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 2人が一緒に暮らし始めた当初、この家には会話らしい会話が無かった。
 何故ならルーピンは一人暮らしをして随分長く、そしてシリウスは長期間の独房生活で、日常会話をする能力をすっかり失っていたからだ。
 初めの頃の彼等には、友人に声を掛けるには何かしら立派な用件がなければならないという気構えがあった。
 そして「実は昨日から熱が40度を越えている」だとか「今日街で投身自殺を見てしまった」などという主題で重々しく話を切り出し、相手の度肝を抜いていた。
 
 今、彼等は実にくだらない内容の話をする。
 「思い出せない歌のタイトル」や「あくびをすると涙が出る、理由の追求」や「先刻ひびの入ってしまった爪」などについて。友人以外の人間に話すと、あまりのくだらなさ故に黙殺されてしまう危険すらある話題だ。
 しかし、些細で退屈である筈の話が、彼の口から聞かされると興味深い話題に変わる。そしてもう一方は実に楽しそうに返答をする。
 変換はまるで魔法のようで、そして話題は尽きないのだった。



最終的には相手と自分の分の頭の中味の
境界線が曖昧になるくらい
お話をしてしまうんだよね。
そういう状態にも中毒性があると思います。

私はメガ無口です。
「今日の出来事」を誰かに話したい欲求は
ゼロに近い。
そして「黙って出産してそう」とか
「こっそり海外移住してそう」とか
よく言われます。ははは、そうかよ。
2004/01/10



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