暴君と賢者
ある日、暴君の宮廷に賢者がやってきた。
暴君はちょうど裁判を行っており、
賢者が見たところ
暴君の裁判はそれはひどいものだった。
裁判が終わると暴君は
今になって気がついたかのように賢者を見て言った。
「そなたは賢者であると聞く。
そして多くのものがそなたの名前を知っている。」
それを聞くと賢者は
気分を害したように答えた。
「それはどういうことでしょうか?」
すると暴君は答えた。
「私はそなたの名前を聞いたことがあるということだ。」
そういって賢者をしばし眺めると
暴君は言った。
「賢者よ、私になんの用かな?。」
すると賢者は答えた。
「王よ、あなたは暴君です。」
「そんなことは誰でも知っている。」
暴君は答えるとさらに言った。
「それで?。」
賢者はしんぼう強く言った。
「王よ、先の裁判を見たところ、あなたはすべてを
決めつけているようです。」
さらに賢者は続けた。
「あなたの法の運用は厳しく非情です。
あなたは人情というものを解されない。
あなたは人の事情をわきまえてはいません。」
すると暴君は聞いた。
「そなたは1つ1つの事情に応じて法をねじ曲げろ、
そう言っているのかな?。」
賢者は言った。
「そうではありません。法という尺度では人間は計りきれないのです。」
暴君は答えた。
「そんなことは誰でも知っている。
人間は1人1人違うものである。
それにまた法というものは個人向けに作られたものではない。
また、生活のすべてを律するために作られたものでもない。
そんなことは誰でも知っている。」
そして暴君は問いただした。
「では賢者よ、そなたは一体何を問題にしたいのかな?。」
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