチワエビ、セミエビなど)
→Astacura:ザリガニ類(アカザエビ、ザリガニなど)
→Anomura:異尾類(オキナワアナジャコ、アナジャコ、スナモグリ、カニダマシ、ヤドカリ、タラバガニなど)
→Brachyura:短尾類
|_Dromiacea:ドロミアキア/カイカムリ類
| |_Dromiidea:ドロミディア/カイカムリ上科(カイカムリ)
| |_Homolidea:ホモリディア/ホモラ上科(トウヨウホモラ、ミズヒキガニ)
|_Oxystomata:オキシストマータ/尖口類
| |_Drippidea:ドリッピダ/ヘイケガニ科(ヘイケガニなど)
| |_Calappidae:カラッピダ/カラッパ科(カラッパ、キンセンガニなど)
| |_Leucosiidae:レウコシダ/コブシガニ科(コブシガニなど)
| |_Raninidae:ラニニダ/アサヒガニ科(アサヒガニ、ビワガニなど)
|_Brachygnatha:ブラキグナーサ/方口類
|_Oxyrhyncha:オキシリンカ/尖頭上科(クモガニ、タカアシガニ、ズワイガニ、イソクズガニなど)
|_Brachyrhynca:ブラキリンカ/方頭上科(ワタリガニ、ガザミ、ケガニ、オウギガニ、スベスベマンジュウガニ、サワガニ、ピンノ、イワガニ、イソガニなど)
デカポーダ/十脚類とは?:
十脚類/デカポーダはエビ、カニ、ヤドカリのことです。生活にもっとも身近な甲殻類でしょう。たしかに等脚類/イソポーダのダンゴムシやワラジムシのように距離的にもっと身近な甲殻類もいますが、私達は普通、等脚類を食べたりはしません。でもデカポーダはメインディッシュとして食卓にあがる甲殻類です。というよりも人間が食べる節足動物はそのほとんどが十脚類です。
大きさはさまざまで最大の節足動物であるタカアシガニのように脚を広げると3メートルをこえるものから、ごくごく小さなエビのようなものまでがいます。住んでいる場所は主に海中。6000メートルとかそういう大水深になるといなくなってしまいますが、世界中の海、川や湖にすんでおり、一部のものは陸上でも生活します。右の写真のサワガニ(Geothelphusa dehaani サワガニ科)はかなり陸上生活に適応したデカポーダですね。
このサワガニを撮影したのは2003年の秋。大阪の某所。撮影者の北村を見てハサミを振り上げ威嚇中、なかなかきれいな個体でした。同定の根拠は本州の山のなかの淡水にすむカニはサワガニしかいない・・というはなはだ安易なもの。
デカポーダの特徴:
胸にある脚のうち、前の3対が顎に転用されたために、歩行用の足が5対、10本になっていることです。右の写真は
アメリカザリガニ
Procambarus clarkii
アメリカザリガニ科
アメリカザリガニは池や沼にいるポピュラーなデカポーダですが、ハサミ1対+歩くための脚が4対あることが分かりますね。ようするに、左右のハサミ+歩行用の脚4対=合計10本。これはサワガニも同じです。デカポーダのデカとはギリシャ語で10の意味です。だからデカポーダ。日本語では十脚類。
とはいえ、顎に転用された胸の脚があまり分化していなくて見た目は10本脚に見えないものもいます。
デカポーダ/十脚類の分類と系統:
「原色日本大型甲殻類図鑑(I)(II)」保育社、1982年で使われているものについては以上に示しました。ただ、現在使われている分類が系統を反映しているのかはよく分かりません。十脚類の系統は90年代に入ってから遺伝子/形態に基づいた解析例がいくつかなされています。ただ内容について把握しきっていないので現在工事中。
ここでは参考までに1986年のSchram の体系を以下にしめします(直接の参考は武田正倫 2000、甲殻類、「動物系統分類学 追補版」中山書房、そこからSchram 1986 Crustacea Oxford Unive.Press を孫引き)。
Dendrobranchiata(デンドロブランキア:根鰓亜目)
Eukyphida(エウキフィダ:コエビ亜目)
Euzygida(エウジギダ:オトヒメエビ亜目)
Reptantia(レプタンティア:歩行亜目)
十脚類は分類上ではOrder、以上の4つのサブグループはそれぞれSuborderです。これ以前に書かれた「動物系統分類学」7(上) 節足動物(I)総説・甲殻類、では先に示したよう、以下のようになっていました。
→Natantia(ナタンティア:遊泳類)
→Penaeidea:クルマエビ類(クルマエビ、チヒロエビ、サクラエビ、)
→Caridea:コエビ類(ヌマエビ、ヒオドシエビ、ホッコクアカエビ、モエビ、テナガエビ、スジエビ、テッポウエビなど
→Stenopodidea:オトヒメエビ類(オトヒメエビ、カイロウドウケツエビ)
→Reptantia(レプタンティア:歩行類)
→Palinura:イセエビ類(Eryon、イセエビ、ウチワエビ、セミエビなど)
→Astacura:ザリガニ類(アカザエビ、ザリガニなど)
→Anomura:異尾類(オキナワアナジャコ、アナジャコ、スナモグリ、カニダマシ、ヤドカリ、タラバガニなど)
→Brachyura:短尾類
|_Dromiacea:カイカムリ類(カイカムリ、ミズヒキガニなど)
|_Oxystomata:尖口類(ヘイケガニ、カラッパ、キンセンガニ、コブシガニ、アサヒガニなど)
|_Brachygnatha:方口類(ガザミ、ケガニ、オオギガニ、サワガニ、ピンノ、イソガニなど)
また、この本で想定されている系統関係は271ページの記述からすると以下のようなものであるようです。
______外群(オキアミ)
|______クルマエビ
|_____コエビ
|_____オトヒメエビ
|_____ザリガニ
|?===異尾類
|____カイカムリ類
|____尖口類
|__方口類
つまりレプタンティア/歩行類(イセエビ+ザリガニ+ヤドカリ+エビ)は単系統だということでしょうか。
なお、「原色日本大型甲殻類図鑑(I)(II)」保育社、1982年で使われている分類は以下の通り。
Dendrobranchiata(デンドロブランキア:根鰓亜目)
→Penaeidae(クルマエビ下目)
Pleocyemata(抱卵亜目)
→Stenopodidea(オトヒメエビ下目)
→Caridea(コエビ下目)
→Astacura(ザリガニ下目)
→Palinura(イセエビ下目)
→Anomura(異尾下目)
→Brachyura(短尾下目)
|_Dromiacea(カイカムリ群(Section))
|_Archaeobrachyura(原始短尾群(Section))
|_Oxystomata(尖口群(Section))
|_Oxyrhyncha(尖頭群(Section))
|_Cancridea(イチョウガニ群(Section))
|_Brachyrhyncha(方頭群(Section))
本によると異尾類に含まれるアナジャコが大きな分類群として分離されることもあるようです(系統を反映しているかどうかは知りませんけど、見た目からするとそういう認識をされてもおかしくないくらいアナジャコはちょっと特徴的な姿かもしれません)。