Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣はその巨体に似合わずスピードがあった。
そして四本の腕とパワーによる攻撃は驚異的なものだった。
しかしそれも、あくまで並みの敵が相手ならば、である。

魔獣 《ガァアアアアア!!!》

ズンッ!

繰り出される一撃を、往人は簡単に避けてみせる。

往人 「遅ぇな。寝ながらでも避けられるぜ」

もう一方では純一が魔獣の爪を捌いているところだった。
巨大な敵が相手でも、うまく力を受け流せば正面からその攻撃を防ぐことも可能だ。

純一 「でかいだけの奴にやられるかよ」

二人の戦いを、二人の少女は離れた場所から見ていた。

さやか 「おー、やれやれー」

ことり 「あの・・・手伝わなくていいの? さやかさん」

さやか 「いいのいいの、任せとけばすぐに終わるから」

心配することりとは逆に、さやかはいたって呑気だった。
戦っている二人があの程度の魔獣に負けることなどないとわかりきっているようだ。
実際、ここまでの戦いは魔獣が一方的に攻めているように見えて、往人も純一も一発たりとも喰らっていない。

往人 「パワーだけだな、こいつは。いや、パワーも大したことないか」

振り下ろされた魔獣の拳を、往人は片手で止めてみせた。
その状態で微動だにしない。

往人 「やっぱりな」

魔獣 《グルルルルルル・・・!》

往人 「遊びはここまでだ。消えな!」

受け止めていた魔獣の腕を弾き、往人は弾丸のような速さで敵の懐に入り込み、強烈な一撃を叩き込む。

ドゴォッ!

浮き上がった魔獣に向かって、刀を振りかぶった純一が跳びかかる。

純一 「これで終わりだ!」

ズバッ!!

魔獣 《グギャァアアアアアアアアアア!!!》

一刀両断。
体を真っ二つにされた魔獣は断末魔の声と共にその身を霧となして消滅させる。
この世ならざるものの末路であった。

純一 「ふぅ、とりあえず勝った」

往人 「まあまあやるじゃないか。おまえ、朝倉純一だな」

純一 「俺を知ってるんですか?」

往人 「敬語はよせ、むずがゆい。十三騎士団の隊長副長のことは折原から大体聞いた。それにおまえの戦い方、朝倉音夢とよく似ている」

純一 「ああ、美春が言ってた音夢と互角にやりあったってのはあんたのことか」

つまり二人は敵同士ということになるのだが、今しがた共闘した仲であり、何より助けてもらった相手だ。
ついでに言うと音夢と互角の勝負をするような人物を相手にするのはかったるいため、純一はその辺りはスルーすることにした。

純一 「とにかく助かった。礼を言うよ」

往人 「気にするな、頼まれたことだからな」

純一 「?」

往人 「だから気にするなって。さてと・・・」

頼まれたのは、必要ならば白河ことりを保護しろ、ということだったが。
どうやらその必要はもうなさそうだった。

往人 「どうやら外の戦闘も終わったみたいだし、俺はもう行くぜ」

さやか 「じゃ、私も戻らなくっちゃ。ばいび〜、ことりん。ついでに朝倉純一君も」

純一 「俺はついでですか・・・」

ことり 「さやかさん、あの・・・」

さやか 「ん?」

ことり 「えっと・・・・・・ううん、何でもない。ばいばい」

さやか 「うん、ばいば〜い」

笑顔で手を振るさやかと、踵を返した状態でひらひらと手を振る往人の二人は、倉庫の奥へと消えていった。

純一 「・・・・・・」

ことり 「・・・何で奥に行っちゃうんだろう?」

純一 「・・・気にしたら負けな気がする。そういう人達みたいだ」

ことり 「あ・・・朝倉君、怪我は?」

純一 「だから、それは俺の台詞だっての。ぶたれたとこ、大丈夫か?」

先ほどグスタフに殴られたところは、少し赤くなっていた。
唇も切ったらしく、少し血が出ている。

純一 「護るとか言っておいてこの様じゃどうしようもないな、俺は」

ことり 「そんなことないよ。二人とも無事で万事オッケー♪」

純一 「ことり・・・」

ことり 「ありがとさんでした、護ってくれて」

純一 「当たり前だろうが」

ことり 「朝倉君・・・」

純一 「・・・・・・」

 

見詰め合う二人を、影から見守る生暖かい視線があった。

さやか 「う〜ん、なかなかいい感じだね〜」

往人 「何で俺まで付き合わねばならないんだ?」

さやか 「いいじゃないの♪ さ、そこだよ、いっけーことりん、押し倒せー」

往人 「どうやら、それは無理っぽいぞ」

外から三人分ほどの足音が響いてくる。
そのうちの一人が、物凄い勢いで倉庫の中に駆け込んできた。

 

音夢 「兄さん!!!」

純一 「音夢!?」

いい雰囲気になりかけていたところへの音夢の乱入で、純一は大いに慌てた。
一方の音夢は、ほとんど密着するほど近付いている二人を見て硬直している。

さくら 「はぁ・・・はぁ・・・・・・音夢ちゃん、はやいよ〜」

美春 「ぜはぁ・・・ぜぇ・・・音夢先輩、朝倉先輩はいましたか〜?」

さらに残りの二人も音夢を追って倉庫へ入ってくる。
その声で我に帰った音夢は、兄に対して笑顔を投げかける。
ただし、額には巨大な青筋がくっきりと浮かんでいた。

音夢 「兄さん・・・・・・散々人に心配させておいて・・・随分とお二人で楽しそうになさっていますこと」

純一 「いや待て音夢誤解だ。実際ついさっきまでは大ピンチでだな、何もやましいことはまったくなくてだな・・・とにかく落ち着け音夢、物事は冷静に対処しなければならない」

赤くなったり青くなったり白くなったりしながら純一は思いつくままに言い訳をする。
だが、そもそも音夢はそんな話を一切聞いていなかった。

音夢 「そーですか。で、実際どうだったんですか、白河さん?」

純一 「だから本当に天地神明に誓って何もないんだって、これっぽっちも!」

ことり 「・・・何にも?」

純一 「そうだ断じて何もない!」

断言する純一に対して、ことりがむっとした表情を浮かべる。
そして音夢の方に向き直った。

ことり 「音夢。朝倉君は私を護ってくれただけだよ。もう誠心誠意込めて、一生懸命、必死で護ってくれたの」

にっこりと微笑むことり。
対する音夢もこれ以上ないくらいの笑顔を返した。

音夢 「そうなんですか。それはよろしゅうございましたね、お・に・い・さ・ま」

もはや、あらゆる弁解は利かなそうだった。
頼みの綱は・・・。

さくら 「お兄ちゃん、僕のことは全然護ってくれないくせに」

膨れている者一名。

美春 「いいですよ、美春は別にそんな高望みはしていませんから」

いじけている者一名。

美春 「それに、音夢先輩から朝倉先輩を助けるなんて、美春には到底できませんし・・・」

助け舟は一切ない。
純一にできることと言えば、お決まりの台詞を言うことだけだった。

純一 「・・・かったりぃ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

往人 「で、結局どうなったんだ?」

美凪 「・・・結果オーライ?」

往人 「わかったようなわからんようなだな」

倉田佐祐理というある意味ジョーカーな存在が現れたことにより、戦いは沈静化していた。
反乱軍はゴリアテへ引き上げ、鎮圧軍もボルムザの町郊外で待機したまま動かない。
どちらも今すぐ動く意志はないようだった。
だが一つ気になる点は、雪花旅団から副団長のグスタフが姿を消したことである。
ボルムザの町のグスタフの行動に関しては、彼の独断だったようで、往人が町で感じた違和感はそのためだった。
団長のベイオウーフと副団長のグスタフそれぞれの思惑が錯綜しており、雪花旅団も一枚岩ではないということだ。

浩平 「反乱を主張したグスタフが姿を消した以上、しばらくはあいつらも動かないだろう」

それが浩平の言葉だった。
どうやら誰かがグスタフという男を使って、雪花旅団に反乱を起こすようそそのかしたらしい。
さらに浩平の話では、その誰かというのは以前浩平達に情報をもたらした人物と同じはずだと。

みちる 「つまり、そいつが一番悪い奴なの?」

往人 「そうとも言い切れんな。そいつの正体と目的がわからない以上、悪いと決め付けることはできない」

美凪 「・・・でも、その人が鍵を握っているのは・・・」

往人 「間違いないな」

美凪 「・・・それは、どなた?」

往人 「浩平のよるとその野郎は、“Y”と名乗っているらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリス 「“Y”?]

カザフ城内。
部下から告げられた単語をエリスは口にする。

部下 「は。パレードの際に捕えた男が、自分は“Y”と名乗る男の命令で動いた、と」

エリス 「それだけ?」

部下 「それ以外のことは、自分は何も知らない、と申しています」

エリス 「そう・・・」

ようやく話したと思えば、本名とも思えないような名前だけ。
大した情報にもならないことだった。

エリス 「とりあえず、引き続き尋問は続けなさい」

部下 「は!」

命を受け、部下は下がった。
残ったエリスは、腕を組んで告げられたことについて考える。

エリス 「“Y”・・・・・・」

それが一連の事件の黒幕なのか。
或いは事件の一端に過ぎず、もっと大きな何かが起こっているのか。

エリス 「わからないことだらけね・・・」

情報が足りなかった。
もっと多くの情報を集め、充分に検討する必要がある。
だがどうやら、そんな時間を天は与えてはくれないらしい。

エリス 「?」

薄暗い廊下を、誰かが横切るのをエリスは見た。
その先にあるのは西の塔、つまり王室に関わる者のみが立ち入りを許される場所だ。
しかし今通った影は、エリスの記憶にすぐに浮かんでこない者だった。

エリス 「誰だ?」

塔へと入っていく影を、エリスは小走りに追いかける。
思った以上に動きが早く、なかなか捕まえられない。
半ばまで塔を上った辺りで、窓から差し込む月明かりで侵入者と思しき者の顔が浮かび上がる。
その意外な正体に、エリスは驚いた。

エリス 「クラスト皇太子!?」

滞留中のルベリアの皇太子だった。
王女フローラの婚約者ではあるが、まだこの塔への立ち入りを許可されてはいない。

エリス 「(あの身のこなし・・・変だわ)」

足音がまったくせず、気配もない。
その動きは、密偵が使うものだった。
気付かれたことを悟ったか、相手が足を速めた。
もはやエリスも黙ってはいない。

エリス 「待ちなさい! おまえ何者!」

この先はフローラの寝所しかない。
婚儀の前に夜這い、などというくだらない話ではなく、これは明らかに害意ある者の行動だった。
だとしたら、相手が隣国の皇太子だろうとエリスは遠慮するつもりはない。
予想以上に速い相手は、フローラの寝所へと入り込む。

フローラ 「きゃあああ!!」

エリス 「フローラ!!」

扉を蹴破るほどの勢いでエリスは侵入者を追って寝所へ飛び込む。
中では侵入者が今まさにフローラを連れて逃走を企てていた。

侵入者 「ちっ!」

エリス 「あんた、クラストじゃないわね! どういうことは後で問いただしてやるから、今はフローラから手を離しなさい!」

要求どおり、侵入者はフローラから手を離す。
だがおとなしくすることはなく、窓を破って外に飛び出した。

エリス 「待て!」

窓から身を乗り出すと、侵入者が隣の建物の屋上に降り立ったところが見えた。
そしてそのすぐ近くに人がいた。

 

 

祐一 「星を見てたら人が降ってくるとは、なかなか凝った演出だな」

エリス 「祐一! そいつを捕まえてっ!!」

上、西の塔フローラ王女の寝所の窓からエリスの声が降ってくる。
つくづく妙な夜だと思いながら、祐一は飛び降りてきた侵入者に目を向ける。

祐一 「だそうだ。悪いがおとなしくしてもらうぞ」

侵入者 「・・・・・・」

二人はじりじりと間合いを計る。
祐一は相手を取り押さえるため、侵入者は逃走するため。
やがてタイミングを見計らって相手が駆け出すと、祐一もそれを追った。

 

 

エリス 「ふぅ・・・とりあえず向こうは祐一に任せておけば・・・・・・・・・っ?」

一瞬エリスは、奇妙な感覚に襲われた。
偶然の一致か、普段ならば何気なしに呼んでいるその名に、いつもと違う違和感があった。
そこから導き出される様々な事柄を思い、しかし即座に否定する。

エリス 「(まさか・・・そんなことは・・・・・・!)」

フローラ 「どうしたの、エリス?」

突然の襲撃にあったフローラは、少し落ち着いたところでエリスの様子がおかしいことに気付いて歩み寄る。

エリス 「え? いや・・・なんでもないわ。怪我ない?」

フローラ 「私は平気だけど・・・エリスこそどうしたの? 青い顔してるけど、調子悪いの?」

エリス 「違うわ。そうじゃない・・・ちょっと走ってきて、息が切れただけよ・・・」

心の動揺を悟られないよう、エリスはフローラから目を逸らす。
深呼吸をして落ち着こうとするが、そうしようとすればするほど様々なことが頭を駆け巡る。

エリス 「まさか・・・・・・・・・」

 

 

深夜近くということもあって、城内は閑散としている。
相手にとっては逃げやすい条件だったが、祐一はぴったり張り付いたまま逃がさない。

祐一 「さてと・・・」

そろそろ捕まえるか、と思ったところで侵入者の前方の新たな人影が出現する。
一瞬相手の味方かと思ったが、すぐに違うと気付いた。
追う必要性がなくなったと悟ると、祐一は歩く程度まで速度を落とした。

ザシュッ

月明かりに白刃がきらめき、侵入者が倒れ伏す。
剣は二度閃いたが、いずれも足を狙ったもので、敵を殺してはいない。
三度目はみね打ちで、肩口を打って気絶させている。

祐一 「お見事。相変わらず大した手並みだな」

刀を納めている、その知っている相手に祐一は近付いていく。
少し背の高い、鋭い眼光の男。

祐一 「ついでに、ひさしぶりだな、十三騎士団三番隊隊長、斉藤元」

斉藤 「おまえも変わらんようだな、十一番隊隊長、相沢祐一」

祐一 「積もる話はあとにして、とりあえずそいつを牢に入れておくか」

斉藤 「無駄だ」

祐一 「何?」

斉藤 「この男、気絶させる前に舌を噛み切った。もう死んでいる」

祐一 「そりゃ大したもので。秘密保持のために自殺・・・隠密のやることだな。断じて一国の皇太子の行動じゃない」

斉藤 「ああ、違うだろうな。だが、俺からすれば予測できない事態ではなかった」

祐一 「・・・突然戻ってきたのは、いい知らせがあるからじゃなさそうだな」

斉藤 「悪い知らせだな、完全に」

祐一 「何があった?」

斉藤 「ルベリアの軍勢が国境付近に現れた。既に一部では戦闘も始まっている」

祐一 「そりゃあ、一大事だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく