デモンバスターズUltimate外伝
さやかの三界道行之巻

 

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『あれから、しばらくが経った。

魔界の覇者を決める戦いは、勝者である祐一君がその権利を放棄したことで、結局は勝者無き戦いとなった。

だけど、プライドの高い真魔のひと達は、全てを懸けて戦って負けた以上、遺恨は残していない。

阿修羅さんが言うには、今後100年くらいはどの魔神も、最強の座を手にした祐一君を立てて大人しくしてるだろうって。

悠久に続く戦いの中、魔界は今一時の平穏な時代を迎えていた。

 

アシュタロスは表舞台から完全に身を引いて、今はどこかの山奥で優雅な隠居生活を送っているらしい。

アスモデウスは今まで通り、剣の極致を目指して日夜修行の日々。

ケルベロスは地獄坂に一度戻ったけど、その後すぐに退屈だって言って魔界全土散歩の旅に出た。

ガネーシャは自分の拠点に引きこもってるけど、その内またほとぼりが冷めたら暴れだすだろうとのこと。

阿修羅さんも故郷に帰ってしばらくのんびりした後、あちこちをぶらぶらするって言ってた。

ハデス君は何処かに姿を消したけど、いつまたどこから沸いて出るかわからないから、油断禁物。

フェンリルは傷を癒すのに数百年はかかるらしいから、当分は出てこないだろう。

ロキさんは呪法を破られてすぐには動けないらしいし、こっちもしばらくは何もしてこないはず。

 

魔界に生き続ける限り、彼らの多くは、いつかまた戦いの中に身を置くことになるんだと思う。

だけど今は、みんな傷を癒し、体を休め、静かに時を過ごしている。

そして・・・・・・。

 

祐一君は、ちゃんと生きて、帰ってきた。

 

・・・もっとも、死んではいない、って言い換えた方が正しいかもしれない。

戻ってきた祐一君の体はぼろぼろで、たぶん、もう二度と、戦うことはできない。

生きていてくれたことは素直に嬉しいけど、彼自身はどうなんだろう?

ずっと戦いの中に身を置いてきた彼が、この先ずっと、戦うことのできない体を抱えて、何を思って生きていくのだろう?

もしかしたら彼自身にとっては、死を迎えた方が幸せだったのではないか。

その彼の思いも、あの人との戦いがどんな結末を迎えたのかも、わからない。

彼は帰ってくるなり倒れて、それからずっと、眠り続けているから・・・。

 

今も、オシリスさんの城にいる。

眠っている彼の表情は安らかだから、進んできた道と、今ある結果に後悔はしていないとは思う。

穏やかに、眠り続けていた。

 

むしろ、穏やかじゃないのは周りの方。

殊にエリスちゃんの受けたショックは大きかったみたい。

ぼろぼろな姿で帰ってきた祐一君の姿を見た時のエリスちゃんは、ひどく取り乱して、眠っている彼に掴みかかって、激しく激昂して、彼に当たり、罵った。

一緒に行きたいと願い、一緒に行くと約束した場所へ、彼女を置いて一人で行ってしまったこと、もう共に歩むことができなくなってしまったこと、約束を破ったことを、許さないと。

私は、そんなエリスちゃんを止めなかった。

先に取り乱したエリスちゃんを見て、かえって冷静になれたことと、私は既に一度、彼との戦いで自分の思いをぶつけていたから、彼女ほど取り乱したりはしなかった。

だけど、彼女の半分くらいは、私にも同じ思いがあった。

エリスちゃんを止めたのは、イシスちゃん。

どんな理由があっても、祐一君を傷つけることは許さないと言って。

その後、エリスちゃんが部屋を飛び出していってからイシスちゃんと交わした会話は、よく覚えてる。

 

「さやか。私は、あなたやエリスと違って、祐様の隣に並んで一緒に歩む事はできない。ずっと、このひとの背中だけを見てきた。だけど今、こんな姿になってやっと、私のところに祐様がいる。そのことにほっとしている私は、とても独善的よね・・・」

「・・・そんなことないよ。イシスちゃんも、エリスちゃんも・・・私も、女だもの。大好きなひとの傍らにいたいと思うのは、当然だよ」

 

そして、飛び出して行ったエリスちゃんの、泣いている後姿も。

 

「わかってる・・・あいつがあんなになってまで、何を求めたのか。どうしてそうまでして突き進んだのか、全部わかってる! わかってるけど・・・!!」

 

たぶんエリスちゃんは、私達の中で一番祐一君に近かった。

だから誰よりも、彼の思いを理解している。

でも、理解はできても、納得できない感情はある。

彼女を置いて、一人で行ってしまった彼に、彼女はひどく裏切られたような気持ちになったのだろう。

だけど、その思い理解できてしまえるから、余計に感情のぶつけ先が見当たらない。

溢れ出す感情を抑えきれず、エリスちゃんは私達の前から姿を消した。

 

私の感情は、たぶん二人の中間くらい。

彼が生きていてくれたこと、それは私自身が願ったことであり、素直に嬉しい。

だけど私ももう、彼と共に歩む事はできない。

 

――これからは君が、過酷な運命の中で生きなければならないのだからな。

 

本当・・・君の言うとおり、辛いね、ベルゼブル君。

彼との出会いは、私の運命を変えた。

そして今、私は彼と決別することになる。

これから先も私は、こんな出会いと別れを繰り返していくことになる。

時にそれは、辛さを私の心に残すだろう。

だけど、立ち止まるわけにはいかない。

自分で選んで、進むと決めた道だから。

 

そんなわけで祐一君の下を離れた私は、地上へ行こうと思ってる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキの城、ヘルの寝室。

いつものようにそこでのんびりしていたさやかは、唐突にそれを口にした。

 

「私、ちょっと旅に出るから」

「・・・いつものことだけど、唐突ね」

 

読んでいた本から顔を上げたヘルは、もう慣れた顔でさやかの発言を聞いていた。

 

「それで、どこへ行くの?」

「魔界をうろうろするのもいいんだけど、それだとエリスちゃんと鉢合わせしそうだし、ここは一つ地上や天界に行ってみようと思うんだ」

「地上はともかく、天界へ?」

 

おそらくさやかならば、何のリスクも負わずに魔界と地上を行き来することはできるだろう。

だが天界へ行くとなるとそういうわけにもいかない。

元より転移は、自らと所縁のある場所でなければ成功させることが難しいのだ。

 

「伝手はあるから、大丈夫だと思う」

「そう」

「それで、私の留守中のことだけど、これを置いていくから」

 

テーブルの上に、さやかは円柱形の物体を置いた。

見たところ何かの魔法具か呪法具のようだったが、見たことのないものだった。

 

「これは、何?」

「名付けて、はですホイホイ!」

「は?」

 

大抵の言動には慣れたつもりだったヘルだったが、これにはきょとんとさせられる。

やはりさやかの言動はヘルの想像の範疇を超えている。

 

「あれ以来姿見せないけど、もし出てきてもこれがあればそうそう近付いてはこれないはずだから。それでも出てきた時は、ここをまわすとさらに強力な超はですホイホイにパワーアップするから」

「は、はぁ・・・」

 

じっとヘルはその物体を眺める。

どうやら、特殊な波形の魔力を発して特定の相手の感覚や力を狂わせるものらしい。

似たような宝具が父の宝物庫にあったような気がするが、これを自力で作ったというのか。

そんな真似ができるのは、父のロキだけだと思っていた。

 

「・・・やっぱりすごいね、さやかは」

「えへへ。あ、あとこれも」

「これは?」

「ガブガブぼーん。お兄さん、足四本全部斬られて動けないんでしょ? 退屈凌ぎにでも」

 

それは、どう見ても骨であった。

大きさ調整自在とか自動修復機能付きとか、くっついている札に書いてあるが、その形は犬がしゃぶりつきそうな骨そのものである。

ヘルは無言で、それをさやかへ返した。

こんなものを差し出した日にはフェンリルに殺される。

 

「だめ? じゃあ、その内会った時にケルちゃんにでもあげよっかな」

 

さやかにかかっては、最強の魔狼も、地獄の番犬も、ただの犬らしい。

笑いそうになったが、兄フェンリルの姿を思い浮かべると、ヘルは顔を引きつらせるに留まった。

 

「最近こういうの作るのに凝っててね。帰ってくる時にはまた何か作って持ってくるよ」

「うん、楽しみにしてる」

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃい、さやか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と」

 

さやかは魔界から空間を飛び越え、地上へと戻ってきた。

魔神達と同等の力を持ちながら、こうした形で空間を隔てた場所へ移動できるのだから、改めて考えても反則的な能力だと自分で思う。

辺りを見渡したさやかは、自分の望むとおりに場所に出られたことを知る。

 

「うん、座標ぴったし」

 

そこは、巨大な樹の天辺であった。

かつて一度だけ訪れた、さやかにとっても重大な決断をした地、大樹ヴィオラの上である。

そして、そこで彼女と二人きりで向き合うのは、二度目であった。

 

「ひさしぶり、ヴィオラさん」

「おひさしぶりです、さやかさん」

 

ヴィオラ。

かつてこの地で、闘神祐漸と結ばれ、その血を後世に残した人間の女性、一乃が大樹の精霊と一つになって生まれた存在。

時は違えど、同じ魂を持つ男を愛した者同士。

さらに今は、人の身で精霊となった者同士として、実際に会っていた時間は短くとも、不思議な親近感を覚える二人であった。

 

「いや〜、やっぱり精霊としての先輩様だし、目上のひとには一度挨拶に来なきゃなぁ、って思ってたんだ」

「そんなことはありませんよ」

「ほぇ?」

「あなたの格は、私などの及ぶところではありません。私はただ、世界の意志に触れ、それを知ることができるだけ。けれどあなたは、世界の意志を実行する力と、それを自ら選ぶ権利まで持っているのですから」

「んー・・・でもやっぱりほら、年功序列って大事だと思うんだよ」

 

精霊として生きてきた年月で比べれば、さやかは自分などまだまだ小娘だと思っている。

たとえどれほどの力があっても、千年もの間世界を見詰め、全てを知ってきたヴィオラには、まだまだ及ばない。

 

「・・・・・・ごめんね」

「何がですか?」

「色々。この通り今も存在してるけど、約束破って私死んじゃったし、彼が死地に赴くのも止められなかったし・・・まぁ、なんでもできると思うほど傲慢じゃないけど、それでもヴィオラさんを悲しませるようなことばかりしてるから、私」

「・・・仕方のないことです。あなたはあなたの意志で、その道を選んだ。彼は・・・彼の意思で求める先へ突き進んだ。誰にもそれを、止めることなんてできません」

「ヴィオラさん・・・」

「・・・むしろ、罪作りなのはあの方です。残されることは辛いと、言って差し上げたのに・・・」

「私も言った。でも考えてみたら、私も同じことしそうになったんだもんね・・・そんな私が言っても説得力ないか」

 

苦笑いを浮かべるさやか。

それを見てヴィオラも、同じく苦笑する。

お互い、困った男を好きになったものだと、不思議な共感をした。

 

「だけど、よかったとも思っています。“私”と共にいた時に果たせなかった事を、彼は果たせたのだから」

「そうだね。彼自身は、満足だったかもしれない。それで、一応だけどちゃんと生きて帰ってきたんだから、みんなを残して逝っちゃったわけでもない。これ以上を望むのは、贅沢なのかな」

「ええ、そう思います」

「・・・でも、私もエリスちゃんも我を通すタイプだからね〜・・・同じく我を通した祐一君とは、どうしても反発しちゃうんだよね」

 

やはりさやかやエリスは、イシスやヴィオラのように祐一の辿った道に納得する事はできない。

もう彼女達が、彼と同じ道を歩むことがなくなってしまった事実は覆らないのだから。

けれど、今は割り切ろうとさやかは思った。

それができなければ今後ずっと続く運命の中で、それに押しつぶされてしまうから。

 

「よしっ!」

 

これ以上、そのことで思い悩むのやめた。

時間が経てば、さやかもエリスも、気持ちの整理がつくこともあるだろう。

ならば今は、何も考えずに今を生きるとしよう。

 

「ところでヴィオラさん」

「何でしょう?」

「結局あの二人って、どっちが勝ったの?」

「どうして私に聞くのですか?」

「だって、地上のことは何でも知ってるはずでしょ。あの二人は地上で戦ったんだし、よかったら教えてよ」

「それは・・・」

「それは?」

「秘密です」

「えー、ずるーい!」

「ふふふ、冗談です。それは、私にもわかりません」

「そうなの?」

「ええ。彼らは、世界の意志すら届かぬ場所で戦っていましたから。何人たりとも、そこへ立ち入ることはできませんでした。本人達以外は」

「そっか」

 

ならば結果は、本人達しか知らないということだ。

ずっと先のいつか、聞いてみようと思った。

 

「じゃあさ、別の質問。というより、お願い。実はこっちが本題で来たんだ」

「私にできることでしたら」

「うん、探してほしい人達がいるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 さて、後日談的外伝の開始である。冒頭のモノローグで本編終了後の各自のその後が語られ、後半ではおひさしぶりのキャラが登場。今後も久々登場の人達が・・・。

 時に蛇足であるがZEROに関して、祐一やさやか、エリス達に引き続き登場してほしいという意見が数多く寄せられてはいるものの、あれは世界観が共通してるだけでまったく別の物語だから、あまり直接的な話の繋がりはないものと思っていただきたい。こっちのUltimateとの繋がりにしても、ZERO第6話で出てきたにーにゃんレーダー、ああした妙なアイテムをさやかが作るようになった経緯が今回描かれている・・・と、この程度である。まぁ、あえて言うことでもないのだけれど、その辺ははっきりさせておこうかと。