Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「早まったな、あいつら」

現在、カザフを出た浩平達は隣町のトゥーリアに潜伏していた。
数日中にはここも出て、さらに東に位置するランベルへ行くという。
そこが浩平達の拠点だった。

往人 「ランベルねぇ・・・」

ランベル領を治めるのは、三大公の一人倉田高峰。
どうやら大方の予想通り、浩平達を裏で支援しているのは彼と見て間違いなかった。
もっとも、その息子である倉田一弥がこの場にいる時点で往人は予想していたことだが。

往人 「(さっそくネタ一つ・・・だが相沢の奴、連絡のつけ方はあとで教えるとか言ってたが・・・)」

今のところ何もない。
それを気にしても仕方ないので、今は浩平に雇われた者としてやることをやるだけだった。

往人 「んで、その雪花旅団ってのは何なんだ?」

つい昨日、北東の町ゴリアテで反乱が起こったという知らせが届いてから、浩平達が慌しくなっている。
しきりに人が出入りし、情報を分け合っている。
それを取りまとめている浩平は非常に多忙だった。

蒼司 「簡単に言えば、過激派・・・ですね」

往人 「ほう? 王女誘拐なんてやる連中は過激派じゃないのか?」

蒼司 「浩平さんが今回ほど大っぴらに動いたのははじめてですよ。僕達は、戦火を起こすことが目的じゃありませんから」

あくまで穏便に、それが浩平達の活動理念だという。
甘いとは思うが、無駄な血を流すことが良いとも言えない。

浩平 「ふぅ」

蒼司 「お疲れ様です。それで、どうするんです?」

浩平 「ああ、どうやら騎士団も動いた。六番隊と七番隊が兵2000を率いて明日朝にもカザフを出るらしい」

往人 「反乱の規模はどんなもんなんだ?」

浩平 「情報じゃ500ってことだが・・・俺の見立てではそんなものじゃない」

珍しく、浩平の顔に僅かだが苦渋の色が浮かんでいる。
よほどこの事態を重く見ているのだろう。

浩平 「今はこんなことしてる場合じゃねぇってのに・・・」

往人 「ここへ来た時に聞いた“あの話”、マジなのか?」

浩平 「間違いない。だからつまらないいざこざをやってるわけにはいかないんだよ」

“あの話”というのが本当ならば、確かにそうだろうと往人も思う。

往人 「それにしてもタイミングが良すぎないか? 何だってこう次から次へと・・・おまえの誘拐未遂、“あの話”に、今回の雪花旅団とやらの反乱・・・まるで・・・・・・」

浩平 「ああ。まるで誰かが裏で糸を引いているみたいだ。いや、まず間違いなく、な。俺達は、誰かの意志に基づいて動かされている」

往人 「誰だ?」

浩平 「目星はついてる。俺達にパレードに関する情報を流した奴だ」

往人 「それは?」

浩平 「・・・・・・・・・いや、今はよそう。さっさとランベルに戻って思い切り寝たいところだが、雪花旅団の一件を放っておくわけにはいかない。ゴリアテに行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌早朝。
首都カザフ、教会の礼拝堂――。
普段はあまり訪れないその場所に、祐一はやってきていた。
そしてすぐに、目当ての人物を発見した。

祐一 「よ、おはよう、白河ことり」

ことり 「相沢さん? どうしたんですか、こんな朝早くにこんな場所で」

声をかけた相手は、この場所ともあいまって神秘的とさえ言える美しさを醸し出す一人の少女だった。
白いベレー帽がよく似合っていて、普段はもっと明るい笑みを浮かべるのだが、今は少し表情が硬い。
その理由が自分にあることを祐一は知っているが、あえて追求はしなかった。

祐一 「まぁ、用がなければこんな場所とは無縁だろうな、俺は」

ことり 「そんなこと・・・」

祐一 「いいや。俺は神に祈る資格を持たない男さ。おまえにならわかるだろ」

ことり 「はぁ・・・」

どう答えていいかわからず、ことりは曖昧な笑みを見せる。

祐一 「おまえに頼みがあって来た。実は朝倉に伝えてほしいことがある」

ことり 「朝倉君に? ご自分で伝えればいいんじゃ・・・」

祐一 「当分会う機会がなさそうなんでな。頼まれてくれるか?」

ことり 「構いませんけど・・・」

祐一 「といっても、朝倉の奴にはわざわざ言うこともないし、むしろ妹の方かもしれないんだが・・・」

ことり 「音夢?」

祐一 「とにかくこう伝言してくれ。敵はしっかり見定めろ、ってな」

ことり 「そう伝えればいいんですか?」

祐一 「ああ。ちなみにあいつらはついさっきゴリアテに向かって出発したところだ」

ことり 「それじゃあ、伝えようがないじゃないですか」

ことりが苦笑するが、祐一は真面目な表情で続ける。

祐一 「追いかけてって伝えろ」

ことり 「ゴリアテまで、ですか?」

祐一 「そこで会えなけりゃどこまでも」

先ほどまでは少し硬くても笑顔だったことりだが、今度はその表情が完全に消える。
探るような眼差しを祐一に向けるが、すぐに瞳には当惑の色が浮かぶ。

ことり 「・・・やっぱり相沢さん・・・・・・今の祐兄さんが何を考えているのかわからない・・・」

祐一 「俺の心が読めないからか?」

ことり 「そうじゃない。祐兄さんとさやかお姉ちゃんの心は昔から読めなかったけど、それでも一緒にいて全然気にならなかった。けど、今は・・・・・・・・・少し、あなたが怖い」

祐一 「わからなくていいさ。わかっても、おまえが困るだけだ」

一瞬、笑みを浮かべた祐一に、ことりは昔の“兄”の姿を見た。
だがすぐに、元に戻る。

祐一 「とにかく行って、朝倉の傍にいろ。或いはさやかを頼ってもいい」

ことり 「さやかさんもいるんですか?」

祐一 「おそらく、あいつもゴリアテに向かってるさ」

ことり 「・・・わかりました」

 

 

 

教会から出ると、そこで栞が待っていた。

祐一 「どうした?」

栞 「いえ、別に。あの人、聖歌隊の白河ことりさんですよね。お知り合いだったんですか?」

祐一 「白河の家には昔世話になってたことがあってな。そこでことりと、エリスと、それにもう一人さやかってのとで遊んだりしたもんさ」

栞 「・・・なんか、女の人ばっかりですね?」

祐一 「妬いてるのか?」

栞 「少し」

祐一 「兄弟みたいなもの、それだけだ」

栞 「でもなんか・・・ちょっと羨ましいです」

祐一 「何がだ?」

栞 「だって祐一さん・・・たとえ離れてても、その人達との絆は強いみたいな顔してます」

ぶすっとする栞に対し、祐一は苦笑してみせる。

祐一 「今の俺を相手に、表情から感情を読み取れるのはおまえだけだよ」

さやかはどうかわからないが、エリスとことりの祐一に対する態度はここ数年で変わってきていた。
昔とは違う祐一に、明らかに戸惑っている様子が手に取るようにわかった。
祐一自身は、自分の奥底にあるものが変わったとは思っていないが、同時に表面の自分が昔とは違う、氷の仮面をつけていることも自覚している。

栞 「・・・十三騎士団で一番力を持っているのはシュタイン家の出身者ですけど、最強の使い手は三番隊隊長の斉藤さんと、六番隊隊長の音夢さんだって言われています。でも私は、一番恐ろしいのは祐一さんと・・・四番隊隊長の“あの人”だと思ってます」

祐一 「四番隊の“あいつ”は特別だよ。他とは毛色がまったく違う。ま、確かに俺でも怖さを感じる底知れなさはあるがな」

栞 「けど、祐一さんは“あの人”と同じくらい怖い人だと思います。そんな恐ろしい人の傍にいられるのは、私だけです。他の女になんか、絶対渡しませんからね」

祐一 「嫉妬深い奴だな。はじめて会った頃はもっと初々しかったんだが」

栞 「祐一さんに揉まれましたから」

祐一 「ふっ。まぁいい。それよりそろそろ・・・動く時が近い。先に行ってろ」

栞 「はい。祐一さんもお気をつけて」

祐一 「当然だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくら 「・・・・・・」

行軍の先頭を行きながら、さくらは物思いにふけるような顔をしていた。
目敏くそれを見止めた純一が馬を寄せる。

純一 「どうしたさくら、浮かない顔して」

さくら 「うん、ちょっとね。何だか嫌な予感がするんだ」

純一 「おまえが言うと信憑性があって怖いぞ。祖母さんがそういうことを言うと決まって地震や台風が起こったからな」

純一とさくらは従兄弟同士で、一時期祖母のもとで共に暮らしていた時期もあった。
二人の祖母は既にこの世にはないが、名の通った魔女だった。

さくら 「ごめん、たぶん気のせいだから」

にゃはは、とさくらは笑って誤魔化す。
だが長い付き合いであるから、その笑いが嘘かほんとか純一にはすぐわかった。

純一 「・・・どうやら、かったるいことになりそうな気がしてきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、往人や浩平達は・・・・・・。
山の中にいた――。

往人 「・・・おい、近道なのはわかるが・・・」

浩平 「なんだ?」

往人 「あまり歓迎されてるように見えないんだが?」

彼らの行く手には、無数のモンスターが群れていた。
しかも、明らかに往人達に対して敵意を剥き出しにしている。

浩平 「仕方ないさ、この辺りは人を襲うモンスターの巣窟だからな。北東部へ抜けるなら一番の近道なんだが、誰も使わない理由がこれだ」

使わないはずであろう。
小型ではあるがドラゴンまで住んでいるような土地を好んで利用する人間はまずいない。

浩平 「強行突破するのさ。そのために少数精鋭で移動してるんだ」

ゴリアテへ向かうこの道のりに同行しているのは、往人達三人と、酒場であった浩平の側近達。
つまり、往人、美凪、みちる、浩平、みさき、さやか、蒼司、一弥、舞の九人である。

一弥 「浩平さん、ここは僕達が」

舞 「・・・任せる」

浩平 「よし、任せた」

その中で、みさき、蒼司、一弥、舞の四人が前に出る。

往人 「加勢するか?」

浩平 「いや、今日はいいさ。四人だけで終わる」

往人 「なら、見せてもらおうか、おまえの側近達の実力を」

美凪 「・・・お手並み拝見」

みちる 「見物だー」

さやか 「蒼司君、ふぁいとー」

後ろで見ている能天気な見物人達に対して、同じく呑気に手を振っているのはみさきだけだった。
蒼司と一弥は肩を落としている。

一弥 「・・・なんか、やる気が・・・・・・」

蒼司 「まぁ、ああいう人達ですからね。国崎さん達は浩平さんと気があってるみたいですし」

舞 「・・・なんでもいい。とにかく、道を切り開く」

みさき 「早く終わらせて、お昼ご飯にしたいね」

四人は各々に得物を手にする。
みさきが手にするのは、美凪のものよりも尺の長い倭刀・・・太刀である。
蒼司は杖を手にしており、魔法を使うのがわかった。
一弥は身の丈ほどもある大剣。
舞は少し細めの両刃の剣だ。

みさき 「じゃあ、行こっか」

蒼司 「ええ」

一弥 「ここでもたもたしているわけにはいきませんからね」

舞 「・・・参る」

襲い来る大小十数頭のモンスターの群れに向かって、四人は飛び込んでいった。
その戦いぶりは、往人の目から見ても充分に感心するものだった。

川名みさき。
彼女は盲目のはずだが、それが逆にその剣の冴えを増しているようだった。
光ではなく音で周囲の事象を感じ取る彼女に死角はなく、どこから敵が襲ってこようとその剣は的確に相手を捉える。
長い刀のリーチも活かして、次々とモンスターを斬り倒していく。

上代蒼司。
このメンバーの中では一番おとなしいが、その分一番冷静に戦況を見つめる目を持っていた。
魔力が決して高いわけではないのだが、要所要所での魔法の使い方がうまい。
それを活かして、後方から他の三人の援護をしていた。

倉田一弥。
四人の中では彼が一番荒削りだったが、それでもその戦闘力は侮れない。
大きな剣に振り回されているようにも見えるが、四人中最大の攻撃力はフルに活かしている。
華奢に見えてパワーはあり、大型のモンスターもその力と剣の威力で薙ぎ払っていく。

川澄舞。
物静かな雰囲気とは違い、その剣には激しさがあった。
運動能力が四人の中ではずば抜けており、戦場を縦横無尽に駆け回っては敵を斬る。
とにかく強かった。

個々の強さもさることながら、コンビネーションもよくできている。
一弥が先頭で突っ込み、みさきと舞で両脇を固め、後方から蒼司が支援する。
モンスターの群れが一掃されるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

往人 「・・・・・・」

その戦闘の最中、往人はあるものを受け取っていた。
突然目の前に降ってきた紙片を素早く手にとって隠す。
上を見ると、鳥が飛び去るのが見えた。

往人 「(連絡方法って、これかよ)」

紙片を見るとただ、わかったことを適当に書け、とだけあった。
浩平達と接触してから数日の間にわかったことを言われたとおり適当に書くと、往人は紙片に念を込めた。
先ほどの鳥は、少し離れた場所に止まっていた。

往人 「(この程度の情報、とっくに掴んでるんだろう。俺をこいつのところへ来させた・・・・・・いや、俺を巻き込んだ理由は何だ、相沢)」

依頼主の意図が読めない。
だが、与えられた仕事はとりあえずこなさねばなるまい。
念を込めた紙片を、鳥の方へ向かわせる。
人形を操るのと同じ術だ。

さやか 「・・・・・・」

往人 「む」

視線を感じて振り返ると、さやかがあさっての方向を向くところだった。
気付かれたようだが、追求はしてこない。

往人 「(こいつもよくわからんし)」

泳がされている状態というのは気に食わなかった。
ましてや、本来当事者ではない往人が数々の思惑の中心にいるようだ。

往人 「ん?」

見れば、紙片はもう一枚あった。
こちらには返信するようという指示はない。
そこには一人の人間の特徴とともにこう書かれていた。

『白河ことりってのがそっちへ行くから、必要があったら保護してくれ』

往人 「(白河?)」

ちらっとさやかの方を見る。
白河さやか、同じ姓だった。
他の面々に気付かれないよう、往人はさやかの方へ近寄る。
どうせ裏があることを知られているなら手の内を隠すのも面倒だった。

往人 「おい、白河ことりって誰だ?」

だから単刀直入に聞く。
そしてさやかもあっさり答える。

さやか 「私の従妹」

往人 「そうか」

その従妹とやらが何故こっちへ来るのか、何故保護する必要があるのかわかりかねたが、仕事は仕事である。

往人 「(それとなく探しておくか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく