デモンバスターズZERO

 

 

第8話 想いを重ねて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫り来る斬撃を刀で受け流してかわす。

切り返された刃を跳躍して回避すると同時に、相手に真横に回りこんで斬りつける。

それを受け止められ、弾き返されて距離を取る。

もう幾度この流れを繰り返したことか。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・ふぅ・・・」

 

春香と京介の戦いは、互いに決定打を与えられないまま、既に十数分続いていた。

両者の実力がハイレベルで拮抗しているため、なかなか勝負がつかないのだ。

 

「いいぞ・・・俺が求めていたものは、こういう戦いだ」

 

京介は、本当に楽しそうに笑う。

それを見ている春香は、昂ぶっていた心が逆に冷めていくのを感じていた。

怒りが先走って見えていなかった相手の本質が見えてきたのである。

そうしてわかったのは、この男が春香にとっての“敵”ではないということだった。

 

(どうして・・・春香は戦っているの?)

 

春香が戦う理由はただ一つ、睦を守るためだ。

それ以外の理由で戦ったことなど一度もなく、これからもないと思っていた。

元々、戦うという行為が好きなわけではない。

 

ヒュンッ

 

繰り出される京介の刀に反応して体が動く。

隙を見て反撃に転じるが、明確な攻撃の意思を持っている京介の斬撃と違い、春香のそれはただ、眼前の脅威を回避するためのものでしかなかった。

 

(戦いたくない!)

 

そう、春香は思っていた。

そんな春香の様子に気付いたか、京介から叱責の声が飛ぶ。

 

「どうしたっ! 動きが鈍ったぞ。まさかもう限界というわけではあるまい!」

 

攻撃されるからかわす、それだけで春香は動く。

この男は、純粋に戦いことしか考えていない。

口では何と言っても、実際にこの男が睦を殺そうとすることはないであろう。

それがわかったため、春香は戦う理由を見失っていた。

 

「春香は・・・」

「まだ戦うことに迷うか! 否定したところで無駄だ! 力を持つ者は必ず、同じく力を持つ者と競い合うことを望む。それが摂理だろう!!」

 

違うと、春香の理性は叫ぶ。

けれど心のどこかで、それを受け入れようとしている自分がいるのも感じていた。

睦を守るため以外に、自分に戦う理由などないはずなのに。

 

「守るために戦うのも大いに結構だがな、戦う力を持つ者は戦うべきだ。その刀も飾りではあるまい!」

「!!」

 

刀。

春香の愛刀・夢前は、今の姿に打ちなおされる前には別の持ち主がいたと聞かされたことがあった。

その持ち主と共にあった時の魂は、もうこの刀のもとにはない。

けれど、その記憶は、今も微かに残っているという。

 

(夢前・・・前の持ち主さんは、どんな理由でこの刀を使っていたんだろう?)

 

春香とは違い、戦うために戦っていたのだろうか。

そこで気付いた。

先ほどから感じる、京介の言葉を受け入れようとしている気持ちは、夢前から感じるものだということに。

 

(夢前は、戦いたがっているの? あの人と・・・)

 

刀にも意志はある。

夢前が抱く戦いという気持ちは、かつての持ち主と共にあった頃の記憶がもたらすものか、それとも、今の夢前もまた、戦う道具である刀として、その力を発揮できる場を求めているのだろうか。

思い返せば、春香は今の姿として生まれ変わった時から、ずっと夢前と共にあった。

その間、春香が望めば、夢前はいつでも力を貸してくれた。

睦を守るために刀を振るう度に、春香は夢前に頼ってきた。

 

(でも・・・それじゃあ春香は?)

 

一度でも、夢前の想いに応えたことがあっただろうか。

それどころか、夢前が何を思い、何を望んでいるのか、知ろうとしたことがあっただろうか。

春香と夢前は、共に生まれ変わり、魂を同じくしている。

ならば二人は、対等であるはずなのに、春香はいつも夢前に望むだけで、望まれることはなかった。

 

(戦いたいのね、夢前は・・・)

 

ならば・・・。

春香の願いに、夢前はずっと応え続けてきた。

今度は、春香が夢前の願いに応える番であった。

 

 

 

 

 

 

 

京介は足を止める。

背中を向けて佇んでいる春香は、一見すると隙だらけだった。

しかし、先ほどまでは雰囲気が違う。

いや、今、変わったというべきか。

 

(・・・なんだ?)

 

殺気も闘気も感じられない。

静か過ぎる気配が、かえって警戒心を煽る。

今の春香は、先ほどまでとは何かが違う。

京介が攻めあぐねていると、春香の右腕が動いて、刀を水平に持ち上げる。

ゆっくりと、春香の顔がこちらに向けられる。

 

「・・・・・・いきます」

「っ!!」

 

一瞬、京介の全身に戦慄が走った。

凄まじい剣気を当てられて、思わず後ずさる。

自ら放った剣気を追いかけるように、春香が京介に眼前に踏み込んでくる。

ガードしようと刀を上げる京介だったが、遅かった。

 

ザシュッ!!

 

春香の放った斬撃が京介の左肩を切り裂く。

 

「ぐっ・・・!」

 

その動きを追って京介の刀が振るわれるが、春香は一瞬で京介の攻撃範囲外に出ていた。

前にいる相手を追おうとした京介の視界から春香の姿が消える。

気付いた時にはもう、背後からの斬撃を受けていた。

そしてまた、反撃を受ける前に春香が飛び下がる。

 

「ちぃっ!」

 

今度はしっかり追いすがって攻撃を繰り出す。

一閃、二閃・・・京介の斬撃が春香を襲うが、その全てをかわされる。

まったく、掠りもしない。

 

(この俺が、動きを捉えきれんだと!?)

 

逆に斬撃の間隙の縫って、春香の突き出した刀が京介の頬を掠めた。

懐に入り込み、ほぼ密着状態になった相手に対し、京介が渾身の一撃を振り下ろす。

しかしそれも、春香は一歩下がってかわした。

そこから逆に踏み込んで横薙ぎの一撃を放つ。

 

ギィンッ!!

 

刀を立てて受け止めた京介は、その斬撃の威力に思わず押される。

 

「ぐぉ・・・っ!」

 

先ほどまでとは、まるで違う。

踏み込みの深さも、斬撃の鋭さも、今までの比ではない。

それは、迷いを捨てた者だけが放てる一撃であった。

互いに一旦下がって距離を取る。

息が上がっているのは、京介の方だった。

その事実に一頻り驚いてから、京介はさらなる高揚感に包まれた。

 

「くくっ・・・ははは、ははははははははっ!!」

 

高らかに声を上げて笑い出す京介。

笑わずにはいられない気分だった。

 

「最高だ・・・。この俺を、ここまで圧倒する相手に出会えるとはな・・・!!」

 

昂ぶる気分のままに、京介は懐に手を入れる。

そこに仕込んだものを、力いっぱい引き抜いた。

 

バッ!

 

「おまえにどんな心境の変化があったかは知らんが、ようやく見せてくれた本気に俺も相応の形で応えよう!」

 

着物の一部を破いて取り出したそれは、上半身に巻きつけてあった重りであった。

ありきたりだが、己を鍛えるため、常時に力を抑制するためにつけていたものだ。

 

ズンッ!!!

 

「!」

「驚いたか? 随分な重さだろう」

 

投げ捨てた重りが落ちた場所では、コンクリートの道路が陥没していた。

何キロあるのか想像もつかないほどだ。

 

「外すのはひさしぶりだ。本気で行かせてもらうぞ!」

 

その場で刀を薙ぎ払う。

剣圧だけで、地面が割れた。

刀を鞘に納め、腰を落とす。

京介がもっとも得意とする、抜刀術の構えである。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

力を抑制していた重りを外し、抜刀術の構えを取った京介から凄まじい気迫を感じる。

京介がそうであるように、春香もまた、これほどの強敵と対するのははじめてであった。

いや、実際には、夢前の記憶に触れて知ることができた。

夢前のかつての持ち主は、これ以上の敵と相対してきたということを。

その記憶が、春香に力を与える。

戦う力と、それを恐れない意志を。

 

「行くよ、夢前」

 

自らの想いを、夢前の想いと重ねて、刀を正眼に構える。

次が最後となるだろう。

これで、勝負が決する。

誰もいない夜の街角・・・空に浮かぶくじらだけが見守る中、二人は互いの刀に想いを込めて踏み込む。

 

「おぉおおおおおおおおっ!!!」

 

京介が咆哮する。

放たれた神速の抜刀術が春香を襲う。

 

「――っ!!」

 

キィィィィンッ!!!

 

空気を揺らすほどの衝撃が駆け抜ける。

振りぬいた京介の刀の剣圧は、離れた塀すらも打ち砕いた。

その斬撃を、春香は、受け流していた。

抜き放たれる瞬間、その動きに合わせて刀を突き出し、自らその下に潜り込むように屈み込み、斬撃を上へいなしたのである。

ぎりぎりのタイミングで、僅かでも遅ければ春香は斬られていた。

 

チャキッ

 

相手の背後まで一気に駆け抜けた春香は、振り返ると同時に京介の首筋にぴたりと刃を当てる。

刀を切り返そうとした京介は、そこで動きを止めた。

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・勝負、ありよ」

 

しばらく、二人はそのままの体勢で動かなかった。

やがて、京介が観念したように刀を下ろすと、春香も刀を引いた。

そのまま踵を返して、京介のもとを離れる。

 

「待て。とどめを刺さないつもりか?」

「春香はただ、夢前が戦いたがっていたから、その想いに応えただけ。あなたを殺す理由はありません」

「いいのか? 生かしておけば、俺はいずれまたおまえに挑む。そしてまた、あの小僧の命を盾にとるかもしれんぞ?」

「あなたは、そんなことをする人じゃない。剣を交えれば、それくらいのことはわかります」

 

それでも、と付け加えて先を続ける。

 

「もし本当に、あなたがにぃさまを傷つけようとしたら・・・その時は、あなたを殺してでも止めます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春香が走り去った後も、京介はそこにじっと佇んでいた。

はじめて出会った強敵、そしてはじめての敗北。

負けたにも関わらず屈辱感はなく、むしろ今でも高揚感を抑え切れなかった。

 

「負け、か・・・」

 

正規軍から外れたアウトローを集めた裏部隊に属して数年。

古の伝説にある最強集団の名にあやかったその部隊において、尚最強の一人と謳われていた自分が、負けた。

己にはまだ、戦うべき敵がいる。

それに出会えたことをが、この上ない幸せだった。

 

「やっと、敵に会えた。これで終わりではないぞ、俺は、まだまだ強くなる! 誰よりも強く・・・伝説のデモンバスターズすら、超えてみせる!! 超えてみせるぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波乱の一夜が明けて――。

 

「んー・・・おはようごじゃいましゅ・・・」

 

宿泊所の自分の部屋で、春香は目覚めた。

んーっと伸びをすると、体の節々が痛んだ。

勝ったとはいえ、死力を尽くした戦いをしたのだ。

昨夜は宿泊所に帰りつくと、睦達が戻っていることを確認しただけで、挨拶にも行かずに部屋に戻ってベッドに倒れこんだ。

かなり体力を消耗したため、今も起きるのが辛かった。

とはいえ、いつもの日課を忘れるわけにはいかない。

眠い瞼を擦りつつ、だるい体を引きずって睦の部屋を目指す。

 

こんこん・・・ごつんっ

 

「痛いよ〜・・・」

 

例によってノックに続いて頭突きをしてしまった。

しかし、返事がない。

 

「にぃさま〜?」

 

試しにノブを動かすと、難なくドアは開いた。

鍵もかけずにいるとは無用心な、と眠い頭でぼんやり思いながら部屋の中に入っていく。

ベッドの上のシーツは盛り上がっており、まだ睦が寝ているらしいことがわかった。

 

「にぃさま〜、朝ですよ〜」

 

間延びした、聞いていると逆に眠くなりそうな声で呼びかけながらベッドに近付いていく。

もう少し春香の目が覚めていれば、ベッドの盛り上がりが妙に大きいことに気付いていたかもしれない。

だが実際には春香は気付かず、無造作にシーツを剥ぎ取る。

 

「にぃさ・・・・・・」

 

ピシッと音を立てて春香の時が凍る。

我に返った時、春香の目は完全に覚めていた。

 

「ん・・・あれ? 春香、何でここに?」

「に、にに、に、に、にぃー・・・」

「んにゅ・・・はれ? どうしたですか?」

 

本来そこにいるはずのない第三者の声。

それは、睦のすぐ隣から聞こえてきた。

そこで睦も気付いたらしく、顔色がどんどん蒼くなっていく。

 

「あ、いや、ちょっと待て春香! 誤解するな。な、何もなかったからな!」

 

しどろもどろになって言い訳をする睦。

しかし、春香の耳には入っていなかった。

もちろん、二人ともちゃんと服は着ているし、この状況から想像できるようなことはなかったのかもしれない。

けれどそんなことは些細な問題であり、睦ともう一人、仁菜が同じベッドで寝ているという事実は曲げようがなく。

それだけで春香の頭はオーバーロード状態であった。

 

「に・・・にぃさま、死刑っ!」

 

春香は手近にあった小物をありったけ掴み取ると、それを次々に睦に向かって投げつける。

背後に仁菜がいるため睦は避けるわけには行かず・・・。

 

「ごふっ!」

 

全てまともに受けて倒れた。

 

「にぃさまの、リアルレッドアイアルビノゴールデンエンゼル野郎っ! うわぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦さん・・・大丈夫ですか?」

「ええ、まぁ、なんとか・・・」

「ごめんなさいです・・・仁菜が睦さんの部屋に着くなりバタンしちゃったせいですよね・・・」

 

昨夜はさすがに力を使いすぎたのか、睦の部屋に入るなり、仁菜はすぐに寝てしまったのだ。

しかも、睦の腕を掴んだままだったので、睦もソファで寝るなどできず、また睦自身もかなり疲れていたため、二人揃ってベッドにもぐりこんですぐに寝てしまったのだ。

 

「その・・・睦さん、おはようです」

「あ、うん・・・おはよう、仁菜先輩」

 

朝の挨拶を済ませた二人は時計を見て、あまりのんびりしている時間がないことを知った。

昨日どれほど大変なことがあろうと、今日学校があるということに変わりはないのだ。

着替え終わった睦は、なんとなくテレビをつけてみた。

例によって、モンスター関連の話はニュースにすらなっていない。

既に町中では噂になっており、実際目撃していない人もほとんど事実を知っているというのに、報道機関は依然としてその事実をなかったこととして扱っていた。

代わりといっては何だが、病院の施設に強盗が押し入ったというニュースをやっていた。

その際に、医師の一人が殺害されたらしく、その医師の顔写真を見て睦は驚いた。

それは昨日の、仁菜と共にいた医師であった。

 

「でも、殺されたって・・・?」

 

少なくとも、睦はそんなことをした覚えはない。

彼らが立ち去る時は、まだあの医師は生きていたはずだった。

 

「睦さん、どうしたですか?」

「え? あ、いや、なんでもないよ!」

 

慌てて睦はテレビを消す。

黙っていてもいずれ知れるだろうが、仁菜はあの医師とはそれなりに親密な関係だったように思えたため、落ち着くまではこの事は伏せておいた方が良いと思った。

 

「そろそろ行こうか。遅刻しないように」

「あ、そうですね。行きましょう、睦さん」

 

登校しながら、睦は考えていた。

例の医師が死んだのなら、仁菜を狙う者はいなくなったということなのか。

それとも、あの医師を殺した別の相手が今度は仁菜を狙ってくるのか。

何か、睦達の知らない大きな事が起こっているような感じだった。

 

 

それなりに急いだつもりだったが、二人はほとんど遅刻寸前であった。

予鈴まであと一分ない。

 

「急げ、仁菜先輩!」

「は、はいです!」

 

何とか予鈴前に校内に入ることができた。

その時、何か後方から迫ってくる気配を感じる。

 

「ん?」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・とぅっ!」

 

ずざぁぁぁぁぁっ!

 

「な、なんだ!?」

 

誰かが凄まじい勢いで滑り込んでくるのと同時に、予鈴が鳴り響いた。

 

「セーフ! っと」

 

滑り込んだ体勢のまま両手を広げているのは、クラスメートの咲倉ゆんである。

 

「むっちん、にーにゃん先輩、おはこんばんちはー」

「お、おはようです、ゆんちゃん・・・」

「ていうか、今の挨拶はゲームが違うぞ・・・」

「細かいことを気にしてたら大物になれないわよ、むっちん。ましてや、愛する者を守ることもできぬ!」

 

ビシッと指差される。

愛する者と言われてちらっと隣を見てしまったが、慌てて首を振る。

 

「大きなお世話だ。って、こんな話してたら遅刻しちゃうじゃないか!」

「おっと、そうね。ちょっと忙しかったから遅れそうだったんだ」

「忙しかったって、遅刻寸前になるほど何やってたんだ?」

「フッ、ちょっと暗黒街のボスを倒しにね」

 

気取った感じでゆんが答える。

当然、それを本気で受け止める者などいない。

 

「ゆんちゃん、すごいです!」

「ふふん、すごいっしょ!」

 

いたようだ。

 

「ああもう! だから遅刻するって! 仁菜先輩、またお昼に!」

「はいです! お待ちしてますね〜」

 

仁菜と別れ、睦はゆんと一緒に大急ぎで教室へ向かう。

走りながら、また仁菜のことを考えていた。

ゆんの言った愛する者云々の言葉を受けてというわけではないが、やはり仁菜を何らかの脅威から守らなければならないという思いがあった。

具体的にどうすれば良いかわからないし、何より睦は自分の無力さを昨日の事を思い知らされていた。

 

(強くならないとな・・・守りたいものを守るためには)

 

そう決意したところで、教室の前につく。

ぎりぎり本鈴前であった。

 

「むっちん」

「ん?」

 

教室の扉に手をかけたところで、背後からゆんに呼ばれて振り返る。

ゆんの表情は、いつになくシリアスさを醸し出していた。

 

「気をつけなさい。次の脅威は、すぐそこまで迫って来ているわ」

「え・・・?」

「・・・・・・なーんてね♪ ほら、入った入ったー」

 

背中を押されながら教室に入る。

 

「おいゆん、今の・・・」

「おはよう睦君! じゅて〜む!」

「のわっ!」

 

バキッ

 

眼前に迫ってきた誠一郎の顔面に蹴りを入れてその接近を止める。

 

「ひ、ひどい・・・睦くん・・・」

 

倒れこむ誠一郎。

改めて振り返ると既にゆんはそこにおらず、胡桃や他の生徒達と挨拶を交わしながら自分の席に向かっていた。

いつになく真剣な声に聞こえたため少し気になったが、どうせいつものように茶化されただけだろうと思って自分の席に向かう。

そうして、また学校での日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳、どういうつもりです?」

「あん?」

 

帰った途端、京介は昨日のことを同僚に詰問される。

問いかけてきているのは、長身で眼鏡をかけた牧師姿の男、アーネストである。

デモンバスターズの中で最も落ち着きがあるため、表向きのまとめ役ということになっている男だった。

 

「研究所の連中を殺ったのは俺じゃないぞ」

「あれは大佐の命令でファントムがしたことです」

「なるほどね。手柄を横取りされるのを恐れたか」

「勝手な行動は慎むように言ったはずです。今回は良かったようなものの・・・」

「極力騒ぎにならないようにしたつもりだぞ、これでも」

 

一般人には一切見られていない。

多少町を壊しても、最近頻発しているモンスター騒ぎの一つだと思われるため問題もないというのが京介の考え方だった。

 

「それにクリスタルとやらの解放はあったんだ。予定通り、だろ?」

「そういうことを言ってんじゃねぇんだよ、あぁん、柳ィ!」

 

横から詰め寄ってきたのは、血に染まった鎧を着た男、ジャックである。

切り裂き魔の異名を持ち、徹底して敵を殺すことを楽しむタイプの人間だった。

正規軍から外れたアウトロー、というのが一番しっくりくるのがこの男でもある。

 

「てめぇだけ楽しそうにやってんじゃねぇってことだ!」

「それも違います」

 

尚も詰め寄ろうとするジャックをアーネストが制する。

不思議とこの殺人鬼は、アーネストの言うことだけは聞くのだ。

 

「まぁ、いいでしょう。予定通り事が運んでいるのもまた事実。ジョーカーの調べで色々新事実も判明したことですし」

「ほう?」

「我らが求める鍵・・・クリスタルは全部で5つ。その力を宿す適応者は、やはり元々強い力を持った者がなる公算が大きい」

「5つ、ね・・・あんな力の持ち主が5人も揃ったら、薄ら寒いものを覚えるがな」

「ケッ、あんな力どうってことねぇだろうがよ」

「そうですね。確かに御影仁菜が持つ天のクリスタルの力、恐ろしいものではありますが・・・大技一つだけの相手に遅れを取る我らデモンバスターズではないでしょう」

「違いない」

 

確かに、御影仁菜が相手なら負けることはないであろう。

しかし、と京介は思う。

この場にいる他の面子は、自分達に匹敵する、いやそれすらも凌駕する力の持ち主がいるということを信じるであろうか。

伝説の名を冠しただけで自分達を最強と奢るこの者達は・・・。

もっとも、つい昨日まで、自分も同じ口だったわけだが。

 

「とにかく、第一の鍵は解放されたのです。いよいよ計画発動の時は訪れました。今後は残りのクリスタルの探索と、可能ならば天のクリスタルの奪取を行います。本格的に行動を開始しますよ」

「ヘッ、ようやくかよ!」

「・・・・・・」

 

いよいよデモンバスターズが動く。

京介と同等の力を持った者達が、あと8人。

 

(大変だぞ、夢前春香。小僧を守るつもりなら、あと8人の敵を退けなくてはならない。だが、俺がおまえを倒すまで、誰にも倒されるなよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

あとがき

 序盤の山場が終わった。一区切りつけるとしたらここですな。睦と仁菜を中心に話が進みつつ、春香と京介の話が裏にあったわけですが、やはり自分的に一番盛り上がって書いていたのは春香vs京介の部分。強い者同士が戦うという、デモンの根源たるシーンなので、序盤の見せ場です。一方、表主人公であるはずの睦君には見せ場無し・・・守ってみせると意気込みながら、実は春香や仁菜に守られてばかりの情けない主人公たったりします。今後、守られる側から守る側にまわることはできるのか?
 さて、次回からは2つ目のクリスタルを巡る話となります。最初に顔見せだけしたキャラ達や、新たな敵が続々と登場し、ますます睦の主人公としての立場危うし!