「今日はクリスマスじゃなかったろうか?」
「・・・・・・」
「リーマス、聞いているのか?今日はたぶんクリスマスだ」
「・・・・・・」
「まさか眠っているのか?」
「……いや、起きているよシリウス。クリスマスがどうのとか?」
「あれほど寝てはいけないと言ったのに一体どういう神経だ」
「今日はクリスマスなんだね」
「これで35回目だが再度言っておく。寝るな。間違いなく死ぬ。凍死か出血死だ」
「これまでも色々あったけど、生き埋めになったままのクリスマスなんて、人生でワーストだ」
「ここに踏み込んだのが23日の深夜で、意識を失っていたのがだいたい12時間前後……それから更に10数時間、とすると今日は矢張りクリスマスだ」
「いや、でもまさか館が完全崩壊する仕掛けになっていたとは驚きだったね。あれかな、冒険小説のファンだったりしたのかな」
「他の者は助かっただろうか」
「さあ……どうだろう。とりあえず館の主はこの場所へ走って来ようとしていたみたいだけど、落ちてきた天井に潰されたのを見たよ」
「……そうか」
「ヴォルデモートに栄光がどうのとか叫んでいた。どうしてあっち側の人は死に際に皆同じ事を言うんだろう。規則でもあるのかな」
「何と言ったら満足なんだ」
「そうだね……『ふくろう大好き!』とか『去年ケンジントン公園で実は私は!』とか……。とっても気になるし、何だか仲良くなれそうだ」
「ジェームズみたいだぞ、その物の言い様」
「私もそう思った。それにしても、君がこの場所に引っ張ってくれなかったら、私も潰れていたところだ。ちなみにどうしてここが安全だと分かったのかな?」
「天井を見たら、この柱を中心にして放射状に梁が折れていったから、なんとなく」
「そういえばお礼も言ってない。ありがとうシリウス」
「よせ」
「いくら親しい間柄でも、命の恩人に礼も言わないのは感心しないからね」
「離れると寒い。いいから元の位置に戻れ」
「それはそうだね」
「恋人同士で助かったな。もし今も清らかな友人同士だったら、互いに遠慮して手も握れないところだ」
「・・・・・・」
「何を笑う」
「雪山で遭難したとしても、男と抱き合って暖をとるくらいなら死んでやると昔言っていた君がそんな事を……」
「!!……しつこいぞ!どうしてお前はその話が好きなんだ」
「だって印象的だったから。ところで戯れに不吉な話をするものじゃないね。まったく君の言った通りの状況だ。雪山ではないが酷く気温の下がる場所で男同士救助を待っている。杖は折れてしまった」
「お前と抱き合うのは大歓迎だが?なんならキスしてもいい。もっと凄いことも」
「とりあえずもっと凄いことはやめておこう。万が一最中に救出されたら、私達は助けてくれた人の杖を奪って忘却の魔法を掛けまくらないといけなくなる」
「冗談なのに真面目に返事するな。ところで考えてみれば、2人一緒に裸でベッドの上にいるときに生き埋めにならなくて良かったな」
「それは……うん。まあ」
「2人は裸で、瓦礫の中に杖は見あたらず、服もないんだ。死ぬにしても救出されるにしても、そのままだと何をやっていたかは一目瞭然だ」
「大変だ」
「お前ならどうする?」
「その辺りのススを使って『僕達は友達同士です』と腹に書いておこうか。他はともかくハリーが可哀相だ」
「・・・・・・」
「一生懸命考えたのにそんなに笑うなんてひどいな」
「……いや、本当の友達同士は書かないだろうそんな事」
「じゃあ君は何て書くと?」
「腹に何か書かないといけないルールなのか?……そうだなあ『裸生活は最高!!』とかどうだ」
「……ああ、スローガンだね……うん、救助隊員が首を捻る場面が目に浮かぶようだよ……あはははは」
「根本的に腹に書くから可笑しいんだ……。ああ、笑うと暖かいな」
「…………」
「リーマス?リーマス!」
「うん……」
「寒いのか?犬の姿になろうか?」
「駄目だ。君が話してくれないと眠ってしまう」
「眠るな。何をやってもいいが眠るのだけはいけない」
「私は眠るのは得意だけど、逆は……」
「可哀相だが駄目だ」
「それにしても辛い。いっそ……」
「いっそ?」
「……いや何でもない。魔が差したみたいだ」
「リーマス、楽しい事を考えて目を覚ませ。ここを出たらクリスマスをやり直そう。チキンとターキーを日替わりで1週間ほど食べよう」
「胸焼けがしそうだ」
「ブラック家のセラーに『この瓶を開けた者を末代まで呪う』とリストに書かれている程バカじみて高級なワインがある。あれを開けて2人で飲もう。あの喧しい絵は今度こそ発狂するかもしれないが構うものか」
「……自分の子孫を末代まで呪ってどうするんだろう、愉快な人だ。ああ、ごめん君のご先祖様を」
「ブラック家の人間など全員後先考えない癇癪持ちばかりだからな。?どうした」
「いま、ちょっと目が覚めた気がした」
「?それは何より。ケーキも必要だな。あの人形を入れるやつを焼こうか?」
「君と私で確率二分の一だね」
「ハリーを呼べばいい。ロンとハーマイオニーも」
「本格的だな。飾り付けもしないと」
「益体もない焼き菓子をいっぱい作って部屋中に浮かべよう。ピアノも調達して俺が弾く。曲に合わせて飾り付けや菓子が踊るんだ」
「薬物中毒者の幻覚みたいになってきたな」
「何?」
「ええと、楽しそうだ」
「一日中オーブンが大活躍だ。パンやローストビーフやパイやクッキーや……」
「さっきから食べ物の話が多いけど、もしかしてお腹が空いている?」
「目が回るほど」
「……そうだね、君はこんなに暖かいし、よく喋るし、色々忙しく考えるし、私より早くお腹が空くよね。可哀相に」
「そんな悲しそうな目で見るな」
「君がひもじい思いをしているのが何よりつらいよ」
「平気さ。大人なんだから。リーマス、プレゼントを贈りたい。何がいい?」
「え?いや、いいよ別に」
「空想の話だぞ。もっと盛り上がれ」
「……うーん。そうだねえ……ドアの下に置く風よけのクッションとか?黒い犬の形の」
「そういう生活必需品じゃなくて……いや、それ本当に欲しいのか?」
「欲しいよ?だって最近風がまともに吹き込んでくるじゃないか。君だって文句を言っていただろう」
「分かった。帰ったら作ってやる」
「手作り!」
「仕方ないだろう、買い物には行けないんだから。着古した服の布地で何とかなるだろう」
「そう言えば君はああいうものを型紙に起こしたりするのが得意だからね。もちろん縫製なんかの手作業も」
「でもそういう必要な物ではなくて、もっと意味のないもので欲しい物はないのか?洒落ていて、綺麗だったり良い匂いだったりする物だ。アンティークのナットクラッカーや、インク瓶、画集やら葉巻やら」
「……特に思い付かないな」
「本当に?」
「うん。やっぱり欲しい物はないよ。私は君がこんな風に元気でいて、馬鹿な話をべらべら喋ってくれるだけでいい。他には何もいらない」
「馬鹿とは何だ」
「そうやって照れて口を尖らせる顔を見ているだけでいい」
「・・・・・・」
「何か話してくれないと、眠ってしまう」
「……不思議なんだが」
「うん」
「こんな寒いところで腹が減っていて、しかも男同士で2人っきりというまさしくワーストな状況なんだが」
「うん」
「どうしてだろう。俺はいま不幸な気持ちではない」
「・・・・・・」
「それどころか、もう誰も俺を不幸にする事は出来ないと思った。俺は頭がおかしいか?リーマス」
「おかしくないと思うよ」
「幸せだと言っているんだぞ」
「分かっている」
「じゃあ」
「シリウス、私はね。嫌なことはどんどん忘れてしまうようにして生きてきたんだけど、今日君と話したことはきっと忘れないと思う。時々懐かしく思い出すだろう」
「・・・・・・」
「シリウス、黙ると寝るよ?」
「・・・・・・」
「シリウス、泣いているのかい?」
「まさか!そんな訳があるか」
「うん、そうだよね」
「……なあリーマス、矢張り今日はクリスマスだよ」
「君が言うからにはそうなんだろう」
「運良く出られたら、きっとクリスマスをやり直そう」
「そうしよう。ハリーやロンやハーマイオニーも呼んで」
「益体もない焼き菓子を焼いて」
「ピアノは君?」
「そうだ。ピアノは俺だ」
「楽しそうだ」


「メリークリスマス、リーマス」
「うん。メリークリスマス」








世界中の善男善女が、大切な人と一緒に仲良く
暖かい場所で、美味しいものを食べて
楽しい時間を過ごせますように。