デモンバスターズZERO
第7話 天翔る翼
公園の茂みに飛び込むようにして睦と仁菜は地面の降りた。
それと同時に、すぐ上をガルーダが通過し、突風が茂みの枝葉を吹き飛ばす。
身を低くして飛ばされるのを耐えた二人だったが、ガルーダは空中で旋回しながら尚も獲物を求めていた。
「どうやら、このまま黙って見逃してはくれないみたいだな」
しかしこれは、そう易々と対処できそうにない。
ただでさえ手強い大型モンスターの上飛行タイプともなると睦の手に負える相手ではない。
ここはやはり、二手に分かれて逃げるのが得策か。
「仁菜先輩、ここは僕が囮になってあいつを引き付けるから、その隙に飛んで逃げて・・・」
「だめです。仁菜は、睦さんと一緒じゃなきゃ逃げません」
「あのね仁菜先輩、こんな時にわがままを・・・」
振り返りながら言いかけて、睦は言葉を呑み込んだ。
一瞬別人かと思えるほど、その時の仁菜は凛々しい顔をしていた。
「睦さん、仁菜には今まで、本当に大切なものってなかったです。いえ、あったのかもしれませんが、それに気付いていませんでした」
「仁菜、先輩・・・?」
「だけど今日、睦さんが助けに来てくれた時、気付いたんです。仁菜には、決して失いたくないものが、最低でも二つあるということに」
ぎゅっと、仁菜は両手を胸の前で組む。
祈るようなその姿勢からは、今までなかった強さを感じ取ることができた。
「それは、大切な人である睦さんと・・・今日まで過ごしてきた仁菜の素敵な思い出です。仁菜はそれを、どんなことがあっても守り抜きます」
決意を込めた表情で空を振り仰ぎ、睦の顔を見て、仁菜は微笑む。
「大丈夫です。仁菜にお任せですよ」
握りこぶしでドンと胸を叩き、仁菜は光の翼を広げる。
昨日見た時よりもさらに力強く輝く翼を羽ばたかせて、仁菜は空へと翔け上がっていった。
舞い上がった仁菜は、公園の上空でガルーダと対峙する。
恐ろしい敵と向き合っているはずなのに、仁菜の心に恐怖はまったくなかった。
かつてないほど大きな力を感じており、しかもはっきりとした戦う理由も得て、今の仁菜は怖いものなしであった。
「今の仁菜は無敵さんです。さぁ、どこからでもかかってくるです!」
ビシッと格好良い台詞とポーズで決めてみる。
やっているのが仁菜のため、どちらかというと格好良いというよりは可愛いという表現がしっくりくるのだが、本人はノリノリであった。
その様子に怯んだか、ガルーダも威嚇をするだけで襲ってはこない。
しばし両者は空中でにらみ合いを続ける。
「・・・・・・・・・」
にらみ合う。
いつまでも・・・。
何も起こらない。
「・・・・・・し、しまったですーーーっ!!」
突然、仁菜が頭を抱えて絶叫する。
「仁菜、空飛ぶ以外何もできないんでしたーーーっ!」
下の方で睦がずっこけるのが見えた。
戦うと決めたものの、実際問題仁菜の能力は今のところ空を飛ぶことだけで、戦闘能力は皆無である。
情けない気分になって、仁菜は浮かんだままの上体でうなだれる。
「うぅ・・・所詮は仁菜は仁菜でしかないということでしょうか・・・」
激しく落ち込む仁菜。
しかし、呑気に落ち込んでいる場合でもなかった。
「仁菜先輩、危ない危ない!」
「はわっ!」
相手に攻撃手段がないことを悟ったか、ガルーダが仁菜に向かって詰め寄る。
鋭い鉤爪による攻撃を、仁菜は急上昇してかわす。
巨大な翼を羽ばたかせ、ガルーダが逃げる仁菜に追いすがる。
「わっ! っと! ・・・はわわっ!」
執拗に攻撃を仕掛けるガルーダと、それをかわす仁菜。
空を縦横無尽に飛びまわりながら、両者の追いかけっこは続く。
睦を降ろし、一人で飛ぶ仁菜の機動性は圧倒的で、ガルーダの攻撃は全て余裕をもってかわしていた。
しかし依然攻撃能力はないため、一方的に追い回されて逃げることしかできずにいる。
空の様子を、睦は歯噛みしながら見つめていた。
仁菜が一人で頑張っているというのに、睦は下でただ見ていることしかできない。
自分の無力さが悔しかった。
「何か・・・できることは・・・?」
考えてみても、高速で飛び回る戦いに飛べない自分が介入したところで何もできるとは思えなかった。
むしろ、下手なことをすればかえって仁菜の足手まといになりかねない。
かといって、こうして指をくわえて見ているだけなのは歯痒い。
現状はまだ仁菜の速度が相手を上回っているため有利だが、このまま続けて疲弊したところを狙われたら危険である。
加えて、地上での脅威がまだ完全に去ったとは限らない。
戦いが長引けば、どんどん睦達が不利になる。
「・・・こうなったら一か八か」
辺りを見渡して、一番高い木を探し出し、そこへ向かって睦は駆け出した。
追いかけっこは尚も続いている。
追うガルーダと逃げる仁菜。
その状況はまったく動かず、状況は硬直しているといって良い。
逃げ回りながら、仁菜はない頭を振り絞ってどうするべきかを考えていた。
「仁菜にできること・・・仁菜にできること・・・」
御影仁菜18才。
特技、料理、飛ぶこと・・・・・・以上。
「うぅ・・・仁菜、だめだめさんです・・・」
このまま時間をかけすぎれば、自分だけでなく睦も危険である。
やはり下手に格好をつけたりせず、自分が囮になって睦を逃がすべきだったかと後悔していると、視界の端に睦の姿と捉えた。
何故か、付近で一番高い木のてっ辺にいる。
「む、睦さん!? あ、危ないです〜!」
そっちに気をとられた隙に間を詰めたガルーダの爪がすぐ頭上を通過する。
攻撃を回避してから改めて睦の方を見ると、どうやら手招きをしているようだ。
仁菜は少し考えてから、睦の方へ向かっていった。
真っ直ぐ仁菜とガルーダが飛んでくる。
それを木の上で睦は待ち構える。
「チャンスは一瞬・・・うまくやれよ、久遠寺睦」
心配げな表情を見せながら向かってくる仁菜に対して、睦は力強く頷いてみせる。
それを見て仁菜も睦の意図を察したか、若干速度を落として飛んでくる。
仁菜が睦の頭上を通過する頃、ガルーダもほぼ真上に来ていた。
獲物を捕らえようと、その動きは一瞬止まる。
それを逃さず、睦は手にした扇を投げつける。
舞の時に使用するものだが、有事には武器として使える鉄扇である。
殺傷力は決して高くないが、急所を狙えば確実に相手をしとめることはできる。
睦の放った鉄扇は、寸分の狂いもなくガルーダの頚動脈を狙ったはずだった。
ブワッ!!
「おわっ!」
だが、ガルーダの羽ばたきによって起こる突風が僅かに睦のバランスを崩し、手元を狂わせた。
結果、狙いは逸れ、鉄扇はガルーダの右目を切り裂くにとどまった。
クワァァァァァァッ!!!
片目を潰されて、ガルーダが荒れ狂う。
翼の羽ばたきに煽られて、睦は足を踏み外す。
「うわぁっ!」
「睦さん!」
睦の体が木から落下する。
あの高さから落ちたらただでは済むまい。
しかし今からでは間に合うかどうか。
仮に追いついたとしても、睦の体重と落下速度を受け止めるだけの力を練る時間はない。
それでも、睦を助けなくてはいけない。
仁菜は、睦を助けるイメージを強く念じる。
「っ!!」
仁菜の翼が一瞬激しく発光する。
放たれた波動は仁菜の視線の先、睦の真下に集束する。
それに触れた途端、睦の落下速度が弱まり、静かに地面へと下ろす。
「ほっ・・・」
どうやら、無傷であるらしいと知って、仁菜は安心する。
病院から飛んで逃げる際に睦に飛ぶための力を分け与えたことの応用で、遠く離れた相手を浮かせることを試みたのだが、上手くいったようだった。
そこで仁菜ははたと気がつく。
今までこんなことができるなど知らなかったというのに、今もさっきも、仁菜はそれができて当然のように振舞っていた。
だとしたら、まだ仁菜自身が気付いていないだけで、さらなる力があるのではないか。
「仁菜先輩!」
「!」
片目を失ったガルーダは、それでもまだ仁菜を狙ってきた。
かわしながら仁菜はイメージする。
迫り来る敵を倒せる力を。
「仁菜先輩! もう一度今の・・・」
「いいえ、もう大丈夫です、睦さん!」
「え?」
「仁菜、もうわかりましたから!」
仁菜は睦を巻き込まないように上昇し、ガルーダもそれを追ってきた。
地上数十メートルの位置で、両者は停止し、間合いをとって対面する。
今までと違う仁菜の雰囲気を警戒してか、ガルーダもすぐに近付こうとはしない。
同じ高度を保ちつつ、再び互いににらみ合う。
しかし、さっきと同じではない。
「そうです。今の仁菜は無敵さんでした。睦さんと仁菜自身を守るためなら、何だってできちゃいます!」
そのための力が自分に備わっていることを、仁菜ももう理解していた。
あとはただ、思い浮かぶイメージのままに行動するのみ。
「くじらさん! 仁菜に力を貸してください!」
仁菜は片手を天に、大空に浮かぶくじらに向かって掲げる。
くじらは、仁菜がずっと夢の先に描いてきたもの。
それは即ち、彼女にとっての力の象徴だった。
そこには必ず、仁菜の助けになる、大きな力があるはずであった。
それから起こったことを見て、睦は呆気に取られる。
仁菜が片手を掲げたかと思うと、空に浮かぶくじらの腹部辺りに変化が起こる。
僅かに発光したくじらから、一条の光が仁菜に、仁菜の翼に向かって伸びた。
くじらから発せられた光を受けた仁菜の翼は、さらに強く輝き、倍以上の大きさに膨れ上がった。
睦にもわかった。
それが、凄まじいほどの力を内包しているということが。
大きく広げた、光り輝く翼。
とても非現実的で、とても幻想的で、まるで古の伝説にある天使の姿を見ているかのようだった。
圧倒的質量の力が集まるのを本能で感じ取り、ガルーダがたじろぐ。
しかし、退くつもりはないようだった。
睦と自分を守るためとはいえ、相手の命を奪わなければならないことに、仁菜は少し心を痛める。
それでも、大切なものを守るために、迷いはなかった。
「ごめんです、モンスターさん。仁菜は、負けるわけにはいかないですから!」
両手を胸の前にかざす。
翼が発する光が、少しずつ両手の間に集まっていく。
凝縮された光は凄まじいエネルギーを放ち、辺りに渦巻く。
その力に恐れをなしたガルーダは、一際大きな鳴き声を上げて、仁菜に向かって突進する。
だが、仁菜の力が溜まる方が早い。
「いっけぇーーーですっ!!!」
眼前に迫る敵に向かって、仁菜はその力を解放した。
巨大な光の奔流がガルーダを飲み込み、消し去っていく。
激しい光が、夜の闇を二つに裂く。
その様を電柱の上に立って見ていたさやかは感嘆の声を上げる。
「おー、すごいね〜。かけら一つでここまでなんて。君達がほしがるのも無理はないかもね」
語りかけた方向では、同じように電柱の上に立っているジョーカーの姿があった。
「まったく、恐れ入るな。これでかけらというなら、本体には一体どれほどの力が秘められているというのか・・・」
「本当にね〜」
黒服達を全て倒し、公園へ向かう途中で春香もその光景を見ていた。
その強大に力に対する驚きと、睦達に迫っていた脅威が去ったことによる安心感とが、春香の心の内で半々にあった。
「にぃさま・・・仁菜先輩・・・」
「大したものだな」
「っ!」
声に振り返ると、外灯の明かりの影から一人の男が現れた。
「柳・・・京介さん」
「20年近くかけた計画がようやく成就したというのに取り逃がすとは、連中も詰めが甘い。もっとも、俺にはどうでもいいことだがな」
「・・・・・・」
「俺にとって重要なのは、今こうして刀を抜いたおまえと対峙していることだ、夢前春香」
「睦さ〜ん!」
呼びかけられて、睦は我に返る。
その時既に仁菜は目前に迫っており、何とか抱きとめたものの勢いを殺しきれずに二人一緒に芝生の上に倒れこむ。
「睦さん睦さん睦さん睦さん!」
「に、仁菜先輩・・・」
まだ衝撃は収まらない。
目の前で起こった出来事が大きすぎて、頭の中で整理しきれていなかった。
けれどそんなものは、仁菜の姿を見ているとどうでも良いことにように思えた。
「睦さん、仁菜、やりましたです!」
「ああ、すごかったよ、仁菜先輩」
本当にすごいと睦は思った。
はじめて会った時の仁菜は、自分の力を持て余しており、また自分に自信を持てない、そんな少女だった。
しかし今は力を自在に操り、何より自信に満ち溢れている。
この数日間で、仁菜は見違えるほど強くなっていた。
「見事だ仁菜よ。もう僕が教えることは何もない!」
「仁菜、免許皆伝ですか?」
「うむ」
「やりました。だけど、それも全部、睦さんのお陰です」
「僕は何もしてないって」
「いいえ。睦さんがいるから、仁菜は無敵さんになれるんです。睦さんは、仁菜に勇気をくれるですから!」
「そ、そう・・・」
面と向かってそう言われると照れくさい。
仁菜の方はそうでもないのか、ひたすら嬉しそうである。
「と、とりあえず、ここを離れようか。まだ追手が来るかもしれないし、今の光を見て人が来たりしたらややこしくなるし」
「そうですね。えっと・・・どこに行きましょう?」
「宿泊所に行こう。仁菜先輩の家だと、すぐにわかっちゃいそうだし・・・それでいいよね?」
「はいです!」
睦は周囲に警戒しながら、仁菜を連れて宿泊所を目指した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
両者の間合いは、およそ10メートル弱。
決して近くはないが、春香や京介の腕なら、一息で踏み込める距離でもあった。
緊張感が充満する中、春香が口を開く。
「全部・・・あなたが仕組んだんですか?」
「少し違うな。病院の連中は俺とは直接の関係はない。俺はただ、それを利用しただけだ」
「どういうことですか?」
「御影仁菜と病院の関わりと知れば、あの小僧は自ら首を突っ込むだろう。そうなれば当然小僧にも危険が及び、おまえが動く。俺自ら小僧を襲ってもよかったんだが・・・」
春香の表情が険しさを増す。
その様子を楽しげに見ながら、京介は続ける。
「そうすると騒ぎが大きくなる可能性があった。病院絡みの騒ぎなら、放っておいても上が勝手に揉み消してくれる。それに、おまえはどうやら小僧の前で力を見せることはないようだからな。直接的な手段では望みどおりにはいかない。だが今はこうして・・・」
すーっと京介が両手を広げ、辺りを指し示す。
二人以外、この場に人の気配はない。
「邪魔者は一切いない。おまえは刀を抜いている。最高の状況を作り出せた」
一歩踏み出しながら、京介は刀の鯉口を切る。
対して、春香は一歩下がった。
「春香は・・・」
「一つ言っておく」
「?」
「おまえがここで俺に背を向けたら、俺はおまえを追わない。代わりに、今度こそあの小僧を狙うぞ」
「っ!」
「俺にとっても、おまえにとっても、今以上に最高の状況はないはずだ。これ以上焦らすなよ。俺はもう、おまえとやりあいたくてうずうずしてるんだ」
京介から放たれる剣気が春香の身を刺す。
春香にももう、この戦いが不可避であることはわかっていた。
ここで退けば睦を狙うというのなら、春香は退くわけにはいかない。
「本当は、嫌だけど・・・」
刀の柄に両手をかけ、正眼に構えて京介と向き合う。
「にぃさまを傷つけようというのなら、春香はあなたを倒します!」
「それでいい! 行くぞ、夢前春香!!」
ダンッ!
京介の足が地面を蹴る。
僅か一足で、京介は春香との間合いを詰めていた。
驚異的な踏み込みからの居合い。
ギィンッ!
「くっ・・・!」
それを春香は刀を立てて受け止める。
しかし威力を殺しきれず、春香の体が地面から浮き上がる。
そこへさらに京介の二の太刀が追い討ちをかける。
本来一撃必殺の大技であるはずの居合いだが、京介には初太刀から二の太刀までの隙がほとんどなかった。
ザンッ!!
斬撃が背後の塀を切り裂く。
だがそこに、春香の姿はない。
「ぬ!」
受け止めた斬撃の衝撃を利用して、上へ跳び上がったのだ。
浮かされても体勢を崩さずにいたからこそできた芸当である。
「やぁっ!」
落下しながら春香は京介の肩口目掛けて刀を振り下ろす。
刀を水平にしてそれを受け止めた京介は、力ずくで春香の身を押し返した。
上へ押し上げられた春香は、数歩下がって距離を取ろうとする。
しかし京介はさらに追いすがって刀を薙ぐ。
ビュンッ!
すぐ目の前を切っ先が通り抜ける。
右へ左へ刀を薙ぎ払う京介の攻撃を、春香は後退しながらかわしていく。
そのままどこまでも下がると見せかけて、不意に足を止めてみせる。
そこで深く屈み込んで横薙ぎの一撃を避ける。
頭上を刀を通過するのと同時に踏み込み、さらに踏み込んだ足を軸にして相手の背後に回りこみつつ斬り付けた。
キィンッ!
背後からの斬撃を、京介は刀を背中に回すことで受け止めた。
その状態から弾き返し、二人は互いに距離を取って向き合う。
「やるな。だがまだ様子見といったところか?」
「・・・・・・」
一進一退の攻防。
その中で二人は互いの動きをつぶさに観察していた。
そして春香は、京介の実力に内心舌を巻く。
何より、斬撃の速度が半端ではない。
一見大振りに見えながら、まったく攻撃と攻撃の間に隙がないのだ。
切り返しが速過ぎて、振りぬいた後の隙をつくことがほとんどできなかった。
今の背後へ回りこんでの一撃も、完璧なタイミングと思われたが、止められた。
さらにもう一つの脅威は、その膂力である。
尋常でない振りの速さを実現している豪腕から繰り出される一撃の重さは計り知れない。
石造りの塀をいとも容易く切り裂いた速さと、鋭さと、重さ。
最初の居合いを受け止めた時、並の刀であったなら刀ごと斬られていたかもしれない。
「さぁ・・・続けて行くぞ!」
「っ!」
一旦刀を納めてから、京介が踏み込んでくる。
まともにガードしても居合いの一撃を止めることはできない。
紙一重でかわしても、即座に切り返しで斬られることになる。
ビュッ!
斬撃の音を遠くに聞きながら、春香は跳躍する。
大きく間を取ってかわさなければ、京介の猛攻から逃れることはできない。
だがそれでは、反撃する機会もなかった。
「どうした! 逃げてばかりいないで向かってこい!!」
逃げる春香に追いすがる京介。
しかし斬撃を繰り出す瞬間、京介の意識の内から春香の存在が消える。
「なっ!?」
咄嗟に気配を探る。
それを感じると、振り返るより先に刀を振るう。
背後から繰り出された春香の斬撃が京介の肩を掠める。
振り返った時、春香は既に数歩下がった後だった。
「・・・・・・」
京介の超人的な切り返しの速さがなければ、今の一瞬でやられていたかもしれない。
斬撃の速さも、鋭さも、重さも京介のものが上だったが、春香の特長はその驚異的な身のこなしだった。
なんとか対処はできているが、こうも何度も背後を取られたことなど、京介は生まれてはじめてだった。
「おもしろい・・・」
こうでなくては楽しくないと京介は思う。
予測したとおり、春香の実力は自分と同等かそれ以上のレベルにあった。
わかっていたことだが、実際に剣を交えてみて尚その実力を知ることができる。
それがわかって、京介の心は高揚する。
「もっとだ。もっと俺を楽しませてみろ!!」
つづく
あとがき
バトルパート尽くしの回。ほのぼのパートも嫌いではないが、序盤で書きたかったのはやはりこの辺りであった。力に目覚めた仁菜と、春香vs京介。戦闘描写は難しいからなかなか上手くは書けないが、楽しくてどんどん筆が進む。次回ではいよいよ、春香と京介の勝負に決着が・・・!
仁菜の必殺技のイメージは、ガンダムXのサテライトキャノン・・・・・・かなり無茶苦茶な技だが、「くじら」原作も負けないくらい無茶苦茶な展開があったりなかったり。あのくじらはその気になればマイクロウェーブ照射くらいわけなくこなしそうである。