Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラム街。
そう呼ばれる地区は、大きな街ならばほぼ間違いなく存在していると言っていい。
どんなに治安が良くても、むしろそれゆえにこそ、街を追われたはぐれ者がたまる場所が生まれるのだ。
カザフの東地区北部も、そうした者達が集まってできた街だった。
常々貴族院や騎士団でもこの地区の扱いに困ってきたが、具体的な解決策があるわけでもなく現在にいたっている。

美春 「うわぁ、美春ははじめて来ましたけど、随分向こうの街とは違いますね〜」

街全体が、見た目も雰囲気も暗いのだ。
昼間は日当たりが悪く、人の心も淀んでいるようで、空気が汚い。

音夢 「あまり長居したい場所ではないですね」

杉並 「だが、警備の目をかいくぐって潜伏するにはもってこいの場所だ」

音夢 「・・・・・・」

引き連れてきた部下達の中に混ざっている杉並のことを考えて、音夢はため息をつく。

音夢 「まったく兄さんったら、自分は来ないで杉並君だけ寄越すなんて・・・」

美春 「まあまあ、七番隊は街の外へ犯人さん達が逃げた形跡がないか調べに行ってるんですから」

音夢 「そんなの、どうせ部下任せで兄さんはサボってるに決まってます」

 

 

純一 「っくし!」

さくら 「風邪? お兄ちゃん」

純一 「いや、どうせ音夢が何か言ってるんだろ」

東関所の屯所で、純一はぼんやりしていた。
報告待ちなのだが、傍目から見ればサボっているようにしか見えない。
そして実際、彼は体よくサボっているのだ。

 

 

そんな兄の姿を想像し、腹を立てながら、音夢は美春や杉並達を引き連れてスラム街の奥へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、往人達もスラム街にやってきていた。
祐一に依頼されたとおり、折原浩平のグループと接触するためである。

みちる 「なんでゆーかいまなんかと会うのさ?」

往人 「強いて言うなら、その理由を知るため、か」

今回の事件には、何か裏がある。
それを知ることが、まずは大事であると言えた。
昨日予測したとおり、厄介事の続きが舞い込んできたのである。

美凪 「・・・どうしますか?」

往人 「適当にうろつく。あいつの言うとおりなら、そのうち向こうから接触してくるさ」

?? 「そこ行くお兄さんお姉さんお嬢ちゃん」

声に対して振り向くと、そこには黒い服に白い帽子、さらには鼻眼鏡に付けヒゲをして、スイカを持ったいかにも私怪しいですと主張している少女が立っていた。
しばらく見詰め合ってから、往人は何事もなかったかのように歩き出す。

往人 「そのうち向こうから接触してくるさ」

美凪 「・・・はい」

みちる 「んに〜」

さやか 「こらこら、せっかく会いに来たんだから、もう少しリアクションしてくれたって。知らない仲じゃないんだから」

怪しい少女、白河さやかがあとを追ってくる。
鼻眼鏡とヒゲはつけたままで。

往人 「そんな怪しげな風貌の奴は知らん」

さやか 「大事な変装なのに」

往人 「バレバレだろうが・・・」

誰に対しての変装だと言うのか。
服装はいつものままであり、スイカも持っている。
ちょっと彼女を知っている者なら即座にわかる。
変装の意味はなかった。
おそらくそれをわかった上で遊んでいるのだ。

さやか 「とにかく、せっかく会えたんだし」

顔の変装グッズを外しながらさやかが三人の前に回りこむ。

さやか 「来ない? 私達のアジトに」

 

 

 

 

酒場の地下。
そこが折原浩平以下の者達が潜伏しているアジトの所在だった。
なんともベタだが、それゆえ見付けづらいとも言える。
部屋の中に入ると、そこには五人の人間がいた。

浩平 「ようこそ、折原浩平と摩訶不思議な仲間達の秘密の部屋へ」

往人 「来る場所を間違えたみたいだ、出直してくる」

浩平 「まぁ、待てって」

入ってきたドアのノブに手をかけかけていた往人は、呼び止められて改めて前に向き直る。

浩平 「昨日は世話になったな。お陰でこっちは失敗しちまったぜ」

往人 「そいつは良かったな、役に立ててうれしいぞ」

はっはっは、と二人は笑いあう。
果たして笑うところだろうかと疑問に思う者もいそうだったが。

蒼司 「笑うところですか、今の?」

さやか 「まあまあ、蒼司君。細かいこと気にしないの♪」

部屋に入るなりいきなり上機嫌のさやかは、蒼司と呼ばれた男の傍らに移動している。
好意が明確に表現されており、蒼司も自然にそれを受け止めている。

美凪 「・・・らぶらぶ」

その一言が、二人の関係を集約していた。

一弥 「僕も、笑うところじゃなかったと思うんですけど・・・」

舞 「・・・よくわからない」

他の面々より少し若い少年と、美凪に負けない長身の少女が、蒼司とさやかとは反対側の壁際に立っている。
そして中央、浩平の隣でテーブルに積み上げられた皿に隠れてもう一人いた。

みさき 「まあ、浩平君だからね」

冷たい瞳を持った少女は、温かい笑みを浮かべて皿の山から顔を出す。
その手には別の皿がまだ存在しており、話している間も食事の手を止めない。

みちる 「・・・摩訶不思議な仲間達だ」

一弥 「僕を一緒にしないで・・・」

蒼司 「僕も・・・嫌ですね・・・・・・」

さやか 「♪」

みさき 「♪」

舞 「・・・・・・」

男達は消極的に否定を口に称える。
だがそれを打ち消すほど、女性達が個性的だった。

浩平 「一応紹介するよ。知ってると思うけど、俺はドン・コーへー・ザ・グレード・ブッチャーだ」

みちる 「お、覚えにくい・・・」

美凪 「・・・ド・ゴンザレス・コーヘー・バッカーですよ、みちる」

浩平 「そう。ま、覚えにくかったらゲルハルト・コーヘー・ミリノビッチでも構わん」

往人 「俺は・・・」

美凪 「・・・ワンダフル・ユッキー・ド・サラブレッドです・・・・・・そして私は、ナイチンゲール・ナギーと申します」

みちる 「みちるはみちるだぞー」

一弥 「ま、舞さん・・・変な世界が・・・・・・」

舞 「はちみつくまさん」

蒼司 「・・・駄目ですね、これは」

みさき 「おかわりまだあるかな?」

さやか 「楽しくっていいね〜」

 

往人 「ちゃうやろ!」

ビシッ

美凪 「・・・はい、ちゃいます」

いつまで経っても終わらないので、往人のツッコミで連鎖を止める。

往人 「とにかく・・・俺は国崎往人、見てのとおりの旅人だ」

浩平 「笑いの化身、折原浩平だ。この人が食の大魔神・・・」

みさき 「川名みさきだよ、よろしくね」

浩平 「こいつが万年尻に敷かれ男・・・」

蒼司 「上代蒼司です。尻に敷かれっていうのは、どう言ったものやら・・・」

浩平 「ご存知スイカマスター・・・」

さやか 「白河さやかでーす♪」

浩平 「影の薄いお坊ちゃん・・・」

一弥 「倉田一弥です・・・薄いって言わないでください・・・・・・」

浩平 「で、無口なミステリー・・・」

舞 「・・・川澄舞」

浩平 「わかったか?」

みちる 「んに〜・・・・・・わかんない・・・・・・」

浩平 「じゃあ単純に、浩平、みさき、蒼司、さやか、一弥、舞で覚えてくれ」

みちる 「わかった」

往人 「最初からそうせんか!」

ビシッ

浩平 「いいツッコミだ、同志!」

往人 「なんでやねん・・・」

いつ同志になったのやら。
どうやらこの男、あの相沢祐一に匹敵する変な奴のようだ。
油断しているとあっさり飲まれる。

 

往人 「話の本題に入っていいか?」

浩平 「いいぞ。というか、大体わかってるつもりだがな」

往人 「なら単刀直入に聞くぞ。何で王女誘拐なんて真似をしようとした?」

浩平 「核心だな、いきなり」

回りくどいのは、往人の好むところではない。
むしろ、腹の探り合いでは相手が上手のようだ。
ならば小細工無用で話を進めることにする。

往人 「俺はこの国の情勢には疎いが、あのお姫さんが実際には飾り物に過ぎないことはわかる。誘拐してさしたる価値があるとも思えんぞ」

政治に大きな影響はない。
今この国において王家はあってないようなものだ。
誘拐の事実を隠して影武者でも立て、ある時を以って病死にでもしてしまえば、何の問題も起こらずに事は終わる。
汚いようだが、それが国家のあり方というものだった。

浩平 「ところがどっこい、あのお姫さんは特別な価値があるのさ。一部の連中しか知らないことだろうがな」

往人 「特別な価値だと?」

浩平 「俺達がお姫さんを攫おうとしたのは、その価値を同じように知ってて、お姫さんを利用しようとしてる連中から彼女を護るためさ」

往人 「・・・それは、ブラッディ・アルドを雇った野郎のことか?」

浩平 「他にもいるさ。まだ全て見極められていないがな」

往人 「王女を護って、おまえらに何の得がある?」

浩平 「俺達は名ばかりを重んじる貴族どもに反発しちゃいるが、王家そのものを憎んでるわけじゃない。王位を継ぐ人間に恩を売っておけば、後々俺達の主張を聞いてもらいやすくなる。それに・・・お姫さんを利用すれば、もっととんでもないことができる・・・らしい」

往人 「何だそのらしいってのは・・・」

いきなり話が曖昧になる。
だが、どうやら王女の本当の価値が何なのかまでは、浩平達もわからないようだ。
それでも、それがこの国の存亡に関わることで、邪な野望を持った者達に王女を渡すわけにはいかないという。

浩平 「この国の安泰と、俺達平民の未来のため、俺達は戦ってるのさ」

往人 「・・・おもしろいな、おまえ」

取り入る糸口は掴んだ、そう往人は思った。

往人 「だが、そのためには人手不足なんじゃないか?」

浩平 「む」

往人 「この部屋にいる連中、いずれも相当な使い手だが、騎士団の隊長連中はもっと強いぞ」

数人に少し会っただけだが、十三騎士団の隊長格が桁違いの使い手達であることを往人は感じ取っていた。
類稀なる実力者がこの部屋に揃っているとは思うが、十三騎士団の隊長格と互角の強さを持っているのは浩平とさやかだけだろう。

一弥 「僕達じゃ、十三騎士団に勝てないって言うんですか!?」

往人 「まあ、話は最後まで聞けよ。そこでだ、おまえら俺達を雇わないか?」

浩平 「ほう」

往人 「なかなか気に入ったよ、おまえらのこと。今なら格安で手を貸してやるぜ」

実力は、昨日の一件で見せている。
往人と美凪はそれぞれ浩平、さやかと同格の実力者であり、みちるも他の四人と同等だ。
売り込むのに十分な条件は揃えた。

一弥 「あなた方を信用できるのですか?」

蒼司 「疑いたくはありませんけど、騎士団か貴族院のスパイという考え方もできます」

往人 「道理だな。そこは信じてもらうしかないが・・・」

その時、ドアが開いて浩平達の部下と思しき男が入ってくる。

部下 「折原さん、六番隊の連中が来てる。あちこち調べ始めています」

浩平 「そりゃまた、微妙に厄介な奴が来たな。やっぱり主だった連中を先に首都外へ出したのは正解だったな。俺達も早急に引き上げるぞ」

部下 「は」

浩平 「一弥と舞も行け」

一弥 「わかりました!」

舞も頷いて答え、二人は先に出て行った部下を追って裏から出て行く。
残ったのは浩平達側四人と、往人達三人の七人だけだ。

浩平 「とりあえず、俺達も外に出ようか」

往人 「表から出るつもりか?」

浩平 「俺が出た方が注意を引き付けられる。それに、あいつに対抗できるのは俺だけだからな」

往人 「そんなに強ぇのか、六番隊の隊長ってのは」

浩平 「ああ、強いぞ」

立てかけてある剣を手に取る浩平の表情はまだおちゃらけたままだったが、目だけは真剣だった。

浩平 「十三隊長はどいつも化け物だが、中でもうちで絶対に手を出すなと言い置いてる奴が二人いる」

往人 「二人?」

浩平 「そう。それが三番隊隊長斉藤元と、六番隊隊長朝倉音夢だ」

 

 

 

 

酒場の外まで出る。
そこでちょうど、騎士団の兵士達と鉢合わせになった。

浩平 「動きの速いことだ。さすがによく統率が取れてるな、六番隊は」

音夢 「褒めていただくくらいでしたら、おとなしく連行されてくれませんか、折原浩平さん」

隊の先頭にいるのは、まだ幼いとさえ言える二人の少女。
だが特に浩平の姿を見て一歩前に踏み出した方の少女は、この屈強な兵士達の中心にあって堂々としている。
なるほどこれが隊長の朝倉音夢とやらか、と往人は納得した。

蒼司 「どうするんです、浩平さん?」

浩平 「もちろん切り抜けるんだが・・・・・・国崎往人」

往人 「何だ?」

浩平 「俺達の仲間になるっていうなら、信用するに足る証を見せてもらいたい」

往人 「言ってみろ。何をすればいい」

浩平 「仲間が逃げ切るまでの時間稼ぎをしてほしい。こいつらの足止めだ」

人数はざっと五十人ほどだろうか。
統率は取れているが朝倉音夢とその傍らにいる副官の少女を除けば並みである。

往人 「時間を稼げばいいんだな」

浩平 「ああ。適当なところで切り上げて、街の外で落ち合う。またさやかに迎えに行かせるさ」

往人 「いいだろう」

浩平 「じゃ、頼むぜ」

すぅっと浩平が手を挙げたのに合わせ、往人も肩の高さに手をかざす。
浩平は往人の掌に自分の掌を打ち合わせ、そのまま蒼司とさやかと共に駆け出した。

往人 「さて・・・」

美凪 「・・・国崎さん・・・あの人は・・・」

往人 「ああ。あいつは俺が誰かの回し者と気付いた上であえて俺を使うつもりだ。気にいったぜ」

みちる 「それで、よーするにみちる達はどうするの?」

往人 「こいつらの相手をしろってさ」

一部が逃げた浩平達を追っていったため、人数が半分に減っているが、まだまだ多勢に無勢だった。
しかし、往人達は少しも動じていない。

往人 「さあ、ちょいと暴れてやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく