Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪花旅団がゴリアテへ引き上げた頃、グスタフは首都へやってきていた。
単独行動や今回兵を動かす要因を作った責任を追及されるのを逃れるため、情報を流した相手に庇護してもらおうと思ってのことだった。

グスタフ 「この辺りのはずだが・・・」

?? 「よう」

グスタフ 「っ! お、脅かすな・・・あんたか」

その男こそ、グスタフに情報をもたらした者だった。
正体については、グスタフも知らない。

グスタフ 「ちょっとヘマをやってな」

?? 「みたいだな。安心しろよ、おまえが誰かに狙われたりすることはない」

グスタフ 「助かるぜ」

かくまってもらえると思い、グスタフは胸を撫で下ろす。
だが、その胸に何かが突き立っている。

グスタフ 「え?」

まったく気付かなかったが、目の前の男の手から伸びた剣がグスタフの胸を貫いていた。

グスタフ 「な・・・な・・・!?」

?? 「死ねば誰にも狙われたりしないだろう」

音もなく、グスタフの胸を貫いていた剣が引き抜かれる。
一瞬遅れて、激痛に顔を歪めたグスタフが膝をつく。

グスタフ 「な、なんでだ・・・? お、俺は、あんたに言われたとおりっ!!」

?? 「ああ、おまえはちゃんと働いてくれたよ」

グスタフ 「ならば何故!!」

?? 「まぁ、少しは使える男だったけどな。俺は、女を乱暴に扱う奴は嫌いでね」

グスタフ 「!!」

?? 「じゃあな、カール・グスタフ」

グスタフは、視界がずれるのを感じた。
自分の首が胴体から離れて落下しているのだと、気付くよりも早く彼の意識は永遠の闇に沈んだ。
断末魔の悲鳴すら上げることなく、カール・グスタフは絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同盟中だったはずの北西の隣国ルベリアが協定を破って領域侵犯をした。
その知らせにカザフ城は一時騒然としたが、十三騎士団総隊長たるジークフリードによってすぐに混乱は収拾する。
ついでジークは、各地に散っている残りの全隊長に緊急招集をかけた。
年に一度の定例集会以外で十三隊長が勢ぞろいするのは、実に12年ぶりのことだった。

 

ここで、公式記録による十三騎士団隊長格の名を全て列挙しておく。

一番隊
 隊長:ジークフリード・シュタイン (十三騎士団総司令)
 副長:久瀬俊之

二番隊
 隊長:シュテル・シュタイン
 副長:ハロルド・ロッド

三番隊
 隊長:斉藤元
 副長:メサルス・リー

四番隊
 隊長:遠野秋葉 (三大公遠野本家現当主)
 副長:琥珀

五番隊
 隊長:バルドル・シュタイン
 副長:エルスト・ナイアラス

六番隊
 隊長:朝倉音夢
 副長:天枷美春

七番隊
 隊長:芳乃さくら
 副長:朝倉純一

八番隊(王室警護)
 隊長:エリス・ヴェイン
 副長:不在

九番隊
 隊長:美坂香里
 副長:北川潤

十番隊
 隊長:ライカール・シュタイン
 副長:ゼルデキア・ソート

十一番隊
 隊長:相沢祐一
 副長:美坂栞

十二番隊
 隊長:遠野宗昭 (遠野家当主補佐)
 副長:遠野風音

十三番隊
 隊長:時長天善
 副長:ジュダ

 

召集から五日――。
一時的に首都を離れていたバルドルが戻ると、一足先に戻っていた者の一人で、同じシュタイン家に属するライカール・シュタインに出迎えられた。

ライカール 「おひさしぶりです、バルドル殿。どうやら間に合ったようですね」

バルドル 「ひさしぶりだな、ライカール。8ヶ月ぶりくらいか?」

ライカール 「定例集会以来ですから、そうなりますね」

同じシュタイン家出身とは言え、二人の間にはほとんど血の繋がりはないに等しかった。
それだけ三大公筆頭で、長年このヴェルサリアの支柱となってきたシュタイン家は巨大なのである。
分家の数は大小合わせて30を超えていた。
騎士団にいる四人は皆そうした分家の中でも特に力の強い家の出だった。

ライカール 「私も今着いたところでしてね。行きましょうか、そろそろ会議が始まる」

バルドル 「おうよ」

野性味を気品と同居させたような風貌のバルドルと、翳のある知的さを醸し出すライカールは、並んで歩くと実に対照的だった。
そこへさらにもう一人が加わる。

シュテル 「貴公らも着いたか」

ライカール 「シュテル殿か。変わりないようで何より」

バルドル 「おまえら揃いも揃って、副官はどうしたんだよ?」

シュテル 「あちらに残してきた。完全に留守にするわけにもいかんからな」

ライカール 「同じく。それにしても非常事態ですね」

三人連れ立って会議室へと通じる廊下を歩く。

シュテル 「全隊長緊急招集など12年振りだ。あの頃の俺は、まだ平隊員だったな」

バルドル 「俺もだ」

ライカール 「私はまだ騎士団にいませんでしたね。こうした雰囲気ははじめてで、少し緊張気味ですよ」

バルドル 「けっ、全隊長の招集なんざどうせ形だけなんだよ。兵力の大半は俺らシュタイン家が押さえてるんだ」

シュテル 「我々だけいれば、騎士団は充分に動かせる」

ライカール 「他は必要ありませんか、くっくっく」

バルドル 「はっはっはっはっはっは!!」

高笑いを上げながら会議室のドアを開けたバルドルは、そこにいる人物を見て表情を固める。
他の二人も同様で、先ほどの勢いとは打って変わって静かになっていた。

カチャッ

ティーカップを置く音が静かになった室内に響く。
一人の少女が長い黒髪を掻き揚げながら、入ってきた三人の方を向く。
まだ20歳にも満たない少女の眼光に、思わすバルドル達もたじろがされる。

バルドル 「てめぇ・・・・・・遠野」

三大公、遠野本家の若き当主にして、十三騎士団四番隊隊長、遠野秋葉。
それが彼女の名だった。

秋葉 「随分とお早いご到着ですわね、シュタイン家の皆様方」

空になったカップに、傍らで控えていた副長にして秋葉の侍女でもある琥珀がお茶を注ぐ。
もう既に大分前からそこでお茶をしながら会議の開始を待っていたようだ。

ライカール 「まだ会議の開始時間までは30分ほどあるはずですが?」

秋葉 「私が言っているのは、首都カザフに帰還するまでの時間のことですわ」

これに対してそれぞれに言い分はあったが、三人とも何も反論はできなかった。
何故なら、秋葉がいた場所は全隊長中もっとも首都から遠い地だったのだから。
それで誰よりも早く彼女は招集に応じてカザフに戻ってきていた。

秋葉 「軍部はシュタイン家抜きでは成り立たないのですから、もっとしっかりしていただかなければ困ります」

言いたい放題言われているが、相手はたかが少女とは言え三大公の一人である。

音夢 「あら、お三方ともどうなさったんですか、そんなところで固まって」

そこへ、さらにバルドルをいらだたせる要素が現れる。
すぐ横を通って会議室に入ってくる音夢をバルドルは睨みつけるが、完全に無視された上、自分の方は秋葉に睨まれているため迂闊なことも言えない。

バルドル 「チッ!」

思い切り舌打ちをして、バルドルは自分の席へと移動する。
シュテルとライカールも無言で適当な席に着いた。

音夢 「秋葉さん、おひさしぶりです」

秋葉 「おひさしぶりです、朝倉さん。芳乃さんも」

さくら 「ども〜」

シュタイン家の三人に対するのとは打って変わって、音夢とさくらを相手には穏やかに挨拶をする秋葉。
それを見ているバルドルはおもしろくなさそうに窓の外に目をあさっての方向へ向けた。

美春 「朝倉先輩、どうして音夢先輩とさくら先輩はあの秋葉さんと平然と話せるんでしょう?」

純一 「・・・まぁ、さくらはともかく、音夢は何となく秋葉さんと通じるものがあるんだろう。何となく発してる空気が似ているような気がしないでもない」

美春 「はぁ」

そんなやり取りをしていると、いつの間にか十三番隊の時長天善とジュダが席に着いていた。
さらに少し遅れて十二番隊の二人もやってくる。
十二番隊隊長遠野宗昭は、遠野家当主補佐という立場にある、秋葉の叔父であった。

宗昭 「やぁ、秋葉君。遅れてしまったかな?」

秋葉 「遅いですわよ、叔父様。非常時なのですから、普段と同じのんびり気分でいないでくださいませ」

純一 「あのいかにも毒のある話し方が裏モードの音夢と・・・」

音夢 「何か仰いましたか、兄さん?」

純一 「・・・唯一の違いは、秋葉さんの方は不機嫌なら不機嫌ということを一切隠さないところだな」

音夢 「兄さん」

斉藤 「賑やかだな、さすがにこれだけ集まると」

続いて現れたのは、三番隊の斉藤元。
彼も副長は駐屯地の留守に残してきたため、一人だった。

秋葉 「あとは総司令を除けば、八、九、十一番隊の三人ですわね」

音夢 「珍しいですね、あの三人が遅れるなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その三人のうち一人、九番隊隊長美坂香里は大急ぎで会議室へ向かっているところだった。

香里 「まったくこの大馬鹿は!」

北川 「いやぁ、昨日はちょっと夜更かししちまったからなぁ」

全然悪びれていない態度で謝る北川。
遅刻の理由は北川の寝坊であった。
起こしに行った香里はぐーすか寝ている北川をとりあえず殴り飛ばし、100回前後にシェイクした上で100回往復ビンタをした。
途中で起きていたような気もしたが、無視して最後までやった。
にもかかわらず、爽やかな笑顔を浮かべる北川は無傷だった。

香里 「ほんとに不死身ね、あんたは」

もっとも、そうでなければ香里もここまで徹底的に副官である北川を痛めつけたりはしない・・・・・・たぶん。
普段は馬鹿だが、これでも戦闘になれば少しは頼れる男なのだから。

北川 「あれ、相沢と・・・エリスだ」

香里 「え?」

足を止めると、確かにその二人が歩いているのが見えた。
既に会議開始時間まで10分を切っているというのに、普段から早めに出席する二人がこんな場所をうろついているのは不思議だった。
しかも、様子がどこかおかしく、空気がぴりぴりしていた。
何より、エリスは愛剣のレヴァンテインを持っている。

北川 「何で剣持ってるんだ?」

香里 「・・・・・・さあ?」

十三隊長は、基本的に城内では得物を持ち歩かない。
仮に何か問題が起こっても、彼らならば素手で充分に強いからである。
先日の侵入者の一件で斉藤が刀を持っていたのは、たまたま彼が外から戻ってきたばかりだったからだ。
決まりがあるわけではないが、非常時以外の城内での帯剣は控えられていた。

香里 「追うわよ」

北川 「おう」

 

 

 

 

 

 

会議室へ向かう途中、エリスに呼び出された祐一は、今中庭でそのエリスと向き合っている。
城内でありながら、エリスは帯剣中で、しかも二人の間には微妙な距離があった。

祐一 「何だ、用ってのは?」

エリス 「一つ・・・聞いておきたいことがある」

そう言い置いてから、エリスは本題を切り出そうとする。
しかし、なかなか言葉が出てこない。

祐一 「どうした、悪いが3サイズは測ってないから答えられんぞ」

エリス 「ちゃかすな。真面目な話なのよ」

祐一 「何だ?」

いつもどおりの祐一の態度にいらいらして、エリスはぎゅっと拳を握り締める。

エリス 「・・・この間のパレードで捕えた男が、自分は“Y”という男に頼まれた、と言っていたわ」

祐一 「ほう、そりゃまた粋な名前の野郎だな」

エリス 「・・・・・・あんたなの?」

祐一 「何のことだ?」

エリス 「Yは、祐一の頭文字でしょう」

祐一 「さあな。Yが頭文字の名前なんて、山ほどいると思うぜ」

エリス 「思い当たる節はいくらでもあった・・・」

様々な事柄が、エリスの頭の中で渦巻く。
特に、ここ数日の祐一の言動が。

『姫の影武者の警護は、八番隊がいいんじゃないか』

『情報が洩れていた、と考えるべきじゃないのか』

エリス 「他にも・・・折原が行動を起こした地区の警備はあんたの十一番隊の担当・・・けど調べたら、あの辺りの警備体制がやけに手薄だった。何より、上層部の機密を知っている人間は限られている」

祐一 「・・・・・・」

エリス 「あんたなら、全部条件を満たしてる。フローラが攫われるよう仕組んだのは、あんたなの?」

ずっと頭に引っかかっていたことだった。
“Y”という男の名と、祐一の名の接点に気付いた時から。
確証がなかったため今日まで心に秘めてきたが、ここで真実をはっきりさせたいと、エリスは思っていた。
できれば、否定してほしかった。

エリス 「(お願い・・・あんたに剣を向けたくはない。いつもみたいに、軽く笑い飛ばして・・・)」

祐一 「それだけじゃないぞ」

エリス 「?」

祐一 「“Y”って奴の罪状はそれだけじゃない。そいつはあと二つのことをやっている。一つ、ルベリアの動きに気付いていながらそれを黙っていたこと。もう一つ、雪花旅団の副団長グスタフをそそのかして反乱を起こさせた。もっともそのグスタフも、その“Y”に殺されてもうこの世にはいないけどな」

エリス 「祐一ッ!!」

祐一 「ああ、質問の答えがまだだったな。答えは、Yだ」

エリス 「・・・どういう・・・ことよ?」

祐一 「YはYesの頭文字だろう」

エリス 「そう・・・・・・」

震える手で、エリスは剣を抜く。
キッと目の前の“敵”を睨みつけ、切っ先を突きつける。

エリス 「なら! 今この場で、アタシがあんたを斬る!!」

小さな体で跳躍し、振りかぶった剣を真っ直ぐに振り下ろす。
その斬撃の間合いを見切って、祐一は紙一重で後ろに下がってそれをかわした。

祐一 「残念。おまえになら斬られてもいいが、今はまだ早い」

エリス 「戯言を!」

香里 「ちょっと待ちなさい、二人とも!」

影から一部始終を見ていた香里が止めに入るが、エリスは聞く耳持たない。

エリス 「引っ込んでなさい、香里!」

祐一 「熱くなるなよ」

懐に手を入れた祐一が取り出したのは、手の平サイズの小さなスイカである。

祐一 「昔さやかにもらったスイカ爆弾が役に立つ日がきた」

エリス 「逃がすか!」

祐一 「エリス。香里も・・・自分の敵を見誤るなよ」

エリス 「!! (こいつ・・・折原と同じことを・・・)」

祐一 「では、サラバだ」

ボンッ!

スイカが爆発すると同時に白い煙が辺りに立ち込め、それが晴れた時、祐一の姿は城内のどこにもなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく