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 近頃2人は、夜の散歩に出ることが妙に多くなった。
 そしていつの間にかシリウスは、散歩道で連続冒険小説を語る羽目になっていた(その物語のファンから、すでに手紙を3度ばかり受け取ってもいる。そう、手渡しで)。
 これまでにないほど真剣な顔で茶々ひとついれずにルーピンはシリウスの話を聞き、シリウスはその熱意に少々気圧されつつも淀みなく物語を語った。
 今日もまたいつものように家の扉が近付くとルーピンの歩調はゆっくりになり、シリウスは友人の顔を覗き込む。彼は照れたような笑顔になった。物語はドアを開けたところで次回へ続くと決まっているので、ルーピンは無意識にドアへ近付く瞬間を遅らせようとする。
「ああ残念、あと30歩もあれば竜との戦いの顛末を知る事ができたのに」
 そう言って本当に残念そうに彼は扉を開けて中に入った。衣服に染み込んでいた冷気が室内の温度にみるみる緩んでいく。
 彼が一言頼めば、或いは彼が一言申し出ればその物語は部屋の中でいつまでも続けられるのだが、彼等はどちらも決まり事をしっかりと守る性質だったので生憎とそうはならないようだった。
「小さなイングマールは友人に会えたんだろうか?……ああ、もちろん答えなくていいけれど。私は彼を応援しているから心配だ」
 ルーピンはその登場人物を気に入ったようで、「ファンレター」にもそのことが書いてあった。しかしシリウスには正直あまり共感できない意見だった。いつも威張ってばかりいるくせに、肝心なところで間抜けなことをする少年に、さしたる思い入れを持っていなかったのだ。
「お前は頭が悪くて態度のでかいやつが好きなのか?」
 シリウスが彼に尋ねると、ルーピンはにっこり笑って肯定した。
 不思議そうな顔で「そうか」と返事をしたシリウスだが、それから突然何事か気になることでも出来たのか、眉を寄せて長い時間考え事をしていた。





心底たのしそうだなあ……。
お気に入りの登場人物が悲しい目にあったら
後ろから首絞め!!
そして走って家に駆け込んで中から鍵閉め!!
(子供か)
2004/02/20

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