Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥーリアを出発してから二日。
残り半日ほどでゴリアテに到着するが、一方で騎士団の軍勢も一両日中にはゴリアテに達するだろう。
つまり、半日以内に雪花旅団を説得して侵攻をやめさせる必要があった。
だが、事態は浩平達が思っていたよりも早く、しかも悪い方向へと進んでいた。

みさき 「・・・?」

浩平 「どうした、みさき?」

みさき 「うん・・・少し離れたところなんだけど、人が大勢集まってる気配がする」

往人 「ああ、俺もちょうど見つけた」

浩平 「って、みさきはわかるけど何で国崎もわかるんだ?」

往人 「それとなく周囲を探ってたからな」

盲目であるみさきは、音で周囲の状況を知ることができる。
しかもかなり遠くの音まで聞きとおすことができるので、広範囲の情報を知ることができた。

往人の場合は少し違うが、やはり広範囲の情報を集める術を持っていた。
浩平達に種明かしはしないが、人形を操る術を応用して、小さな式を周囲に飛ばしているのだ。
彼の法術は元来こうした使い方をするもので、断じて売れない芸をするためだけのものではない。

往人 「ざっと300人、ってところか。重装備ってわけじゃないが、武装してる」

浩平 「雪花旅団か・・・先手を打って騎士団に奇襲をかけるつもりか!」

往人 「どうやら事態はもっと深刻だぜ。こっちは遠くてよくわからないが、街道を囲むように四箇所くらいに部隊が配置されてる。中央で待ってる本隊を合わせれば数はざっと・・・・・・・・・」

浩平 「・・・ざっと?」

往人 「・・・最悪だな。数は2500を下らん」

浩平 「ジーザス・・・」

鎮圧軍よりも多い。
まさかこれだけの兵力が雪花旅団のもとに集結しているとは誰が思うだろうか。
騎士団に数の有利がなくなった以上、戦いになれば泥沼化は必至であろう。
しかも、旅団の方から攻撃を仕掛けてしまえば止める事は困難を極める。

蒼司 「場所的に、本隊が陣取っているのはボルムザの町」

浩平 「予定変更だ。とにかく戦いを止めに行く」

往人 「今からじゃ到底間に合わないぞ」

浩平 「それでも行くさ。指をくわえて見ているわけにはいかないんだ」

いつになく真剣な浩平の表情が、事態の深刻さを如実に表している。
それを見て、全員の顔が引き締まる。

浩平 「行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、純一は部隊に先駆け、杉並を連れてボルムザの町へやってきていた」

杉並 「さすがだな、朝倉。この辺りの地形は待ち伏せするに適している。もしやと思うのは大事だぞ」

純一 「かったるいんだから、何もなければそれに越したことはないんだが・・・」

さくらの言葉や、自分自身でも抱いている嫌な予感のためにここまでやってきた。
この辺りは、首都まで続く細い道が存在しているのだが、2000の軍勢が行軍するには小さすぎるため、部隊は迂回している街道を使っている。
だが、直接繋がる道を使えば、カザフとゴリアテの間で早い情報交換ができる。
もし、純一達の動きが反乱軍側に筒抜けだったとしたら。

純一 「・・・俺なら、ここで待ち伏せるな」

杉並 「俺もそうする。考えることは同じだな、朝倉よ」

純一 「敵にそこまで切れる奴がいないことを願うよ、俺は」

交差点に差し掛かったところで、ばったりという感じで純一の前に現れたのは・・・。

ことり 「朝倉君!?」

純一 「ことり!? な、何でおまえがこんなところにいるんだわかりやすく手早く簡潔かつ明瞭に20字以内で説明せよ」

ことり 「そ、それはちょっと難しいッスよ・・・」

混乱している純一に対し、ことりは苦笑いを浮かべる。
その二人の様子を見ながら、杉並はおもしろいことになったと感じてほくそえむ。

ことり 「実は・・・相沢さんから朝倉君への言伝を頼まれて」

純一 「相沢先輩から?」

ことり 「この町で待ってれば通るかなって思って先回りしたの」

杉並 「さすがだな白河ことり。その洞察力には感服する」

ことり 「いえいえ、杉並君にはかないませんとも」

純一 「それで、何なんだ、伝言って」

ことり 「えっとね・・・」

ピュッ・・・トンッ

その時、三人のすぐ近くに一本の矢が突き立った。
僅かに外れたが、明らかに純一達を狙ったものだ。

純一 「まずい、伏せろ!」

杉並を突き飛ばし、純一自身はことりを押し倒しながら身を低くする。
そしてそのままの体勢で素早く物陰に入り込んだ。

純一 「嫌な予感的中かよ。くそ、かったりぃ」

杉並 「うむ、我ながら見事な読みだった」

純一 「言ってろ。敵は・・・」

思い返せば町に着いた時から様子がおかしかった。
決して小さな町ではないのに人気がなさすぎたのだ。
何かあって然るべきだったのだが、気付くが遅れた。

純一 「ことり、大丈夫か?」

ことり 「う、うん・・・」

こんな状況ではあるが、ほとんど純一と密着している状態に、ことりは顔を赤らめていた。
それを悟られないように顔を伏せる。

ことり 「(う〜、音夢さくらちゃん美春ちゃんごめん。不可抗力だからね)」

純一 「杉並、戻って音夢に敵のことを伝えろ」

杉並 「おまえを置いてけというか、朝倉」

純一 「これは副長としての命令だ。音夢とさくらに現状を伝えろ、大至急だ!」

杉並 「わかった。ではさっそく戻っておまえと白河ことりが二人手を取り合って敵中にあることをしっかりと伝えよう」

純一 「てめぇ・・・かったるいこと言ってないでさっさと行け!」

先ほど突き飛ばす時、杉並は咄嗟に路地裏に入り込んだ。
そこからなら各地の地理を熟知している杉並なら無事町の外まで行ける。
問題は純一とことりの方だった。
逃げ込んだ場所が積まれていた荷物の影だったため、弓に狙われている状態では出るに出られない。

ことり 「ごめんね・・・いきなり来ていきなり足手まといになって」

純一 「ことりのせいじゃない。俺が浅はかだった」

せめて弓を持っている相手がどこにいるかがわかればどうにかなるのだが、このまま時間がたてば敵が集まってくるだけだ。

ことり 「・・・・・・交差点の反対側、二番目の家の屋根」

純一 「え?」

ことり 「そこに一人いるよ。あとは、左側、三番目の家の屋根」

何故それをことりがわかるのか、ということを問いただすよりも先に、純一はさっと顔を出して指定された場所を確認する。
上手く隠れているが、確かに二箇所に弓を持った人間がいる。
矢の刺さった角度からも、その相手が放ったことが確認できた。

純一 「(もう一人の方はまだ放ってない。片方を気付かせて、後ろから狙うつもりか)」

そうとわかれば対処のしようもある。
幸い、さくらの趣味でこういう時に役立つアイテムを所持していた。

純一 「ことり、合図したらあそこに見える路地に駆け込め」

ことり 「うん、わかった」

純一 「それまでは動くなよ」

そっと純一はことりの体から手を離す。
もう一度標的の姿を確認してから、懐に手を入れる。

純一 「(まさかさくらの趣味が役立つ日が来るなんてな)」

手の中にある感触は、手裏剣だった。
さくらは何故か、刀だの手裏剣だのの道具や、義理や人情といった東方の文化やら風習に興味があった。

ダッ

地面を蹴って道に飛び出した純一は、まず右側の射手にしか気付いていない振りをする。
そこから後ろを見ないで手裏剣を左側の射手に向かって放つ。

「ぐぁっ!」

見事命中。
続いて右側の相手にも投げ、同じく命中した。

純一 「走れ! ことり!」

ことり 「うん!」

周囲に気を配りつつことりを先に行かせ、自らも路地へと駆け込んだ。
間一髪、後方から人の集まる気配を感じた。
もう少し遅ければ逃げ出す機会を逸していた。
だが、まだ安心というわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

往人 「(また面倒くせぇことになってるな・・・)」

ボルムザの町で起こっている出来事を、往人は全て“見て”いた。
本人がそこにいるわけではなく、放った式が見ているものを自分も見えるようにしているのだ。

往人 「(これもあんたの計算の内かよ、相沢)」

とにかく、このまま放っておけば泥沼化は必至だろう。
何とかしなくてはならない。

往人 「おい、折原」

浩平 「何だ?」

往人 「野暮用ができた。俺はここからは単独行動をとらせてもらうぜ」

浩平 「何?」

往人 「じゃあな」

浩平 「待て国崎。それは、必要なことなのか?」

往人 「ああ。結果としておまえらには有益になる。上手くいけばの話だが」

浩平 「わかった。おまえの判断に任せる」

そんなに信用していいのか、と思いつつ往人はボルムザの町を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杉並 「一大事だぞ朝倉妹&芳乃隊長殿!」

本陣に駆け込むなり、杉並は大声で叫ぶ。
何事かとそこにいた三人、音夢、さくら、美春の視線が集まる中、さらに爆弾を投下する一言を放つ。

杉並 「朝倉が白河ことりと駆け落ちをした」

美春 「ええ〜!!?」

さくら 「うにゃにゃ〜!?」

爆弾発現に対してさくらと美春が声を張り上げる。
一方の音夢は声を上げるのも忘れるほど当惑した表情で立ち上がり、無言で杉並の胸倉を掴むと前後に激しく揺さぶった。
そこでようやく我に帰ってパニックに陥った。

音夢 「どどどど、どういうことですか杉並君!? わかりやすく迅速簡潔かつ明瞭に20字以内で説明しなさい!」

杉並 「うむ、さすがは妹。リアクションが朝倉にそっくりだ。というかこう前後にシェイクされていては話ができんぞ」

ひとしきり杉並をシェイクし終えた音夢は、ぜえぜえと肩で息をしながら呼吸を整える。
落ち着いたところで、裏モードでにっこりと微笑みかける。

音夢 「説明してくださいますかしら、杉並君。答え次第では命はないものと思ってくださいね」

表情と台詞があっていないため、端から見ていると非常に怖い。
特に音夢の場合これが冗談になってないことを知っている美春などはすっかり縮こまっていた。

杉並 「まぁ、今のは冗談なんだが、一大事なのは確かだ」

音夢 「はぁ・・・・・・。それで、なんなんですか?」

疲れた顔でため息をつき、音夢は改めて杉並に問いかける。
そこへ、伝令役が飛び込んできた。

伝令 「隊長! 反乱軍の待ち伏せです! 方々から押し寄せてきます!」

音夢 「何ですって!?」

杉並 「うむ、だから一大事と言ったろう」

音夢 「早く言ってくださいっ、そういうことは!」

杉並 「ついでに言うと、朝倉と白河ことりが敵に囲まれた状態でボルムザの町に取り残されている」

音夢 「兄さんが!?」

美春 「どうして白河さんまでいるんでしょう?」

さくら 「今はそういうことを追及してる場合じゃないと思うな」

兄の安否を思って取り乱しかけた音夢だったが、すぐにきりっと表情を引き締める。

音夢 「隊をまとめて、応戦してください。それと、敵の正確な規模をすぐに調べて」

伝令 「は!」

音夢 「・・・兄さんの不安が的中した・・・」

杉並 「俺もだぞ」

音夢 「杉並君は黙っててくださいね」

美春 「杉並先輩は、今音夢先輩に話しかけない方がいいと思います」

音夢 「美春、さくらちゃん、行くわよ!」

美春 「らじゃー!」

さくら 「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「くそ、もう始まっちまってるのか」

離れていても聞こえる戦いの音。
人の叫び声や、足音、剣と剣とが打ち合わされる音、そして何より渦巻いている殺気だった空気。
この空気が心の中の興奮を呼び覚まし、人を戦いの渦中へと誘う。
逆にそうでもしなければ、戦場という空間では正気を保っていられない。

さやか 「騎士団の鎮圧軍2000、雪花旅団の反乱軍2500。実力は騎士団の方が上だから、ほぼ互角ってところだね」

蒼司 「けど、反乱軍の方が奇襲を仕掛けてるわけですから、鎮圧軍の側が混乱していたら・・・」

一弥 「どっちにしても、いい状況にはなりませんよ」

浩平 「とにかくだ。雪花旅団のリーダー、ベイオウーフを説得して兵を引かせる。頭の固い奴だが、俺が話せば何とかなる」

みさき 「じゃ、その間わたし達は騎士団の足止めだね」

みさきの言葉に、蒼司、一弥、舞の三人も頷く。

浩平 「相手は、朝倉音夢だぞ」

十三人の隊長の中で最年少、しかし最強の一人とされる相手である。
かねてより浩平は、音夢と三番隊の斉藤にだけは手を出さないようにしてきた。
だが今回ばかりは、みさき達に任せるしか手がなかった。

浩平 「・・・遠野、おまえも行ってくれるか?」

美凪 「・・・はい、おっけーです」

浩平 「さやかは?」

さやか 「ごめん。行ってあげたいのは山々なんだけど、私も国崎さんと一緒でちょっと野暮用」

浩平 「そうか、なら仕方ないな」

他の四人と違って、さやかは浩平の部下ではない。
いや、浩平にとってはみさき達も仲間であって部下ではないのだが、とにかくさやかだけは立場が違う。
本来は一弥以上にこの場にいて問題のある人物なのだ。

さやか 「手が空いたら応援に行くよ」

浩平 「頼む。みさき達も、無理はするなよ。ベイオウーフを説得する時間を稼げればいい」

みさき 「わかってるよ」

蒼司 「ええ」

一弥 「はい」

舞 「はちみつくまさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びボルムザの町。
純一とことりの大ピンチは続いていた。

純一 「まいったぞ」

既に町の外で戦闘が始まっているのは空気でわかる。
だが、この町には尚も反乱軍の兵が一部残っているらしく、容易には動けない状況だった。
純一だけならば強行突破できないこともないが、ことりもいてはそれは無理である。

ことり 「ごめん」

純一 「馬鹿、その台詞は言うなよ。女を見捨てて自分だけ逃げたら男が廃るだろうが」

女は大事に、特にそれが大切な人ならば全力で護る。
それが純一の尊敬する先輩の言葉であり、何より彼自身幼い頃から実践してきたことだ。
口に出して言うことは決してないが。

純一 「おまえが俺が護るさ」

ことり 「・・・・・・」

それが自分だけのための言葉だったらどんなに嬉しいか、などとことりはこんな状況でありながら思ってしまった。
だが残念なことに、まだ純一の中にいる女性は自分だけではないこともことりはよく知っている。

ことり 「・・・?」

ふと、ことりはあることが“聞こえた”。

ことり 「! 朝倉君危ない!」

それを感じ取った時、思うより先にことりは純一を突き飛ばした。

ヒュッ・・・ガキッ!

純一 「な・・・!」

一瞬後、純一のいた場所に刃が突き落とされる。
目標を失った刃は、ことりの腕を掠めて地面に刺さった。

ことり 「あぅっ・・・」

純一 「ことり!」

襲撃者 「ちぃ!」

襲ってきた黒い影は、地面に刺さった刃を抜いて純一に向かって再度攻撃を仕掛ける。
気配を消すのが上手い相手だが、一度見えてしまえば純一にかわせない攻撃ではなかった。
しかし、注意すべきは目の前の相手だけではない。

ことり 「朝倉君! 他にも・・・」

純一 「わかってる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく