記事タイトル:書評と分岐学と恐竜 


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お名前: 北村    URL
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上のURLから^^)

 さて、学研から面白い本が出たのでちょっと書評と報告する次第。

 「学研まんが新ひみつシリーズ 恐竜世界のひみつ」
 監修ー金子隆一
 まんがー伴俊男

 学習研究社 2003


 この本は学研のひみつシリーズの新しいものらしいのですが、恐竜についてとりあつかっています。
ただ、分岐学や分類学、系統学、科学哲学などの理解に混乱が見られます。

 例えば、41ページに

 いちばん新しい分類法は分岐分類というのよ

 という台詞がありますが、明らかに分類学と分岐学をごちゃまぜにしていますね。
それを臭わせる部分は他にもあって、108ページでは

 アルヴァレスサウルス類は最初恐竜とされたが、後に鳥に改められ、その分類について
今も議論が続いている。

 とあります。アルヴァレスサウルスは系統解析をすると、始祖鳥よりも現代の鳥に近い
位置にでたり、あるいは最節約の条件を少しゆるくすると始祖鳥よりも外側にきたりします。
ようするにそのことを言っているらしいのですが、これはむしろ分類の問題ではなくて、
系統上の位置に多少ゆれがあるという話ですよね。それに、ここで言われている恐竜と
鳥とはファイロジェネティックタクソノミーのものではなくて、古典的な分類学のそれ
のようです。

 つまり、アルヴァレスサウルスが始祖鳥よりも現代の鳥に近いか、遠いか?、
アルヴァレスサウルスは空を飛ぶ動物の子孫かそうでないか?、という
問題が古典的な分類学の言葉を使うことで、恐竜か鳥か?、という問題にすり替えられている。

 さらに続く109ページでは恐竜が鳥から進化したのだ、という言葉にこれがすり変わっています。

 これは問題ですね。仮に、系統の問題を無視して、分類で考えてもこれはおかしい。
アルヴァレスサウルスが鳥か恐竜か?、という問題がアルヴァレスサウルスを含む
恐竜全体が鳥か恐竜か?、というものに置き換わっている。

 ようするに恐竜という集団の部分集合でしかないアルヴァレスサウルスの問題が、
全体集合である恐竜全体の問題であるかのように語られている。

 同じ間違った論法は110ページにもあって、

 なぜ恐竜に羽毛が生えたのか?。卵を直射日光から守るため・・・中略・・
 でも、それだけでは羽毛が風切羽になる必要もないし、羽ばたいて空を飛ぶ必要もない

 ここで鳥の祖先は樹の上から飛び下りるために羽毛を発達させたのだ、という仮説が
語られます。

 これは間違った論法ですね。つまり、
 1:羽毛がうまれた原因はなぜか?
 2:風切羽がうまれた原因はんぜか?
という2つの問題が同じものとして扱われている。

 もし、羽毛=風切羽ならこの論法は成り立ちます。でもそうではない。風切羽は羽毛では
あるが、すべての羽毛が風切羽ではない。風切羽は羽毛という集合の部分集合なんですよね。
風切羽のうまれた原因=羽毛がうまれた原因ではない。

 
 同じ論法のあやまりは他にも幾つか見て取ることができました。


 また、115ページに書かれている分岐学に対する批判も興味深いものがあります。

 分岐学は過去に存在したすべての恐竜や鳥の化石の何千、何万分の1にしかすぎない
化石に基づいた永遠に不完全な系統樹をつくれるだけだ、

というのはありがちな誤解ですね。例えば火災の現場も焼け落ちてしまうと焼けるまえ、
火災が起こった瞬間よりはるかに情報は失われているはずです。だからといって
幾つかの証拠から火災の原因を推理するのをやめたりしないですよね?。

 さらにいうと、この本ではこうして分岐学を批判していながら、ダイノバード仮説(BCF理論)
をプッシュしているのですが、これはおかしい。手持ちのわずかな証拠から推論している
点では分岐学の結論でもBCF理論でも同じ。

 さらに続いて、

 分岐学はそうやってつくった仮説のどこに矛盾や問題があるかを見つけだすための単なる道具と考えるべきだろう

 と書いてあるのは面白いところです。
[2003/08/15 12:28:26]

お名前: 北村@    URL
 なにが面白いのかというと、

 生物の特徴は矛盾した分布を示すものなんですよね。イカとカタツムリは外套膜と
歯舌を持つ、人間とイカはレンズ眼を持つ。人間は外套膜と歯舌をもたない。カタツムリは
レンズ眼を持たない。

 矛盾とはなにか?、それは収斂であったり、逆転であったり、ようするに進化でおこった
いろいろな出来事のことなんですよね。


 あと、問題点。これは仮説がどの程度確からしいか?、とか、どこが不安定か?、
ということだとしたら、それが分からないと困りますよねえ。


 ようするに、分岐学は仮説のどこに矛盾や問題があるかを見つけだす道具という言葉は、
北村には、収斂進化や相同でない形質を見つけたり、系統上不安定な部分を見つけて
(例えばカメとかトロエドンとか)研究するためのツールといっているようにしか
聞こえない、のですよね。


 そして分岐学とはそういうツールではありますまいか?。

 それが欠点だとしたら、逆にまずいですよねえ。問題点は分からない、検討すべき箇所も
分からない。矛盾(収斂とか逆転とか)も発見できない、それがグッドであると言っていることになる。


 
[2003/08/15 12:37:55]

お名前: 北村@   
 えーと、全体の書評を書いていなかったので追加です。以上の書き込みは各論ですしね。

 基本的にこの本は昔なつかしいひみつシリーズの作りを受け継いでいるようです。
バーチャル世界ということで主人公が再現された恐竜時代の地球を冒険するという筋立て。
ガイド役の女性キャラの名前がモエちゃんなのは、まあ、一部の人には懐かしさを感じさせる
ものですね。

 ガイドのモエに案内されて恐竜がまだ地球の生態系の中でマイナーな存在だった時代から、
白亜紀末期の大量絶滅でいわゆる恐竜が滅びるまでを見ていくのですが、主人公たちは
時代ごとのシナプシダになって恐竜を観察したり探検したりするというもの。

 バーチャルという設定だとタイムマシンを建造するという問題を解決できるだけでなく、
そういうふうに場面ごとにキャラの姿を変えられる、という利点があるように思えました。

 うまいやりかたですね。

 ただ、その分、最初にいったような各論の方で問題が出てきてしまったのは非常に残念です。

 
[2003/08/17 02:40:59]

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