Ogre Battle Original

 

 

Chapter 1−1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Chapter 1 ヴェルサリア動乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カザフ城地下牢――。

往人 「で、正直にはけ。何をした、みちる?」

みちる 「そっちこそはけ、国崎往人」

牢の中では往人とみちるが睨み合い、互いに尋問中だった。
というより、ただ単に相手に罪をなすりつけようとしているだけにも見える。
いずれも身に覚えのないことながら、こうして捕まったからには何かしたはずだから相手が悪い、と考えるわけだ。

往人 「嘘つきは泥棒のはじまりだぞ、このクソガキ」

みちる 「大人ってのはきたないよね、へっぽこげいにん」

二人の間で火花が散る。
狭い場所で声を張り上げるとうるさいため、今日は静かな言い合いだった。
たまにはこういうのもいいものだと、傍観者の美凪は思う。
だが冷静な美凪にも、実際捕まった原因はわかりかねた。
確かに彼ら三人は貧乏である。
今も三日分の宿代しか持ち合わせていないほどだ。
そんな彼らだが、盗みの類をしたことはない。
公共物破損くらいはあったような気がしないでもないが、城まで連行されるほどではないはずだ。

美凪 「・・・・・・みすてりぃ」

往人 「ガキの相手も疲れたし、取調べの野郎が来るまで待つとするか・・・」

みちる 「なんだとー、誰がガキだーー!!」

衛兵 「おい静かにしろ!」

鉄格子の外から声がして、さらに数人がやってくる気配が感じられた。

往人 「来たみたいだな」

現れたのは、アンテナのような跳ねた髪が特徴的な男だった。

アンテナ 「よう、取調べの時間だぜ」

往人 「さっさとしてくれ。こっちは何の覚えもないからな」

アンテナ 「だろうな。今ちょっとした事情でぴりぴりしててな、ちょっと怪しい奴がいるとすぐ捕まえてきちまうんだよ。お陰でこっちもいらん時間を取られてな」

いやー災難だよなー、などと爽やかな笑顔で言いながら、アンテナ男が頭を掻く。

みちる 「ほら見ろ、やっぱり国崎往人のせいじゃないか」

往人 「俺のどこが怪しい奴だ?」

美凪 「・・・妖しい・・・・・・ぽ」

アンテナ 「まぁ、心配すんな。野郎はともかくお嬢ちゃん達はすぐ釈放するから、なんたってかわいいから・・・」

ドゴォッ!!!

ニコニコした表情で軽口を言う男の横から高速で突き出された拳が炸裂する。
アンテナ男は縦と横に複雑に高速回転しながら地面と水平に飛んでいき、通路の先の壁にめり込んで停止した。
拳から煙を上げているのは、ウェーブした髪が特徴的な、男と同じ格好にマントをつけた風体の美人であった。

美人 「あの馬鹿の言ってることは気にしなくていいから」

往人 「お、おう・・・」

みちる 「こ・・・こわぁ・・・・・・」

美凪 「・・・ぱちぱちぱち」

 

ウェーブ髪の美人は、ヴェルサリアが近隣諸国に誇る王武十三騎士団の一角、九番隊の隊長・美坂香里で、アンテナ男は副長の北川潤といった。
この二人の立会いのもと、往人達は簡単な取調べを受けた。
ちなみに、常人ならば病院行き確実を思われるほどの打撃を受けた北川だったが、取調べの時にはけろりとしていた。

みちる 「不死身だ・・・こいつ」

美凪 「・・・美坂さん、と申しましたか」

香里 「ええ」

美凪 「・・・見事な拳でした」

満足げな表情で、美凪はしきりに頷いている。
だが、褒められた香里の方は浮かない顔をしていた。

香里 「まだまだだわ」

美凪 「?」

香里 「もっとすごい人がいる。あの人の拳はまさに神速・・・打った瞬間が見えないわ。それに比べたら、あたしのはまだまだね」

美凪 「・・・そうでしたか。・・・では、そんな美坂さんに、これを・・・」

ポケットの中から「進呈」と書かれた白い封筒を取り出した美凪は、それを香里に手渡す。

香里 「?」

封筒の中身は、お米券だった。

美凪 「さらに精進しま賞」

北川 「おお、羨ましいな美坂」

バキッ!

横から香里の手許を覗き込んだ北川の顔面に裏拳が炸裂する。

香里 「職務中は隊長と呼びなさい」

往人 「どうでもいいけど、さっさと取り調べってのを終わらせてくれ」

香里 「そうしましょう」

 

往人達三人は、身元を証明できるものはなかったが、怪しいと断定するほどの証拠もなかったため、すぐに釈放されることとなった。

香里 「ごめんなさいね。下の方でもっときっちり調べができればいいんだけど、色々と事情があってね」

往人 「無実がわかったならいいさ。一日分の宿代が浮いたしな。牢の飯も悪くなかった」

香里 「あら、じゃあもっといる?」

往人 「遠慮しておく」

香里 「そうね。こっちもただ飯食らいを置いておく余裕はないわ」

みちる 「むじつだー、しゃくほーだー」

美凪 「・・・めでたしめでたし」

地下牢から出て、上の通路へやってきた往人達は、反対側からやってきた一組の男女とばったり出会った。
男は香里と同じマントをつけており、女というか少女はストールをまとったいるのが特徴的である。

男 「よっ、香里に北川、お役目ご苦労さん」

香里 「相沢君に栞・・・あんた達もこれから取り調べ?」

栞 「いいえ、私達はついさっき終わったところですよ。ね、祐一さん」

祐一 「まったく、なんで俺らがこんなことで忙しくしなきゃならないんだか」

北川 「だよなー」

香里 「仕方ないでしょ。しっかりしなさいよ、十一番隊隊長と副長」

往人 「ほう、騎士団の隊長ってのは随分と若い連中が多いみたいだな」

親しげに話している四人の間に往人が割ってはいる。
若いというよりは、栞という少女などはむしろ幼いとさえ言える年頃に見えた。
これが有名な王武十三騎士団かと思うと、少し意外だった。

香里 「あたし達くらいはまあ、少し若いくらいね。けど、最年少隊長抜擢の記録は12歳だから」

みちる 「にょわ、みちるより二つしか上じゃない」

祐一 「あいつも今は・・・15になるっけな」

北川 「ここでは完全実力主義。強い奴はどんどん上に行って、弱い奴は下のままだ」

そのシステムこそが王武十三騎士団の強さの理由である、と北川は誇らしげに語る。
が、どうやら誰かの受け売りらしい。

祐一 「ところでおまえらは?」

往人 「ふっ、時を駆ける旅人、国崎往人とお供達だ」

みちる 「誰がおともたちだーー!」

ドカッ

飛び上がったみちるの回し蹴りが往人の即頭部を捉え、その身を壁に叩き付ける。

香里 「・・・いい蹴りだわ」

祐一 「おもしろい奴だな。じゃあ俺も、十一番隊隊長、笑いの権化、相沢祐一だ。ただしツッコミで、ボケはこいつ」

栞 「誰がボケやねん」

ビシッ

美凪 「あ・・・切れ味抜群・・・・・・見事なコンビです」

褒めていながら、何故か残念そうな表情をする美凪。

美凪 「・・・国崎さん、負け決定・・・」

往人 「なんでやねん!」

ビシッ

美凪 「・・・・・・よいツッコミ」

満足そうだった。

北川 「ていうか、あんたもなかなかの不死身ぶりだな」

往人 「あんたほどじゃない」

祐一 「だが、なかなかいい芸人魂見せてもらったぜ」

往人 「・・・・・・」

北川 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

バカトリオ 「「「よしっ!」」」

三人同時にサムズアップで笑いあう。
そんな三人をあからさまに馬鹿にした表情で香里は見ていた。

香里 「バカね」

栞 「かわいいじゃないですか」

美凪 「・・・男の子は少しおバカなくらいがよい」

みちる 「んに?」

美凪 「・・・みちるにはまだ少し早いです」

 

往人達は香里と北川、それに何故か祐一と栞に送られて城の外に出た。

祐一 「気が向いたらまた来いよ〜」

往人 「やなこった」

門を出たところで、そんな冗談を言い合って別れた。
歳が近かったせいか、僅かな時間共にいただけで妙に気があった。
特に往人と祐一は、機会があればまた会いたいとお互いに感じていた。

往人 「まぁ、国の偉い連中なんかとは、あんまり関わり合いにならない方が懸命だけどな」

美凪 「・・・・・・」

自由気ままな旅人の往人にとって、権勢というものは対極に位置するものと言ってよかった。
ゆえに、生来そうしたものとは無縁の生活を送ってきた。
ある時を除いて・・・。

往人 「・・・美凪」

美凪 「・・・はい?」

往人 「気が向かないなら、この国を出てもいいぞ」

美凪 「・・・・・・」

往人 「ここで本家の連中と出くわしたら、何かと面倒なんだろ」

美凪 「・・・その時はその時」

往人 「美凪・・・・・・」

バキッ!

往人 「ぐほっ!」

鳩尾に衝撃を受け、往人は体をくの字に曲げてうずくまる。

みちる 「美凪にやなこと思い出させるな、ばっかやろー!!」

往人 「・・・だから・・・・・・その嫌な思い出のあるこの国から出るか、って聞いてたんだろうが、このクソガキ!」

がし がし

みちる 「にょわ!?」

起き上がった往人がみちるの左右のもみあげを左右の手で掴む。
そのまま左右交互に引っ張った。

往人 「うりゃ、うりゃ」

みちる 「んに、んに!」

往人 「そらそら」

みちる 「んに、にょわ・・・っていい加減にしろー!」

飛び上がって下から蹴り上げ、一回転してかかと落とし。
流れるような連続蹴りで、往人は完全に地面に沈んだ。

美凪 「・・・・・・南無」

 

 

 

 

往人 「しかしまぁ、事情を知って改めて見てみると、街があちこち賑わってるな」

警備の人間がぴりぴりしている理由、また街の住人が賑わっている理由は、先ほど祐一達から聞いた。
どうやら明日は、この国の第一王女フローラと、隣国ルベリアの皇太子の婚約披露パレードが催されるらしい。
だから警備体制も通常の数倍であり、お祭りムードに賑わっているわけだ。

みちる 「まったく、国崎往人はせじょーにうといんだ」

往人 「おまえにだけは言われたくねーよ」

この地方の二大国が婚姻関係を結ぶということで、周辺諸国ではかなり話題になっているようだ。
実際、今このカザフには各地から人が集まってきている。
明日のパレードを一目見ようと集まった人々だ。

往人 「色んな奴が集まれば、疑われるのも仕方ないか」

?? 「あー、あぶなーい」

往人 「?・・・・・・ぶぉっ!?」

声に振り向いた瞬間、往人の顔面に何かが衝突した。
球状の硬い物体をもろに受け、往人は倒れていく。
衝突した物体は、落ちる寸前に誰かの手によって受け止められた。

?? 「ナイスきゃーっち」

往人 「・・・きゃっち・・・してねぇ・・・・・・」

美凪 「・・・国崎さん、鼻血・・・」

仰向けに倒れている往人に、美凪がハンカチを差し出す。
それで鼻を押さえながら、往人は立ち上がって声の主に向き直る。

往人 「一体何事だ?」

みちる 「国崎往人、変な声だー」

往人 「やかましい」

鼻を押さえているため、声が濁っているのだ。
それはさておき、改めて前を見ると、球状の物体はスイカだった。
そしてそれを手にしているのは、黒い服に白い帽子の髪の長い少女だった。

少女 「ごめんなさい、ちょっと手が滑っちゃって」

往人 「手が滑ったらスイカが飛ぶのか、この国では。そもそも、今の衝撃はスイカの硬さじゃなかったぞ?」

少女 「気のせいですよ」

往人 「だってよ、あんだけの勢いでぶつかったのにスイカは無傷じゃないか」

少女 「気のせいですよ」

往人 「だいたいどうやったらスイカがあんな威力で飛んでくるんだ?」

少女 「気のせいですってば!」

怒ったらしい。
だが外見上、あまり迫力はない。

少女 「ところで、ちょっと道を聞きたいんですけど」

しかも一瞬にして笑顔に戻った。
つかみ所のない少女だが、逆らいようのない笑顔をしている。

往人 「悪いが、俺らもこの辺りには疎いぞ」

少女 「そうなんだ。こんな大都会だと、すぐ道に迷ってしまいますよね」

往人 「かもしれんな」

少女 「お城の方へ行きたいんだけど、わかりませんか?」

往人 「えー・・・・・確かあっち、だったか?」

美凪 「・・・こっちです」

美凪が指差したのは、往人が示した方向とはまったくの正反対だった。

みちる 「ほーこーおんち」

往人 「うるせぇ・・・こっちだそうだ」

少女 「ありがとね。ばいび〜」

スイカを片手に、もう片方の手をひらひらと振りながら、城の方へと少女はふらふらと歩いていった。
一見すると清楚なお嬢様なのだが、言動に謎の多い人物である。

往人 「・・・美凪といい勝負か・・・」

美凪 「?」

みちる 「いろんな人がいるよね・・・」

往人 「まったくだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パレードを翌日に控えた夜。
城内、騎士団隊長詰め所――。

祐一 「さて、いよいよ明日か・・・」

窓から外を眺めつつ、祐一は一人呟く。

祐一 「・・・にしても、今日はおもしろい奴らに会えたな。あの女・・・偽名を使ってたけど、たぶん遠野美凪・・・・・・それに国崎往人か。いいカードを手に入れた、と言うべきか」

こんこん、とドアがノックされる。

栞 「祐一さん、いいですか?」

祐一 「ああ」

入ってきたのは栞。
祐一がもっとも信頼する副官で、同僚である香里の妹。

祐一 「まだ起きてたのか」

栞 「祐一さんこそ。何を考えてたんですか?」

祐一 「当ててみろよ」

ニッと笑って窓の外に視線を戻す祐一の隣に、栞は並んで立つ。

栞 「明日のこと・・・いいえ、それ以降の、もっと先のことですね」

祐一 「栞は何もかもお見通しか。いいんだぜ、俺の考えを香里に話したければ」

栞 「何言ってるんですか。私は祐一さんの副官であり、他に主を持った覚えはありません」

祐一 「展開次第じゃ、姉貴と敵対する可能性だってあるぜ?」

栞 「お姉ちゃんは頭が固いですからね。でも、何とかなりますよ」

迷いのない栞の言葉に、祐一は満足げに頷く。
そして自らも、迷いを振り払った表情で窓から見えるこの国の景色を眺めた。

祐一 「明日、この国が動く・・・激しくな。いずれ必ず、国内がいくつにも分裂する。その中で生き残るためには、一枚でも多くのカードがほしい。明日はそのための勝負の日になる」

栞 「祐一さんが勝者となるためですか?」

祐一 「どうだろうな」

 

 

 

 

ヴェルサリアを、大きな騒乱の渦へと巻き込む運命の日は、明日に迫っていた・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく