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「・・・・・・」
「……ああ、リーマス……随分眠ったようだ……今は何時だ?」
「・・・・・・」
「ご機嫌は麗しくないようだな……そんな顔を見るのは久し振りだ……」
「・・・・・・」
「でも悪くない……このままベッドに引きずり込みたいくらい魅力的に、見えなくもない」
「・・・・・・」
「返事をしないぞ。もしやこのリーマスは俺の幻覚か?」
「・・・・・・」
「幻覚ならば、裸で出てくるくらいの気遣いがあってもいいようなものを。まったく詰まらない幻覚だ」
「―――――」
「笑った」
「ああ、笑ったとも。瀕死の状態でよくそんな冗談を……」
「瀕死?随分オーバーだな」
「おかえり現世へ。反論があるならそこで立ち上がって踊って見せてくれシリウス」
「今はダンスをする気分じゃない」
「では右手を挙げて私の髪に触れるだけでもいい。それが出来るかい?」
「髪だけ?」
「腰でも服の下でも好きなところを。触れるものならね」
「夜まで待てないのか。随分と情熱的だ」
「シリウス、私は怒っているんだ」
「……知っている。不注意だった」
「違う。君は、私を、庇った」
「勘違いだ」
「いいや。咄嗟に背に庇った」
「そんなことはしていない。リーマス」
「真実がどうなのかは、君も私もよく知っている。この話はここまでだ。私の怒りをここでぶちまけるつもりはないし、この先この話をするつもりもない。何故なら君は病人だし、君が目を覚ました事が心底嬉しいからだ」
「・・・・・・」
「ただ、私は怒っているし、2度目は許さないという事を覚えておいてほしい」
「リーマス」
「分かったね?」
「……分かった」
「……あの時に腐敗の呪文に掛かった他の3名は亡くなった」
「……そうか」
「私が君を見捨てて、彼等のうち誰かの手足を斬っていれば1人は助けられただろう」
「リーマス」
「君は私にその選択を……いや、これは八つ当たりだね。忘れてくれ」
「リーマス、お前の考えは違う。お前は3名を見捨てたのではなく、俺を助けたんだ」
「4人を助けている時間はなかった。何度やり直す機会を与えられても私は君を助けるだろう。君がそんな顔をする必要はないんだよ、シリウス」
「違う。お前がそんな顔をする必要こそないんだ。それは違う……うまく言えないが……」
「いや、平気だから。君が落ち着いてくれ」
「腕が上がらない……抱きしめることが出来ない……」
「こんな場所で何て不穏なことを言うんだ、この病人。動けなくて幸いだよ」
「お前がそういう顔をしているのが嫌なんだ」
「私には違いがよく分からないし、たぶん誰にも分からないさ。シリウス、静かに。安静に」
「……はい教授」
「随分と素直だ」
「俺はもうお前には逆らわないと決めたんだ」
「?……ああ、鉈で斬られた時に?」
「そう」
「そうだね。今度私を怒らせたら、鉈を持って暴れるかもしれないね」
「ああ、どうかそれだけは許してください教授」
「うん。君がすぐに覚悟して目を閉じてくれたから上手に切り落とせた。あれでも手は震えていたんだけどね」
「見事な思い切りの良さでした教授。恋人でなければ交際を申し込んでいた」
「そういう趣味が?」
「ああ。知らなかったのか」
「冗談はいいけど、しばらく眠ってくれ。私は着替えてくるから」
「血まみれだ」
「君の血だよ」
「ところで他の人間はどうしたんだ?」
「別の部屋で治療を受けたり、大部屋で休んだりしているはずだけど。そういえば、どうして誰も様子を見に来ないんだろう」
「恋人同士を2人っきりにしておくというのは、全世界共通の風習だろうか?」
「譫言か?この病人。ここには中年男性2人を恋人同士と考えるような空想癖のある人間はいないよ」
「キスを。リーマス」
「シリウス、馬鹿を言わずに」
「リーマス、俺は手足が動かせないんだ」
「ドアが開いたらどうするんだ」
「ウィンクでもするさ」
「そんな犬みたいな目で見るな」
「ひどいな……犬の姿で鳴いたら言うことを聞いてくれるのか?」
「止してくれ!4本足の動かない状態の犬なんて!君は鬼か!」
「……いや、両方俺なんだが……」
「この前に私が怪我をしたとき、君は酷く怒ってしばらく口もきいてくれなかったじゃないか」
「……悪かった。あやまる」
「泣いて怒っていた癖に」
「それでも言われるままに手を握りしめただろう」
「泣きながら睨んでいた」
「……お前だって今まで泣いていたくせに」
「何か?」
「なんでもない。さあ、リーマス、俺はちゃんと生きているし暖かい。キスをするとそれがもっと良く分かると思うが?」
「……ああもう、分かったから。このまま夜中まで続きそうだ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「……病人も悪くないな」
「一生そうしていたいなら、協力する」
「嘘です教授」
「おやすみブラック君」
「おやすみなさい」






職場恋愛ものみたいになってきた……?
(いや、そうでもない?)
2004.03.10

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