At the party





 格式張らないパーティーだった。邸宅を開放し、その中を自由に人が行き交うという形式の。ルーピンも安心して部屋の隅に陣取り、紳士淑女の話をにこにこと拝聴したり、美しく飾られた花々を鑑賞したりした。彼はこういう場において、透明マントも仰天するだろう見事さで気配を断ち、目立たずにいるという特技を持っている。
 質問攻めにあったり好奇の目で見られたりしなければ、パーティーはルーピンにとってそれほど厭わしい場所ではなかった。
 挨拶をするべき人物全てと握手を終えて、彼はもう半分以上パーティーを済ませた気分になって廊下を歩いていた。夜の風に当たりたくなったのだ。妙にクリーム色がかった照明と、秋めいた色合いの絨毯がよく似合っている、などと彼が気楽に内装の評価を行っていると、背後から名を呼ばれた。
「リーマス」
 声の主はルーピンの最もよく知る人物にしてパーティーの王者だった。彼が座の中央から抜けると、数分後には必ず誰かが探し始める。話題の中心。視線の中心。皆の興味の中心。
「抜け出してきたのかい?だめじゃないかメインディッシュが逃げちゃ」
 シリウスは笑って「ひどい差別だ」と言った。ホールのざわめきは遠く、廊下は静かだった。彼とこんな風に礼服を着て、豪華な邸宅の一角で話していると、時間の感覚が妙になりそうだ。ルーピンはぼんやりと考える。
 そういえばシリウスは学生時代にパーティーの途中で抜け出して女の子を


 そこまで思考したところで周囲が突然暗くなったことにルーピンは気付いた。何かの余興?耳慣れた呼吸の音が耳元でして、自分がシリウスに抱擁されている事も分かった。
 まず初めにルーピンの頭に浮かんだのは、ここはどこだったか、という疑問だった。あまりにも習慣化した行為故に、シリウスの長い腕に巻かれた途端に自分がいま自宅の寝室にいるかのように錯覚するのだ。いつも。
 ああ、そうか。自宅で夜なのか、とルーピンは彼の背に腕を回そうとして、自分の袖口のカフスボタンを見咎める。自宅で礼服など着る筈がない。
 目を凝らすと、そこはどうやら薄暗い室内のようだった。自分達は先程まで確かに個人宅の廊下にいた。どうやら悪戯気を起こしたシリウスが自分を個室に連れ込んだらしい、と遅まきながらルーピンは知る。ルーピンが少々酔っているせいもあるだろうが、それにしても見事な手際だった。軽く腰に腕を回し、空いた手でドアノブを回し、ダンスのように優雅に軽く半回転。おそらく過去に、せっせと磨かれた技術に違いない。
「シリウス」
 ルーピンは意識して低い声を出した。ここはパーティー会場で他人の家なのだ。自分達が同性でありながら所謂恋愛関係にいるという状況については7万歩ほど譲って認めるとしても、その関係によって世間の善男善女に何か不愉快な思いをさせることがあってはならない。かけらほども。世間一般の恋人同士よりも品行方正に振舞う必要が、自分達にはあるのではないか?とルーピンは常々考えていた。
 腰に回されていたシリウスの手が、背を這い登ってゆっくりとルーピンをかき抱いた。肺を押されて吐き出される息、待っていたように塞がれる唇。
 額で額を押して、肩を腕で押してキスをやめさせる必要があった。こんな場所で始めなくとも3時間我慢すれば落ち着ける場所に帰れるじゃないか、と諌めれば彼は聞き入れる筈だった。至近距離で彼の睫毛が揺れているのが見える。名を呼ぼうとするが、最初のスペルですぐに塞がれてしまう。
 肩に、直にシリウスの指が触れて、服を着ているはずなのに何がどうなっているんだ、とルーピンが目をやると、その辺りの肌が露出していた。仰天した彼はシリウスの両手を戒めようとする。そしてどちらがどちらを戒めているのか分からない状態になって2人は指を絡ませる。
 シリウスは、ルーピンに物を言わせる気はないようだった。
 普段の彼なら決してしないような性急さで、振りほどかれた指は奥へと進み、直接触れられた刺激で膝の力が抜けたルーピンは、目の前の肩に取り縋った。
 パーティーの狩人だった昔の気分が突然蘇りでもしたのか、或いは考えたくないことだが先程自分が親しい女性と長い時間会話をしていたのをどこからか見ていて、理解し難い方向に感情が動いたのか?とルーピンは半分捨て鉢のような気分になってこの状況の原因を推理した。
 ともかく彼の肩に縋っていては、彼を押しのけられない。自分の足で立って、どうにかして速やかにこの部屋から逃走しなければならないとルーピンは考えた。しかし器用な彼の人差し指が形をなぞり、同時に上顎を舐められてルーピンの足元は益々覚束なくなる。
 互いの吐息を貪るように彼等の息は速まり、初心者がスローなステップを踏むように膝と爪先が触れ合った。腹の皮膚を5本の爪がくすぐる。爪はそれ自体が生き物の如く、足の付け根から腿へと移動してゆく。ルーピンの体重を支えるシリウスの腕は時に離れそうになり、そして強く抱き直され、その度ルーピンの体は不安定に揺れた。犬を撫でるようにルーピンの髪を掻き回すシリウスの手。その爪が首筋を強く擦った時だけ、一瞬普段の彼の表情に戻ってシリウスは小さく詫びた。他にもっと詫びるべき事があるだろうという怒りと、頓珍漢な彼の律儀さへの愛情、両方の感情が一度にやってきて、ますますルーピンを混乱させた。溺れている、と彼は思う。空気が足りない。もがいても動けない。そしてゆっくりと沈んでいく。実際、ルーピンの頭部はいまやシリウスの胸の辺りにあった。
 ただ、ぼんやりとしてゆく五感の片隅に、幾つかの重大な懸案が、それでも引っかかっていた。例えばドアの鍵であるとか、音や声といったような取り返しのつかない種類の重大な懸案事項が。どうかシリウスがそれに気付きますようにとルーピンは祈った。
「異議が無いならこのまま続けるが?」
 ルーピンの祈りとは全く逆方向の情熱的な瞳と声で、シリウスは部屋に入って以来初めて言葉を発した。
 落胆のあまり目の前が真っ暗になる気持ちがして、どうせ同じ結果になるなら自分が彼をこの場で楽しんでも構わないのではないかとまでルーピンは思った。そこでふいと彼の足は床から浮き、シリウスが2歩3歩とルーピンを持ち上げたまま部屋の奥に進んだ。
 ルーピンは全く気付いていなかったがその部屋は客用の寝室で、そして彼には非常に気の毒な事に寝台がしつらえてあった。シリウスに体重を掛けられて斜めになりながら、ルーピンは考える。思えばシリウスと再会してから、或いはシリウスとの間柄がただの友人同士ではなくなってから、ルーピンは様々な小さい譲歩を繰り返してきた。1歩下がり1歩譲り。譲歩の後退を続けるうちにカリブ海にでも来てしまったような気がした。地獄のカリブ海。スプリングの利いたマットレスにバウンドしたあとで自分達の間にどんな事が繰り広げられるかについての想像は、ルーピンを絶望させるのに十分だった。
 しかしベッドに背が当たっても、ルーピンの体は弾まなかった。シリウスの体も。
 この家の主人は随分と固い素材のマットレスを選んでいるようだ。
 それに異様に でこぼこしている。
 しかも驚いたことに喋るマットレスである。悲鳴があがった。
 ルーピンとシリウスはベッドから飛びのいた。
 顔を見合わせた後、暗がりの中シーツをめくると、そこからは若い男女が現れた。女性はドレスのストラップが片方落ち、鮮やかな色の下着が見えている。(しかし肌の露出度合いでいけばルーピンも負けていなかった)
 4人は呆然と言葉も無く相対した。正確にはシリウスとルーピン、年長者の2人がより呆然としていた。2人の若い男女は、すぐに笑顔になる。
「ああ、やっぱり、シリウス・ブラックだ。名前が聞こえたのでそうじゃないかと思ってたんです」
「誰か入ってきたみたいだから、私たちシーツに隠れて静かにしてたの。まさかこんな所であのシリウス・ブラックと、ええと御一緒になるなんて嘘みたい」
 4人とも乱れた髪のまま、妙な会話が行われた。会話といっても一方的な。寝室の先客であった2人の若者はシリウスのファンだと言って名を名乗り、そして握手を求めた。快活にと言うわけにはいかなかったが、何とかシリウスはそれに応じた。ルーピンは先程まで怪しからぬ悪戯をしていた手が若者と握手をするのを、何とも言えぬ表情で見守った。すると女性はルーピンにも握手を求めた。そして「応援しています」と囁いて、身なりを整え、部屋を出て行った。
 ドアの開いた一瞬だけ廊下の明かりが差し込み、シリウスとルーピンの乱れた服装をはっきりと浮かび上がらせる。
 あまりの出来事にしばし放心して立ち尽くすシリウスに背後から声が掛けられた。
「シリウス」
 いつもより低い、魅力的に掠れた声。彼がどんな精神状態のときにその声を出すのかシリウスはよく知っていた。おそらく彼はもう身なりを整えて立っているだろう。表情はきっと恐ろしげではない。うっすらと微笑んですらいるかもしれない。振り向かなくともシリウスは彼がどんな顔をしているかが分かった。しかしだからこそ彼は振り返れなかった。
 先程までの熱が一気に冷めて、床を見つめたまま動けなくなったシリウスに、もう一度声が掛けられた。

「シリウス」










シリウスがあんまり酷い御仕置きをされないといいなあと思います。
無理矢理は男の夢とロマンなので叶えてあげました。
あとのことは知らない。

えーと、先生、早急にハーマイオニーと連絡を取って
あの魔法を教えてもらうといいよ。
そしてシリウスが無理強いをしたら
顔に「私は異常性欲者です」って浮き出るようにするんだよ。

散歩しながら携帯で打ちました。
きっと私は1年中秋だったら1年中えろを書くでしょう。
2007/10/02


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