Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中が活気に満ちていた。
あちこちで花火が上がり、パレードの一団が通る道周辺には人だかりができている。
その多くが、今回のヴェルサリアとルベリアの婚姻を祝う気持を抱いているが、中には例外もいる。
折原浩平という男も、例外に類する者だった。

浩平 「・・・さて、どうなるかな」

従者 「折原さん、例の筋からの情報です」

浩平 「おう」

従者 「中央地区シルバーホーン通りから東地区へ向かう道が最も警備の薄い場所で、計画を実行するならそこを置いてないと」

浩平 「わかった。で、標的はいつそこを通るんだ?」

従者 「詳しいことは、これに・・・」

あまり長く話していると怪しまれると思ったか、従者の男は浩平の手に紙切れを握らせて人ごみに消えていく。

浩平 「ふむふむ、なるほどな・・・」

浩平はニッと笑って、道の端から姿を消した。
それから間もなくして、パレードの先頭がその辺りに差し掛かった。

 

 

 

 

パレードは城から始まり、西地区を廻ってから中央地区、カザフのメインストリートと言うべきシルバーホーン通りを経て、東地区を廻ってから城へと戻る。
まずは何事もなく、西地区は抜けた。

美春 「音夢せんぱ・・・あ、いや・・・音夢隊長! 異常ありませんです」

音夢 「ご苦労様。まずは一息・・・でも、まだこれからですよ」

十三騎士団の半分を導入した厳戒態勢。
本来ならば絶対に何事も起こるはずはない。
しかし、どれほど確立が低かろうと問題が発生する可能性がある以上、全力で警備に当たるのが音夢のモットーである。

音夢 「私は城の方へ戻ります。ここはお願いね、美春」

美春 「お任せください!」

ビッと敬礼する美春を見て満足げに頷くと、音夢は城門付近の警備に移った。
一段落して城に戻る瞬間というのは気が緩みやすく、隙をつきやすい。
中央地区は十一番隊の担当であるから安心であり、五番隊に大いに不安を抱く音夢だったが、東地区は遠い。
すぐに行って警備の応援に行くなら、城門付近が最適である。

 

 

 

 

エリス 「・・・さすがに大通りでは何もない、か」

影武者の姫を乗せた車の横を馬で進みながら、エリスは一息つく。
常に周囲を警戒している上、離れた場所にいるフローラのことも気になるのだから、緊張感がいつもの倍であった。
本物のフローラを乗せた車は先の方を行っている。
そしてその先頭集団は、間もなくシルバーホーン通りを出て東地区へ向かう辺りだ。

ざわざわ・・・

エリス 「ん?」

と、その時後ろで少し騒ぎが起こった。
集団は前に進んでいるため、騒ぎの音は段々後ろへ遠ざかっていくが、無視するには少し気になるものだ。
ふとエリスの脳裏をよぎったのは、こういう時に不安がるフローラを思えばどうするか・・・。

エリス 「・・・姫、少し後ろを見てまいります」

形の上だけ影武者の姫に声をかけると、エリスはゆっくり後ろへ馬を向かわせた。
ここで急ぎすぎると、周りの人間に動揺を悟られる。

エリス 「(なんだって言うのよ、まったく・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

みちる 「にょわー、国崎往人の大バカーーー」

往人 「おまえが言うんじゃねぇ! ぐーすか寝てたのはおまえも一緒だろうが!」

誰もいない裏路地を全力疾走しているのは、すっかり寝坊した往人とみちる、ついでに二人の寝顔を見ながら自分も寝ていた美凪であった。
起きてみたら既にパレードはとっくに始まっている時間で、大急ぎで出てきたわけだ。

美凪 「あ・・・・・・あそこへ」

人だかりが出来ている辺りを美凪が指差す。
どうやらそっちの方へこれから集団がやってくるらしい。
場所はちょうど、中央地区から東地区へ抜ける辺りだ。
もうじき先頭集団がこの付近に到達するらしく、賑わっていた。

往人 「・・・・・・」

美凪 「・・・どうしました、国崎さん?」

往人 「いや・・・。街中を移動して間中、あちこちで警備の目が光ってるのを感じたんだが・・・・・・この辺りは不自然なほどそれが少ないような気がしてな・・・」

みちる 「お、来た!」

街路樹の上で道の向こうを見ていたみちるが、往人と美凪の話の腰を折る。

往人 「まぁ、俺が気にすることじゃないんだが」

美凪 「・・・はい」

二人は人だかりの後ろに並ぶ。
どちらも背が高いため、そこからでも充分にパレードを見ることができた。

往人 「先頭にいるのは昨日の、確か美坂香里とか言ったか」

集団を率いているのは、十三騎士団九番隊隊長の香里だった。
そこから綺麗に整列した兵士達が続き、貴族達を乗せた大小の車が連なっている。

往人 「?」

ふと、数ある車の内の一つに向けられている異様な視線を感じ取って、往人は気付かれないように周囲に目をやる。
人ごみから少し外れた、路地の出入り口のところに、視線の主がいた。
それは、昨日城から出たあとで会ったあの少女だった。
少女の手には、昨日と同じスイカがある。

往人 「(なんだ・・・?)」

不思議な力の流れを往人は感じた。
少女が手にしたスイカを回転させ始めると、その流れがさらに強くなる。
そして、スイカが少女の手から消える。
同時に、何か別のものが少女の手許に現れ、彼女はすぐにそれを路地裏に引き込んだ。

往人 「!!」

ほんの一瞬の出来事だったが、それが人間であったのを往人は見た。

往人 「美凪!」

周りには聞こえないよう、小さな声で往人は美凪に呼びかける。
だが美凪は美凪で、別のことに首をかしげていた。

美凪 「・・・今・・・あの車で小竜の鳴き声がしました」

往人 「小竜だと? なんでそんなものが車に乗って・・・・・・どの車だ?」

美凪が指し示したのは、例の少女が凝視していた車そのものであった。

往人 「何かありやがるな。美凪、みちる、追うぞ」

みちる 「へ?」

美凪 「・・・はい」

 

 

 

 

 

 

 

エリスが向かった集団後方の騒ぎとは、観衆の中から火炎瓶が投げ込まれたというものだった。
兵士数人が軽い火傷を負ったが、下手人はすぐに捕らえられ、さしたる問題にもならなかった。

エリス 「この程度の騒ぎはあって不思議じゃない、か」

ルベリアとの同盟に関しては、国内でも反対派は多い。
その同盟を強固にするこの婚姻にも否定的な意見はある。
実はエリスもこれを快く思ってなどいないが、口に出せる立場でもない。
名誉ある十三騎士団の隊長格とは言え、政治に対する発言力は皆無に等しい。
それがあるのは、名門たるシュタイン家、或いは遠野家に属する一番、二番、四番、五番、十番、十二番の隊長くらいだった。

・・・・・・・・・ピィーーー

エリス 「シーズ!?」

他の者には聞こえない音が、エリスの耳には届いた。
それは、エリスの従者であり、フローラにつけていた小竜のシーズから異変を知らせる嘶きだった。

エリス 「(しまった! こいつは囮だ!)」

騒ぎが起こったのは列の後方。
フローラがいるのは列の前方。
巧妙に誘い出された形になった。
しかも、前で騒ぎが起こっていないところを見ると、シーズ以外はまだ誰も異変に気付いていない。

エリス 「ここは任せた! その男はしっかり拘束しておきなさい」

周りの兵士に口早に言い置いて、エリスは道の脇から路地裏に入る。
慌てて疾駆する姿を観衆に見せるわけには行かない。

エリス 「(フローラ!)」

人気のない道を選んで、エリスは全力で駆けた。

 

 

 

 

 

 

往人と美凪は、まだ事情の飲み込めていないみちるも連れて例の少女を追った。

みちる 「な、何があったの、美凪?」

美凪 「・・・さあ?」

往人 「俺の勘が正しければ、これはいわゆる王女誘拐ってやつだ」

みちる 「ゆ、ゆーかい!?」

美凪 「・・・一大事」

往人 「いやがった!」

狭いL字型の路地で、三人は少女に追いつく。
少女は、ドレスをまとった長い髪の、おそらくはフローラ王女を小脇に抱えている。
フローラ姫は気絶させられてはいないようだが、声が出せないようだ。
魔法でもかけられているのかもしれない。

往人 「待ちな」

少女 「へぇ〜、不思議な人達が追いかけてきたね」

少し意外そうな顔をするが、少女はまったく慌てていない。

?? 「首尾よくいったか、さやか」

さやか 「ばっちりね。でもちょっとだけ困ったことになってるよ、浩平君」

角の向こうから出てきた男達に向かって、少女はサムズアップで応える。

浩平 「追っ手か?」

さやか 「ここは任せて、王女様を連れて行って」

浩平 「わかった、任せたぜ」

さやか 「こら待て、勝手に話を進めるな」

王女のもとへ向かおうとする往人を、さやかと呼ばれた少女が遮る。
男達が王女を連れて、浩平という男と共に道の向こうへと走っていく。

往人 「ちっ、美凪、みちる、追え」

みちる 「わかった!」

美凪 「・・・国崎さん、お気をつけて」

往人 「おまえらもな」

二人は全速力で浩平達を追っていき、その場には往人と少女だけが残った。

さやか 「昨日会った時は、まさかこんな形でまた会うとは思いませんでしたよ」

往人 「俺もだ」

互いに僅かな距離をもって対峙する。

さやか 「私はスイカをこよなく愛する者、白河さやか。君は?」

往人 「お姫様を助ける正義の使徒、国崎往人だ」

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「悪いなお姫さん。手荒な真似したが、悪いようにはしないさ」

前を行く男に抱えられているフローラ姫と目を合わせて、浩平はそう言う。
最初は多少戸惑っていた王女も、浩平に声をかけられている内に落ち着いたようだ。

浩平 「声の方は、一応用心のため、アジトに着くまでは我慢してくれ」

声を上げて人を呼ばれないよう、王女にはさやかが声を封じる魔法をかけてあった。
簡単な暗示魔法なので、解こうと思えばいつでも解ける。

浩平 「よし、このまま逃げきって・・・」

みちる 「まーてーーー!!!」

声が高速で移動しながら、上から降ってくる。
見上げると、時々ある足場を利用しながら壁を走っている少女、みちるの姿があった。
横から浩平達一団の前に回りこみ、地面を滑りながら止まる。

みちる 「逃がさないぞー!」

道を塞がれて、一団が止まる。
さらに浩平が後ろを振り返ると、気配もなく美凪が立っていた。

浩平 「やれやれ、まいったな」

少しもまいってなさそうな呑気な声であった。

美凪 「・・・王女さまを、置いていってくださいませんか?」

みちる 「そうだ置いてけー」

浩平 「・・・前門の虎、後門の狼ってとこだけど、随分とかわいらしい虎と綺麗な狼がいたもんだ」

ささっと浩平は前後に目をやる。
そしてすぐさま自分は美凪の方と向き合う。

浩平 「強行突破だおまえら。一気に駆け抜けろ!」

男達 「は!」

王女を抱えた男を含む六人が一斉に駆け出す。
相手を子供を見た男達は、一気に行けば何の問題もなく通れると思ったのだろうが、甘かった。
みちるは小さな体をさらに低い姿勢にして、そこから弾丸のように前に跳んだ。
そもそも、先ほどの壁走りでみちるが只者でないことを男達は察するべきだった。

みちる 「どりゃあー!!」

先頭の男の足元で急停止したみちるは、そのまま垂直に跳び上がり、男の顎を蹴りあがる。
体を回転させてその音の即頭部に二発目も蹴りを打ち込み、その勢いを利用して二人目に向かう。
顔面に膝蹴りを叩き込み、落下しながらオーバーヘッド気味に三人目に攻撃する。
瞬く間に三人が地面に沈んだ。

浩平 「おー」

格闘戦においては、リーチの短さは弱点となる。
だが、高い瞬発力と小柄な体を最大限に発揮して相手の懐に入れれば、密着している分相手の攻撃はしにくく、みちるの側は思い切りできる。
見事であった。

浩平 「やるなおチビちゃん。で、あんたは抜かないのか?」

前にも気をかけつつ、浩平は向き合っている美凪に問いかける。
抜く、とはもちろん、美凪が背負っている布の包みのことを指していた。
重心のバランスや布上からの見た目で、浩平はそれを倭刀と判断した。
反りのある片刃の剣で、扱う者はこの国では少ないが、切れ味と強度が高い評価を受ける武器である。

美凪 「・・・・・・」

浩平 「小さい嬢ちゃんもなかなかのものだが、あんたはそれ以上だろう」

それを瞬時に判断したからこそ、浩平は美凪の方と対峙したのだ。

美凪 「・・・王女さまは、渡さないと?」

浩平 「ただじゃあ、渡せないな」

しゅるっと美凪が包みの縛り目を解く。
布が取られ、黒い鞘の倭刀が現れ、その柄に美凪が手をかける。
それに対し浩平も、腰の剣に手をかけた。

トッ

地面を蹴る音が小さく路地裏に響く。
と思った瞬間には、美凪は浩平の間合いの内側にいた。
鞘走りの音がして、刀が抜き放たれる。

ギィンッ

鞘から抜いた剣を垂直に立てて、浩平は美凪の抜刀を受け止めた。
こちらも充分に余裕を持った動きである。

浩平 「速いな、けどまだ・・・っ!」

打ち合わされた剣を力で押し返そうとした浩平だったが、美凪の方はするりと後ろへ抜けていってしまった。
背後にまわった美凪が刀を振りかぶる。

浩平 「おっと!」

振り下ろされた剣を、浩平は紙一重でかわす。

美凪 「・・・はずれですか」

浩平 「残念無念」

一瞬の切り結びの後、二人の立ち位置は入れ替わっていた。

浩平 「思った以上にやるな。あんた、名前は?」

美凪 「・・・遠山美凪です」

浩平 「嘘だな」

美凪 「・・・バレました・・・残念」

浩平 「“遠野”美凪、だろ?」

美凪 「・・・・・・エスパー?」

浩平 「そのとおり」

美凪 「・・・びっくり。ぱちぱちぱち」

言葉だけを聞くと緊迫感のないやり取りだが、二人は常に相手の隙を窺っていた。
先手を取った一撃をあっさり止められた美凪は、今度は迂闊に飛び込まずにいる。
また、簡単に鍔迫り合いを回避された動きを警戒して、浩平も手を出さない。
だがこの硬直状態は、浩平側に不利だった。

浩平 「(ちょいとまずいな)」

連れの男達は、残り三人になってようやく相手を強敵と認識し、今はみちる一人相手に一進一退だ。
それも時間の問題で、あのまま行けばみちるに押し切られるだろう。
何より、時間がかかりすぎれば新手が来る。

エリス 「見つけたわよっ!」

このように、である。

エリス 「敵とは言え少しは見所のある奴だと思ってたけど。王女誘拐とは語るに落ちたわね、折原浩平!」

屋根の上から、エリスは怒りの形相で浩平を見下ろしている。

浩平 「これはこれは、王室警護の八番隊隊長、エリス・ヴェイン殿か」

エリス 「フローラは返してもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく