Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は心地よい夢の中にいた。
普段よくある夢見の悪さも、今朝に限ってはなさそうだ。
実に快適な朝。
このままいつまでもまどろみの中にいられたならどれだけ幸せなことか。
今日は何か大事な用があったような気がしないでもないが、そんなものは全て忘れて惰眠をむさぼりたい。
全身でそれを表現しつつ、彼は軽く寝返りを打った。

?? 「・・・・・・ん・・・・・・・・・さん」

彼 「・・・・・・ぐぅ・・・」

?? 「・・・て・・・・・・いさん・・・」

彼 「(うるさい・・・俺の眠りを妨げるな・・・)」

誰かの声が上から降ってくるが、彼は一切無視して眠り続けた。
声の主がゆさゆさと揺さぶってくるが、それでも彼は起きない。
やがて揺さぶりはなくなり、声もしなくなった。

彼 「(これで静かに眠れる)」

再びまどろみの中へ、彼は落ちようとした。
が・・・・・・・・・。

?? 「いい加減に起きなさい!!」

ドスッ!

彼 「ぐぼぉっ!?」

腹部に思い衝撃を受けて、彼は無理やり覚醒させられた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

純一 「ぅ・・・」

音夢 「兄さん、起きた起きた?」

彼、朝倉純一が目を開けると、にっこりと笑顔を浮かべた美少女、妹の音夢が立っていた。
目線を自分の体へ向けると、お腹に上に乗っていたのは、広辞苑だった。

純一 「音夢よ・・・おまえは兄を殺す気か?」

音夢 「兄さんはこれくらいじゃ死んだりしないでしょ」

屈託ない笑顔で音夢はしれっと言う。
こんなやり取りは昔らからのことで、二人にとっては日常茶飯事だった。
しかし・・・。

純一 「おまえな、そろそろ俺を起こしに来るのはやめにしないか。お互いそれなりの身分ある身なんだからさ」

音夢 「身分ある身を自覚しているのでしたら、もう少し自己管理をきっちりなさってくださいませんかしら、お兄様?」

言葉遣いが変わっている。
普段、人前の音夢は真面目でおとなしい優等生であるが、純一はそれを裏モードと呼んでいる。
何故ならば、兄の上に広辞苑を落下させる非情なる女、それこそが音夢の本性だからだ。

音夢 「兄さん・・・何か変なことを考えていませんか?」

笑顔は崩さず、額にうっすらと青筋を浮かべながら音夢が問うてくる。
だがこの場に他人はおらず、裏モードを使うのは音夢なりの嫌味であった。
もちろん純一はそれをわかっていてあえて流す。

純一 「何も考えていないぞ。さー、起きるか」

棒読みな台詞を言いながらベッドから出る。
と、その時何か自分以外の存在がベッドにいることに気付く。

純一 「?」

見れば、それは白い猫だった。
いや、正確にそれを猫だと断言できるかどうかはよくわからない姿の生き物だが、とりあえず猫ということで落ち着こう。
さらにそこから連想される問題の可能性を思い当たり、純一はさらに気が重くなった。
よくよく見れば不自然に盛り上がっているベッド。
そして音夢もそれに気付いた。

音夢 「?」

そのまま流してくれればと純一は思ったのだが、現実と音夢はそう甘くはなかった。
彼にできるのはただ一言、こう呟くだけである。

純一 「かったりぃ・・・」

音夢が布団をどけると、そこには小柄な金髪美少女が横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美春 「おはようございます、朝倉先輩! 音夢先輩!」

朝っぱらから頭に響く大声を上げながら走ってくるのは、ぱっと見てわんこという言葉が思い浮かぶ雰囲気のある少女、天枷美春である。
そしてその雰囲気の通り、彼女は音夢に懐いているわんこだった。

美春 「って、どうしたんですか朝倉先輩、そのほっぺたの紅葉」

純一 「朝からかったりぃことがあってな・・・」

音夢 「まったくもう・・・油断も隙もあったものじゃない・・・

さくら 「うにゃ〜、お兄ちゃんを起こしに行ったら、そこで僕も二度寝しちゃったんだよね」

頬を腫らした純一の両脇を固めるのは、音夢と先ほどの金髪少女。
一見まだまだ子供かと思いきや、この少女、芳乃さくらは純一や音夢と同い年だった。
先ほどの白い猫は、さくらに懐いている、どこか謎の猫らしき生物だ。
ちなみに美春は一つ年下であり、四人とも昔からの幼馴染である。

さくら 「ま、今日は引き分けかな、音夢ちゃん」

音夢 「私は勝負なんかした覚えないんだけど? さくらちゃん」

さくら 「それはそれ、女同士の暗黙の了解ってことで。You see?」

音夢 「何の了解よ、まったく」

どちらも笑顔だが、互いに牽制しているように感じられる。
美春は君子危うきに近寄らずのごとく、距離と取っていた。

美春 「あの〜、ところでお三方とも、そろそろ行かないと会議に遅れちゃいますよ」

音夢 「いっけない! 兄さんのせいで今日も出てくるのぎりぎりだったんだ」

さくら 「うにゃ〜、お兄ちゃんのペースに合わせてたら会議が終わっちゃうよ!」

純一 「おまえらな・・・・・・・・・はぁ、かったりぃ」

それなりの身分と言ったが、その通り、四人は王武十三騎士団の幹部である。
最年少で隊長になった記録を持つ音夢は六番隊隊長で、美春がその副長。
さくらが七番隊隊長であり、純一が副長だ。

 

 

 

祐一 「おー、来たな万年遅刻組」

音夢 「相沢先輩。私はただ頼りない兄の付き添いをしているだけですので、あしからず」

祐一 「ははは、相も変わらず妹の尻に敷かれてるのか、朝倉」

純一 「・・・ほっといてください」

会議室に着いた純一達を真っ先に出迎えたのは、十一番隊隊長の祐一だった。
十三騎士団の隊長会議であるが、現在ここカザフにいるのは全体の半分に過ぎない。
残りは各地に散っている。

祐一 「ま、どっちにしてもおまえらが最後だ。揃ったら時間より前でも始めるそうだから、とにかく席につけ」

そう言って祐一は自分の席に戻っていく。
こうして入り口までわざわざやってきて後輩の面倒を見るようなことをするのは、祐一くらいであった。
ゆえに性格的におちゃらけていて問題が多少あるが、祐一は若い隊員には慕われている。

音夢 「さあ、相沢先輩もああ仰ってますし、早く席に着きましょう。兄さん、会議中に居眠りなんてしないでくださいね」

純一 「しないって」

退屈な会議をじっと聞いているのと、居眠りした上であとで説教をされること。
どちらがよりかったるいかと問われれば、それは後者であろう。
だから純一は会議中は寝ない。

 

広い会議室に、巨大なテーブル。
その周りには、飛び飛びに二つずつ椅子が設置されており、それぞれが各隊の隊長と副長用のものだった。
席順は特に決まっておらず、早く来た者から順に好きな席に着くのが慣わしだ。
だが、いくつか暗黙の了解として指定席とされている場所もある。
例えば、中央奥は一番隊、王武十三騎士団総隊長、ジークフリード・シュタインの席だ。

会議室には三つの出入り口があるが、その中でもっとも王族の寝所に近い場所が王室警護も兼ねている八番隊。
有事に最も早く駆けつけられるように、ここにはその隊長たるエリス・ヴェインがいる。

バルドル 「よぉ、相変わらずの重役出勤だな、六番隊隊長殿」

いかにも嫌みったらしく言うのは、五番隊隊長のバルドル・シュタイン。
貴族出身のこの男は、平民出であり、尚且つ最年少で隊長となった音夢のことを目の敵にしている。
音夢の方は嫌味に対しては何も応えず、ただ笑顔で一礼をしてからバルドルから最も離れた席に腰を下ろす。
この二人は、隊内屈指の犬猿の仲である。

祐一 「あいつらいつかこのテーブルひっくり返してくれねぇかなぁ」

エリス 「何しょーもないこと言ってんのよ、あんたは」

八番隊の席の隣には、十一番隊の祐一と栞がいる。
そこからさらに下がって九番隊の香里と北川。

音夢と美春の横には、さくらと純一の七番隊。
そして末席には、十三番隊の時長天善とジュダがいる。

ジーク 「全員揃ったようだな?」

残りのメンバーは国内の各地に散っており、首都カザフにはいない。
だが、一番、五番、六番、七番、八番、九番、十一番、十三番の八隊があれば、首都防衛には充分と言えた。
ましてや、一番隊と十一番隊はここにはいない三番隊と並んで三強と呼ばれる最強部隊である。

ジーク 「では会議を始めるぞ。俊之」

久瀬 「は」

一番隊副長、久瀬俊之が手元の書類を手にして立ち上がる。

久瀬 「既に各自書類には目を通したと思いますが・・・」

パレード全体の計画は、上の貴族院で全て決定されている。
十三騎士団が担当するのは、そのパレードの警護と防犯だ。
会議も当然それに沿ったものとなる。

久瀬 「万が一の事態など決してないと言い切りたいが、そうもいかないでしょう。ゆえに、姫様の影武者を用意している。その警護は・・・」

祐一 「八番隊がいいんじゃないか?」

エリス 「は?」

祐一 「エリスがフローラ様と個人的に親しいのは結構広く知られてることだ。そのエリスが直接警護してた方が、影武者の信憑性がある」

エリス 「・・・まぁ、一理あるわね・・・・・・・・・けど、フローラ・・・姫ご本人の警護はどうするのよ?」

久瀬 「そういうことなら、少数精鋭がいいでしょう。メンバーの選出は後ほど考えるとして、ヴェイン殿はそれでよろしいか?」

エリス 「わかったわ」

そんな調子で会議は進んでいく。
パレードの一団を直接警護するのは八番隊と九番隊。
街の各方面の警備に五番、六番、十一番隊の人員を投入する。
首都外には一番、十三番隊を配し、七番隊は待機となった。

バルドル 「色モノ部隊はやっぱり待機かぁ。楽でいいなぁ、うん、おまえらは仕事しないでいいぜぇ」

各隊の配置が決定して発表されると、バルドルがまたしても嫌味っぽい視線を、今度はさくらと純一の方へ向ける。
七番隊は十三騎士団最弱と呼ばれ、見た目子供のさくらが隊長ということもあり、口の悪い者から色モノ部隊と陰口を叩かれていた。
むっとして反論しようとするさくらだったが、その前に口を挟む者がいた。

音夢 「お言葉ですが、七番隊は情報収集と機動力に優れますから、いざという時にどこの部隊にも応援に入れる待機は妥当だと思います。五番隊隊長殿はもう少し戦術理論について学ばれた方がよろしいのではありませんか?」

バルドル 「ほぉ。俺が戦術理論に関して疎いと、そう言いたいのかな、六番隊隊長殿は」

音夢 「あくまでただいまの発言に対しての意見を述べただけですので、お気を悪くなさったのでしたら謝ります」

この間、音夢は終始笑顔を崩さない。
裏モード全開だが、喧嘩腰も全開である。

バルドル 「謝るねぇ、どんな謝り方でもしてくれんのか?」

音夢 「こちらに否があると仰るのなら、考慮いたします」

巨大な円卓の中心点付近で火花が散っている。
一部、音夢の隣の美春やさくらなどがプレッシャーに耐えかねて冷や汗を流しているが、基本的に図太い精神構造をしている隊長達のほとんどは会議となれば当たり前のこの光景に動じていない。
成り行きを楽しんでいる不届き者がいるくらいだ。

祐一 「さて、先に手を出すとしたらどっちかな?」

エリス 「馬鹿らしい」

香里 「不謹慎よ、相沢君」

どす黒い空気は、ジークフリードの咳払い一つで払われた。
一通り言い合って気が済んだのか、音夢もバルドルも余計な追求はせず、おとなしく引き下がった。
皆会議に戻ったが、一人祐一だけは残念そうだった。

久瀬 「では以上です。そろそろ時間ですので、各自速やかに持ち場についてください」

会議と言っても、当日の朝のものであるため最終チェックという意味合いがあり、小一時間で終了した。
久瀬が書類を置くと、最後にジークフリードが締めて会議は解散となる。

ジーク 「隣国ルベリアとの同盟を強固とするための大事な催しだ。つつがなく終わるよう、諸君の働きに期待する」

一同 「は!」

全員立ち上がって敬礼し、それぞれに部屋をあとにする。

 

 

 

 

 

純一 「んじゃ、適当に頑張って来いよ」

音夢 「待機だって大切な任務なんですから、寝たら駄目ですよ、兄さん」

純一 「おまえはそんなに兄を信用できないのか、妹よ」

音夢 「ええ、まったく」

即答で断言する音夢。
純一は大げさにショックを全身で表現するが、もちろん本当にショックを受けているわけではない。

祐一 「朝倉妹、おまえらはどの辺り担当だ?」

音夢 「西地区が主です。相沢先輩達は?」

祐一 「中央地区だ。ちなみにバルドルは東なんだよなぁ、残念だ」

音夢 「なんでです?」

祐一 「あの心地いい空気を街の住人達にも味わわせてやりたいじゃないか」

美春 「相沢先輩、それしゃれになりませんよ」

音夢 「本当に、冗談でもそういうことは言わないでくださいね、先輩」

にっこり微笑む音夢。
美春はその笑顔に恐怖を感じて数歩後退するが、祐一はまったく動じない。

祐一 「心配するな、俺は冗談を超越した男だ」

?? 「さすがは大佐殿だ。この俺が唯一先輩と認める人だけのことはある」

祐一 「そうかそうか、おまえももう少し努力すれば俺と対等な地位にまで上れるぞ、杉並」

突如として出現した男の名は杉並亮。
さくらと純一がいる七番隊の隊員である。

杉並 「やはりここは下工作をしてパレード中に五番隊と六番隊が鉢合わせになるよ・・・ぷぉっ!?」

バキッ パシッ

刹那の間に二つの音がする。
だが二つの音は、それぞれに質が違っている。
音のした場所では、僅かに火花が散ったが、それは杉並の顔面と、祐一の顔のすぐ横でである。

杉並 「ぐぉ・・・何故突然の衝撃が?」

音夢 「きっと次元の断層ですよ」

祐一 「空間の歪みを見切れないようでは、まだまだ修行が足りんぞ、杉並」

杉並 「くっ・・・大佐殿の域にはまだ及ばないということか・・・・・・だがいつかきっと、大佐殿のように偉大な存在となってみせよう」

音夢 「絶対にならないでくださいね。今でも充分過ぎるほど杉並君は世間に迷惑な生き物ですから」

拳を握って空を(天井を)見ている杉並と、偉そうにしている祐一、そして笑顔を浮かべている音夢。
そこから巻き添えを避けて少し離れた場所にいる純一のもとへ、栞が寄っていく。

栞 「純一さん、今の全部見えました?」

純一 「見えるわけないでしょう。せいぜい杉並の鼻が潰れる瞬間と相沢先輩が手をかざした瞬間くらいですね」

栞 「それでもすごいですよ。私には音夢さんの手が僅かに霞んだのが見えただけでした。さすがはお姉ちゃんが認める神速の拳です」

美春 「ところで、どうして杉並先輩は相沢先輩のこと大佐殿なんて呼ぶんでしょう?」

純一 「それは知りたくもない永遠の謎だ」

さくら 「深い謎だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて一方、主役のくせに連載二回目にして早くも出番のない回ができる寸前だった往人達はというと・・・・・・。

往人 「かー」

みちる 「すぴー」

寝ていた。
一足先に起きた美凪は、二人を起こすことなく、その寝顔に見入っている。

時間は、パレード開始の午前10時に近付きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく