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 子供達は授業から戻ると毎日色々な遊びをした。それこそ息を一つするたびに新しい遊びを思い付くので、体が幾つあっても足りないと彼等は思っていた。彼等のイマジネーションにかかると、ホグワーツの塔はマグルの超高層ビルとなり、平凡な野原は地雷原になった。部屋の中はアズカバンになり、火星の王国になる。
 その夜の彼等は新しいおばけを考える遊びをしていた。
 出来上がったそれの大まかな姿は「目がタテむきに付いていて、黒い髪の女の子で、授業中に窓の外をふと見るとそこにいる」というものだった。
 みんなで考えた物の筈なのに、夜の闇の中で唐突に彼等は怖くなり、「怖いよー」「怖いよー」と言って毛布をかぶって身を寄せ合った。
「授業中、窓の外のその女の子と目が合うのは自分だけなんだ。自分以外には見えない。一度見てしまうと、それからは窓という窓には全部その子が見える」
 やめてよージェームズ。とピーターが涙声で言った。可哀相に彼は本気で怯えていた。そしてまた悪いことにジェームズにはあらゆる造形の才能があり、人の嫌悪する点を突いたデザインが絶妙に冴えていた。そして彼は大変な話し上手でもある。
「でも、毎日その子を見ていて、突然ある事に気付く。突然。でもどうして今まで気付かなかったんだろうって思うんだ」
「な、なにに気付くんだよう」
「それは気付くまで分からない。でも気付いてしまうと、その場で倒れるんだ。驚いた周りの友達が緊急救命魔法を使ってくれるけど助からない。彼は窒息死して、白目を剥いた彼の気管には、ながーい黒髪がぎっしり……」
 きゃー、と甲高い悲鳴をあげて彼等はますます小さくなる。しかし実のところジェームズは怖がっていなかった。彼には恐怖という感覚が先天的に欠如していた。
 リーマスも実はそうである。彼の恐怖メーターの針は、見知らぬ狼人間に咬まれたとき、振り切れてどこかへ飛んでいった。彼は「こわいよう、こわいよう」と言いながら抱きしめ合うのは、「すきだよう、すきだよう」と言いながら抱きしめ合うのに似ていて少し可愛いなとぼんやり考えながら、言い間違えをしないように「怖いよー」と言っていた。
 逆に先刻から無言のシリウスは、自分からは言い出せないがどうかジェームズがいますぐこの遊びをやめてくれますようにと神に祈っていた。
 ピーターはもはや本格的に泣いていた。
 それぞればらばらの事を考えながら、4人の子供は箱の中のひよこのような様子でぶるぶる震えながら丸まっていた。





パンダ…ええとボエム50作ぶりくらいだ…。
2004/11/30

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