Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−9

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三方から押し寄せてくる反乱軍に対し、最初は不意をつかれた鎮圧軍だったが、体勢を立て直すのに時間はかからなかった。
敵の規模を即座に分析し、部隊を三つに分けてそれぞれに対処する。
正面からの衝突となれば、練度も統制も遥かに上の騎士団に分があった。

左右の敵の規模がそれほど大きくないと判断した音夢は、両翼を部下に任せて美春、さくらと共に中央についた。
そこを突破すれば、敵の頭を直接叩ける。

さくら 「頭を叩けば、敵はすぐに総崩れだよ。者ども、かかれー!」

本人は気合が入っているのだが、聞くと気が抜けるような声だった。
もっとも、七番隊ではこれが普通なので、皆既に気にしていない。
個人の戦闘力や統率力なら音夢が上だが、戦術に関してはさくらは定評がある。
そこが部下達からの信頼を得ている理由だった。

杉並 「そう。断じて、さくらたん萌え〜、によって七番隊が統率されているわけではないのだ」

バキッ

いきなり出てきて余計なことを口走った杉並は、“次元の断層”に衝突してはるか後方へ吹っ飛んでいった。
もはや杉並のボケに付き合っている気も起きない音夢は、それ以上そちらには構わず前だけを見据えている。

美春 「今日は杉並先輩に同情してる場合じゃありませんから・・・南無」

さくら 「それにしても相変わらず音夢ちゃんの裏拳は天駆けちゃいそうだよね〜」

音夢 「二人とも! 余計なお喋りはしないで、早く前線を突破しますよ!」

一見冷静に見えるが、実際には音夢は焦っていた。
人前では優等生を演じているが、本当は誰よりも兄を慕う妹なのだ。
時には兄のために前後の見境がなくなることもある。
だが今度ばかりはその純一の命がかかっているため、美春もさくらも音夢を諌めない。
彼女達もまた、純一の安否を誰よりも気遣っているのだ。

さくら 「(お兄ちゃん・・・)」

美春 「(朝倉先輩・・・)」

音夢 「(兄さん・・・無事でいて!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その純一は、ピンチがさらにピンチになりつつあった。

純一 「(まずい・・・)」

目に見える敵は一人。
だが他にも数人に取り囲まれている。
しかも、ことりとの間がその一人の敵に阻まれているのだ。
下手に動けばことりが危ない。
幸い、腕の傷は掠っただけのようだ。

純一 「・・・・・・(こうなりゃ、少し無茶だが)」

腰の刀に手をかける。
相手が反応するより早く踏み込み、抜刀する。

ギィンッ

抜きつけの一撃はカタールのような相手の武器で止められるが、今のはあえて止めさせるために速さを抑えたのだ。
動きの止まった純一に向かって、複数の殺気が押し寄せる。
右上の窓を破って二人目の敵が襲ってくる。

純一 「そらっ!」

刀を持っていない方の手で手裏剣を投げつける。
致命傷を与えるものではないが、敵は思わずガードをする。
一人目を蹴倒し、降りてきた二人目に対して剣を振るう。

ザシュッ

純一 「一人!」

さらに二人、背後から襲いくるのに対して斬りつけた。

純一 「二人に三人・・・」

四人目には逆手に持った刀を突き刺し、その腕を取って最初に蹴倒した相手の上へ思い切り落とす。

純一 「・・・五人。これで全部か」

敵の襲撃速度はかなりのものだったが、純一がそれを迎撃する時の速さをさらに上回っていた。
普段はかったるいが口癖の冴えない男と評価されているが、伊達に十三騎士団の副長を務めているわけではない。

純一 「一応昔は音夢より強かったんだぜ。ガキの頃の話だけどな。まったくあの妹はいつの間にあんなに戦闘力が高くなってしまったのやら・・・」

ことり 「朝倉君、大丈夫?」

純一 「それは俺の台詞だろうが。無茶しやがって」

駆け寄ってきたことりの腕を取ると、純一は素早く手当てをする。

ことり 「えへへ、ごめんなさい」

ぺろっと舌を出して謝ることりを、純一はかわいいと思ってしまう。
女に護られるのは男としてどうかと思うが、ことりは自分のために傷を負ったのだ。

純一 「いや、サンキュな」

だが同時に、妙な感じもした。

純一 「・・・なぁ、ことり」

ことり 「・・・・・・」

問いかける純一に対し、ことりは気まずそうに目を逸らす。
その態度から、明らかにことりが何かを隠しているのはわかったが、あえて追求はしなかった。

純一 「ここも見付かった以上、移動するしかないな」

ことり 「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が行われている地点から少しボルムザの町に向かった辺りに、反乱軍の本陣が敷かれていた。
浩平は周りの者が呼び止めるのも聞かず、一気に中に駆け込んだ。

浩平 「ベイオウーフ!」

ベイオウーフ 「折原か。何の用だ?」

浩平 「何の用だ、じゃねぇこのすっとこどっこい。今すぐ兵を引け」

旧知の仲である二人の間に遠慮はない。
だが、浩平の言葉に対してベイオウーフが耳を傾けることもなかった。

ベイオウーフ 「今さらあとには退けん。このまま一気にカザフまで攻め込む」

浩平 「アホかおまえは。この程度の兵力で十三騎士団の相手ができるとでも思ってるのか? このままいけば、首都に攻め込むどころかここで全滅だぞ」

ベイオウーフ 「既に3000近い兵力が集まっている。カザフに着くまではこの倍以上がさらに加わる見通しだ」

浩平 「3000くらいで勝てる相手かよ。敵の指揮官は、朝倉音夢だぞ」

ベイオウーフ 「強いと言われていても所詮子供だ。付け入る隙はある」

浩平 「そういうレベルの相手かよ」

話はいつまで経っても平行線を辿る。
あくまで兵を退くように説く浩平に対し、ベイオウーフは頑なに進軍を唱える。

ベイオウーフ 「折原、おまえのやり方は生温い。それではいつまで経ってもこの国は変わらん」

浩平 「いたずらに血を流して、その先に何がある!?」

ベイオウーフ 「変革は常に犠牲の上に成り立つものだ!」

ついには互いの思想の違いをぶつけ合うまでになる。
こうなるとどちらも一歩も退かない。

浩平 「(思ったとおりの石頭だが・・・ここまでとはな。こうなったら切り札が到着するまでみさき達に粘ってもらうしかないか・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反乱軍兵 「う、うわぁぁぁ!!!」

前線の兵士達が恐怖のあまり後ずさる。
目の前で繰り広げられている信じられない光景に恐れをなしているのだ。
数十人の兵達が、たった一人の少女の手によって倒される光景に・・・。

音夢 「もう終わりですか? でしたらそこを通させていただきます」

二本の剣を構えて立つ音夢は、息も切らしていない。
圧倒的存在感はもはや敵を一切寄せ付けなかった。
だが、音夢の方は遠慮なく前進する。
音夢を先頭にした鎮圧軍がこのまま進めば、反乱軍の主力部隊が総崩れになるのも時間の問題に思えた。

音夢 「・・・・・・」

眼前から敵がいなくなったと見た音夢は、一気に突破するべく駆けだそうとした。
しかし、一歩を踏み出す寸前で気配を察知して後ろへ跳んだ。

パンッ!

光が弾けて、音夢の立っていた場所に結界が生まれる。
取り込まれていたら、音夢と言えども脱出は困難だったろう。

蒼司 「そう簡単にかかってはくれませんね」

みさき 「だね」

音夢 「あなた達は・・・」

反乱軍の前に立って音夢と対峙する四人に、音夢は覚えがあった。

音夢 「折原さんの仲間」

一弥 「この戦いは不毛です。兵を退いてください」

音夢 「先に仕掛けてきたのはあちらの方です。向こうが退かない限り、こちらも退くわけにはいきません」

蒼司 「雪花旅団のリーダーは、浩平さんが説得しています。ですから、それまで待ってくれませんか。あなた方も」

四人の最後尾にいる蒼司が、後ろにいる反乱軍兵達にもそう頼みかける。
予想外の事態に、兵達は戸惑いを隠せずにいるようだ。
ざわついているだけで動きがない。

みさき 「退いてくれないかな?」

音夢 「・・・お断りします。兄さんが敵の真っ只中にいるんですから」

一弥 「それも僕達でなんとかします」

音夢 「待ってられません!」

こと兄に関しては、音夢は頑なだった。
互いに譲れないとなれば、力ずくしかなかった。

舞 「・・・ここで押さえる」

一弥 「そうですね。四人がかりなら、何とかなるでしょう」

四人は、蒼司を後方に据え、一弥が先頭、みさきと舞が両脇を固める得意のフォーメーションを取る。
これが四人同時攻撃の、もっとも高い攻撃力を発揮する形だった。

音夢 「邪魔をするなら・・・」

対する音夢は、正面からそれに向きあう。

みさき 「行くよ!」

両脇の二人が左右に散る。
同時に一弥が大剣を振りかぶって突っ込み、蒼司が魔法を放つ。
一弥の攻撃に先駆け、蒼司の放った光の矢が音夢を襲う。

音夢 「!!」

飛来する光の矢の軌道を見切り、真っ直ぐ進む姿勢のまま音夢はそれらをかわす。
そこへ、間髪入れず一弥の攻撃。
振り下ろされる斬撃に、さしもの音夢も後退させられる。
さらに両側からみさきと舞の同時攻撃。

舞 「・・・もらった!」

みさき 「おとなしくしてもらうよ」

到底回避できないタイミングで左右から同時に剣が打ち込まれる。

音夢 「ハッ!」

ギギィンッ!!

だが音夢は、双剣をもって左右からの攻撃を同時に弾き落とした。
バランスを崩した二人の内の片方、みさきに対して音夢は剣の柄頭を叩き込む。

ガツッ

みさき 「っ!」

肩を強く打たれたみさきは数メートル吹っ飛んでうずくまる。
一瞬早く体勢を立て直して次の攻撃に移った舞だったが、その剣は双剣を交叉させた音夢によって受け止められる。
双剣で挟み込んだ剣を押さえ込みながら、音夢は舞の腹部目掛けて蹴りを入れる。

舞 「くっ・・・!」

一弥 「舞さん! この・・・!」

正面から一弥が再び突撃を仕掛ける。
だが突き出した剣は音夢によってあっさり止められた。

音夢 「ふん!」

一弥 「うぁ・・・!」

受け止めた大剣の自重を利用して、音夢はその剣を地面に押さえつける。
体の自由を奪われて硬直した一弥の首筋に向かって、音夢は強烈な一撃を加え、その反動をもって大きく跳躍した。

蒼司 「!!」

先ほどの結界魔法を再び発動させようとしていた蒼司の目の前に、音夢は音もなく降り立った。

ドゴッ

蒼司 「がはっ!」

相手にまったく反応する間も与えない音夢の拳が、蒼司の水月に打ち込まれる。
辛うじて気は失わなかったものの、蒼司は立っていられずに膝をついた。

音夢 「・・・・・・」

先へ進もうとする音夢の前に、みさきと舞が立ちはだかる。
後ろには、一弥も剣を構えている。

音夢 「まだやるつもりですか?」

舞 「・・・もちろん」

みさき 「ここを通すわけにはいかないからね」

一弥 「まだまだこれからですよ」

蒼司 「・・・・・・」

四人とも、まだ闘志は衰えていない。
しかし、凄まじい気迫を見せる四人をもさらに圧倒するほど、音夢の放つ気迫が大きかった。

音夢 「私は、兄さんを助けに行かなくちゃいけないの。だから・・・どきなさいっ!」

 

 

 

騎士団側の残り二人の前には、美凪とみちるがやってきていた。

美凪 「・・・ちゃお、再び」

美春 「ま、またあなたですか〜?」

みちる 「にょわっ、みちるよりもチビだこいつ」

さくら 「うにゃ〜、そういうの面と向かって言うのは失礼だよ〜」

激しい戦いを繰り広げる音夢達の方とは違い、こちらは向かい合っているだけでどちらも手を出さない。
というよりも、一人が動かないから、他の三人も動かないのであったり、或いは動けないでいるのだ。

さくら 「・・・・・・(この人、音夢ちゃんと同じくらい強い、かも・・・)」

どこかぼけっとした雰囲気のする長身の銀髪少女。
だがそこに秘められた実力がただならぬものであることを、さくらも美春も感じ取っていた。
迂闊には動けない。
そうなるとそれは、美凪側の望むところと言えた。
時間稼ぎをしろと、そう言われてここへ来ているのだから。

美凪 「・・・・・・あちらは・・・」

美春 「はい?」

美凪 「・・・あちらはもう決着がつきそうです」

視線の先には、音夢とみさき達四人の姿があった。
四人は善戦していたが、圧倒的な戦闘力を見せ付ける音夢の前にはもう何分ももちそうにない。

美春 「音夢先輩ですから。音夢先輩は絶対に負けませんよ」

美凪 「・・・困りました」

美凪の実力なら音夢の足止めはできる。
だがそうなると今度は美春とさくらがフリーになる。
それに、大将格である三人をとりあえず抑えてはいるが、戦闘は尚も続いており、状況は悪化する一方だった。
最前線で戦っている音夢の姿が、鎮圧軍側の士気を高め、逆に反乱軍側の士気を下げている。
その桁外れの強さは、味方からすれば軍神、敵からすれば悪魔のように写ることだろう。

美凪 「・・・(万事休す、です。どうしましょう、国崎さん)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

往人 「・・・・・・」

ボルムザの町外れで、往人は屋根の上に立っていた。
探し人である白河ことりと、朝倉純一の行方はしっかりと追っている。
同時に、それを包囲している反乱軍の部隊のことも。

往人 「町中にいる兵力に対して、動いてるのはほんの一部か。狙いは何だ?」

白河ことりに朝倉純一という存在が周りにどういう影響力を持つのか、往人は知らない。
もっとも、純一の方は七番隊の副長であり、孤立している時に叩けば騎士団の戦力をそこそこ割くことはできるだろう。
追っているのが反乱軍の兵士達だけならば彼らだけでも切り抜けられないことはないだろうが・・・。

往人 「・・・妙な気配を感じるな。やっぱ助けてやった方がいいんだろうな」

往人は二人と、それを追う妙な気配のある方へ向かって駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく