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 この国の人々の伝統的な特質をリーマス・ルーピンはきちんと受け継いでいた。彼は味覚においてあまり鋭敏な性質ではない。今までの人生で、「不味くて食べられなかったもの」の記憶を特に持ち合わせていない彼だった。どの国の、どんな階級の人々の料理でもルーピンは頓着なく口にする。いかに外見が前衛的であろうと素材が未知の物であろうと、彼を怯ませるにはあたらなかった。
 なんでもこの国のこの特色は、忍耐強かった高貴な階級の人々が「食べ物に関してとやかく言うのは優雅ではない」という大変に立派な理念を広めた結果だという通説がある。
 それからするとシリウスは、先人の教えを守らぬ反逆児ということになるのかもしれない。それ相応の値のついた料理を出す店で基準を下回る品が出たりすると彼は一口目でナイフとフォークを下ろし、以後その料理は目の前に存在しないかのように振舞う。そして食事を続けるルーピンの妨げにならぬ程度に実にさりげなく自然に会話を続けるのだった。
 こんな2人が一緒に暮らせば当然起こり得る出来事がある。ルーピンの作った料理がシリウスの口に合わないという事態だ。
 まず一口目でシリウスは1秒ほど動きを止める。そしていつもより若干早く手を動かし、いつもより多めに、綺麗に料理を平らげる。それはシリウスにとって食事の味が今一つであった場合の分かりやすいリアクションだ。こういう時ルーピンは「すまない、あまりお気に召さなかったようだね」と謝りたい欲求に駆られるのだが、シリウスはおそらく酷く驚いて5度も6度も首を振り、あげくルーピンが学生時代の精神を復活させて何か心を読む種類のいたずら魔法でも仕掛けているのではないかと疑うだろう。それは彼の精神衛生上良くはなさそうだったので、ルーピンはゆっくりと自分の作った料理を味わってみるに留める。それは普通に美味しく、シリウスの感じている不都合を理解出来ない事をルーピンは少し残念に思うのだった。
 口に出せない謝罪の代わりに、ルーピンは皿を引く際そっとシリウスの頭を撫でる。その行為と料理の不出来との不思議な関連にシリウスが気付くのはいつのことだろう。
 おそらく5年はかかるに違いないと、彼の背後で小さく微笑むルーピンだった。



私もあんまり美味しい不味いは分からない方です。
どの国へ行ってもそれなりに美味しくごはんを食べますし
普通でない素材でも(ある程度まで)平気です。
でもイギ○スは へこんだ……。巡り合せが悪かったのかも
しれないけど、ともかくアレだった。

……不安になったんですが、これって
パンダでいいんですよね?何もしてませんよね?ね?
2003/04/24



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