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 「彼は、お前のものになんかならない」
 はっきりとそう言われた。澄んだ声だった。
 私と相手は相対して立っている。正面にその人物はいるのだが、影が差していて顔は見えない。
「何の話を?」
 私は感情を表さないように細心の注意を払って微笑んだ。私の唯一の取柄。
「お前も分かっているだろう」
 私は困ったように首を振った。分からないと、いかにもそう言いたげに。しかし相手の言わんとするところは実はもう最初から理解していた。
「彼はそもそも、お前とは住む世界が違う。住む世界だけではなく何もかもが違う。今、彼は道に迷っている。お前は彼の眼を塞いで捕らえようとしている」
 相手の喋り方には聞き覚えがあるような気がした。昔に知っていた誰か。考えながら少しずつ話す癖。
「君が何を言っているか私には分からない」
「彼を解放するべきだ。そして自分に相応しい住処へお帰り。暗い場所へ」
 私は相手の首に手を伸ばした。何がしたかったのかは自分でも分からない。その不愉快な話をやめてほしかったのか。それともその秘密を二度と口に出来ないようにするつもりだったのか。
 細い首が手のひらに触れた。そこへ陽が差す。
 相手が諦めたように笑ったのが見えた。心の半分を何処かに置いてきたような茫洋とした笑顔。鳶色の髪。青白い肌。
 ホグワーツの制服を着た、それは少年の頃の私だった。彼は私を気遣って、優しく言った。
「可哀想だけど、彼はお前のものではないよリーマス」

                                    そんな夢を見た。




駄文「ある日の朝」に続く……ような気がする。


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