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「この話はもうこれでお終いだシリウス」
 時折ルーピンはそう言う事がある。それ以上話すと感情的にもつれそうな時や、2人のうちどちらかが確実に不愉快になるであろう時に。話の行く末を正確に予測しそれを未然に防ぐ。
 その台詞が彼の口から一度出てしまうと、もはや絶対にその問題は2人の間で取り沙汰されない。シリウスがいくら頑張って蒸し返そうと試みても、ルーピンは静かに笑って首を振るばかりである。一言も口を開かない。
 話題は大抵シリウス側から持ち出された場合が多いので、堰き止められた言葉が彼の内側でスズメバチの大群のようにぶんぶんと唸りをあげ、シリウスは唇を歪める。
 しかし何度目かのシャットダウンを喰らって、シリウスも徐々に学習を始めた。それにはコツがある。
 彼を一度に追い詰めてはいけないのだ。少しづつ訊ねる。彼の口数が減り始めたら即座に撤収。そして数日後、潔い記憶力を持つルーピンがすっかり忘れた頃合を見計らって、ひとこと聞く。「リーマス、あの件だが」。彼が複雑な表情で回答をしたら、その日もそれで終了。続きはじっと待って数日後。ともかく「この話はもうこれで云々」という、くだんの台詞をルーピンに言わせなければ良いのだ。
 短気なシリウスにはひどく難しい手順だが、永久に未解決になるよりはずっと良いように思われた。内心の焦りを我慢してじっと胸を押さえている時、穀物を撒いて鳥をおびき寄せている自分を何故かシリウスは連想する。
 それでせめてもの憂さ晴らしに、自分を呼ぶルーピンに「どうした俺の小鳥?」などと返事をしたりするのだ。
 それを聞くとルーピンはいつも、真剣にぎょっとした顔をする。
 シリウスはその瞬間の表情を見て笑うことにしていた。



2003/03/13



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