ロボット どこかで誰かが操作しているのではないかこの男、と不二は思う。 手塚の動きはあまりに鋭角で直線的だ。溜めがない余韻がない。一直線に目的場所へと歩き、直角に曲がる。会話には前置きがない。本題の前のツカミの部分や時候の挨拶、というものに彼は一切頓着しない。いつだって前略で生きている。 YES、NOも早い。大抵0.5秒だ。例えそれがどんなに難解な問いかけであっても。 普段はあまり意識しないのだが、よくよく注意してみると、こんなに人間的でない人というのも珍しいなあと誰もが思うのだった。 そんな手塚を見るたび不二はその背後でコントロールボックスを操る少年を探してしまう。(たぶんそのコントローラーには「はい」と「いいえ」と「サーブ」と「レシーブ」しかボタンがついていない) 「どうかした?手塚」 部活後の帰り道、その手塚が気付くと固まっていた。そう、確か今「また明日」と挨拶をしたばかりだ。その顔は何か連絡事項を伝えるときの表情だったが、一向に言葉が出る様子がない。言う事が何もないのであれば、90度曲がってそれぞれの家へ向かう道を辿らなければならない筈だ。1秒、2秒、3秒。 手塚が何かの前動作をしたまま3秒も停止するなどあり得ない事だった。手塚にとっての3秒の逡巡は普通の人間の3時間に相当する。電池が切れた、もとい体調不良だろうかと不二が彼の顔を覗き込むと、彼は普段と同じ迷いのない目とシャープな仕草で左手を上げて、 不二の髪と頬を撫でた。 手は大きくてひんやりとしていた。 中指が少しこめかみに触れ、薬指が耳に触れる。人差し指が顎を滑って、そして離れた。 いつものように90度に曲がって歩き去る手塚の背を見ながら、不二は吹出した。「新必殺技だね」 きっと背後で手塚の操縦をしている少年が、レバーを1回転させるか何かをしたのだろう。 その必殺技は結構な威力で、不二はしばらくその場にしゃがみこんで笑っていた。 友人と、前回喜んで下さった方々へ贈ります。 最近やっているドラマで「クニミツのまつり」 というのがあるのですが、無表情に踊る人を 連想してしまうので困りものです。 2005/12/24 再録 |