2003.6.12 () 西洋史研究会 部会:空間・公共・表象 報告者:後藤和広 

 

伊豫谷登士爺『グローバリゼイションと移民』を通してナショナリティを考える

 

○「移民」の定義 ・国境、国民文化、国民経済を創り上げた近代国民国家間のナショナルで

          グローバルな現象。

         ・ナショナルな観点からは越境する移動を逸脱と見なされる。

 

○「移民」研究の課題 ・近代的二分法概念を脱構築・侵食しナショナルな枠組みから「移民」に関わる諸問題をグローバルな場に解き放つ。

 

◇グローバリゼイションと現代移民研究の課題

 ・近代性そのものの問い直しとしてのグローバリゼイション。=近代的な領域性を解体、再編成するグローバリゼイション。

 ・経済的グローバリゼイション 

ナショナルな関係性の解体と再構築(伝統・国民の再構築)。

グローバルな関係性の構築(「経済活動の記号化(消費の審美化)」、「グローバル・ドリームの商品化」、「世界のマクドナルド化」、「世界のテーマパーク化」)

  ・グローバリゼイションにともなう「発展途上国」の変化(南北問題の意味変化・不安定性の増大)

 ・グローバル・マス・マイグレーションの時代

  ディアスポラ化する「移民」(雑多な空間の創出・同化に基づかない移民・国民国家に回収されないアイデンティティのあり方)。

    「国民」と「外国人」、「われわれ」と「他者」という差異化装置の変化。

  世界経済の統合化と階層化

 

 ◇無制限労働力供給と現代世界の編成

 ・国民国家と「移民」

  国民国家を形成した19世紀における世界規模での人の移動(均質な空間を創出)

  国民国家に変容を迫る20世紀末の人の移動(非均質な空間を創出)

 ・近代以降の農村社会と労働市場

  近代資本主義社会の労働力確保の基盤としての農村社会の解体。

  国民国家による生存維持機構の保障(教育・交通・住居などのインフラ・社会保障制度)

  産業化の遅れた「第三世界」においては農村社会の解体は緩やか。

・グローバル化に伴う「移民」の階層化(1960年代〜)

  「第三世界」における国民国家化・産業化と、資本のグローバル化と消費の審美化による農村社会の解体促進。

  移民の質の変化(還流型・同化⇒流動化)

  国民国家の枠を越えた(移民)労働力の階層化(第三世界の農村⇒周辺地域⇒先進国の大都市)。

  先進国における非合法な地下経済・不定期就業部門、第三世界における「インフォーマルセクター」の形成(「完全就業の賃労働者」とは断絶した労働市場を形成)。

  交通・情報ネットワークの発達により膨大な労働力供給源をかかえる、グローバルな労働市場が形成。

  先進国内部での産業構造の転換による外国人・移民労働者への依存。

  国民国家体制を組みかえる新たな世界システムの芽生え(先進国における高年齢化・少子化、外国人・移民労働者の世代交代、人種・民族構成の変化)

 

 ◇グローバル化と定住外国人の政治参加

  市民権の歴史(マイノリティ・移民国民化による二級市民の形成・差別の階層化)。

  グローバリゼイションの一局面(国家の構成員の非均質化)として定住外国人問題を捉えなおす必要性。

  制度的平等に対するナショナリティの拒絶(マジョリティに動員されることへの拒絶)。

  市民権・ナショナリティの脱構築の場としての外国人・移民労働者の政治参加。

  近代的差別の思考回路を越えるための、不法移民・潜在的な移民を含めた議論の必要性。

 

《自分の研究との関連》

 ドイツでは近代国民国家(ドイツ帝国)の成立以来、強固な血統主義によるナショナリティの再生産が行われ、ナチス政権下(第三帝国)においてはドイツ人自身を純化するという極端な形をしめすことになる。戦後、西ドイツにおいて右派・左派双方から血統に基づかない政治的・領域的なナショナリティが形成されたという議論が、ガストアルバイターの存在を充分に認識しないままなされてきた。そして、東西ドイツ統一以後明らかとなったのは、血統主義の根強さと東西ドイツ人の意識・世代を経た外国人労働者の分裂という状況であった。

 また、再統一前後からドイツにおいても外国人の移民的統合が政治的問題となっており、制度的にはグローバルな基準に近づきつつある。しかし、それらが伝統的なドイツ・ナショナリティ(分裂したものであるのだが)を相対化するには至っていない。このような状況の中で、血統主義に基づいたドイツ・ナショナリティを「他者」を含めた形で歴史的にとらえ直すことが必要なのではないだろうか。