その日、目を覚ました私の視界に最初に映ったものは
寝床の敷布の上、少し長めの黒い一本の。

ただそれだけのことだったのに

遅い朝食を摂るべく階下に降り立った私を迎えた同居人の、
新聞から視線を上げた少し照れたような笑顔とその黒い髪に

私は思わず踵を返すと食堂から飛び出した。

階段を駆け上がり自分の寝室へと滑り込む
自分にしては珍しく騒々しい行動だという自覚はある
驚いた彼が下から何か言っているが意識的に耳を塞ぐ
幸いというべきか追って来る様子は今のところ無い
扉の鍵を閉め、肩で息をしながら懸命に心臓を宥める

頬が熱い
顔が赤くなっているのが自分でもはっきり判る

今になってこんな事で照れるような
そんな関係では最早ないというのに

駄目だ
今日に限って何故だか猛烈に恥ずかしい

 ――今更一体何だと言うのか、今更、そう今更!

ふと原因となったものに目を向ける
やり場のない羞恥に突き動かされ、私は寝台からシーツを剥ぎ取る。
そして窓を一杯に開け、いっそ乱暴と言えるほど力の限り打ち振った。


一瞬きらりと輝いた一筋の漆黒は
眩しい陽の光にさらりと溶けて
あっという間に見えなくなった。









あとがき@捏造。(注「」内はメールからの引用です。)

先生が異様に照れていらっしゃるのは
「自分のしたこと」
に対して、だそうです。しかし初リバだったかと言うと
そうでもなく、
「だいぶ後。リバにも慣れてきちゃって、
犬が諦めの境地に入っちゃうぐらい後」

とのことです。
「先生は昨夜ついうっかり気分がノったので犬を返り討ちにした上に
いつもよりちょっと(自主規制)で(自主規制)ゃった。
普段と違うことをしたら自分が一番慌てる体質なのね。
そして相手が落ち着いているとますます狼狽える」

らしいですが、自主規制の内容が気になります。
私は、追ってくる様子のないシリウスさんは、実は今現在
庭へ出てハシゴを準備している最中で、2分後には窓から
顔を出されると思うのですが、そう友人に言いましたら
「いや、そりゃダメだ。再度テンパった先生に
うっかり突き落とされて大変なことに」

という血も涙もない返事でした。
よくそんな酷い事を思い付くなあ!

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