暴君と賢い男

 

賢い男が罪を犯した。

ほどなく彼は捕まり、裁判を受けた。

裁判を行ったのは暴君だった。

 

暴君はこの国のすべての裁判を自分で

行ったわけではないが、

幾つかの裁判は彼が行った。

彼が法律を作り、

そしてまた

法律は調整され続けたからである。

 

判決が言い渡されると

賢い男は暴君をまっすぐ見つめて言った。

「王よ私の罪の原因はそもそもあなたにあります。」

 

暴君はそれを聞くと男に聞いた。

「その理由は?。」

賢い男は答えた。

「王よ、私はあなたの犠牲者なのです。

あなたが以前に定めた法律で私の家は

不利益をこうむりました。

若かった私はそれで心に傷をおったのです。」

 

暴君はかたわらにいた兵士に聞いた。

「この男の言葉はどの程度の事実を含んでいるのか?。」

兵士は書類を見て、そして答えた。

「不利益をこうむったのは事実です。」

それを聞くと暴君は男に尋ねた。

「それで?。」

 

 賢い男は言い立てた。

「王よ。私はあなたの法律とまつりごとの犠牲者なのです。

そして傷ついた私はことにおよんだのです。

私が悪いのではありません。

王よ、私を処罰するのであれば

あなたの責任も問われるべきです。」

 

すると暴君は言った

「では、なぜお前はまず私を殺そうとしなかったのだ?。」

賢い男はすこしとまどった。

「それはどういうことでしょうか?。」

 

暴君は答えた。

「お前の言葉の半分は事実である。

ならばお前の苦しみの原因は私である。

では問う。

なぜお前はお前の苦しみの原因である

私を倒そうとしなかったのであろうか?

それが正しい反応と行動ではないか。

しかるにお前は私ではなく、別の人物を傷つけた、

これは罪である。」

暴君は続けた、

「お前は自分が愚か者であると

言い立てているだけだ。」

 

そして暴君は兵士に手をふると言った。

「判決の通り、この男を斬首にせよ。」

 

はたして兵士は言われた通りのことを行った。

 

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