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 時折、彼は遠い場所へ来て一人で眠る事がある。
 異国の夜空は星の大きさも光り方も何もかもが違う。傍らに友人はいない。
 適当にしつらえた固い寝床に横たわって瞼を閉じる。あとは眠るばかり、今日あった出来事などは思い出したくもない時、シリウスはここにいない彼の姿を思い浮かべるようにしている。
 細い髪と、色合い。鼻筋。血色の悪い唇。薄っぺらい耳。湿度のあるなめらかな首筋の皮膚、両腕に丁度収まってしまう痩せた肩、着古されてくたくたになったローブ(シリウスは紳士であるから、空想上の友人を断りもなく裸にしたりはしない。そう、大抵の場合は)、木の香りに似た匂い。衣服の上からでも骨の浮き出る膝。枯れ木のような腕(悪い魔女に監禁されても彼なら食われることはない)。爪の形は横幅が狭く特徴的だった。1本だけ変形している爪があって、シリウスは度々それに触れる。(ルーピンはシリウスの指の形を美しいと言ってよく褒めるが、シリウスは彼の美的感覚が理解できなかった。シリウスには彼の手のほうが余程好ましく思えるのだ)普段と変わらず、彼の目元は笑っている。「それで?」と問い掛けているような優しい表情。シリウスが何かを話せば頷きが返り、悪ふざけを仕掛ければ倍ほどキツい冗談が繰り出され、抱きしめれば静かに体重が預けられるだろう。瞼の裏の彼の形はそう思えるくらい、いつも鮮明になるのだった。
 完成した友人の姿に、おやすみと呟いてシリウスは眠りに落ちる。悪い夢を見ることは決してなかった。


この黒い動物の頭を撫でてやりたくて
たまらなくなるのですけど私は。時々。
おやすみシリウスさん。良い夢を。

でも
>空想上の友人を断りもなく裸にしたりはしない
許可を求められても困ると思うけどさ。
「お前の裸を妄想しても構わないだろうか我が友」
最悪です。


2003.08.06

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