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「エレベーターというのは要するに姿現しの代わりだね」
「えらく時間がかかって融通の利かない姿現しだがな。それにしてもどうしてこんなに狭く造るんだろう」
「さあ?建物の面積とエネルギーの問題じゃないかな」
「あるいは恋人同士や准恋人同士の親密度を上げようという粋な計らいなのかも。ほら自然と抱擁せんばかりの距離だ」
「君ね……」
「キスしても?教授」
「構わないけれど、家に帰ったら尻尾を引き抜くよ」
「それは本気か?」
「……そんな酷い事、私に出来るわけないじゃないか」
 ……するならさっさとキスでも何でもしろ。ムカつく。満員のエレベーターに乗り合わせた客達の大多数は、眉間に皺を寄せてそう思った。男性2人は囁き声で会話していたが、他の人間が無言だったので一言一句漏らさず聞き取る事が出来た。全員仕事で疲れていた。最悪だった。


わあ、どこの国の話か知りませんけど
可哀想ですね。それぞれの人々は
家に帰って「聞いてよ、今日さー!」
と語り出したことでしょう。

2003.08.06


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