131



 人間が他人の身体を愛撫するとき、そこには人格や資質があらわれる。

 シリウスは非常に器用だった。別に意図して行っている訳でもないのであろうけれど、指や腕や唇や、与えられたすべての器官を同時に個別に動かすことが出来た。そして何をする時にも失われない優雅さ、天性のリズム感というものがそこでも発揮された。彼は愛情豊かな人だったので、愛する人間に触れられる悦びは表情や言葉で素直に表現され、その時間は始終積極的だった。ただし相手の状態を読むことはお世辞にも得意だとは言えない。もちろん最低限の気遣いは欠かさない彼だが、それでも行為は始終彼の情熱のままに行われた。

 ルーピンは逆に相手の状態を読むことに長けている。あるいは本人よりもその身体の望むことと望まないことを熟知しているようでもあった。あまり器用ではない彼は、ピアノを覚えたばかりの人がぽつりぽつりと鍵盤を弾くように相手に触れた。ルーピンは辛抱強く、どこまでも優しかった。囁かれる言葉はすべて相手を気遣うものばかりだった。しかし時に乞われることを与えずにいて更に大きな快楽を引き出すという人でもあった。そんな時に声や表情で表現される相手の快楽に、場違いなほど無邪気な笑みを浮かべる事もあった。

 熱に浮かされるようなその時間に、彼等は正常な思考を失い上昇と下降を繰り返す。
 しかし合間の一瞬に、友人が自分に触れるその態度と彼の本質の一致に気付き、ふと微笑まずにはいられないのだった。




セッ……いや何でもない。

2006.06.20

BACK