Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広い倉庫のような建物の中に純一とことりは逃げ込んだ。
だが純一は、うまくこの場所に誘導されたような気がしていた。
逃げている間中、必ず一方向だけ敵の気配が薄い地点があったのだ。

純一 「誘い込まれたか・・・」

詰まれた木箱の影に身を潜めながら、純一は周囲の気配を探る。
人の気配はしないが、何かもっと危険な存在を感じた。

純一 「(嫌な予感がするな・・・)」

その時、不意に倉庫の扉が外から開かれる。
ちらりとその様子を盗み見た純一は、そこに立っている人物が誰か即座に悟った。

純一 「(カール・グスタフ・・・・・・雪花旅団の副団長か)」

団長のレオナルド・ベイオウーフとは違った意味で有名人だった。
元は騎士団に所属しており、敵とはいえ敬意を表するに値する正々堂々とした人物であるベイオウーフに対し、傭兵出身のグスタフは実力こそ確かなものの、卑劣な戦い方などをするとして忌み嫌われている。

グスタフ 「十三騎士団七番隊副長朝倉純一。いや、出てきたくなければ来なくてもいい。すぐに出てきたくなるからな」

言い終わると、グスタフは何かの呪文を唱え始める。
倉庫の中央に法陣が浮かび上がり、邪悪な気配が立ち昇る。

純一 「召喚法陣!? 何のつもりだ!」

ことり 「朝倉君!」

純一 「ちっ!」

立ち昇る黒い影の中から、何かの腕が純一達に向かって伸びる。
間一髪、純一はことりを連れてその場から飛び退く。

グスタフ 「そこにいたか。無駄な抵抗はやめておとなしくすることだ」

純一 「そんな要求聞いてられるかよ!」

魔法陣の中から、異形の生物が姿を現す。
足は二本だが、腕が四本で、地上のどの動物にも似ているようでまるで違っている。

グスタフ 「その魔獣を相手にいつまで強がりが続くかな?」

魔獣 《グォオオオオオオオオオオ!!!!!!》

熊の二倍はあろうかという巨体の魔獣が咆哮を上げながら襲い来る。
回避しようとする純一だったが、ことりを連れているため動きが鈍い。

純一 「くそっ!」

魔獣の爪が眼前に迫ると、純一はことりを横に突き飛ばした。

ことり 「朝倉君!?」

ガギィッ!

純一 「ぐ・・・っ!」

痛烈な一撃を受け、純一は木箱が詰まれている場所に突っ込んだ。

ことり 「朝倉君ッ!」

グスタフ 「無駄と言ったろう。いかに騎士団の隊長格と言えど、魔獣の前では赤子同然よ」

最初から己の勝利を疑っていない声だった。
そうしたものが、純一は嫌いだった。

純一 「・・・馬鹿言ってんじゃねぇよ」

瓦礫の中から純一が立ち上がる。
全身埃まみれだが、傷はまった負っていない。
爪による一撃は、完全に刀でガードしていた。

ことり 「ほっ・・・」

純一 「十三騎士団の隊長ってのはほんとにとんでもない奴ばかりなんだよ。それこそ、そいつらの方が魔獣なんじゃないかって思うくらいにな」

グスタフ 「何だと?」

純一 「それに俺も、おまえごときや雑魚のおまえに使役されてるレベルの魔獣なんかじゃ相手にならないぜ」

まだ若干15歳の少年から放たれる威圧感に、グスタフは気圧される。
そしてその顔を怒りに染めた。

グスタフ 「ちっ、捕えて六番隊隊長の朝倉音夢に対する切り札にしようかと思ったが、やめだ。見せしめにむごたらしい死体を晒すのも悪くなかろう」

純一 「やってみろよ、三下が」

グスタフ 「・・・・・・」

今にも飛び掛らんとする魔獣と、それを操るグスタフ。
だが、やがてそのグスタフが笑い出した。

グスタフ 「くっくっく・・・・・・はーっはっはっはっはっはっは!!!」

純一 「・・・何がおかしい?」

グスタフ 「そんな安い挑発に乗ると思ったのか? 見ろ」

ことり 「きゃっ」

純一 「貴様・・・!」

いつの間にか、グスタフのもとにことりがいて、喉元に剣がすえられている。

グスタフ 「俺を挑発してこの娘から注意を逸らそうとしたんだろうが、そんな小細工は通用せんよ」

ことり 「っ・・・」

ぐい、とグスタフが剣の面でことりの顔を押し上げる。

グスタフ 「さあ、刀を捨てろ。とりあえずは死なない程度に痛めつけてやろう」

ことり 「朝倉君! 私に構わないで・・・」

グスタフ 「黙っていろ!」

パンッ

ことり 「きゃぅ!」

頬を打たれて、ことりが地面に倒れ伏す。
倒れたことりをグスタフは足で押さえつけ、顔の上に剣を吸える。

グスタフ 「さあ、やれ魔獣よ」

魔獣 《グァァァァァァ!!!》

純一 「ぐ・・・っ」

鋭い爪が光る魔獣の腕が振り下ろされる。

ことり 「だめぇぇぇぇぇっ!!」

 

ガッ・・・・・・・・・・・・ドゴッ!!

 

グスタフ 「な!?」

純一 「っ!」

ことり 「え・・・?」

突然の出来事に、その場にいた三人全員が驚愕に目を見開く。
10メートル近い体長を持つ魔獣が、吹き飛ばされて壁に叩きつけられたのだ。

往人 「また随分と面倒くさいモノを呼び出したもんだな」

グスタフ 「な、何者だ!」

往人 「フッ、荒野をさすらう助太刀人、国崎往人だ。・・・っと、どこかで見た顔だと思ったらおまえ、カール・グスタフか」

グスタフ 「国崎・・・だと!? 貴様は、あの時の・・・!!」

往人 「変わってねぇな。偉そうにしてるくせに自分では大したこともできないその雑魚っぷりが特に」

グスタフ 「黙れっ、この浮浪者風情が!」

往人 「へっ、おまえみたいなのがいるんじゃ、雪花旅団とやらもたかがしれてるな」

この男を、往人は知っていた。
以前とある戦場で出会い、往人に一瞬にしてやられた男である。
あまり倒した相手の顔などいちいち覚えていない往人だったが、この男はマヌケぶりがおもしろくて覚えていた。

往人 「魔獣に戦わせて自分は高みの見物、しかも女を人質に取るとはな。もう情けなくて笑うしかないな、はっはっは」

グスタフ 「黙れ! 黙らんと、この小娘の命はないぞ!」

往人 「おまえ馬鹿だろ。人質ってのは無事だから意味があるんだぜ。殺しちまったら人質の意味はないからな」

グスタフ 「くっ・・・だが殺さなくても苦痛を与えることはできるぞ! こんな風にな!」

純一 「な!? やめろっ!」

剣を持った手にグスタフが力を込める。
だが、剣はその場に固定されたかのようにピクリとも動かなかった。

グスタフ 「な・・・ど、どうなっている!?」

往人 「俺の法術でおまえの剣をその場に縫いとめた。おまえ程度の力じゃ動かせねぇよ」

グスタフ 「お、おのれ・・・」

往人 「まぁ動かせたとしても、一体何を斬ろうってんだかねぇ」

グスタフ 「何を言って・・・」

往人 「よく見てみろよ」

グスタフ 「!?」

純一 「は?」

グスタフが驚愕し、純一が目を点にする。
そこにいるのは、いや、あるのはことりではなく、スイカだった。

さやか 「いけないな〜、女の子に乱暴したら」

声のする方を向くと、そこにはことりを小脇に抱えたさやかがいた。

ことり 「さやか・・・さん?」

さやか 「やっほ〜、ひさしぶり、ことりん♪」

純一 「ことり・・・ほっ」

往人 「さて、切り札はなくなったな。どうする、お笑い野郎」

グスタフ 「・・・まだだ!」

ズズンッ

仰向けになっていた魔獣が起き上がって往人達に対して牙を剥く。

グスタフ 「俺はこんなところで終わりはしない! 貴様らはそいつの相手でもしていろっ!」

魔獣にあとを任せ、グスタフは踵を返して走り去る。
その逃げ足の速さは、往人と純一も舌を巻くほどだった。

往人 「逃げるのが得意なんて、三流悪役みたいだな」

純一 「雪花旅団の副団長ってのはこんな程度か・・・」

魔獣 《グルルルルルルルゥ》

呆れる二人の前に、魔獣が立ちはだかった。

往人 「面倒なモノ残していきやがって。ああは言ったものの、こいつの相手はさすがに骨が折れるぞ」

純一 「助太刀には感謝しますけど、これの相手まですることはありませんよ」

往人 「放ってもおけるかよ。三人がかりならすぐだろ」

さやか 「じゃ、ことりんのことは私に任せて、二人とも頑張ってね〜」

往人 「おまえもやれよ」

さやか 「あのスイカマジックは結構魔力を使うんだよ」

往人 「嘘付け」

純一 「来るぞ!」

ドンッ!

魔獣の攻撃が地面に穴を穿つ。
寸前に往人と純一は左右に散ってかわしていた。

往人 「仕方ないな、魔獣退治と行くか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音夢の圧倒的強さの前に、みさき達四人はもはや限界を迎えていた。
むしろ、ここまでもったのが不思議なくらいである。
それと言うのも、音夢が殺さないよう手加減をしているからであって、もしも音夢が殺す気でかかってきたなら、既に勝負はついていた。

みさき 「・・・こんなに強いなんてね・・・なんか反則っぽいよ」

蒼司 「さすがに、あの浩平さんが手を出すなと言うだけあります・・・」

一弥 「ここまで・・・か」

舞 「・・・・・・」

ぼろぼろの四人に対し、さすがに少し息が切れているものの、音夢は無傷だった。

音夢 「いい加減にどいてください。ここであなた達の相手をしている暇なんてないんです!」

戦いの上では完全に優位に立っている音夢だったが、精神的には追い詰められている気分だった。
兄を助けに行きたくても足止めされている状況が、音夢には歯がゆい。

音夢 「・・・これ以上は付き合っていられません。最後の通告です。どかないと言うのなら、次は殺す気で行きます」

脅しではなく、音夢は本気だった。
好んで人を殺すことはしないが、兄のためならば音夢はそれも厭わなかった。
本人を前にしてはとても言えないが、音夢の純一に対する想いはそれほどに強い。

みさき 「・・・なんか、これじゃあ、こっちが悪者だね、完全に」

蒼司 「けど、ここで退いたら戦いは止められませんよ」

みさき 「そうなんだけど・・・困ったなぁ」

そんな思いも空しく、状況はさらに悪化しようとしていた。
前線まで、雪花旅団団長のベイオウーフが出てきたのだ。

蒼司 「・・・最悪ですね」

ベイオウーフ 「怯むな! 一気に敵を押し戻せ!!」

大将が前線まで出てきたことで、落ちかけていた反乱軍の士気が再び戻る。
声を上げるベイオウーフの横に、浩平が駆け寄った。

浩平 「やめろベイオウーフ! 戦うべき相手を間違えるんじゃない!」

ベイオウーフ 「どけ折原! もう後戻りはできんと言ったはずだ!」

本陣にいた時から話は少しも進展していなかった。
もはや双方の全面衝突は必至かと思われたその時、鎮圧軍でも反乱軍でもない第三の兵団が現れた。

?? 「そこまでです。両軍とも剣を引きなさい」

第三の兵団の戦闘にいる少女がメガホンで音を拡張させた声で叫ぶ。
近くにいると耳を塞ぎたくなるほどの大声は、戦場全体に響き渡っていた。

さくら 「あれは・・・」

美春 「ま、まさか!?」

ベイオウーフ 「馬鹿な!? 何故あのお方がここに・・・! 折原!」

浩平 「間に合ってくれたみたいだな。三大公の一人、ランベル公倉田高峰が娘、倉田佐祐理」

一弥 「姉さん!」

舞 「佐祐理」

新たに現れた兵団は騎士団のものでも旅団のものでもなく、ランベル公が有する軍だった。
そしてそれを率いて現れたのは、公爵の長女の倉田佐祐理。
若いながらに文武両道に秀で、将来的にはヴェルサリアの要職につくと言われている才色兼備の女性であった。

佐祐理 「あははー、これ以上の無益な戦いは許しませんよー」

どこかのんびりした、しかし有無を言わせない意志を込めた言葉を佐祐理は放つ。
そして、ランベル公の兵団を率いて現れたということは、佐祐理はその代理人ということになる。
三大公が相手とあっては、騎士団もおいそれと手出しはできない。
また、倉田公は反貴族派に好意的であるため、旅団としても敵に回したくない相手なのだ。

しかし、それすらも無視しようとする者が一人だけいた。

音夢 「・・・どいてくれませんか、倉田さん」

佐祐理 「いいえ、この戦いを佐祐理は容認することはできません」

馬から下りた佐祐理と、音夢との間で火花が散る。
一戦も辞さない覚悟の音夢に対し、佐祐理はしかしあっさりと道を空けて微笑みかける。

佐祐理 「ですけど佐祐理は、お兄さんを思う妹さんの邪魔をしたりはしません。騎士団の隊長としてのあなたを通すわけにはいきませんが、あなた個人を止める権利はありませんから」

思わぬ言葉にぽかんとする音夢だったが、佐祐理の意味するところにすぐ気付いた。

音夢 「わかりました」

一度音夢は後方の自軍へと振り返る。

音夢 「一旦後退、別命あるまで待機してください! 向こうが手を出してこない限り、決してこちらからは動かないように!」

その命令は即座に伝令の手で全軍に伝えられ、鎮圧軍は本陣の場所まで後退する。
途中までそれを見届けてから、音夢はボルムザの町へ向かって駆け出し、さくらと美春もそのあとを追った。
三人を見送ってから、佐祐理はベイオウーフのもとへと歩み寄る。

佐祐理 「ベイオウーフさん、ここは佐祐理の顔を立てて、兵を退いてはくれませんか?」

ベイオウーフ 「しかし・・・」

佐祐理 「お願いします」

佐祐理はベイオウーフに向かって頭を下げる。
三大公の娘ともあろう者が、一介の在野の者に頭を下げたのである。
こうまでされて我を通すわけにもいかなかった。

ベイオウーフ 「・・・承知しました・・・」

納得のいった顔ではなかったが、ベイオウーフは一時兵を退かせた。
間接的とはいえ、雪花旅団は倉田公の庇護を受けている。
ここで公爵を敵にまわすわけにはいかないのだ。
それを計算の上で彼女を呼んだ浩平を一度睨みつけてから、ベイオウーフは全軍に後退命令を出した。

浩平 「ちょっと待った。一つ聞いておきたいんだが、何だって突然兵を動かした?」

ベイオウーフ 「グスタフの助言だ。近い内に首都で混乱が起こるから、今兵を動かすのが最適だと」

浩平 「そんな情報、グスタフはどこで仕入れたんだ?」

首都での混乱。
それが果たして浩平達の行動を指しているのか、それとももっと別の何かが起こるというのか、それはわからなかった。

ベイオウーフ 「確かな筋からの情報と言っていた。出所は・・・・・・」

その名を聞くと、浩平の眉が僅かに釣りあがる。

浩平 「・・・・・・そうか」

ベイオウーフが去った後でも、浩平はその名を胸中で反芻する。
それは、王女誘拐の際に浩平達に情報をもたらした者と同じ名だった。
正体は知れないはずなのに、何故か確かな筋とわかる情報の持ち主。
もっとも、それが誰であるのかの目星はついていた。

浩平 「何を考えてるんだ、あいつは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく