サブカルチャー 〜スタイルの意味するもの〜 D・ヘブディジ

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                          西洋史学専攻   井上克子

 

1.Culture(文化)とその解読

a. 美学的卓超の一規準―オペラ、バレエ、演劇、文学…

b. 特定の生き方、慣習やありふれた行動の中にも含まれる意味と価値の表現

                  (ウィリアムズ 1965)

Sub-Culture―親文化からの自立、親文化との相違を実現したいという欲求とそれとの同一性を維持したいという欲求を妥協によって解決したもの

                   (コーエン 1972)

@ 記号論

記号―意味を持つものすべて。衣服,食事、芸術的表現、都市、国家、現実の世界にあふれているあらゆるものを記号としてとらえてその意味を考えて解明。

A イデオロギー

―常識の形をとって日常対話の中に充満。無意識的、暗黙の了解

「人々が知覚し、容認し、がまんさせられる文化的事物であり、人々が気づかない過程を経て、実生活の面で人々に影響を与える」(アルチュセール 1969)

どの記号にもイデオロギー的な面がある。記号のあるところにはイデオロギーが存在する。

「特定の支配的グループや階級がどの特定のイデオロギーの利益を代表するか」(P30

B ヘゲモニー

−「同意を勝ち取り形づくって、支配的階級の権力が合法的で当然性があるようにみせかける」(ホール 1977)

ヘゲモニーは普遍的なものではない、勝ち取り、維持するもの。

「ヘゲモニーへの挑戦はサブカルチャーによって表現されるものであるが、決して直接表現されるものではなく間接的にスタイルの中で示されている」(P34

「すなわち、従属グループの手で『盗まれ』『秘密の』意味を与えられる」(P35

安全ピンやワセリンチューブ、従属させられる秩序への反抗として本来の用途とは違う意味が与えられるモノ。

サブカルチャーの「意味する力」

「サブカルチャーは(音というよりはむしろ)ノイズである。現実の事象、現象から始まり、マスコミに表現されるそれらの像まで順序よく並んだ連続の中の妨害である。従ってこの人目をひくサブカルチャーがもっている、意味する力を(中略)意味の混乱をひきおこす本当の方法―表現のシステムの中の一時的な妨害物としての一種―としての力を過小評価すべきではない」(P128)

「社会によって公認されたコードを破り、禁じられた事柄を禁じられた形式で表現する。言葉の神聖さ、社会秩序のタブーを混乱させる」(P130)

しかしマスコミがサブカルチャー普及に努めることは「サブカルチャースタイルを

広めると同時に危険のないものにしてしまう」(P133)←コード化される。

「反抗を支配者の意味構造に入れてしまう」(ホール 1977

商品化されるサブカルチャースタイルの創造と拡散は商品化されることと切り離すことはできない。が、サブカルチャーの破壊的な力は弱められる。

 

2 黒人と白人の対話

レゲエ−白人の植民地支配からの脱出と黒人種族の解放、ラスタファリアンのメッセージを伝える理想的な媒体。西インド諸島出身の英国移民たちはラスタの美学を変形させ自分たちの要求に合うよう独自のスタイルを発展させた。

→同じ地域に住む白人労働者に伝わる。

「『アフリカへの帰還』願望の放物線は自身のサブカルチャーを学びたいと思っていた近隣の白人たちの細かい監視の的であった」(P69

黒人文化の形態(例えば音楽)はサブカルチャースタイルの発展に主要で決定的な影響をもたらした。

「一連のサブカルチャーの形式の変化は、黒人の存在を象徴的にとり入れようとするか、あるいはホスト国の社会から抹殺しようとするか、そのどちらかの深い構造的変革として理解できる」(P70

スキンヘッド−

「スキンヘッドは自己の文化を西インド諸島出身の移民たちの文化と、白人労働者たちの文化という全く相いれない二種の文化からとり入れた」(P84

「スキンヘッドは切れた過去を連続させ、労働者階級の傷ついた姿を元の形に回復し、また(中略)この伝統社会の構造をはるかに深いところで脅かす変化(中産階級化、大家族の崩壊、共同生活の場が減り個人の場が拡大されたこと、スラムの近代化)などに抵抗していた」(P87

パンク−自分たちの疎外感を表現したいと願い、排他性,白人が同化できないという事実によりレゲエにひきつけられる。しかし、想像上のアフリカ、西インド諸島に自分を置くことができる英国黒人に対し「パンクたちは予見できる未来をもたない英国人でしかなかった」(P97

「他の場所」に存在するための記号−ワセリン、化粧品、ヘアダイ…

「他の場所にいること」=「どこにもいないということ」

「パンクは永遠に疎外を実演し、疎外の状態を想像上でパントマイムし、『現実生活の危機』を(中略)自らの立場で次々と創造するしかなかった」(P98) 追放状態

 

3 スタイルの意味するもの

意図的なコミュニケーションとしてのスタイル

「サブカルチャーは自分たちのコードを『表示する』(たとえばパンクの引き裂かれたTシャツ)か、使用して、悪用するためのコードがあることを示す」(P144

「品物を新しい位置と背景に据え、品物の従来の使用法を破壊し、新しい使い方を発明することにより(中略)事物の世界に新しい、そして暗示的な反対解釈をあたえる」(P145

プリコラージュとしてのスタイル−基本要素を組み合わせて新しい意味を作り、拡張する。

例:睡眠薬、スクーター、金属製のくし、背広、カラー、ネクタイ、短く刈った頭髪

「それらの本来の意味、―機能性、野心、権威への従順―を奪い去ってそれらを『空

虚な』呪物、求められ愛撫され、物自体の価値を尊重されるものに変形した」(P149

不快なスタイル−パンクの「切り裂き」:水洗便所のチューン、安全ピン、タンポン、洗濯ばさみ、「抽象的肖像画」としての化粧、学校のワイシャツに血のしみ、うつろなロボットダンス、反音楽

ホモロジーとしてのスタイル−グループの生活のさまざまな面を反映、表現したスタイル

例:スキンヘッドのブーツ、ズボン吊り、刈った髪、堅固さ、男らしさ、労働者らしさ

「混乱は意味ある全体として首尾一貫としていた」(P161

 パンク−「禁じられたものは許されるが、同様に一切のものはこの禁じられた記号表現(ひも、安全ピン、鎖)でさえも神聖ではなく、安定していない」(P163

 一致を欠き、意味不明であることをにより整列し、どこにも位置せず、「空」であ

ることこそをスタイルの一致とする−意味行為としてのスタイル

 

4 サブカルチャーはアートか

「むしろサブカルチャーはコミュニケーションのシステムとして表現と描写の形態としてより広い意味での文化を明示する」(P182

伝統的な美学の基準においてではなく、「盗用」、「盗み」、「破壊的な変形」として「運動」として「アート」と認められる。修正され、他のサブカルチャーにとって替わる

「サブカルチャーが表現するのは権力側の人々と従属地位や二級市民の地位しか与えられていない人々との間の本質的な緊迫状態である」(P186

テキスト:へブディジ『サブカルチャー―スタイルの意味するもの』未来社 1986(Hebdige,Dick,Subculture:the meaning of style,1979,Methuen&C Ltd, London)