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「相変わらずこの家の調度は絶妙だね。高級だけど控えめだし、丁寧に使い込まれているし、色といいサイズといい気持ち悪いくらい統制がとれているし、さりげなく手作りのものが混ざっているし。難を言うなら趣味が良すぎて何だか嫌味だという所くらいかな」
「日曜の昼間に人の家に押し掛けて家具の悪口か。それを飲んだら帰れジェームズ」
「いま帰ったらリリーに頭の皮を剥がれて剥製にされるから嫌だ」
「また喧嘩したのかい?まあたぶん9割以上君が悪い気がするけど」
「ひどいなリーマス。君もシリウスもどうしてリリーの味方ばかりするんだ」
「だってあのグレートリリーが根拠なく怒るとは思えないからだよ」
「もういい加減にしないと俺達がリリーとハリーをこの家に引き取るぞ」
「……ちえ。おまけに君達はハリーが大好きときている。でも何故そんなに熱烈にハリーのファンなのかな?あの子が子供の頃の僕にそっくりで可愛いから?」
「気持ちの悪い事を言うな。子供の頃のお前の2億倍、素直で良い子だハリーは」
「でも、あまりにもソックリ過ぎて、気恥ずかしいんだよね僕としては。キャラクター商品の(大)と(小)が並んで歩いているみたいだろう?僕達って」
「誰と会話してるんだお前。ゴーストか?」
「リーマスに決まっているじゃないか。やあ、相変わらず血色がいいね君」
「そうかな」
「うん。目もぴかぴかしているし、毛艶もいいし。魚屋の店頭に並んでいたら僕は迷いなく君を買って帰るね」
「おい、気安く触るなジェームズ」
「ここに嫁に出して正解だな。ああ、そういえば君は結婚したんだっけね」
「そうみたいだよ。2年ほど前に」
「ジェームズ!」
「じゃあこんなことをしたりすると、君の配偶者が怒るわけだ」
「シリウス。君が怒るからジェームズは痴漢をやめないんだよ。君を怒らせるためなら彼はドラゴンの尻でも撫でまわす男なんだから。いい加減学習しないと」
「ドラゴンの尻よりはリーマスの尻のほうがいいけどね。シリウス、そんなに睨んでも僕は呪い殺せないよ。だいたい尻のひとつやふたつケチケチするな、君はいつでもリーマスに触れるんだから」
「次に会った時にリリーの尻を撫でてやる!」
「おめでとう。君は煉獄の炎に焼かれるだろう」
「リーマス、そいつをローストしちまえ」
「いくら撫でられたって尻は磨り減らないよ、シリウス」
「俺の理性が磨り減るんだ!リリーを見習え!」
「……ああ、君達は本当に結婚したんだねえ!」
「いまさら何だいジェームズ」
「友人と結婚するというのはどんな気持ちがするのか、僕はずっと考えていたんだ。友人の服を脱がせ、その唇に口付けるのはどういう感じなんだろう!」
「叩き出されたくないなら話題を選べジェームズ。自分の家で便所の落書きみたいな話を千時間続けようとお前の自由だが、ここは俺の家だ」
「別に局部の名称を連呼している訳ではないからいいじゃないか」
「連呼されてたまるか!」
「友人と恋愛をし、結婚したという1点のみにおいて、僕は君を尊敬しているんだシリウス。そうだな、例えば愛犬を愛情の過ぎたあまり煮て食った人や、愛人の死体と暮らした人と同列に尊敬している。君は凄いシリウス」
「おいリーマス、この男は何時に帰ると思う?」
「落ち着いて、彼は夫婦喧嘩をして機嫌が悪いんだよ」
「ねえ、リーマス。恋人としてのシリウスはどんな感じ?」
「とても優しいよ」
「寝室での彼は?」
「とても努力家で、そして器用だ。時々私を失神させるくらいに」
「―――――!!リーマス、その手の話は第三者がいる場所ですべきではない!!」
「え?そういうものかい?」
「シリウスは並外れて照れ屋だからね、君も知っての通り」
「違う!常識だ!」
「気絶か、凄いね」
「凄いだろう?」
「そういえば……君達は同性なのだから、君がシリウスを気絶させてもいいわけだ。そういうのは試さないの?」

「恐ろしい呪いがあって、それは駄目なんだって」

「リ―――!!」
「・・・・・・失礼、いま何と?」
「リーマス!!その話は――――!!」
「最初に決まった役割を逆にすると、恐ろしい呪いによって2人の結婚は不幸な結末を迎えるんだって」
「……シリウスがそう言ったんだね」
「うん。私も半年ほど前にふと、シリウスと同じようにしてみたいと思ったんだけど、彼が呪いの話を教えてくれたんだ。うっかり呪われるところだった。私はどうもこの手の事に疎いからね」
「……そのようだね」
「・・・・・・」
「シリウス?」
「・・・・・・」
「シリウス・ブラック、返事を」
「……はい」
「楽しい新婚生活を送っているようだね」
「……お陰さまで」
「しかし何となく面白くないな」
「お前と結婚したわけじゃないからいいだろう」
「そうそう、前前からチェストが欲しいと思っていたんだ。そこのそれ、貰って帰るから。君の手作りのやつ」
「いや、これは……ニスでこの色を出すのに1年……」
「ねえリーマス、他にもシリウスが教えてくれたことってあるかい?」
「そうだね、あと20ヶ条ほど……」
「分かった!分かりました!持って帰ってくれ」
「ありがとう。リリーが同じような既製品を探して方々を廻っていたんだ」
「それを手土産にお前がリリーと仲直り出来るんなら、俺の無上の喜びだよジェームズ」
「シリウス、なんだか棒読みだ」
「仲直りしたリリーとデートもしたいな。もちろんその間、ハリーを見ていてくれるだろう?」
「……もちろんだ」
「あと、君が逃げ回っていたお偉いさんの件だけどね。形だけでも紹介しないと僕の顔が潰れてしまうんだ」
「……機会を見つけて会うとも」
「……何でも言うがままだな。……そんなに嫌なのか?」
「嫌……じゃないんだが」
「なら何だ。相手はリーマスじゃないか」
「私が何?」
「そうなんだが……逆の立場になって考えてもみろ。お前はリリーに……その……」
「結構じゃないか。僕は彼女が相手なら例えフィストファ―――」
「いや、もう逆の立場に立たなくていい。そこから降りろ」
「フェアじゃないと思わないのか?」
「結婚生活というのはスポーツとは違うから……」
「何だか分からないけど、君達まで喧嘩することないだろう」
「大丈夫だよリーマス。ここに入ってきたときから、僕とシリウスはずっと喧嘩してただろう。おい、シリウス、君らしくないぞ。男らしくしろ」
「国語的に間違ってないか?」
「リーマス、さっきの呪いの話だけど、僕はその呪いを解く方法を知っている」
「本当かい!?」
「ジェームズこの裏切り者!!」
「ただしそれはには相応の苦しみと代償が必要なんだ。それでも呪いを解きたいか?」
「うん」
「やめるんだリーマス。どんなまじないか俺は知らないがたぶん危険だ!!」
「だってシリウス、そんなつまらない呪いで私と君の行動が制限されるなんて変だろう?」
「俺は今のままで全然構わない!お前が危険な目に遭う事の方が余程我慢できない」
「ああ、まあ私も君さえ良ければ別に……」
「だめだよリ―マス。シリウスはああ言っているが実のところ、君に気絶させてもらったり、その他色々ものすごい事をしてもらいたいと思っているんだ」
「そうなのか?シリウス」
「違う!そのメガネの悪魔の言う事を信じるな!」
「しかし昔から君のことは私よりジェームズのほうが詳しかったし……」
「そうだろう?さあ、リーマスそのチェストの下の方を持って……そうそう。これから僕と呪いを解く旅に出よう」
「おい。そこまで喋ってなんでチェストを持って帰る!」
「シリウス、少しの間だけ待っていてくれ。私が呪いを解くから」
「リーマス、お前は騙されている!」
「最も信頼している恋人にね。アディオス!シリウス」
「待て――!!チェストを……じゃなくてリーマスを置いて行け!!このドロボー!!」








妖精シリーズのリバの瞬間を!という
オーダーが来ましたのでサクリと。(瞬間というか予兆?)
幸福というのは人を馬鹿にするものなのでしょうか、
3人とも馬鹿です。ていうか続くのでしょうかこれは…?
神のみぞ知るという感じ。
ちなみにここの人達は、寝室で仲良くしている最中
ジェームズから手紙(駄文『手紙』参照)がきて
大騒ぎになった模様。
2004/04/20

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