隕石衝突

 最初に:このコンテンツでは隕石と小惑星の地球衝突、その影響について取り上げます。

 それにしても、アップグレードと言っておいてず〜〜〜とほったらかしっぱなし。ただ、いずれ恐竜絶滅(鳥を除く)の件とからめて記事を新たに書きたいと思っています。それまで補完、しばらくお待ちください^^)。管理人:北村雄一

 

 

 太陽系には彗星、小惑星、星間塵といった密度も大きさも様々な小天体が存在する。幾つかのものは比較的大きく、地球に衝突すると私達に深刻な被害を与えうるものだ。

 今からおよそ半世紀前の1947年、極東ロシアのシホテ・アリンに隕石が落下した。この落下は多数の人間に目撃されると同時に、幾つかのクレーターを作った。これはクレーターをつくる規模の小天体の衝突が最近起きた例である。

 こうした小天体の衝突が目撃されることはめったにない。だが実際のところ、より規模の大きい衝突でさえ地球全体となるとありふれたものであるらしい。現在では軍事衛星のデーターからおよそ1ヶ月半に1回、広島型原爆程度の爆発が地球の高層大気のどこかで起きていることが知られているが、こうした爆発は小天体が地球に衝突して起きているようだ。

 近代になって起きた小天体衝突の中には、広島型原爆か、あるいはそれをはるかに越える規模のものが実際に目撃された例もある。1908年にシベリアのツングースカで起きたツングースカ爆発は、2000平方kmにおよぶ地域を破壊し、その衝突エネルギーは広島型原爆およそ1000個分あまりに達した。

 また最近の調査では、アラビア半島のルブ・アル・ハリ砂漠にあるワバール・クレーターが出来てから450年程度しかたっていないか、ひょっとしたら西暦1863か1891年というごく新しい時代に形成されたらしいことが分かっている。目撃されたかどうかはともかく、この新しい衝突では広島型原爆ほどのエネルギーが放出されたと推定されている。

 仮に、こうした衝突による致命的な破壊が起こる範囲内に人口密集地があった場合、人的被害が甚大なものになることは明らかだ。ワバール・クレーターを作った衝突では都市の一部を、ツングースカ級ともなるとひとつの大都市を破壊しつくすことができる。

 ただしこうした出来事が起こる可能性は短期的には非常に少ない。実際、シホテ・アリン、ツングースカの爆発、そしてワバールのクレーターいずれの衝突も人里離れた場所で起きた。非常に強力なツングースカの爆発でも人的被害は知られていない。もちろん、小天体が人間を避けているわけではない。これまで被害が出なかった理由は人間の住む地域が地球上のごく狭い領域であり、そのため小天体が都市や村に直撃する可能性は非常に少なかったことにある。実際、目撃される範囲内に小天体が衝突することさえ非常にまれなのだ。

 さて、ここまでは確率で考えていただけだが、実際に太陽系を観測した場合、人類に破滅的な影響をもたらす小天体の衝突が近々起こる可能性はあるのだろうか?そもそも人類に影響を与える小天体とはどんなものなのだろうか。

 それほど奇妙なことではないが、観測によるとサイズの小さな天体ほど数が多くなる。そのため小さな天体ほど単位時間あたりの地球衝突の頻度や確率は大きい。事実、非常に小さな天体の地球への衝突は絶えまなく起こっているが、大抵は流星のように大気の上方で燃え尽きてしまう。

 だが時にはもっと大きな小天体も地球にぶつかってくる。小天体の大きさが10mあまりの場合、地球にどのくらいの速度でぶつかるかにもよるが、運動エネルギーは広島型原爆に相当するものとなる。先に述べたようにこれだけの衝突は比較的まれなものの、地球全体では1ヶ月半に1回という頻度で起こっている。なお、このサイズの小天体は成分にもよるが、大抵は大気との衝撃と摩擦により高空で爆発し、散りぢりになってしまう。

 さらに大きな天体ならどうだろう。例えばワバール・クレーターを作ったサイズの小天体が地球にぶつかる可能性は、最近調査した米国地質調査所のウィンたちによればおよそ10年に1回だ。ワバールの場合、天体の主成分は鉄であったらしく、分裂したものの大気の壁を貫き地上にまで到達してクレーターを作ることができた。地上まで落ちた破片の最大のものは9mあまりで、この破片の衝突エネルギ−だけでも広島原爆なみであったと推定されている。

 ではさらに大きなツングースカ級になるとどうだろうか。推定される天体のサイズは数十〜100mと考えられている。高空で爆発してしまったのでワバールと違ってクレーターは残せなかった。おそらく岩石質の小惑星か彗星で、大気の衝撃に耐えられなかったと考えられている。地球に衝突する可能性は数百年〜数千年に1回と推定されている。

 さらに大きさ1kmの小天体の場合はどうだろうか。衝突速度が毎秒20km程度と仮定した場合、その運動エネルギーは人類の持つすべての核兵器の破壊力を軽く凌駕すると試算されている。その一方でこのサイズの小天体がぶつかる頻度は数万〜数百万年に1回程度であり、短期的には衝突の確率はそれほど高くはない。ただし衝突の規模によっては地域どころか人類の存続すらあやうくなることもあり、最近は地球に接近する小天体の観測が以前よりは盛んに行われるようになった。

 しかし『地球に接近する小天体』の中で1km以上あるものは800〜2000個(もっと少ないかもしれないし、あるいは多いかもしれない)と推定されており、現状ではその90パーセントを見つけだすには100年あまりかかると予想されている。

 ともあれ、最近は『地球に接近する小天体』の実際の挙動が以前より明らかになっている。例えば1999年2月には小惑星1999CQ2が地球から約100万km、1994年12月には小惑星1994XM1が地球からわずか10万kmあまりのところを通り過ぎていったことが知られている。あまりピンとこないかも知れないが、地球と月の距離が約38万4千km、気象や通信衛星までの距離が約3万6千kmであることを考えるといかに近付いたかが分かるだろう。

 また、観測が充分に行われて軌道が決定された小天体は、将来どの程度地球に近付くのか計算することが可能だ。国際天文学連合の小惑星センターによると、既知の小天体のうち、21世紀中最も地球に近付くのは小惑星1999AN10で、2027年におよそ39万kmまで近付くことが示されている。逆に言うと既知の小天体に関する限り、地球に激突するものはしばらくのところ無いというわけだ。未知の小天体も観測が進めば危険性の有無をはっきりさせられるだろう。

 ただ、地球に接近する未知の小天体は概して小さく暗い。そのためこうした天体が発見されるのは必然的に地球へ非常に接近した時となる。地球に激突するコースをとっているからこそ発見できたということも起こり得るというわけだ。さらには観測されないまま激突することも当然ありうる。では激突する可能性が比較的高く、また発見や観測も容易ではない数百m〜1kmの小天体が激突したら何が起こるのだろうか?

 小天体が激突したさいに発生する衝突エネルギーは激突する速度と天体の質量によって変わる。また、天体の種類によって密度もかなり異なるので同じサイズ・同じ速度でもエネルギーの量はずいぶん異なるはずだ。ともあれ数百mある岩石質の天体を考えた場合、そのエネルギーは広島型原爆の数千〜数万倍以上におよぶと思われる。ただしその衝突が与える影響を予想することは難しい。それは小天体が地球のどこに激突するかで及ぼす影響がまったく異なるからだ。

 海洋は地球表面の70パーセントを占めるので、地球に衝突した小天体の多くは海洋へ落下すると見られる。こうした海洋への激突は津波を引き起こすことが予想されている。例えば最近の調査によると215万年前の南極海で起こった小惑星衝突は巨大な津波を引き起こしたらしい。この衝突によるクレーターは発見されていないが、周囲の海底堆積物からは地球外の天体によってもたらされたイリジウムの異常や粉砕された小惑星の破片が見つかっており、小惑星の激突があったことを物語っている。この小惑星はエルタニンと名付けられ大きさが1km以上あったと推定されているが、同時代の南米の地層にはエルタニンの衝突による巨大な津波の破壊跡が残っている。

 では陸上に激突した場合を考えてみよう。激突によって生じるクレーターの直径は衝突した天体の10〜20倍の規模になるというから、500mの小惑星なら最大直径10kmあまりのクレーターができることになる。また、激突で粉砕された岩石は周囲に飛び散るが、その量は天体質量の300倍あまりになるようだ。その場合、小惑星が地球の岩石と同じ密度(実際は密度がかなり低い小惑星も存在する)と単純に仮定すると、飛び散る岩石の量は直径500mの球形の小惑星なら20立方kmほどとなる。このように粉砕された高温の岩石の多くが数十km先にまで落下する、さらに衝突の衝撃は大規模な地震となって周囲に大きな打撃を与えることとなる。

 このように小天体の衝突は広い範囲に直接的な破壊をおよぼすことが予想されている。だがこうした直接被害より恐ろしいのは衝突による環境破壊であろう。

 全面的な核戦争で予想される『核の冬』は世界の農業に壊滅的な打撃を与えうるため、核の直接被害そのものよりも世界の社会にとって致命的なものとなる。 『核の冬』は、核の炸裂や火災などで発生するススや煙りが日光を遮り気温が低下して起こるものだ。こうした予想はそもそも天体衝突が環境に及ぼす影響を考えるにあたって出てきたものなので、当然、気温の低下といった気候変動は小天体の衝突、特に陸上への衝突で起こりうる。

 小天体衝突による気候変動の具体的な例は人類の歴史上記録がない。そのため同じように『チリなどによる気温の低下』をもたらす、規模の大きな火山噴火がしばしば『天体衝突による環境破壊』の参考にされてきた。実際、『火山の冬』という言葉もあり、複数の火山の噴火、あるいは大規模な火山の噴火による気候変動が人類に影響を及ぼした例が幾つか知られている。例えば、インドネシア・スンバワ島のタンボラ火山が1815年に起こした爆発的な噴火は有史以来最大級のもので、92000人あまりの死者を出した。これは直接的な被害であるが、この翌年の1816年から17年にかけて、カナダとアメリカ北部・ヨーロッパで気温の低下、季節外れの寒波の襲来、農作物の不作そして飢餓が発生した。

 数百mサイズの小天体もこうした影響を気候に与えるのだろうか。実際のところ火山の大規模噴火と天体の衝突を単純に比較することは難しいようだ。例えば、火山灰は噴火の爆発や熱による上昇気流によって高く舞い上がるが、かたや天体衝突によって粉砕された岩石は火山噴火よりもはるかに高速で飛び散り、より多くの粉砕された岩石のチリが成層圏にまで届くと考えられる。 NASAのストッツァーは1984年の論文でタンボラ火山の噴火では150立方kmの火山灰が放出されたと推定し、これは岩石に置き換えると30〜75立方kmであると述べている。単純に比較するのなら、この量は直径1km弱の小惑星が粉砕して巻き上げる岩石とおおむね同じだ。

 一方、火山の噴火で気温の低下をもたらすものは、細かい火山灰よりもむしろ火山ガスから生じる硫酸エアロゾルであると考えられている。その理由は硫酸エアロゾルの粒がタバコの煙りの粒子程度の大きさという小さなもので、落下に非常に時間がかかるためである。実は小天体が石膏などのある地域に激突すると、蒸発した岩石から二酸化硫黄が出来ることが予想されている。二酸化硫黄は硫酸エアロゾルの原因物質であり、そして石膏は熱帯地方の沿岸ではそれほど珍しいものではない。もし小天体がこうした地域に激突すると、場合によっては農業に与える影響は深刻で長期的なものとなるかもしれない。

 さらに大きな小天体が地上に激突したらどうなるだろうか。1kmクラスの小天体がこれから100年の間に激突する確率は1パーセント未満であるが、激突する場所によっては悪くすると全世界に深刻な影響がおよんで地球規模の大災害となるかもしれない。近年のエルニーニョはインドネシアの政権崩壊の遠因であるともいわれるが、 気候の変動は今も昔も人間社会に大きな影響をもたらしうるものであることに変わりはない。1kmクラスの小天体衝突がもたらす影響は、多くの現代の国にとっても致命的なものになるりうることは想像に難く無い。

 さらに大きな小天体となるとどうなるだろうか。地球の生態系全体に影響を与えるサイズの小天体の大きさはウィルたちによれば直径約2kmとなる。このサイズの天体が地球にあたる確率はぐんと小さく、およそ100万年に1回だ。だがこのような衝突による影響は深刻どころではすまないものとなる。それは生態系もろとも私達を地球から一掃してしまうだろう。

 このように天体衝突とは地球上でおこる台風や地震・火山といったあらゆる災害とまったく別次元の破壊をもたらすものであり、人類を絶滅させうるほとんど唯一の自然災害であると言えるだろう。