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「君に愛される人間が幸福かどうかは知らない。けれど人を愛する君は幸福であるだろうシリウス。認めた人間以外は触れられることはおろか、言葉を耳に入れることすら認めない黒い王子様。お前はしかしその素晴らしい目で恋人の姿を見、鼻で匂いを嗅ぎ、耳で心を聞くだろう。例え何百マイルでも、駆けて恋人を追うだろう。この世のすべての花を恋人に与え、辞書にある良い言葉の全部を与え、美しい風景の何もかもを見せるだろう。知識も金銭も肉体も君は惜しまず、忠誠と執着のありったけを恋人に捧げるだろう」
 むかしジェームズはそう言った。寝台に横たわっている彼の目は半分閉じられている。勝手に同じ寝台に横たわってダーツの練習をしているシリウスの髪を、ジェームズは尊大な様子で2、3度撫でた。彼のそんな態度にはもう慣れっこになっているシリウスは特に何も反応せず、ダーツの的に集中していた。
「君に愛されるひとが、その奇跡を知っていればいいと思うよ。シリウス・ブラックの恋が普通でなく強いものである事を。そしてその恋こそがシリウスを生かし、殺すものだと。もちろんそのひと自身も幸福であれば言うことなしだ」
 そう付け加えると彼はことりと眠ってしまった。

 ジェームズが本気でそう考えていたのか、あるいは何か詩人ごっこで唱えた口からでまかせだったのか、ルーピンは正直今も分からない。当時の彼は時折思っているのと逆の事あるいは考えている内容にまるっきり関係のない事を適当に話す癖があったので。
 しかし何代目なのかは不明ながら現在間違いなくシリウス・ブラックに愛されている人間であるルーピンは、当然シリウス・ブラックの愛情の価値を知っている。その場にいて、ジェームズの言葉を聴いているからだ。
「まるで解説を受けてから恋愛小説を読んだみたいじゃないか……。わざとではないだろうけど、腑に落ちないな」
 それともわざとなのかい?と苦笑せずにはいられない。今思い出してもジェームズ・ポッターは謎の多い友人だった。
 しかし兎も角彼の希望通り、シリウス・ブラックの現在の恋人は彼の愛情の価値を知り、そして幸福であるようだった。







長い時間をかけて完成される恋愛というのは
(ちょうど彼等のような)恋愛小説というより
推理小説に近いと思います。
過去の互いのあらゆる言葉や行動が
伏線となってオチに反映するからです。
後から考えるに「ああ…あれが伏線か…」とか
「こんな意外なオチが!ガーン!」とかね。
そして所々ホラーでもあります。
(いや、良い意味で!良い意味でホラー!)

「愛ノレケ」終了記念更新。いま書いた。
2006/01/31