Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音夢 「一斑から三班は他の各班と合流して折原さんを追って」

配下 「は!」

素早い指示を受けて兵士達が散っていく。
自分達よりもずっと若い隊長の命に即座に反応するのは、それだけ彼女を隊長として信頼している証であった。
美春と杉並を含む二十人ばかりと残った音夢は、往人達と対峙する。

音夢 「・・・・・・」

指示を出して行かせた者達はすんなり通したが、おそらく音夢自身が動けば全力で妨害してくる。
銀髪長身の男の眼は、そう言っていた。
だが、余計な争いは音夢の好むところではない。

音夢 「あなた方は、折原さんの部下ではないのでしょう。でしたら、そこをどいていただけませんか?」

往人 「悪いがこれでも雇われた身でね。依頼主に信用してもらうには、成果を残さないとならない」

音夢 「どいてはくれないんですね?」

往人 「どいてほしけりゃ力ずくで来な」

じっとにらみ合う音夢と往人。
二人の間の空気がビリビリと震え、熱気が渦巻いている。

音夢 「美春」

美春 「はい! 音夢隊長」

音夢 「あなた達は他の二人を取り押さえてください。彼の相手は、私がします」

 

往人と音夢は、互いにゆっくりと距離を詰めていく。
一歩一歩進むごとに、周囲にはびこる緊張感が高まっていっていた。
今の音夢は、兄に甘える妹でも、笑顔を振りまく優等生でもなく、一人の戦士の顔をしている。
そして往人も、へっぽこ芸人と呼ばれているいつもと違い、研ぎ澄まされた刃のような鋭さを持っていた。

往人 「・・・・・・」

音夢 「・・・・・・」

バッ!

数メートル離れた位置から、お互い同時に地面を蹴った。
両者の放った一撃が、中央で交叉する。

 

 

 

襲い掛かってくる武装した兵士達の手を、美凪とみちるはするりと掻い潜る。
美凪は抜いた刀のみねで鎧の隙間を狙って打ち込み、一人一人を戦闘不能にしていく。

みちる 「どっりゃぁぁ!!」

みちるの方はもっと単純で、鎧の上からでも構わず蹴りを喰らわす。
痛烈な打撃による衝撃は鎧を貫通し、相手の体に直接ダメージを与える。
二十人いた兵士達のうち、瞬く間に五人が戦闘不能になる。

美凪 「・・・・・・」

残りをみちるに任せて大丈夫と判断した美凪は、一人抜け出して後方に控えていた美春のもとへ向かう。

美春 「へ? み、美春ですか!?」

いきなり標的にされて動揺する美春はきょろきょろと左右を見回す。
すると、いるはずの人間が一人いない。

美春 「す、杉並先輩! そこで何してるんですか!」

ぐるりと顔を後ろに向けると、物陰から戦闘を窺っている杉並の姿が目に入った。

杉並 「悪いなわんこ嬢。俺の武器は情報と頭脳であって、肉体労働は専門外だ」

美春 「そ、そんな〜。美春一人でこの人と戦うんですか!?」

あたふたとしている美春を、美凪は物珍しそうな目で見ている。
右へふらふら、左へふらふら、美凪の視線もそれに合わせて左右に揺れる。

みちる 「どっせーーー!!!」

その後方では、みちるの怒号と共に兵士達が吹っ飛ぶ音が聞こえていた。

杉並 「ほれ、しっかりしないと朝倉妹にどやされるぞ」

美春 「そ、それは困ります! 音夢先輩のお仕置きは過激なんですよ〜」

すっかり涙目でうろたえる美春。
しばらくぶんぶんと顔を振ってから、キッと美凪を睨みつける。

美春 「わかりました。美春だって伊達に音夢先輩の副官をしてるわけじゃないんですからね!」

心の葛藤は終わったのか、意を決したように美春は剣を抜いて構える。
うろたえていたわりに、構えにはほとんど隙がない。
一目で実力がわかった。

美凪 「・・・お強い」

美春 「音夢先輩には及びませんが。本当は、おとなしく捕まってくれるとありがたいんですけど・・・」

美凪 「はい」

美春 「ほ、ほんとですか!?」

美凪 「・・・・・・なんちゃって、うそ」

美春 「だ、騙しましたね!」

美凪 「・・・騙しました・・・えっへん」

二人は剣を構えたまま、言葉を投げかけあう。
端で見ている杉並は、はたしてこれは美凪流の時間稼ぎなのかそれともただの天然なのか量りかねていた。

杉並 「侮れんな、あの女」

妙なことで感心しつつ、自分は何もせずにじっと観戦している。
みちるとその他大勢の兵士達は、間もなく決着が付きそうだった。

バキィッ

みちる 「よーっし、おわり!」

全ての兵士を蹴り倒し、みちるはぱんぱんと手を叩く。

みちる 「美凪ー、おわったよー」

美凪 「・・・よくできました、ぱちぱちぱち」

美春 「わわっ、気が付けば2対1ですか!?」

美凪 「・・・形勢逆転」

杉並 「いや、最初から形勢も何もなかったような気がするがな」

美春 「どど、どうしましょう、音夢せんぱ・・・!」

再びあたふたする美春が音夢の方を振り向く。
他の三人もそちらに視線を移すと、そこでは・・・・・・。

 

ゴッッッッッッ!!!!!!!

 

美春 「ひえ〜!!?」

みちる 「にょわわっ!!」

別世界が広がっていた。
渦巻く熱気が突風となって周囲を荒れ狂い、地面や周囲の壁に傷痕を残していく。
その現象を起こしているのは、たった二人の人間である。
繰り出された音夢の拳が壁を打ち砕き、振り下ろされた往人の手が地面の抉る。
だが、目に見える動きはそうした端々の部分だけで、大半は見ている側には何が起こっているのか理解しきれない。
ただ、二人の間で無数の衝撃が巻き起こっているのがわかるだけだ。

美春 「な・・・何がどうなってるんでしょう・・・?」

美凪 「・・・超高速のヒット・アンド・アウェイです」

美春 「ほえ?」

美凪 「・・・あの二人は、超スピードで動きながら互いに接近と後退を繰り返して攻撃と防御を行っているのです。そのぶつかり合いの余波が、あたかも竜巻のように周囲を渦巻いています」

唯一状況を理解している美凪が、彼女にしては珍しく一気に喋る。

美春 「すごいです・・・あの人、音夢先輩と互角に・・・・・・」

みちる 「あいつ・・・国崎往人とおなじくらいはやくて・・・強い」

美春とみちるがそれぞれの良く知る人間と互角に渡り合う相手の存在に驚嘆していると、美凪がさらに驚くべき事実を口にする。

美凪 「・・・そして二人は・・・まだ実力の50%ほどしか出していません」

美春 「お、恐るべしです・・・」

みちる 「んに〜・・・」

杉並 「もう我々とは完全に別次元だな。あんただけは違うようだが、遠野美凪・・・いや、親愛の情を込めてここはナギーと呼ばせてもらおうか」

美凪 「・・・ご丁寧に」

ぺこりと美凪が杉並に頭を下げている間も、往人と音夢の攻防は続き、美春とみちるは二人が激しくぶつかり合う度にため息をついていた。

 

 

 

往人 「なるほどな。折原が警戒して、美坂香里が自分以上って言うだけのことはある」

音夢 「正直驚きました。あなたみたいが使い手が世に埋もれていたなんて」

往人 「これでもその筋じゃそこそこ有名なつもりだったがな」

数十回に渡る攻防の後、二人は僅かに離れて対峙する。
ここまでは互いに小手調べであり、美凪の見立てどおりどちらも50%程度の実力しか出していなかった。
その証拠に、激しく動き回ったにも関わらず二人は汗一つ掻いておらず、表情には余裕が見られた。

音夢 「・・・フッ!」

左に体を一瞬傾けてから、右へ移動するフェイントをかけながら、音夢は往人の横合いに飛び込む。
充分に余裕を持って反応した往人は、そちらへ向き直るが、同時に音夢の姿が視界から消える。
上の跳んだのが見えた往人は視線を上げるが、その時には音夢は往人の背後を取っていた。

ドッッッ!!!

繰り出された音夢の拳は、往人の左手に受け止められている。

往人 「なかなかのスピードだが、俺の前じゃまだまだだな!」

受け止めた拳を横に弾きながら、往人は右手を突き出す。
その突きを体を横に開きながらかわした音夢は、往人の腕を掴み、勢いを利用して投げ飛ばす。

音夢 「ハッ!」

往人 「おっと・・・!」

空中で体勢を立て直し、地面を滑って往人は停止する。
止まる際に大きく右手を後ろに引き、音夢が追い討ちに来るところへカウンター気味に突き出す。

ドゴォッ!!

地面が強力な一撃で砕かれる。
だが、標的となった音夢の姿はそこにはない。

音夢 「馬鹿力ですね」

往人 「今のをかわすとはな」

激流のように速く、荒れ狂うような攻防を終えて、二人は再び立ち止まって向き合う。

音夢 「このまま戦っても、埒が明きませんか」

往人 「どうする?」

音夢 「本気で行かせてもらいます。覚悟してください」

ここへ来てはじめて、音夢は腰の後ろにあるものに手をかけた。
一般的なものよりかなり短めのショートソードが二本、それぞれ左右の手に持つ。

往人 「二刀流か。じゃあ俺も、素手ってわけには行かねぇよな」

右手を前にかざし、往人は力を集中する。

往人 「法術・・・」

力の流れが往人を中心に集まり、やがて目に見えるほどに凝縮される。
やがてそれは質量を持ち、白く細長い物体となる。。
白い一振りの剣、それが往人の手に現れた。

往人 「法真剣・・・こいつで、俺の本気ってやつを見せてやるよ」

音夢 「いいでしょう」

二人の手に武器が持たれた。
そのことによって、ただでさえぴりぴりしていた空気がさらに研ぎ澄まされたように緊張感を増していく。
誰もが、この先に展開される予測もできない凄まじい戦いを思って恐れ、だが少しばかりの期待感を持って見守る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どこかで、誰かが唾を呑む音が聞こえたような気がした。
それと同時に、音夢が二本の剣を振りかぶって地面を蹴る。

ズバッ!

振り下ろされた二本の剣がクロスを描き、往人の身を切り裂いた。
だが、その瞬間往人の姿は白い紙ふぶきとなって舞い散った。

音夢 「え?」

予想外の出来事に唖然とする音夢。
見ていた美春と杉並も驚愕する。

美春 「ど、どうなってるんですか!? ・・・って、あれ?」

その美春が隣に目をやると、美凪とみちるの姿も綺麗さっぱり消えていた。
どこを見回しても、三人の姿はどこにもない。

音夢 「・・・?」

ひらひらと一枚の紙が音夢の眼前に降ってくる。
何気なく手に取ると、そこには汚い字で殴り書きがしてあった。

『けけけ、そう簡単に俺の本気が見られると思ったら大間違いだ。残念だったな、サラバだ』

くしゃ、っと音夢がその紙を握りつぶす。
その手がぷるぷると震えていた。

杉並 「う〜む、見事な逃げっぷりだったな。朝倉妹を出し抜くとは侮れん奴だ」

うんうんと感心しながら杉並が音夢に近付いていく。
それを、今音夢先輩に近付かないほうが、と美春が言って止めようとするが、時既に遅し。

バキッ!

杉並 「ぷぉ!?」

不用意に音夢に近付いた杉並は“次元の断層”にぶつかって壁まで吹き飛んだ。
およそ一分近く拳を震わせていた音夢は、最後に大きく息を吐いてから顔を上げる。
その時は既に裏モードの笑みが戻っていた。

音夢 「今から追っても追いつけそうにありませんし、ここは撤収しましょう。美春、みんなにそう伝えて」

美春 「了解しました、音夢隊長!」

音夢 「あとは関所で待機している兄さん達が頼りですけど・・・・・・あまりアテにはできませんね・・・」

疲れた表情で剣を鞘に納め、音夢は額に手をやる。

 

そしてその通り、アテにはならなかった。
後に浩平達の姿が隣町のトゥーリアで目撃されるが、そこまでの道を監視していた七番隊は誰一人発見することはできなかったのだ。

 

ほぼ同じ頃、首都カザフから北東へ百キロあまり進んだ場所にある炭鉱町ゴリアテで、大規模な暴動が起こっていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

三日後。
城内、十三騎士団会議室――。

バルドル 「スラム街ごと焼き払っちまえばよかったんだよ。そうすりゃ逃げられやしなかっただろうが」

音夢 「それでは関係のない人々まで巻き込むことになります。懸命な判断とは思えません」

この日も会議の席は、音夢とバルドルによる険悪ムードの中で行われていた。
パレードは無事終了したものの、王女誘拐未遂事件とその下手人の逃亡、さらには早馬で知らせが届いたゴリアテでの暴動。
事態はそれなりに深刻だった。

香里 「暴動というより、これはもう立派な反乱ですね」

ゴリアテは民衆によって完全に制圧され、さらに南まで侵攻されているという。

祐一 「折原のグループとは違うのか?」

香里 「自分達のことを雪花旅団と名乗っているらしいわ。折原浩平とのかかわりは、今のところ不明ね」

バルドル 「どっちだって変わりゃしねぇよ。逆らう平民どもは力ずくで黙らせればいい」

音夢 「力だけでの解決が正しいとは限りません。あちらが交渉に応じるなら、それも考慮するべきです」

それぞれの隊長達が議論を交わす。
といっても、各自の主張を述べているだけでとても話し合いの場にはなっていないのだが、彼らの場合はこれが普通だった。
全員の意見が一通り聞けたところで、総隊長たるジークフリードの決断にゆだねられる。
この日も30分ばかりの討論の後、ジークの咳払いが起こる。
それだけで騒がしかった場がしんと静まり返るのは、ジークフリードという男が集める信頼の大きさを示しているといえるだろう。

ジーク 「まずは、現在も侵攻を続ける雪花旅団とやらの足を止めることが肝心だ。その上で交渉ができるようならばする」

方針が決定したならば、次は具体案の提示である。
これはもっぱら、ジークの副官たる久瀬の仕事だった。

久瀬 「反乱勢力の規模から、2部隊を派遣するのが確実だろう。兵は2000、任務には、六番隊と七番隊で当たってもらう」

バルドル 「意義あり。平民同士の馴れ合いで討伐に支障が出る恐れがある。再考を願う」

久瀬 「既に決定事項です。申し出は却下します」

バルドル 「ちっ。じゃあ、もう一つ言いてぇことがある」

ジーク 「言ってみよ」

バルドル 「折原のグループはもちろん、今回の反乱・・・・・・支援をしてる奴、それ以上に裏で糸を引いてる奴がいることを追求するべきじゃねぇのか?」

ジーク 「というと?」

バルドル 「倉田だよ、倉田。明らかに奴が関わってるはずだろうが」

久瀬 「口を慎まれよ、バルドル殿。今は政界から遠ざかっておられるが、三大公のお一人を公然と反乱に組しているなどと言う発現はお控えください」

この国には、三大公爵家と呼ばれる三つの家が存在する。
シュタイン、遠野、倉田の三家であり、常に王家に変わって政治を執り行う存在だった。
ただし、最近は倉田家当主高峰が表に姿を見せないため、現在の貴族院に対して不平を抱いているという噂が方々で立っていた。

ジーク 「その件はまた後日だ。今はゴリアテの反乱鎮圧に集中する。朝倉と芳乃、両隊長はただちに隊を編成して出発せよ」

音夢・さくら 「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく