朝倉純一。
この男は非常に中途半端な存在だった。
口癖は「かったるい」、ぐーたらで面倒くさがり屋で、生きるのに必要と思う以上のことをしようとしせず、例えば１００点満点のテストで６０点が合格ラインだったとすれば、満点を目指すこともしないが追試や補習を受けるのもかえって面倒と思い、６５点くらいを取って済ませようとする、そういうタイプの人間である。
無気力、というわけではない。彼は別に生きることに絶望しているわけでも、彼を取り巻く日常をつまらないと感じているわけでもない。 むしろ人並み以上に充実した日々を送っていると思っており、それを楽しんでもいる。よく言えば、分相応の幸福に満足しており、それ以上を求めない無欲な人間、と言えないこともないが、実際にはただ単にものぐさなのだけだった。
武芸の腕前は並外れているが、極めつくしたと呼べるものではない。
魔法もヒュームとしては多く使う方だが、それとてその道では偉大なる人として知られる彼の祖母には遠く及ばず、その人物の力を受け継いだ従姉妹の少女にも大きく劣っている。
決して凡才ではない、が、天才と呼べるほど秀でているわけでもない。それがこの男の特徴であった。
真★デモンバスターズ！
第２話 ある二人の出会い
そんな半端者・オブ・ジ・イヤーな男と、あらゆる面で秀で天才と呼ばれたヴォルクスの男とが出会ったのは、今からおよそ一年と少し前、開戦直前の頃であった。
純一は思う。
朝！
これほど憎らしくも素晴らしい時間が他にあろうかと。
平日ならば特に登校するために起きなければならない。これは非常に、彼風に言わせればかったるい。何故学生は学校へ行かなければならないのか、とそれだけで丸一日かけて演説をしたくなるところだが、それはまたの機会にすることにした。というかそれはそれでかったるいので実現する日は 永久に来ないであろう。
さりとて、起きかけの半覚醒状態にある朝は最も眠りを感じられる時間帯でもある。
半分意識があるからこそ、今自分は寝ている、という事実を認識することができるのだ。これは素晴らしいことだ、と純一は思うわけなのだ。
「というわけで、おやすみなさい・・・」
即ち、二度寝こそ人類最大の至福の時。
体を半分起こした純一は、喧しい目覚ましを窓の外へ放り捨て、再び布団の中へと潜り込んだ。“何故か窓が開いていた”、という事実に対する疑問は、寝惚けた頭に浮かぶことはなかった。
少しすると、窓枠に手がかかり、それを登って白い猫・・・らしきものが現れる。
うにゃ〜、と一応猫らしい声でそれが鳴くと、続けて手の主が頭を出す。
「あいたたた・・・・・・ひどいです、純一さん」
「いや〜、窓から目覚ましを投げ捨てるお兄ちゃんもお兄ちゃんだけど、それが見事に頭に直撃するアイシアもアイシアだよね・・・」
「だいたいどうしてここまで起き上がっておいて目覚めませんの、この人？」
「まぁ、お兄ちゃんだからね」
「・・・それで全て納得できてしまう人というのもすごいですね・・・」
窓から小柄な人影が２つ、純一の部屋へと進入してくる。
一人は長い金髪をツインテールにしている蒼い瞳の少女で、もう一人は肩まで届くくらいの銀髪に紅い瞳の少女だった。二人の少女に共通しているのは、共に普通の女の子が身につけるには少しそぐわない黒いマントを羽織っているという点である。
見た目上、非常に幼く見える少女達だが、こう見えて二人とも、耳元で話しながらまるで起きてくる気配のないぐーたら男と同い年だった。
「お〜いっ、お兄ちゃん、朝だぞ〜、おっきろ〜！」
「純一さん！ 起きてくださいっ、学校に遅刻しますよ」
窓枠からベッドの上に降りた二人は、両側から純一の体を揺さぶる。シングルベッドなのだが、三人乗っても充分な広さがあるのは、それだけ二人の少女が小柄だということだろう。
左右から体を揺さぶられる純一は、うんうん唸ってはいるが一向に起きる気配がない。
「む〜・・・起きません」
「だね〜。これはボク達じゃ無理かなぁ」
ここまで頑なに寝ようとしている純一を起こすのは容易ではない。おそらく、これを確実に起こせるのは世界広しと言えども、三人とはいまい。
内一人は、今はいない純一の妹、音夢。そして、もう一人がやってくる気配がした。
こんこんっ
少し控え目に部屋のドアがノックされる。
「どうぞ〜」
金髪の少女が応えると、スライド式のドアが開いて、長い髪の可憐な少女が入ってきた。
「どうして朝倉君の部屋をノックしたら芳乃さんが応えるんだろう？ アイシアさんまでいるし」
三人目の少女は苦笑しながらベッドの方へ歩いてくる。彼女も同い年なのだが、先にいた二人と比べると歳相応に発育している。というよりも二人の方の外見があまりに幼すぎるのだが。
「まぁまぁ、細かいことはｄｏｎ’ｔ ｍｉｎｄ♪ でもって、ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｎｇことりん♪」
「おはようございます、ことりさん。それより、純一さんが起きないんですけど」
「おはよう、芳乃さん、アイシアさん。起きないって、今日は手強いのかな？ 朝倉君」
「頑固だね」
「頑固です」
「じゃあ、仕方ないかな」
そう言うと三人目の少女は、書棚から分厚い本を適当に数冊取り出してからベッド脇へ行き、それを寝ている純一の上へ、迷うことなく落下させた。
ボフッ！
布団の上から正確に腹部を捉えた一撃は、鈍い音を響かせ、同時に純一の蛙が潰れたような悲鳴を響かせた。
「ぐべぇっ！」
痛烈なダメージを受けた純一は、さすがに眠り続けることができずに目を開いた。寝惚け眼で周囲を見回すと、自分のお腹の上に広辞苑をはじめとする分厚い本が数冊乗っており、三人の少女が自分を取り囲んでいた。
右隣で両手を後ろで組むようにして立っている白河ことり。足下の方でベッド淵から覗き込んでいるのがアイシア。左側にある窓枠に腰掛けているのが芳乃さくら。それぞれに――。
「おはよッス、朝倉君」
「おはようございます、純一さん」
「Ｇｏｏｄ ｍｏｒｎｉｎｇ！ お兄ちゃん♪」
と、朝の挨拶をしてきた。
「ことり、さくら、アイシア、おはよう・・・つーか、かったりぃ・・・」
三人の少女達、主にことりによって朝の至福の時間を奪われた純一は、仕方なしに登校して授業の大半を寝て過ごし、そしてあっという間に放課後になった。
「いやー・・・放課後まであっという間だったぜ」
「そりゃあ、あれだけ寝てればそうだろうね」
帰り道の桜並木を並んで歩いているのは、純一とことりである。たまに朝や夕方に純一の家に襲来するさくらとアイシアは、同い年ではあるが特殊な境遇にあるため学校には通っていない。普段何をしているのか、純一はある程度知ってはいるが基本的に世間には内緒であった。
ことりも、純一自身の特殊性までは知っているがあの二人に関してはほとんど知らないはずだった。ただ純一としては、普段は仲が良いはずの三人の互いを見る目がごくたまに険しいのがかったるかったりするのだが。
「しかしことりさんや・・・五冊はきついって、五冊は」
無論、今朝のことである。どうしても起きない純一を起こすには実力行使しかないのだが、やられる方は堪ったものではない。だったら素直に起きろ、という周りの言い分は即行で却下する。
「でも確か、音夢さんは十二冊までやったことがあるって聞いたから、まだまだいけるってことだよね」
「・・・・・・十三冊だ。というかあの時はマジ死ぬかと思った・・・」
「こう、重ねた本を綺麗にまとめて落とすって結構難しいんだよね。重いし」
広辞苑級の分厚い本を十三冊など男だとてそう易々と持てる量ではない。それをまとめて持った上に躊躇なく兄の上に落とす妹とは何とも恐ろしい存在だが、ことりはそれに迫ろうとしているらしい。できれば早めに諦めてもらいたいものだと純一は思う。
「どうせなら目覚めのキスとかにしようぜ。それなら一発で起きる上に気分爽快だ」
「そういうのは二人っきりの時に、ね」
口元に指を当てながらことりは顔を赤らめる。その仕草や表情は、なるほど学園一の美少女と呼ばれるアイドルなのも納得できるほどにかわいい。せっかくかわいいのだから、あの妹のように殺人的にはなってほしくないものだった。
世間的には、このかったるい道一直線のぐーたら男と、学園のアイドル白河ことりとが恋人同士という事実が世の不思議として扱われていたりする。
実は二人が付き合うようになった当初、純一を亡き者にしよう、などという物騒な集会が開かれたらしいのだが、とある噂によって自然鎮火した。その噂というのは、バーベナ学園のことである。
大陸と同じ名を冠したこの学園は、ヒュームの大国ネーブルと、ソレニア神王家、ヴォルクス魔王家の領土が交わる土地に設立された、三種族が平等に通う大陸唯一の学園であった。
この学園には、神王家魔王家の王女達を含む“花の四姉妹”との異名を持つ四人の美少女達がおり、それぞれに親衛隊を自称する非公認ファンクラブまで存在しているという。だがこの四人の美少女達は、揃って一人の男を想っており、親衛隊一同は日々その男を亡き者にしようと犯罪すれすれな・・・というか今まで死人が出ていないのが不思議なほど過激な騒動を起こしているらしく、その噂が反面教師となってこちらの学園の白河ことりファン達は自粛したとかしないとか。
いずれにせよ純一は、たまに血の涙を流している男達の嫉妬の眼差しを受ける程度の被害で済んでいた。それもさすがに付き合い始めて二年も経つと周りもその光景に慣れたようで、今では全学生公認の仲とされている。
どうであろうとかったるいことに変わりはないのだが、この状況が幸せだ、くらいに感じられる程度には純一も普通の男であった。
「そういえば、もうすぐだよね」
「ん？ 何が？」
「婚約式」
「なに？ いや、待て、ことり、さすがにまだ早いだろう。というか勝手にそんなことしたら音夢に殺され・・・」
「違う違う、私達じゃなくて」
少し顔を赤らめつつ、苦笑いを浮かべながらことりは顔の前で手を左右に振る。
はて、では何のことか、と純一が頭を悩ませていると、ことりが話を進める。
「ほら、神王家と魔王家の」
「・・・・・・・・・あー、そーいえばあったな、そんなの」
つい今し方考えていたことに直結した内容だった。例の“花の四姉妹”には、神王魔王それぞれの娘が含まれており、揃って一人のヒュームの男を想っている。つい数十年前までは互いに戦争状態だった三種族の、しかも王家の娘達が共に一人の男と結ばれようというのだから一大事である。これをもって、三種族平和の象徴にしようという動きも方々であるらしい。らしい、というのは純一が世情に疎いがゆえの言い方であり、実際にはもう大陸中で知らない者はいないほどの有名な話だった。
ただ純一は一つだけ、王女達の旦那になるというヒュームの少年にだけは少し興味があった。さらなる噂によると、その少年は“花の四姉妹”の残り二人のみならず、さらに数人の女性達と親しい間柄にあるらしい。それだけ女性達に囲まれていては苦労も多いだろうと思うのは、同じ幸せ組ゆえのことであり、世の多くの若き男子達にとっては敵なのであろう。その上両家の王女と結婚すれば敵はさらに増えるだろう。そんなかったるいことこの上ない状況へ挑もうという勇者は一体どんな男なのか、大半の物事に無関心な純一が関心のある数少ない事柄の一つであった。
「すごい式典が開かれるって言うし、見に行ってみたいね」
「人が多くて、行ってもどうせ当人達の顔も見れないだろ」
「それでも見てみたいな。朝倉君はどう思う？ 一人の男の子が何人もの子と結婚したりするのって」
「かったるいことこの上なさそうだ」
「あはは・・・朝倉君らしいね。私は、ちょっと気になるんスよ。その人達、どんな心境なのかな、って」
「ふーん・・・」
うーん、と唸りながらことりが考え込んでいる。あまりこの話は長く続けない方がよさそうだった。話が進むといずれ地雷を踏む。それは非常にかったるい。ここは何か別の話題を振るべきであろう。
「そーいえばことり、腹空かないか？」
「あ、うん、ちょっと空いたかも」
「じゃ、いつものクレープ屋にでも寄っていくか」
「賛成♪」
パッとことりの顔が明るくなる。
アイドルアイドルと持てはやされているが、こういうところはことりも普通の女の子だった。というか、付き合っていればすぐにわかるが、ことりはそんじょそこらの普通よりよっぽど“普通の女の子”と呼ぶに相応しい。気立ての良さなど少し出来すぎと言えないこともないが、喜怒哀楽がはっきりしていることや、少しお茶目なところなど、アイドルと呼ばれるほどお堅い部分はまったくない。
特にクレープを手にはしゃいでいる姿など普通すぎて、どこがアイドルなのかと聞きたくなるくらいだった。
「ま、アイドル・・・偶像なんてそういうものか」
「ん？ 何か言った、朝倉君？」
「いや、何も」
二人は通学路から少し外れて、桜が咲き乱れる公園にあるクレープ屋へと向かう。
この辺り一帯の桜は、不思議なことに一年を通して枯れることがない。“枯れない桜”と言えば有名な話である。何かの魔力が左様している、というのは確かなのだが、その実態に関してはまだ知られていない。だがこれに関しても、実は純一はある程度知っていた。しかも無関係とは言い難い。
だが、理由はさておき桜は綺麗なので、多くの人は既に純粋にそれを楽しむようになっていた。
「ねぇ、朝倉君」
「何だ、ことり？」
「ざくろ抹茶クリームってどう思う？」
「・・・コメントしづらいな・・・」
桜吹雪が舞う中、純一はことりと共にまったりとした日々を過ごす。たまにさくらとアイシアの襲来を受けてわいわい騒ぐ。それが朝倉純一の日常である。
それ以上もそれ以下も望まない、この日もそんな一日のはずだった。
だが、それが変わっていくきっかけとなったのが祐漸との邂逅だった。
その夜、突然襲撃してきて純一に倒されたヴォルクスこそが、祐漸だった。以来、どういうわけか行動を共にするようになって今に至る。終わり。
「終わり・・・じゃないわ、たわけぇっ！！」
ドカッ！
「――ってぇ・・・何しやがる！ この、てめぇ、かったりぃな！」
「何がかったるいだ。おまえな純一、肝心な部分を端折りすぎだろうが」
「人の回想につっこむなよな、祐漸。第一あんなこと思い出すなんて面倒じゃないか」
「実際ほとんど関係ないおまえの一日の描写がやたら細かかったくせに何をほざいてやがる」
「何を言うか。おまえが現れるまでの俺がいかに幸福であったかを語るにはぴったりな風景だったろうが」
「知るかそんなことは。とにかく、もっと事細かに思い出せ。そしておまえの勝利がどれほどまぐれって呼ばれるものだったかを再認識しろ」
「しつこく負け惜しみ言いやがって・・・仕方ねーな・・・・・・」
夜、純一は日課の鍛錬をしていた。
不思議なものでこの男、必要以上のことは面倒くさがって決してやろうとしないくせに必要なことのためには努力を惜しまないのである。 ことりと付き合うようになった時にも、さくらとアイシア絡みで色々あった時にも、並々ならぬ苦労があったのだが、純一は最大限の力を発揮してその局面を乗り切ってきた。
幼い頃から続けてきた鍛錬は、既に体に染み付いており、これを欠かすと逆に体が違和感を訴えるので、既に強要する者は周りに誰もいないのだがやめずに続けている。
手にしている剣は、亡き祖母の形見である。数年前に亡くなった祖母は、ただ二人の孫であり弟子である純一とさくらに、それぞれ強力な魔法具を形見として遺していた。偉大な魔法使いだった祖母の遺したものだけに、秘めた力は相当なものがあるのだろうが、今のところ純一はその力を引き出すことはできない。だがこれだけの逸品ともなると、欲する輩は多くいるようで、まれにこの剣を狙って襲ってくる者がいた。
かったるいことには違いないが既に慣れたもの、であったのだが、どうやらこの日は少しばかり勝手が違うようだった。
「いい剣だな、小僧。おまえでは宝の持ち腐れだろう」
そう言って姿を見せた時には、その男はもう傍らにいて、純一が持ったままの剣に手をかけていた。
「この剣寄越せ、小僧」
「断る」
男の言葉に対して、純一は反応する間もなく近付かれたことによる驚きを隠しつつ即答した。
冷静な思考は、この男を手に回すことの危険性を訴えていた。が、この剣を寄越せと言われて、はいそうですかと渡すわけにもいかない。かったるくても、これは譲れない一線だった。
「いい度胸だな。もう一度だけ言ってるやるからよく考えて答えろよ」
「断る」
二度目は言われる前に答えた。それ以上は語る言葉を持たないのか、男は剣から手を放した。
「そうか。なら勝負をしよう。俺が勝ったらその剣をもらう」
「それも断る」
「む・・・・・・おい、こっちはこれでも誠意ある妥協点を示してるつもりなんだがな？」
「あんたみたいなのと勝負するなんてかったるい」
相手の男は、ブラッディレッドの瞳に横に長い耳を持つヴォルクスである。しかも秘めた魔力が絶大なのは、すぐ近くに立っているだけでビリビリと感じられる。間違いなくこの男は、まともに戦うべき種類の相手ではない。
「俺と戦うのが嫌なら大人しく剣を寄越せ」
「断る」
「・・・・・・・・・ならどうする？ 力ずくで奪うとすれば結局戦いになるぞ」
「いや、他にも方法はある」
純一は剣を持ってない方の手を握った状態で男の前に差し出す。
パッと手を開くと、そこには桜餅が一つ乗っかっていた。見た目の色合いといい、香りといい、シンプルながらなかなかの出来栄えの和菓子である。
「ほう」
男は少し感心したような声を上げながら純一の掌に乗っている桜餅を見る。
「なかなかおもしろい、が、これでどうする？」
「これをやるから引き取ってくれ」
「・・・・・・・・・おまえ、アホだろ？」
「何を言う。最近では一番の出来だぞ」
「そういう問題じゃねぇ・・・・・・、もういい、わかった。話していても時間の無駄だ。力ずくで奪いにいくぞ」
「まぁ、とりあえず食え」
指をパキパキと鳴らす相手に向かって、純一は桜餅を放る。放物線を描いて飛ぶ和菓子を追って、男の視線が一瞬純一から外れる。
「んぐっ・・・・・・・・・ふむ、美味いな。だがこんなことでは誤魔化され・・・ん？」
男が視線を戻した時、そこに純一の姿はなかった。遥か数十メートル先を全速力で走っていた。
「・・・なるほど、正しい判断ではある。だが――」
和菓子を放って、相手の注意が一瞬そちらへ向いた隙に、純一は一目散に逃げ出した。ヴォルクスの実力者を相手に戦うなど、愚の骨頂である。とりあえず人気の多いところまで逃げ込めば迂闊に襲っては来られないはずなのだが・・・。
「げっ！」
「逃げ足には自信があったか？ だが俺も、狩りは得意な方でね」
あっさり回り込まれていた。
常日頃から鍛錬に利用しているこの桜公園は広さだけはやたらとあるのだ。夜になれば奥の方へやってくる人間はほとんどなく、他人に鍛錬している姿を見せないようにするには最適な場所だったが、今回はそれが裏目に出ていた。
先ほどの走りで大分公園の入り口には近付いたため、もう一走りといったところなのだが、二度も隙を見せてくれるような相手でもなさそうだった。
「面倒事が嫌なら、黙って剣を置いて去れ」
「わかった」
頷くと純一は、剣を置いてゆっくりと歩き出す。そのまま何食わぬ顔で男の横を素通りしようとしたのだが・・・。
「誰が剣を“頭の上に置け”と言った・・・」
「ちっ、ばれたか」
バランスを崩して落ちた剣を手にして、純一は男から距離を取る。
一定の距離を保って二人は対峙し、純一が下がれば男が同じだけ進み、男が進めば同じだけ純一が下がった。
そうしていつしか広い場所で向き合っていた。
無人の公園。見ているのは空に浮かぶ月と、一年中枯れることのない桜の木々だけである。
「ようやく覚悟を決めたか」
「そんなものはねーよ」
「意外と肝は据わっている。だが俺を敵に回すという判断は愚かと言うべきか」
「そーゆーノリは余所でやってくれ。俺はとっとと帰って寝る」
「そう言いながらも剣は放さないんだな。ならもうごちゃごちゃ言わん。その剣、もらっていくぞ」
やたらと気取った態度をする男だったが、実力は明らかに並大抵のものではなかった。十メートル以上離れているというのに、魔力の余波が物理的な威力を持っているかのような圧迫感を感じる。これが夢で気がついたらベッドの上、だったらどんなに良かったことか。
「かったりぃな・・・」
両手でしっかりと剣を握って構える。
戦うなど真っ平御免だったが、戦わずしてこの場を切り抜けられるとも思えなかった。仕方あるまい。
大きな力を持てば、それに見合うだけの敵というものが現れる。それは世の理だった。祖母からこの剣をもらった時、純一には選択肢があった。受け取るか、受け取らないか。
それでも受け取ると決めた時から、こうした戦いは覚悟していた。それでも祖母の想いが詰まったこの剣を受け継ごうと思ったから。
「祐漸・・・おまえが負ける男の名だ。覚えておけ」
「・・・朝倉純一。かったりぃからさっさと終わらせるぞ」
「いいだろう」
純一は剣を正眼に構える。対する祐漸は無手で、両手をだらんと下げたまま、構えらしい構えはない。
向き合う両者はしばし動かず、舞い散る桜だけが公園の中で動くものだった。
静かだった。
張り詰めた空気に怯えたか、猫の子一匹いない。夜鳴く虫すらも、今は声を潜めている。静寂の中で音を立てるものと言えば、風くらいのものだった。
桜の花びらが舞い散る夜の公園、それだけで神秘的な雰囲気が漂うその場所は、日常から切り離された異空間と化していた。
そこを、少し強い風が吹き抜ける。
木々が揺れ、桜吹雪が園内に乱れ舞う。
僅か一片、花びらが目の前を横切った。ほんの一瞬視界が遮られた隙に、純一は相手の姿を見失った。
「っ！！」
「鈍いな」
最初に接近された時と同じだった。
まったく反応できない内に、祐漸は傍らに立っていた。その左手は、純一の腹部に当てられている。
ドンッ！
衝撃が体を突き抜けた。
「ぐっ・・・！」
胃の中のものが逆流しかけるが、辛うじて倒れることなく踏みとどまる。急所からは外れていたのが幸いだった。
咄嗟に剣を振ったことで、相手も充分な一撃を放つ前に離れざるを得なかったようだ。
跳び下がった祐漸は、先刻和菓子を見せた時と同じように少し感心した表情をしていた。
「妙な奴だ。大した魔力などないと思えば高等な魔法を見せてみたり、鈍いかと思えばきっちり反撃はしてくる。掴みづらい奴だな」
「そりゃどうも」
褒められるほどのことをした覚えがなかった。
物質を作り出す魔法は確かに高等だが、純一は和菓子以外のものはまったく生み出せない。一芸に秀でるだけの色物、できそこないの魔法使いだった。
反撃したのも苦し紛れに過ぎない。現に切っ先は、相手の頬を僅かに掠っただけに留まっている。
「少しは楽しめそうだ」
祐漸が右手をスゥっと掲げると、周囲の気温が急激に低下していった。祐漸の周りでは、空気中の水分が収束し、凍りついていっている。程なく、無数の氷柱が形成されていた。
嫌な予感がして、純一の額から汗が流れ落ちる。
「どこまで避けられるかな？」
右手が振り下ろされると、氷柱の内数本が純一に向かって飛来した。
一つ目の氷柱を横に跳びながらかわし、二つ目を剣で切り払う。さらに続けて三つまとめて飛んでくるのを避けながら走り出す。
逃げ回る純一を狙って、次々と氷柱は飛来する。しかも相手の周りでは、尚も新しい氷柱がどんどん形成されていっていた。何か手を打たなければやられ放題になるが、逃げるのが精一杯である。
「うぉっと！」
少し油断した隙に、前からも氷柱が襲ってきた。
一部を切り払い、一部をかわしながらどんどん純一は逃げ回る。
このまま逃げ切れないかと思ってみたものの、少しでも距離が離れそうになると進行方向からの猛攻がある。どうも、遊ばれているような気がした。
「えぇいっ、くそっ、かったりーなっ！！」
逃げる、逃げる、逃げる。
きりがなかった。相手は攻撃の手を強めることはないが、手を緩める気配もなかった。このまま続けていても数分としない内に純一の息が切れて幕切れだった。
どうにもならないか、と思っていたら急に攻撃が止んだ。
訝しげに相手の方を見ると、あさっての方向を見て固まっていた。
何事かと思って同じ方向へ目を向けて、純一は頭を押さえた。
「やべぇ・・・忘れてた・・・・・・」
夜の鍛錬を知っている人間は４人いた。音夢と、さくら、アイシア、それに今純一と祐漸の視線の先にいる、ことりである。
たまにことりは、差し入れと称して夜食を持って純一の様子を見に来ることがあるのだ。だが何もこんな日に来なくてもいいではないかと純一は思う。ただでさえややこしい事態がさらに面倒なことになる。
「知り合いか？」
「まぁ・・・な」
「朝倉君！」
ことりは祐漸の方を気にしながら純一の下へ走ってくる。手にはいつものように差し入れを持っている。いつもならこれがありがたいのだが・・・。
「何事？」
「あー、まー、その・・・俺にもよくわからんのだが、襲われているところだ」
「襲ってるところだ。すぐに済むから下がってろ、女」
「すぐ済むって・・・朝倉君をどうするつもりですか？」
険しい表情をしながら、ことりが一歩前に進み出る。祐漸の強大な魔力を一般人であっても感じられるほどで、むしろ一般人であればこそそれに当てられているのはきついもののはずだったが、ことりはそんな相手を前にしても気丈だった。だが、ここでことりにでしゃばられても状況が混乱するだけで好転するとは思われなく、純一としてはこのままお引取り願いたいところだった。
チラッと祐漸の表情を窺うが、そこから感情は読み取れない。少なくとも無闇に女に手を上げるような男には見えないが・・・。
「殺しはせんさ。せいぜい半殺しだな」
「理由は？」
「そいつの持ってる剣をもらう」
「人の物を奪ったりするのは、よくないと思いますけど」
「交渉はしてやったぞ」
「してねーだろ」
あれを交渉と呼んでは全国の交渉人に失礼というものだろう。
「とにかくことり、おまえは関係ないから今すぐ帰れ」
「そうはいかないよ。だって朝倉君の剣って、すごく大事なものでしょ」
「それはそうだが、これは俺の問題であってだな・・・」
「朝倉君が困ってるのに、黙って見過ごせないよ」
「気持ちはありがたいが・・・」
正直ことりがいても役には立たない。それどころか足手まといになりかねない。
頭の良いことりにそれがわからないはずはないのだが、今日のことりは頑なだった。純一の方を振り返らず、鋭い眼差しを祐漸に向けることりをさらに説得するために振り向かせようとその手を掴んで、気がついた。
ことりの掌は、ものすごい量の汗をかいていた。
それで純一にも、ことりの頑なさの理由がわかった。ことりは自身の魔力こそ低いが、他人の魔力を感じ取ったりするのは得意だった。そんなことりが、祐漸の実力を正確に把握していないはずがない。ことりには、純一と祐漸の力の差が、本人以上によくわかっているのだろう。このまま戦わせても、純一が負けるのが必至であると思っているのだ。
だからことりは、自分で何とかできないかと祐漸と話しているのだった。
「何か代わりになるものがあれば差し上げます。だから、朝倉君を見逃してもらえませんか？」
「俺と取引するつもりか？ だが、その剣ほど上等なものはそうそうないぞ」
「何とかしてみます。私の家は・・・私は分家の人間ですけど、本家は古い家柄で、探せば貴重な魔法具もあるはずです」
「それはそれで興味はあるが、俺をこの場で退かせるには弱いな。それにな・・・」
祐漸が目を閉じる。その直後――。
ドスッ！
ことりの眼前に、頭上から落下してきた氷柱が突き立った。落下の際に氷柱の先に掠った前髪が数本、舞い落ちる。
両目を見開いたことりは、その場にペタンと腰を落とした。
「ことり！」
純一が駆け寄ると、座り込んだことりは、全身を震わせており、目尻から涙が滲んでいた。今まで気丈に振舞っていたが、今ので緊張の糸を切られてしまったようだ。
前を見やると、開かれた祐漸の眼には鋭い殺気がこもっていた。
「この俺と対等な取引ができる立場だと思ったか？」
普通の人間ならば、眼が合っただけで失神するかもしれない。最初に対峙した時からわかっていたが、改めて目の前にいるのがとんでもない魔人であることを認識させられた。
腰が抜けて動けないことりの前に立って、純一はその魔人と再度対峙する。
「朝倉・・・君・・・・・・」
「心配するな、ことり。あんな野郎に負けるなんてかったるいからな」
珍しく、純一は本気で頭にきていた。ことりをこんな風に怯えさせるなど、十倍返しでもおつりがくる所業だった。
「おまえ・・・祐漸とか言ったな。たたじゃおかねぇ」
「ならどうする？」
「決まってんだろ・・・」
手にした剣に魔力を流し込む。それと同時に、周囲の木々がざわめきだす。
「何だ・・・？」
純一の剣は魔法具である。それも、偉大なる魔法使いが遺したこの世に二つとない飛び切りの逸品だった。その威力は強力すぎて、今の純一では完全に制御することはできない。だが純一は、この剣の所有権を正式に祖母から受け継いでいる。
制御はできずとも、発動させることはできる。
後のことなど知ったことではない。たとえ暴走しようとも、目の前の敵を排除した上でことりが無事ならそれで良い。それでかったるい要素は全て片付く。
木々のざわめきがさらに強まる。
そして、純一が剣を上段に振りかぶると、莫大な量の魔力がそこから放出された。
祐漸がその力に唖然とする。無理もない、と純一は思う。この剣の力で引き出せる魔力量は尋常ではない。しかも今は、純一がこれまでこの剣を発動させてきたどの時よりも安定しており、魔力の収束率は桁外れだった。
剣に込められた魔力だけなら、間違いなく祐漸をも凌駕していた。
「くたばりやがれっ！！」
最大限に魔力が高められた剣を、純一はその場で振り下ろした。
ゴォオオオオオオオオオオ！！！！！
巨大な魔力の奔流が祐漸に襲い掛かる。
「まずいっ！」
祐漸は周囲に浮かんでいた氷柱を正面に集め、分厚い氷の盾を生み出した。さらに水分を掻き集め、氷をどんどん厚くしていく。
ドゴォッ！！！
剣の魔力が、盾と衝突する。あまりの威力に、表層部は一瞬にして削り取られた。そこからもさらに、竜巻のような魔力流が氷の盾を貫こうと荒れ狂う。
ピシッ！
少しずつ砕けていく盾に、大きく亀裂が入る。崩れかけた部分を重点的に補強していくも、削ってくる勢いの方が遥かに大きい。
ピシ ピシッ！
亀裂は次々に入り、盾全体が軋む。それを押さえている祐漸の腕も裂傷を負い出した。
「マジ・・・か・・・っ！！」
最後は一瞬だった。
無数に走る亀裂に沿って、盾は一気に崩れ、祐漸の身は魔力流に飲み込まれて消えた。
「ぜぇ・・・はぁ・・・ぜぇ・・・はぁ・・・っ」
限界を超えた一撃を放った純一は、仰向けに倒れて息を荒げていた。
あれだけの魔力を操っておいて、よく暴走しなかったものだと思いながら、もう一歩も動く気になれず夜空を見上げる。そうしていると、頭が少しだけ浮き上がった。硬い地面を感じていたはずの後頭部が、何か柔らかいものの上に乗せられている。
視線を少し上げると、ことりの顔が見えた。
「朝倉君、大丈夫？」
「ことりこそ、大丈夫か？」
「うんっ。朝倉君、かっこよかったよ」
「かったりぃ・・・」
とりあえず、敵の気配がもうないことを確認すると、純一は肩の力を抜いてことりの膝枕に身を委ねた。
こんなかったるいこと二度とごめんだ、とこの時は思ったのだが――。
「・・・・・・薮蛇だったか・・・」
祐漸は桜の木に囲まれた草むらの上で仰向けに倒れていた。全身に激しい裂傷を負っており、指を動かすだけでも痛みが走った。正直、ここまで手痛くやられたのはひさしぶりだった。
戦う気の薄い相手を少し奮い立たせようと思って女の方に軽く手を出してみたのだが、想像以上の効果があったようで、この有様である。多少油断していたのは事実だが、 最後の氷魔壁は本気だった。あの剣の力が予想以上だったのだ。或いは驚くべきは、それを完璧に制御してみせたあの少年の潜在能力か。あらゆる面で祐漸の方が上回っていたはずなのだが、まさかこうして敗北するとは。
「しかしあの剣、ますますほしいな・・・・・・ん？」
気配を感じて首をめぐらせると、顔の横に大きな鎌の刃があった。柄の方へ視線を動かしていくと、小柄な少女の姿が目に入った。肩まである銀髪と、ブラッディレッドの瞳が祐漸と共通する、綺麗な少女だった。
さらにもう一人、足元の方に気配を感じる。こちらは金髪を両側で括った、蒼い瞳の少女だった。どちらも容貌は幼いが、落ち着いた雰囲気を持っている。何より、将来を期待できそうな美人だった。しかしそれ以上に少女達の姿と雰囲気から察せられる彼女達の正体の方が、祐漸の気を引いた。
「これはまた、意外な人物に意外な場所で会うものだ」
「それはこっちの台詞だよ、氷帝さん」
「二人揃って俺に何の用だ？ 切っ先を向けられるとは穏やかじゃなさそうだが」
にやついたのが気に食わなかったのか、銀髪の少女が手にした大鎌の刃を祐漸の首筋にピタリとつける。無表情だが、見た目以上にご立腹のように見えた。
「お兄ちゃんにはこれ以上手を出さないで」
「お兄ちゃん？」
「さっき戦ってた人」
「あれが？ おまえさんの兄貴？」
「従兄弟だけどね。同じ血を引いてることに変わりはないよ」
「なるほどな。するとあの剣は・・・・・・・・・ますます惜しいが」
少女達が険しい視線を向けてくる。
実際に刃を突きつけているのは銀髪の少女の方だが、こちらの方は殺気が弱い。おそらく躊躇なく刃を振り下ろすことはまだできないだろう。だがもう一人の、金髪の少女の方は刃を向けているわけでも、殺気を見せているわけでもないというのに、いざとなれば迷いなく自分を殺しに来るだろう。この若さで、既に物事を深く見詰める目を持っていた。
例の剣はほしい。が、同時にあの少年にも興味が沸いた。
彼があの剣の正統な所有者だというのなら、無理やり奪っても仕方あるまい。剣はまた別のものを探すとして、しばらくはあの少年に注目してみるのもおもしろそうだった。
「わかった。奴にはこれ以上手は出さん」
「約束する？」
「ああ」
「なら、ＯＫ。アイシア、もういいよ」
「・・・信用してよろしいんですの？ さくらさん」
「大丈夫。約束を破るような人じゃないよね♪」
打って変わって人懐こい表情を金髪の少女は浮かべる。先ほどまでの深みを感じさせる表情も、この明るい笑顔も、どちらも彼女の素顔だろう。世の理を知りつつも、表裏のない表情ができる少女は、なかなか大した器だった。なるほど、かの偉大なる魔法使いの後継者たる者に相応しい人物である。
銀髪の少女はまだ警戒心を露にしていたが、渋々鎌をしまった。こちらはまだ未熟さを感じるが、潜在能力は高そうだった。
「黄金の魔女と白銀の魔女。その後継者達と知り合うきっかけになっただけでも、今日は収獲だったな」
「まだまだお祖母ちゃん達には及ばない未熟者だけどね。治癒魔法、いる？」
「いや。一晩ここで寝てれば動ける程度には回復する」
「そう。風邪引かないようにね」
「氷帝が凍えて風邪引いたら笑い話にもならん」
軽く声を上げて笑ってから、二人の小さな魔女は立ち去った。名前を聞けばよかった、と思ったがどうせすぐにまた会うことになるだろう。
数日後、再び純一のもとに祐漸が現れると、ことりが騒いだり、アイシアが噛み付いたり、純一がかったるい思いをしたりと色々あったのだが、それはまた別のお話。その時、さくらだけは楽しそうに笑っていた。
その後、しばらくは町で“それなりに”平穏に暮らしていたのだが、開戦後純一と祐漸、さくらとアイシアはそれぞれ町を離れた。ことりは家族と共に安全な地域へと移り、純一達は時々そこを訪れたりしている。そうした日々を送りながら、今に至る。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・なぁ、かったるいからもうあまり考えたくもないんだが、何でこんなことになってるんだ？」
こんなこと、というのは一人で回想していたはずの純一の周りに、いつの間にか祐漸だけでなく連也とさやかまでがおり、二人して出会った時の話を語って聞かせている状況のことである。
もっと早くにつっこもうと思っていたのだが、つい語りに力が入り、最後まで話してしまっていた。
「いやいや、有意義なお話を聞かせてもらったよ♪」
特に熱心に耳を傾けていたさやかがうんうんと頷いている。
「それで、結局のところ二人はどっちの方が強いの？」
そして、聞くべきでないことまで聞いてくる。
「俺に決まってる。今の話聞いてただろ。こいつが勝ったのはただのまぐれだ。何しろあの後一度も桜華仙であの時と同等の魔力を引き出せてないんだからな」
「勝敗は結果が全てだろ。勝ったのは俺、それだけだ。ちなみに、桜華仙ってのは俺の剣の名前だ」
「たった一度のまぐれ勝ちで自惚れてんじゃねぇ。俺の方が強いのは明白だ」
「負け犬の遠吠えだな」
「ならもう一度試してみるか？」
「かったるいから断る」
「連ちゃん、どう思う？」
矛先を向けられて、今まで瞑目したまま黙って聞いていた連也が目を開く。
「総合的に見て、祐漸の方が強いと考えるのが普通だろう。だが、ここ一番の勝負で潜在能力を引き出せる者こそが、真の強者とも言う」
「つまり、純ちゃんの方が祐君より勝負強いってこと？」
「拙者は件の勝負をこの目で見たわけではないから確かなことは言えぬ。もっとも、今再び二人が戦ったとして、純一が祐漸に勝てるとは思えぬがな」
「むぅ・・・」
「ふっ」
純一はおもしろくなさげに、祐漸は得意げに、それぞれ対照的な表情をする。
この二人、普段は物事に必要以上に興味を示さなかったり、沈着冷静だったりするというのに、お互いのこととなると妙に熱くなる傾向にあった。それだけ相手のことを意識しているということだろう。
「みなさん、夕御飯の準備、できましたよ〜」
楓が呼びに来たことで、この日の思い出語りはお開きとなった。
次回予告＆あとがきらしきもの
「風子・・・参上」
・・・なにゆえに？
「ＰＳ２版ＣＬＡＮＮＡＤ購入記念に特別出演することになりました、風子です。これはお近づきの印に、とってもかわいい・・・・・・・・・（ぽわぁ〜）」
いきなり出てきていきなり逝ってしまわれた・・・この作品には既にカレハという立派な妄想キャラが登場予定だというのに、キャラが被りそうなのを引っ張ってきたものだ。まぁ、今まで何度か風子をメインにした話を書こうと試みて、尽く頓挫しているわけだが、それだけ扱いが難しいキャラながら、この度真デモンに特別出演と相成った。たぶん本編では４話か５話辺りに出てくるのではないかと。立場としてはそれほど重要キャラではないマスコットキャラとして・・・。
さて、第２話となりました今回は、純一の過去話である。彼と関わりの深いヒロインキャラとして、うちのサイトで人気投票トップ３となった三人に登場願った。ことりヒロインはダ・カーポ的には王道中の王道、中には王道に飽きたという意見も多かったものの、結果としてこういうことに。さくら・アイシアは物語的にも重要キャラになるであろう。 ちなみに、アイシアはアニメ版よりもコミックス・小説版の性格で描いている（個人的には両方のイメージが頭の中で混ざってるような気もするが・・・）。そして純一ｖｓ祐漸、二人が知り合うきっかけというお話の第２話であった。 それにしても随分と長くなった。分けるにも中途半端な長さなので、そのまま１話分にしてしまったが。
さて・・・
「ヒトデのかわいさをご理解いただけたところで次回予告です」
・・・微妙に話が繋がってるんだか繋がってないんだかわからない復帰の仕方を・・・。
「というか、風子の台詞これで終わりですか？ 少ないです！＞_＜」
はいはい、また次回にということで。
次回のメインは楓。今回も噂という形で少しだけ語られたバーベナ学園での話をしつつ、いよいよ物語が動き出す話にも繋がっていくであろう。