109



 ルーピンの所へフクロウ便が届き、それが招待状だったとする。そして宛名は(まったくの別人の)夫婦連名だったとする。
 ルーピンは笑って説明する。「このパーティは、どうしても誰かが潜り込んで監視する必要があって、それには夫婦で参加するのが一番目立たずに済む」と。ルーピンの妻を演じるのはシリウスも名を知る女性で、地味な容姿をした聡明な人だった。ダンブルドアの見立てだけあって、ルーピンと並べてイメージしても、似たタイプの2人は本物の若夫婦らしく見える。
「3日後に私は彼女を迎えに立って、そのままフランスに行く」とルーピンが言ったあたりからシリウスの様子はおかしくなる。その物言いはいつもより優しくなり、ルーピンに触れる回数は極端に減り、他愛ない話題が増える。
 シリウスは何につけても加減が下手くそだった。
 優しい言葉使いは怒っているのを隠す為。不安が高じて触れたいのを我慢するあまりルーピンに触れる事を恐れ、口を開けば今回の仕事の内容を尋ねてしまいそうになるのをどうにか堪えて関係のない話をしている。
 まるで逆に嫌悪されていると錯覚してしまいそうになる彼の態度をただルーピンは黙って耐えるのだった。
 「もしかして怒っている?」とは聞けないし、ましてや口が裂けても「それは嫉妬だろうか」とは言えないからである。
 勿論シリウスなどは、嫉妬という言葉すら思いついてはいないだろう。




 ルーピンはあらゆる嫉妬という感情に縁がなかった。そしてあまり理解もなかった。彼はシリウスを愛する人間に、自分が感謝以外の気持ちを持つところを想像できなかったし、そしてシリウスが愛する人間は自分もまた愛するようになるだろうと思っていた。仮にもしそのせいで、自分がシリウスの側を離れなくてはならなくなったとしても、悲しい気持ちになるような気はしないのだった。
 ただ。彼等の住む片田舎に有名な犬好きの老人がいて、彼は何匹もの大型犬とこれまで生活を共に過ごしてきたという話なのだが、月に何度か散歩の途中で老人と出会うことがあった。
 老人は無言でシリウスの頭を撫で、誰に対しても犬のするような態度を決してとらない(人間であるからして当然なのだが)シリウスは、珍しく目を閉じてじっとされるがままに任せるのだった。
 老人は黒犬の耳に小声で2、3言話し掛けることもあるが、シリウスはこの老人の話をルーピンにすることがないので老人が何を言っているのかルーピンは知らない。
 犬を撫でるために発明された工芸品のような、立派な老人の手がシリウスの頭や耳の後ろを掻いている時、ルーピンは何故か自宅に急いで帰りたいような気持ちになる時がある。
 そして老人の手のようには器用に動かない自分の指を眺めてぼんやりとするのだった。
 ルーピンはその感情が何であるか少しも気付かなかったし、深く考える事もあまりしなかった。
 勿論シリウスなどは、ルーピンが嫉妬するなど考えた事すらなかったに違いない。
 






先生、嫉妬を学習中……。
ってまず犬からかよ!!

春の即売会で物品を頂いたりして、
そのお礼にアップした物を再アップです。

2005/06/10 発表
2005/09/08 再録


BACK