「なぁ・・・この生き物なんだと思う?」
「ん〜・・・カバ、じゃないかな?」
「どちらかというと、カメの方が近いような・・・」
「でも、甲羅はありませんね」
「でもどっちも、こんなに顔が潰れてるかな・・・?」

純一達はソレを取り囲んで思い悩む。
先へ進んでろと言って祐漸がどこからともなく連れてきた奇妙な生き物は、何とも言い難い姿をしていた。人が四、五人は余裕で乗れそうな大きさで、背中が広く、足は短い。が、そのわりに移動速度は遅くなく、むしろのんびり歩いているとあっという間に置いて行かれる。
体だけでなく顔も随分と潰れており、目は開いているのか閉じているのかはっきりしない。

「あ! 顔はナマズっぽいかも」
「しかしナマズに足はないぞ?」

実際にこれを連れてきた祐漸と、連也以外の五人は興味津々だったが、いくら考えても答えは出そうになかった。
とにかく、はじめて見る謎の生物なのだ。

「そんなのでも竜の一種だ。歩き旅ではことりとネリネがこの先辛いからな、ひとっ走りエリスのところまで行って適当なのを借りてきた」

竜、と聞いて皆目を見開く。
この愛嬌があるのかないのかもよくわからない奇妙な顔と体を持った生物が竜。
どうやら、竜という生き物に対する印象を改めなくてはならない、と皆思うのだった。













 

真★デモンバスターズ!



第10話 黒き異形のモノ















乗り物として祐漸が連れてきた謎の生物、もとい、竜は見た目に反して高性能だった。
どんな険しい道のりでも力強くすいすいと進み、河を渡り、谷を跳び越え、それでいて乗り心地は意外と快適である。背中に乗ってみると、ほとんど揺れを感じないのである。少し表皮は硬いが、そこはマットを敷いて補う。肩から背中にかけていくつか突起があり、それに捕まれば振り落とされる心配も少なかった。
さやかが異空間に物を収納する魔法を使えるので純一達には関係ないが、荷物が多くあったりした場合、それを運ばせるのでも重宝しそうだった。
とにかく、非常に便利な旅の仲間が加わることになった。なったのだが――。

「・・・・・・納得いかねー・・・」

女性陣によってムーと名付けられた竜には、ことり、楓、さやか、ネリネの四人が乗っており、男衆は皆依然として歩きである。祐漸は例によって先頭を突き進み、連也は最後尾からついてくる。そして純一は、ムーと同じ眠そうな顔をしてその隣に並んで歩いていた。
納得がいかないのは、何故女達ばかりが楽な乗り物旅をしていて自分はいまだ歩いているのか、ということだった。

「かったりぃ・・・」

旅そのものは、純一も楽しい。それは間違いない。そのためならばいくら歩いても別に構わないと思っていた。
しかし現実に、目の前に楽な移動手段が存在する。しかも実際試してみたらこれが驚くほど快適だった。そんな甘美な体験を一度してしまうと、途端に歩き旅がかったるいものに思えてくる。
別にムーは、七人全員が乗っても平気そうな顔をしているし、実際河越えや谷越えの時には全員を乗せている。
ならば普段から自分も乗っていても良いではないかと主張する純一に対して――。

『おまえは普段から怠け癖があるから移動くらい自分の足でしろ』

と祐漸。

『足腰の鍛錬は武芸の基礎だ』

と連也。

『男の子でしょ』

とさやかにそれぞれ言われて却下された。
ネリネは済まなそうな顔をしており、楓などは一度「代わりましょうか」と申し出たものの「女の子を歩かせておいて自分が楽をするのは男の子としてどうかと思う」とことりに窘められて結局歩く羽目になっている。
ムーの上で揺られる女性陣は楽しげに談笑しており、その快適さが実に恨めしい。

「おい、祐漸。何でこんなかったりぃ思いするもの連れてきたんだよ・・・?」
「効率的だからだ。それに、女には優しくしておくもんだぜ」
「よく言うわ、この似非フェミニストが・・・」

祐漸という男は女好きだ。しかし決して女に甘いわけではない。男にも女にも等しく強さを求めるこの男は、常に誰に対しても厳しい態度で接する。それでいて、女を立てるところではきっちりそうするのだ。
連也は先の一言以外この件に関しては何も言わない。元々他人に興味があるのかないのかわからない男である、いつものことであった。
そして女達は、最初こそ気まずそうにしていた楓とネリネも含めて今ではすっかり快適な旅に身を委ねている。

「かったりぃ・・・」
「ほら朝倉君! そんなことばっかり言ってないで」
「そうだよ〜。かったるい、って言うたびに幸せが逃げてくって言うでしょ?」
「それを言うならため息ですけど、純一君の場合は同じかもしれないですね」
「朝倉様、そういう時は何か楽しいことを考えるといいですよ? そうだ、歌を歌うというのはどうでしょう?」

ことりが声をかけたのをきっかけに、乗り物の上の少女達が純一を励ます。が、決して代わろうとする者はいなかった。

「あー、歌は聴く分にはいいが自分で歌うのはな・・・・・・それにだな、目の前のあれを見てどうしてかったるくない気持ちになれる?」
「「「「・・・・・・・・・」」」」

純一の言葉を受けて、彼女達は揃って苦笑いを浮かべて前方を見る。それを見れば、皆にも純一の心境がわかろうというものだった。
彼らの進む先には、切り立った険しい山々が立ちはだかっていた。
鎖国同然の状態になっているソレニア領へは、街道などを使って正面から入るのはほぼ不可能だった。ましてや多くのソレニアが毛嫌いしているというヴォルクスである祐漸とネリネがいたのでは、よくて捕らえられ、悪ければその場で殺されそうになる可能性すらあった。
ゆえに国境を越えるためには裏道を通るしかないわけだが、その中で最も険しく、最も発見される可能性の低い道を祐漸は選んだ。それがここ、ローグ山脈である。
最大で五千メートル級の山々が立ち並ぶこの地の、実際に通るのは二千から三千メートルほどの地点ではあるが、それでもまともに通る人間は滅多にいない場所だった。道など当然ほとんど存在せず、ごつごつした岩場や、激しい傾斜が続き、気圧は低く気温も低く、天候も変わりやすく多くの危険を伴う。
そんな場所をこれから通ろうとというのに、どうしてかったるくないなどと言えるのか。

「ムーよ、おまえはあの険しい山々も余裕で越えるのか?」
「・・・・・・・・・」
「そうか、なら俺も乗せてくれよ」
「・・・・・・・・・」
「固いこと言うなって〜。ほれ、和菓子やるから」

ポンッと音を立てて純一の手の中に草餅が現れる。それを鼻先に差し出すと、ムーはしばらく匂いを嗅いでから、大きな口を開いて純一の手ごとそれをくわえた。
草食だというこの竜には牙がなく、もふもふと口を動かされるとくすぐったい感触がした。
喉を鳴らして草餅を飲み込むと、ムーは純一の手から口を離した。

「どうだ、美味いだろ? だから乗せてくれ」
「・・・・・・・・・」
「んだとぉ・・・ケッ、この女好きが。ああ、そう言えばよく見れば祐漸のバカによく似た顔してやがるな。やい、バーカ、バーカ」
「・・・・・・・・・」
「む、すまんすまん、冗談だ。あんなのと一緒にされたら嫌だよなぁ。ほれ、和菓子やるから機嫌直せ」

再び出した和菓子を差し出す純一。ムーの上からそれを見ている女達はそれぞれ驚いたり呆れたりしていた。

「純一君、ムーちゃんとお話ができたんですか?」
「す、すごいですね・・・」
「いや、それはたぶんないと思うから・・・」
「とうとう壊れちゃったかな?」

結局乗せてもらえない純一は、和菓子を生み出したことで空腹になった腹をさする。
純一の和菓子を生み出す能力は、魔力とともに体内のカロリーを消費する。ゆえに自分で出して自分で食べても腹は膨れず、人に食べさせればその自分が空腹になるという、何とも中途半端なものだった。夢を見せられるものと同様、特殊なのだが大した役にも立たない能力である。
これから険しい山越えに挑むというのに、純一は空腹でさらに辛くなった。

「たわけが」

先を進む祐漸が、お決まりの台詞を発していた。







最初にそれに気付いたのは、連也だった。

「・・・・・・祐漸」

低いがよく通る声に呼ばれて、先頭を行く祐漸が足を止める。だが振り返ることはせず、代わりに左右に視線を走らせる。
何かあったのかと思い、純一もムーを制して足を止めた。

「どうしたー?」
「・・・・・・・・・何だ・・・?」
「いや、それは俺が聞いてるんだが」

祐漸にしては少し珍しく、どこか困惑したような声だった。
後ろでは、連也が刀の鯉口を切る。その音を聞いて、他の五人にも緊張が走る。

「敵?」
「いや、わからん。妙な気配だ」

問いかけるさやかに答える祐漸にも、その正体はわかっていないようだ。相手の正体が知れないため、最大限に警戒しているように見えた。
ことりだけを残し、他の三人はムーを降りて周囲の気配を探る。
同じように純一も辺りを見渡すが、気配らしいものは何も感じなかった。
何もない、そう純一には思えたが、祐漸と連也の勘はいくつもの修羅場で死線を潜り抜けてきた者だけが持つ、予知にも近い直感力である。この二人が揃って何かあると感じたからには、ほぼ間違いなく何か異変が起こっている。

「確かに・・・何だろう、これ?」

二人に続いて、さやかもそれに気付いたようだ。けれどやはり、その正体がはっきりせずに訝しがっている。
いまだに純一には何も感じられない。だが急に、純一の剣が小刻みに震えだした。

「な、何だ?」

まるで何かを警告しているような、そんな感じに鍔元についている宝玉も点滅していた。この剣を祖母から譲り受けて数年になるが、こんなことははじめてだった。
一体何なのかと思っていると、ムーの上のことりが両手で体を抱えるようにして震えているのが見えた。

「ことり、大丈夫か?」
「う、うん・・・何かちょっと寒気がして・・・」
「寒気?」

そういえばと思って自分の腕を見下ろすと、今まで気付かなかったが薄く鳥肌が立っていた。
理性ではなく、まるで本能が今の状況を恐れている、そんなイメージが頭の中に浮かんできた。そう思うと急激に、辺りの空気がおかしいのに気付いた。言葉で表現しようのない空気が漂っているのが匂いでわかった。だが、悪臭というわけでもない。気温も、暑いのか寒いのか判断しにくい。だが、重い。
刺すような感じと、圧迫するような感じとが共に感じられた。
まさに、異様な空気、と呼ぶのに相応しい。

「来るぞ。気を張れ」

祐漸がそう言うと、それは唐突に現れた。
進む先の岩陰から、横に拡がる谷底から、切り立った絶壁の上から、登って来た山の裾の方から。
黒い異形のモノ達が、四方から襲い掛かってきた。

ドドドドドドッ!

正面から飛び掛ってきたモノを、祐漸の放った氷柱が貫く。体に穴を空けられ、頭部を吹き飛ばされたモノは、霧のように散じていく。

ザシュッ!

背後から迫ってきたモノは、連也が抜き打ちに斬って捨てる。
崖の上から落下してくるモノをさやかの火炎が焼き払い、谷から上がってくるモノをネリネの光球が吹き飛ばす。
だが異形のモノは数限りなく沸いてくるようで、四方を守る四人でも防ぎきれず、抜けてきたモノが一番弱い獲物と認識したかことりに襲い掛かる。

「何だよっ、こいつらは!?」

剣を抜いて、純一は飛び掛ってくるモノを斬り払う。
ことりを乗せたムーは見た目の鈍重さに似合わず素早い動きで襲い来るモノの攻撃をかわし、足で踏み潰し、尾で薙ぎ倒して己の身と上に乗せたことりを守る。

「お、やるなムー。ことりを振り落とすんじゃないぞ!」

自分が踏まれないように注意しながら、純一はムーの傍で群がってくる敵を斬り捨てていく。
異形のモノは数こそ多いが、戦闘能力は一般人にとっては脅威だろうが純一達から見ればそれほど高くないようだった。
ただ数は本当に限りがなく、五人がかりでもとりあえず防ぐのがやっとだった。

「ん? 五人?」

おかしい、と純一は思った。人数が合わない。
自分がいて、前方には祐漸、後方には連也、左方にさやか、右方にネリネがそれぞれいて戦っている。足りないのは――。

「楓!?」

姿を捜すと、最初にムーを降りた場所から動かず、青い顔をして佇む楓がすぐに見付かった。
体も小刻みに震えているが、怯えているのとは違って見える。何かに当惑するように、目を見開いて襲い来るモノの姿を凝視していた。その表情には色がなく、純一はそれに見覚えがあった。
はじめて会った時の楓が、ちょうどそんな顔をしていた。一切の感情を、どこかに置き忘れてきてしまったような――。

「ぼさっとするな!!」
「っ!!」

祐漸の叱咤を受けて、その顔に表情が戻る。
我に返った楓の目前に、異形のモノが迫る。

ズバッ!

楓は双剣を抜き放ち、その体を両断した。

「気を張れと言ったはずだ!」
「す、すみませんっ!」

苛立った声を上げながら、祐漸は押し寄せてくる敵に向かって氷柱を撃ち続ける。
尚も当惑はしていたが、楓は首を左右に振ってそれを振り払い、戦闘に参加する。
中央にムーを置いて円陣に構えた六人は、次々に襲ってくるモノを端から撃退していく。切りがないように思えたが、少しずつ数は減っているようだった。だがそう思っていると、またさらに押し寄せてくる。

「いかんな、止めきれん」

押し寄せる敵の数に、連也が両手で持っていた刀を右手のみに持ち帰ると、脇差を抜いて二刀を構える。

「おまえ、二刀流もいけたのか?」
「拙者の技は得物を選ばぬ。複数の敵と対するには手数の多いこちらの方が有効だ」

左右の刀を巧みに振るう連也の技は、二刀を得意とする楓の動きに勝るとも劣らなかった。右の大振りで異形を二体まとめて斬ると、脇を抜けようとしたモノの首を左の刀で刎ねる。

ドォーンッ!

魔法使いの二人は、近距離の敵を他の四人に任せ、異形が群れている場所に向かって攻撃を放っていた。
ネリネが戦うところははじめて見たが、九王並という魔力はさすがで、一撃の威力はさやかのものを上回っていた。

「やるねー、リンちゃん!」
「さやかさんこそ、見事な腕前ですっ」

威力を勝負するネリネに対し、さやかは速度と手数の多さで攻撃していた。フレアビットを使った攻撃魔法の連射は、迫り来る敵を次々に薙ぎ倒していく。
他の面々に比べて派手さはないが、純一も向かってくる敵を一体一体確実に仕留めていった。
純一の剣、桜華仙は震えこそ収まったが、いまだに宝玉は点滅を続けている。異形のモノが現れてからはさらにそれが強くなっている。目の前の敵の危険性を訴えるように。

(何だ? 何を伝えようとしてる、桜華仙?)

問いかけてみても、剣が何かを答えることはなかった。

「チッ、面倒だ。まとめて行く!」

声を上げると同時に、祐漸が右手の拳に魔力を集め、高める。

「さやか! ネリネ! 防御結界!!」
「りょ〜かいっ!」
「はいっ!」

頭上に向かって祐漸が拳を突き上げると、白い魔力球が上空へ向かって撃ち出された。と同時に、さやかとネリネの二人による結界が全員を包み込む。
結界に阻まれた異形は、それでも構わず突進を繰り返す。
すぐに周囲は異形の大群に囲まれた。
その遥か頭上で、閃光が走った。

「氷魔散弾雨ッ!」

叫び声と共に祐漸が突き上げた拳を振り下ろす。
閃光を放つ上空の魔力球から、無数の氷柱が地上に降り注いだ。


ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!


豪雨のように降り注ぐ氷柱は、結界に守られた純一達の頭上には落ちてこなかった。だが結界の外に群れる異形は、尽くその氷柱に全身を蜂の巣にされて霧散していった。
数秒間振り続けた氷柱によって結界の周りの景色は豹変していく。そしてそこを埋め尽くしていた異形は、全て断末魔の悲鳴を上げて消滅した。
後には氷世界だけが残り、異形のモノは影も形もなく、まるで幻だったように思えた。
しかし幻でなく現実だったことは、体に残る疲労感が物語っていた。

「ふぅ・・・・・・片付いた、か・・・?」
「・・・そのようだな」

異形の姿はもう見えない。辺りを覆っていた異様な空気も、正常に戻っていた。桜華仙の宝玉の点滅も、収まっている。

「何だったんだ・・・今のは?」

結局、今のモノが何だったのかはわからなかった。死骸すら残っていないので、調べることもできない。
姿形は、狼と豹を足して割ったような感じだった。全身が深い闇のような暗い黒色、表面はまるで霧のようで感触がはっきりしなかった。斬った時の手応えはあったが、何を斬っているのか、似たようなものがまるでなかった。そして姿が見えない時はまるで感じなかったというのに、爛々と輝く真紅の眼には強い殺気が宿っていた。

「あんなもの、今まで見たことも聞いたこともないぞ・・・」

言ってみて、純一ははたと思い出した。
異形が襲ってきた時、楓の様子がおかしかった。あのモノ達を見た時に、明らかに普通ではない反応をしていた。ひょっとしたら、楓はあれについて何かを知っているのではないか。
そう思ったのは純一だけではないようで、祐漸が楓のことを見据えていた。

「楓、さっきは何を呆けていた?」
「え? いえ・・・その・・・・・・」

冷たい声に問われて、楓の表情が暗く沈み込む。

「戦場で気を抜いた奴は死ぬ。そんな奴は俺の仲間にはいらんと言ったはずだ」
「・・・すみません」

祐漸の声は怒っているわけではなく、ただ事実を告げているものだった。しかしそれだからこそ、きっぱりとした祐漸の意志がこもっており、楓を責め立てる。

「それで、何を知っている?」
「・・・・・・いえ、何も・・・」
「そうか」

それ以上追求することはせず、祐漸は楓から目を放す。他の皆も楓の様子から何かを知っているだろうということは気付いているようだったが、誰もそのことを尋ねようとはしない。
今の楓の表情は、いつも楓が稟を想って沈む時の表情と同じだった。

(何か土見稟絡みで関係あるってところか。けど何も言わないってのは、楓自身にもよくわかっていないから、か?)

考えても、楓が語らない限り何もわかりそうになかった。

「全員無事か?」

問われた皆はそれぞれに自分の状態を確認して無事を伝える。大きな怪我をした者はおらず、せいぜい掠り傷程度だった。

「ならとりあえず移動するぞ。ここじゃ落ち着いて休憩もできん」







しばらく山道を進むと、山脈の間にある窪地に村があるのが見えた。
こんな環境の厳しそうな場所にも人を住んでるものなのか、と感心しながら、純一達は休憩のために立ち寄らせてもらうことにした。
村に入るとこれまた驚きで、そこはソレニアとヒュームが共同で暮らす集落だった。村人達は種族間の偏見もないようで、大歓迎とまではいかないが快く迎え入れてくれた。

「ここは元々神王家を追われた者達が作った村でして。その後もソレニアやヒュームで国にいられなくなった者がやってくるような場所なので、過去に曰く付きの者も多くおります」

とは案内をしてくれた村人の言葉だった。またソレニアを抜け出ようとする者が時々この山脈を通るらしく、そうした者が泊まるための宿も用意されており、純一達が案内されたのはそこの部屋だった。
ただで泊めてもらうのは悪い、ということでさやかが手持ちの品で使えそうな物をいくつか差し出すことにした。そうすると本当に色々なものが出てきて、一体さやかの異空間収納庫はどうなっているのかという疑問が沸いて出た。

「白河の家を出る時に色々かっぱらってきたから」
「盗品かよっ!」
「自分ちの物だよ♪」

差し出した物を、村人は笑顔で受け取ってくれた。

「では、狭い場所でございますが」
「雨風が凌げれば構わんさ。それより、聞きたいことがある」
「はい、何でしょう?」

祐漸は村人に、例の黒い異形のことを尋ねてみた。すると村人は顔を曇らせた。

「あなた方も襲われましたか・・・」
「よく出るのか?」
「ここ一年ほどのことです。村まで降りてくることはないのですが、山の奥へ入っていった者が頻繁に襲われております」
「大群でか?」
「いいえ、せいぜい数匹です。それでも、大の男でも一匹退治するのにも一苦労でして、近頃はうかうかと山へも入れません。それと・・・」
「それと?」
「あそこに見えます・・・あの山です」

村人は窓の外を指差す。その方向を見ると、少し先に村人の指し示す岩山があった。

「あれはあの山から来るようで、あの山の近くで大群を見たという者もおります」
「ふむ・・・」

顎に手をやって祐漸が考え込む。おかしな感じは純一もしていた。
純一達がやってきた方角はその山とはこの村を挟んで反対側だった。そこで例の異形の大群に襲われたのだ。けれど、この村や、村の近くにはせいぜい数匹しか出ないという。
どういうことなのか悩んでいると、祐漸が別の質問をした。

「襲われているのはソレニアとヒューム、どっちの方が多い?」
「はい? はて・・・確か・・・・・・ああ、言われてみれば、ソレニアの者の方が多く襲われておりますな」
「そうか・・・。すまんな、手間を取らせた」
「いえいえ、それでは、ごゆっくりなさっていってください」

村人は一礼をして部屋を出て行った。

「祐漸、最後の質問は?」
「・・・あくまで仮説だが、奴らは魔力に反応するのかもしれん」

言って祐漸は皆の顔を見渡す。
この中でも特に祐漸、純一、さやか、ネリネの四人は高い魔力を持っている。祐漸とネリネの魔力は破格と言って良い。
確かに魔力に反応するのだとしたら、ヒュームよりもソレニアが、普通の村人よりも彼らの方が大群に襲われたことの説明がつく。

「しかし結局正体はわからずじまいか・・・」
「行って調べてみるか? あの山に」

連也が窓の先に見える山に目を向ける。向かう方向からは少しはずれているが、通り道にできないこともなく、距離もそう遠くなかった。

「寄り道になるが、また道中で襲われても面倒だしな。無駄にはならんか」
「決まりか。じゃあ、明日か」
「ああ、明朝村を発ってあの山に行くぞ。今夜はしっかり休んでおけよ。特に朝起きないそこの・・・」
「わぁーってるって、かったりぃな。言われなくてもここまでの道のりやさっきの戦いで疲れてるからさっさと寝るよ。ふわぁ〜・・・」
「それと、さやか。念のため結界を張っておけ。魔力を遮断するタイプのやつをな」
「ほ〜い」

もし祐漸の仮説が正しければ、ここにあれが襲ってきて村に迷惑がかかる可能性がある。そのための用心だった。
その後、質素だが夕食を村人からご馳走され、お風呂まで借りたところで夜は早く床に就いた。







夜明け近く、男三人の部屋で寝ていた純一は、隣の部屋から誰か出て行く気配を感じたが、特に気にすることはなかった。



それからしばらくして――。

バンッ!

部屋のドアがすごい勢いで開いた。

「祐君っ! 連ちゃんっ!」

さやかの声がした。祐漸と連也はドアが開いた時点ですぐに起きたようだ。純一はまだ半覚醒状態でその声を聞いていた。働きの鈍い頭で何事かと思いながら、おそらくさやかが自分の名前を呼ばないのは最初から期待していないからだろうと考え、再びまどろみの中へと舞い戻ろうとする。

「何の騒ぎだ?」
「カエちゃんの気配っ、感じる!?」
「!!」

二人が立ち上がるのが感じられた。
純一はまだ鈍い頭で、さやかの質問の意味を考える。
気配を感じるか、といういうことはつまり楓がいないということだろう。なるほど、先ほど部屋を出て行ったのは楓だったか、と納得がいったが、それは経験上珍しいことではなかった。たまに夜、楓は一人寝床を離れて泣きに行く。朝には必ず戻って来るので気にすることでもないはずだった。
では、何故さやかの声はこんなに慌てているように聞こえるのか。

「チッ、油断した。あのたわけが、やっぱり何か知ってやがったか!」

祐漸の舌打ちが聞こえる。何故祐漸までもこんなに声を荒げているのか。
さらにバタバタと室内に駆け込んでくる足音がした。
安眠妨害だ、とそれを煩わしく思う一方、何かが頭の中で警告音を上げている。何か、大事なことを忘れていないか。

「だめっ、やっぱりどこにもいない!」
「こっちもです・・・」
「だよね・・・全然近場に気配感じないもん・・・」

楓がいない。それは非常によくない。そこまでわかるのに眠気がその理由を閉ざして見せずにいる。

「とりあえずことり、そこのたわけを起こせ」
「はいっ」

誰かが駆け寄ってくる。ことりだと、匂いでわかった。

「朝倉君! 起きてっ!!」

体が揺すられるが、その程度で覚めるほど純一の眠気は甘くはない。だというのに、寝惚けた頭は仕様もないことを口走らせる。

「んむぅ・・・起こすのは目覚めのキスで・・・」

その途端、唇が柔らかいものに覆われた。
一瞬で目を覚ますと、すぐ目の前に顔を真っ赤にしたことりの顔があった。

「大変なのっ、朝倉君!」
「お、おう・・・何があった?」
「楓さんがいないのっ!」
「ああ・・・そうらしいな・・・・・・それが・・・・・・・・・」

ズンと、心に重石を入れられたような感覚がした。はっきりと覚醒した頭に、楓の行動が意味する事柄が浮かんでくる。

「まさかっ!?」
「きゃっ!!」
「った!?」

急に体を起こした純一は、目の前にいたことりと互いに額をぶつけ合ってしまった。二人して痛む額を押さえて唸る、

「いたたたた・・・」
「ってぇ・・・すまん、ことり・・・」

頭を振ると、痛みで飛びかけた焦燥の理由が改めて浮かぶ。

「そうだっ、楓! いないのか?」
「ああ、気配を感じる範囲のどこにもいない。いつものやつならここまで遠くへは行かないはずだ」
「ということは、やっぱり・・・」
「間違いない。一人で、あの山に行きやがった」

鋭い視線を祐漸が向ける先には、例の異形が巣食っているという岩山があった。














次回予告&あとがきらしきもの
 ソレニア編に入る前に一山、謎の敵出現である。 この敵の見た目のイメージは、FF7アドベントチルドレンに出てきた奴を思い浮かべてもらえれば良い。見てない人は・・・まぁ、適当に説明書きの通りに想像してみてもらいたい。ダ・カーポ城以来のバトルシーンとなったわけだけれど、それぞれが活躍しつつも今回は祐漸の大技が炸裂。次回からもしばらくバトルが続き、いよいよ彼らの本気モードも見られるであろう。
 ちなみに乗り物として登場のムー、最初はただの馬でもと思ったのだけれど、それだとつまらないのでこんな妙なものに。でも見た目に反して高性能、何せ変なのでも竜なので。ちなみに本編内では書き切れなかったけれど、きっとこれを借りてくる際に祐漸とエリスの間で一悶着あったものと思われる。

「竜を一頭貸せですって? あんた、こっちの手伝いはしないくせに何様のつもり?」
「これから山越えとかもあるんでな。女の足だときつい」
「余ってる竜なんていないわよ」
「適当なのなら召喚できるだろ?」
「ったく、仕方ないわね・・・。じゃあ戦じゃ役に立たない奴を呼んでやるからとっとと失せなさい」
「悪いな。いずれ借りは返す」
「その台詞は聞き飽きたわっ。だいたいさっきは袂を分かつくらいのつもりで背中を向け合ったのに何でアタシ達こんな風に普通に面と向かってるのよ!?」
「ああ、確かにさっきは颯爽と別れたよな、お互い。そりゃ顔合わせるのは気まずいかもしれん」
「ぜんっぜん気まずくしてないじゃないのよっ、あんたは!!」
「いやいや、こう見えても結構ばつが悪いんだ。だから早く貸すもの貸してくれ。すぐに行くから」
「〜〜〜〜〜っ!! ほんっとに! あんたは! いつもいつもそうやって・・・アタシの気も知らないで!!」
「何を怒ってる?」
「知るか!」
「そんなに怒ってばかりだからチビのままなんだぞ」
「黙れ! バカッ!!」

 こんな感じ。改めてこうして書いてみると、やはり少し二人とも旧シリーズとは少し性格違うかの。二人の関係も、旧シリーズに比べると祐漸主導になっている。ちなみに話に出てきた召喚に関しては、特殊な契約を結んだ上で、呼ばれる側が予め召喚用に用意された場所にいる状態で術を使うことで呼び出すことができる 、というものである。ムーの場合は、竜を育てる牧場の一角にそうした場所があって飼われていた。しかし自分で描いておいてなんだが、エリスは何であんなのを召喚用に飼っていたのだろう・・・?(笑
 さて、微笑ましい番外シーンを挿入したけれど、本編はシリアスな引きで次へ続く。
 能力紹介五人目――。

白河 さやか
   筋力 D   耐久 C   敏捷 C   魔力 B+   幸運 A   武具 ??
 全体的に幸薄いパーティーの中ではラッキーガール。魔力自体は高くないが、多彩な種類の魔法でそれを補う。武具の類はいまだ何も見せないが、異空間に様々な物を隠し持っているだけに、或いは何か・・・?

 次回は、一人で山へ入った楓とそれを追う純一達。異形のモノが再び彼らに襲い掛かる。