Bath room


 シリウス、という呼び声が水音に混じって聞こえた時、名を呼ばれた彼は料理の最中だった。
 ふとシリウスはバスルームにいる友人が自分を呼ぶ理由について思い当たる。そこにいつも備えてあるバスローブやタオルの類を、今日一切洗濯してそれを彼に告げていなかった。
 すまないリーマス、とエプロン姿で新しいタオルを差し出すシリウスに、こちらこそと彼は振り返った。
 シャワーを使っていた訳であるから、当然彼は何も身に付けていない。髪を洗ったばかりなのか水滴がひっきりなしに先端から落ちている。彼のその姿を見て、思わずシリウスは言葉を失った。
 黄みがかったライトに照らされてタイルの床に立つルーピン。薄暗い部屋でシーツの間からのぞく青白い肌とは違う。懐かしい傷の跡や骨格の作り出す陰影まですべてがはっきりと見て取れる。
 全身ずぶ濡れの生物というものは、おしなべて頼りなく、庇護が必要な存在に見える。
 シリウス?というルーピンの戸惑ったような声に我に帰った彼は、すぐさま友人から眼をそらせた。
 何でそんなに痩せているんだお前は。冗談めかしてシリウスはそう言ってみたものの、喉に絡んでうまく声が出なかった。取ってつけたような白々しい響きの言葉が天井に跳ね返る。
 彼は自らの言葉に追い立てられるように慌ててその場を去ろうとした。
 しかし耐えられずシリウスは意志とは無関係に、戸口で友人を振り返る。
 こちらを見ていたルーピンと目が合った。
 感情が相互に流れる。
 身体を隠すわけにもいかず、いつも見ているじゃないか、とルーピンは困って呟いた。
 互いが羞恥心と、性的興奮をおぼえているのは顔を見れば分かった。友人がそれを隠そうとしている事も。それに気付かない振りをしなければならないという事も。
 一粒の水がルーピンの肩から首元へ、それから胸から腰へと流れた。
 シリウスはよろめくように一歩、二歩を踏み出し。
 彼の首のうしろに腕を廻し濡れた髪に指を絡めて深く口付けた。ルーピンは抗わなかった。彼の肌についていた水滴がシリウスの衣服にゆっくりと吸収され、水分を含んだ前髪は二人の頬に張りついた。
 シリウスは唇を離し、体の中のありったけの礼節を駆使してルーピンから手を離した。それはかすかに震えていた。
「すまないリーマス」
 入ってきた時、最初に言ったのと同じ言葉を口にして、シリウスはドアを開けバスルームから姿を消した。






バスルームというタイトルで自分は何を書くかな……?
と思ったらこんな話が。己の品性の下劣さが
照り輝いてる気がします。ごめんなさい許して。

「参ったなあ、風呂場でか?」
と先生はたぶん思った。でもこういう場合彼は
よせとかやめろとか言わないね。
つき合いのいい人だ……(違う)

この話より以前か以後かは不明ですが
「男性の身体であるから見ても云々」と先生は
言いました。それもある意味正しかったのでしょうが、
しかしシリウスは明らかに……ています。これは
条件反射と、あと恥じらいの要素が大きいのでしょう。
見られるほうが「恥ずかしい」と思うと、そこに
エロティズムが発生してしまう。だから先生が
腰に手を当てて高笑いしていればこの話は
成り立たなかった訳です。逃げると追ってくるんです先生。
(でも逆に「興奮されると恥ずかしい」というのもありですな)
2003/01/30


文章が短いので描いてみました。面倒くせぇのでここに貼る。



「ええと……あの……いつも見てるよねシリウス?」

「ん?それは何の話だ?」

「いや、なんでもない……」

『THE こんな友人は嫌だ!!』(終)