報告者:後藤和広

アンソニー・ギデンズ『暴走する世界…グローバリゼイションは何をどう変えるのか…』

 

★「暴走する社会」とは?…近代以来、世界の制御可能性を高めるために育まれてきた科学技術などの諸力が、逆に未曾有のリスクと不確実性をもたらし、制御しうる範囲を狭めるというパラドックスに陥った現代社会。

 

【第一章 「グローバリゼイション」の本質】

90年代以降、その意味が不透明なままに世界中の経済・政治演説、学術論文、日常会話のいたる所に登場。

・グローバリゼイションについての事実誤認(懐疑論者とラディカルズの経済的側面のみを強調した議論)

・グローバリゼイションの真の革命性(政治・技術・文化にも及ぶ)と60年代以降の高速通信システムの発達。

国際的規模と日常レヴェルで生起する様々なプロセスが重なり合った複合的現象としてのグローバリゼイション(伝統的家族の変容・国民国家の求心力の低下・地域主義の台頭)

・旧ソ連・旧共産圏の崩壊とグローバリゼイション(電子経済とメディア)

不平等の拡大(ウェスタナイゼーション・アメリカナイゼーション)と逆植民地化(不可抗力)。

・貿易をめぐる難題

・グローバリゼイションと「貝殻制度」(国民国家・家族・仕事・伝統・自然)。

・グローバル・コスモポリタン社会の構築と日常からグローバリゼイションへの適応。

 

【第二章 多様化する「リスク」】

 ・前近代の受動的リスク(運命・宿命・神の意思)から近代の未来志向型・自発挑戦型リスクへ(近代社会の原動力)

  ・近代化とリスク(保険制度とリスクの再分配)

 ・「外部リスク」と「人工リスク」

 ・「人工リスク」の多様さ…自然の終焉から伝統制度の変容まで(薄らぐアイデンティティ・人生における幅広い「選択の自由」の保障と多くのリスク)

 ・人工リスクの多様さの中にチェルノブイリ原発事故・狂牛病・地球的規模の気候異変などの計算不能な人工リスク。

 ・「脅し屋さん」の必要性(計算不能な人工リスクへの直面を減らすための「脅し」)

 ・絶対的伝統的な科学観から相対的な科学観へ。

 ・リスクに対する負担の期待値を軽減するための「予防原則」という概念(リスク管理と国際協力)

 ・リスクへの積極的な挑戦(「敢えて行う」という大胆な姿勢)。

 

【第三章 「伝統」をめぐる戦い】

 ・ねつ造された「伝統」…産業革命前後の約二世紀から発祥。

 ・近代の産物としての「伝統」(啓蒙主義的偏見への注意)。

 ・変化し続ける伝統(権力・正統性との結合)

 ・伝統と保守主義(近代化した政治・経済と伝統的習慣の共生)

 ・グローバル・コスモポリタン社会における伝統(伝統からの脱却・伝統の変容により姿を変えた伝統が繁茂する社会)。

 ※グローバル・コスモポリタン社会=自然の終焉伝統の終焉が訪れた後に実現する社会。

 ・姿を変え合理化された伝統の必要性。

 ・凍結した自主性というワナ(日々の人間活動における個人的習慣の硬直化・中毒)

 ・脱伝統に伴うアイデンティティの構築・再構築という困難(セラピーとカウンセリングの繁盛)。

 ・近代の産物としてのファンダメンタリズム/「包囲された伝統」

 ・ファンダメンタリズムへの疑義/グローバル・コスモポリタン社会における、普遍的な価値存在としてのモラルコッミトメント(道徳律)の必要性

 

【第四章 変容をせまられる「家族」】

 ・根本的・全体的変化を伴う日常・私生活(性・家族・人間関係・結婚)のグローバル化。

 ・伝統と近代化の最前線に立つ「家族」/離婚率の上昇と伝統的家族への回帰

 ・伝統的家族(経済的主体・男女不平等の必要性・性的なダブルスタンダード・人権の無い子供)

 ・伝統的家族におけるセックスと生殖の結ぶつき⇒結婚・生殖から切り離されたセックス/同性愛の容認。

 ・貝殻制度と化す家族/カップルを中心に成り立つ家族(経済的絆<愛情+セックス)

 ・結婚の持つ意味合いの変化(二人の関係に安定意を持たせる)

 ・子供の地位の変化(子供作りの動機の変化・子供を持つこと、育てることの意味の変化)。

 ・伝統的で旧式な絆から、情緒的コミュニケーションに基づく「純粋な関係」(恋愛関係・親子関係・親友関係)へ/理念型としての「純粋な関係」における「良い関係」と「民主主義」の相似性

 ・「良い関係」「信頼関係」に基づく「情念の民主主義」(グローバル・コスモポリタン社会への日常の適応)

 ・「伝統的家族」を変えることの大切さ。

 

 

【第五章 「民主主義」の限界】

 ・民主化への二十世紀/最善の民主主義としての欧米型民主主義

 ・世界的な民主化と民主主義への幻滅(民主主義のパラドックス)=政府・議会の「ハードパワー」が通用しにくい世界への変容。

 ・既存の政治的枠組みへの関心の低下と特定非政府組織への関心の高まり(環境・人権・家族性)

 ・国際レヴェル・国家レヴェルでの民主主義の民主化=民主主義の深化の必要性・重要性。

 ・民主主義の民主化を促進・醸成し、情念の民主主義を実現する場としての市民社会=政治的な意思決定と市民社会の日常的関心とのズレを埋める場所(官民の二項対立の間に位置する)

 ex)地方分権・情報開示・政治改革と透明化・市民審議会・国民投票・single issue group

   ボランティア・セルフヘルプ団体。

 ・政府・市場・市民社会の調和とメディアにより推進される民主主義の民主化と国家主権の求心力低下。

 ・民主主義の国際化と超国家的組織としてのEU(欧州連合)の可能性。

 ・「暴走する世界」を統治しうるもの=更なる世界の民主化と深化された民主主義が供給しうる更なる統治。