デモンバスターズUltimate

 

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全て消し飛んだかに見えた。

魔界の大地に、一筋の線が穿たれている。

空から見下ろせば、インフェルノフレアの恐るべき破壊力を実感することができる。

その、溝の一点に、削れずに残っている場所があった。

そこには、剣を振り下ろしたまま動かぬ、一人の男がいた。

数歩離れたところには、この破壊をもたらした女が立っている。

 

「・・・防がれ、た・・・」

 

男、祐一は、健在であった。

女、さやかの全てを込めた一撃は、祐一には届かなかった。

 

「・・・防いだぜ、さやか」

 

祐一は顔を上げて、剣を納める。

消耗はしているが、まったくの無傷であった。

究極の矛は、最強の盾の前に、敗れたのである。

 

「やっぱり、負けちゃったかぁ・・・」

「ああ、俺の勝ちだな」

 

先ほどまで、互いに感情をぶつけ合っていた二人だったが、今は穏やかな気持ちでいた。

全てを出し切って、己の進む道を切り開いた祐一と、全てを出し切って、それを止められなかったさやか。

これ以上、何を言っても無駄であることを、さやかは悟ってしまっていた。

 

「行くんだね?」

「今の衝突で空間が歪んでる。行くなら今だからな」

 

祐一ほどのレベルの力の持ち主が魔界と地上を行き来するのは容易ではない。

その場合、大きな時空の歪みを利用しつつ、尚且つ自身の力を著しく抑える必要があった。

今、祐一はその二つの条件を満たしていた。

究極と最強の力の激突で生じた時空の歪みと、限界まで消耗した体。

これならば、地上へ行くことができる。

 

「じゃあな、行ってくる」

「祐一君・・・!!」

 

背中を見せかけた祐一を、さやかは呼び止める。

だが、これ以上何を言っても無駄だということはわかっている。

それでも呼び止めてしまった。

何を、言おうというのか。

生きて帰ってきてほしい、とは言えなかった。

最後の、最強の賭けた闘いであるからこそ、それは命を懸けたものとなるであろう。

それを、祐一自身が望んでいるのだから、言えなかった。

だからさやかは、精一杯の笑顔と共に拳を突き出し、この言葉を送った。

 

「やるからには、勝ってこーい!」

「当然だ」

 

握り拳を見せながら、祐一は踵を返し、空間の歪みへと向かっていった。

その姿が揺らぎ、この魔界から、祐一の気配が消えた。

 

「・・・・・・行っちゃった、か・・・」

 

そこが、限界だった。

背後にある木の幹に体を預けて、さやかは嗚咽を漏らす。

これが最後になるかもしれなかった。

だとしたら、もっと話したいことがあったはずだった。

しかしさやかは、ただ笑顔で見送ることしかできなかった。

 

「ごめん・・・エリスちゃん、イシスちゃん・・・。私じゃ、祐一君を止められなかったよ・・・!」

 

言葉にしてから、自らを否定する。

二人のために、そんなことのために戦ったのではない。

さやかはただ、自分が彼を失いたくなかったのだ。

だから、全てを懸けて止めたかった。

けれど、止められなかった。

悔しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。

 

「お願い、祐一君。願っちゃいけないのはわかってる・・・だけど、それでも、どうか・・・・・・生きて・・・帰ってきて!」

 

傍にいるのが当たり前だと思っていた、最愛のひと。

その無事を、さやかはひたすら、祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『強いひとだと、思った。

はじめて出会った時からたぶん、その強さに惹かれていた。

ただ力があるっていうだけじゃなくて、絶対に揺るぎない信念、強い心を持ったひとだと思った。

私自身も、あんな風にあれたらいいと思う。

そんな憧れを抱きながら、私白河さやかは、彼相沢祐一の傍にいた。

 

彼は本当に強い。

自ら望むままに生き。

信じる道を突き進み。

それでいて、他人を包み込むこともできる優しさも持っていて。

本当にすごいひとだと思ってた。

だけど、違っていた。

彼は神様でも、超人でもない。

彼もまた、普通のひとだったんだ。

みんなと同じように思って、願って、悩んで、苦しんで。

そうやって彼も、一生懸命生きていたんだ。

たった一つ、想い描く遥か先の世界へ行くことを望んで、必死に生きてきた。

 

彼は今、一人で求める世界を目指していった。

全てを捨ててまで。

自分を取り巻く人々との繋がり、その大切さも、彼は知っていた。

その繋がりを断ち切ることにも、身を引き裂かれるほどの苦しさを感じただろう。

それでも彼は、この道を選んだ。

 

そして彼は今、そこへ向かっていった・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上――。

無人の平野で。

唯一人の女性に見守られて。

二人の男が剣を交えていた。

銀の髪と白き翼持つ青年、神と人の血を引く比類なき聖なる力の持ち主、神月京四郎。

黒き髪、紅き眼、この地上に偶然生まれた鬼子、並ぶ者無き強靭な体と心で頂点を目指す男、雛瀬豹雨。

かつては兄弟として、師弟として共に過ごした二人の男が、今全てを懸けて闘っていた。

京四郎の名無しの宝剣と、豹雨の五尺の大太刀が、信念を込めて打ち合わされる。

それを唯一人見守る巫女は、楓であった。

 

「豹雨・・・京四郎さん・・・・・・」

 

楓はずっと、豹雨の戦いを見てきた。

地上で最強の彼を追う者達を全て打ち倒し、天へ昇って神々すらも屈服させた豹雨の戦いを。

そして今、この地上で豹雨にとって唯一の壁、京四郎と闘っていた。

京四郎のまた、その豹雨の思いを全て受け止め、全力で応じている。

これは、人と神の闘い。

史上唯一、人の身で天に届く力を持った男が、天より地に降り立った神の力を持つ男に挑む闘いだった。

その闘いも、いよいよ決着の刻を迎えようとしていた。

 

「無天神刀流奥儀・太極剣!」

 

神の力と、人の技。

京四郎の究極の一刀が、豹雨目掛けて振り下ろされる。

それを迎え撃つのは豹雨の、神も魔も人も、全てを打ち破る最強の剣。

 

「神魔必滅・かむなぎ!」

 

究極と最強の激突。

数瞬の拮抗の後、その力は、片方へと一気に流れ込む。

片方、即ち、敗者へと。

 

ドシュッ!!!

 

振りぬかれた剣が、相手の身を斬る。

交差した二人は、互いに背中合わせに大地に降り立ち、膝をつく。

どちらも、その姿はぼろぼろである。

だが、最後の一撃を受けて血を流しているのは、一人、負けた方のみであった。

 

ザッ!

 

そして、勝者だけが両の足で大地を踏みしめ、立ち上がる。

勝利した男は、刀を肩に担ぎ、振り返って、笑った。

 

「俺の勝ちだ、京四郎」

 

最後の一撃が相手に届いたのは、豹雨の方であった。

自らの力で最強の座を勝ち取った男は、いつもの不敵な笑みで、ずっと見上げる存在だった兄であり、師であり、好敵手であった男を見下ろしていた。

 

「・・・見事だったよ、豹雨。僕の、負けだ」

 

傷は深いが、京四郎にとっては致命傷と呼ぶほどのものではない。

だが、全てを込めた最後の一刀を破られた以上、勝敗は明らかだった。

 

「・・・・・・ほっ・・・」

 

闘いが終わって、楓はようやくほっと一息ついた。

何より、深く傷付いたとはいえ、二人ともが無事でよかったと思う。

そして楓は、豹雨が勝ったことが心から嬉しかった。

 

「やったね、豹雨!」

「当然だろ。京四郎を倒せるの俺だけ、そして俺を倒せる奴はいねぇ、そう言っただろうが」

「結構、危なかったように見えたけど?」

「ふんっ」

「京四郎さんも、大丈夫ですか?」

「ええ、傷は深いですが、何とか大丈夫ですよ。僕はこう見えても医者ですから」

 

既に自らの力で傷を癒しているようだ。

心配する必要はなさそうだった。

 

「これで、豹雨の戦いも終わり、かな?」

「・・・いや、まだだ」

「え?」

 

最も勝ちたかった相手を倒したはずの豹雨は、その余韻に浸ることなく、どこか遠くを見詰めていた。

その眼は、その心は、ここではないどこか、どこかにいる誰かを、さらなる戦いを求めていた。

 

「あと一人、いる」

「あと一人・・・?」

「・・・・・・」

 

豹雨は、その相手を脳裏に想い描く。

はじめて会った時から、ずっと思っていた。

こいつは、自分と同じだと。

闘い抜いた先の世界、遥かな高み、最強の座を持つ者だけが辿り着ける場所を目指している奴だと。

そしてそのために、全てを懸ける男であると。

だから、いつか、最強の座を手にして向き合うことになるであろうと思っていた。

その男が今、豹雨を呼んでいる。

最後の戦い、遥か先、至高の世界へと。

 

ザッ

 

傷付いた体を癒す間も惜しみ、豹雨は歩き出す。

そこへ、向かって・・・。

 

「いいんですか、一緒に行かなくて?」

「・・・行けない・・・」

 

京四郎の問いかけに、楓は首を振る。

豹雨が求めている相手、それが誰なのか、楓にもわかる気がした。

ずっと豹雨の背中を追っていた彼。

それと同じように、豹雨もまた、彼の背中を追っていた。

まるでいたちごっこのように。

その二人が今、はじめて真に向き合おうとしている。

 

「ここから先は、誰も介入できない。私も、あなたも・・・エリスちゃんも、さやかちゃんも・・・誰も・・・行く事はできない。そこは、唯二人、あの二人だけが行くことのできる、場所だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、二人は対峙していた。

 

天地魔界にはびこる強豪達を尽く打ち倒して。

 

互いに最強の座を持って、今向き合っていた。

 

他には誰もいない。

 

ここは、二人だけの世界。

 

「ようやく、俺の前に立ったな」

 

一人が言うと、もう一人も答える。

 

「この時を、待ってたぜ」

 

ずっと待ち望んでいた時が、今だった。

 

二人は共に、最強の座を手にしていた。

 

だからこそ、この場所にいる。

 

だが、真の最強は、唯一人・・・。

 

ならば、決めなければならない。

 

今・・・ここで。

 

「「さぁ、始めようか」」

 

そして、伝説の闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 ようやく・・・祐一の物語としてのデモンバスターズは完結しました。
 たぶん、期待してた人もいるかもしれませんが、祐一と豹雨の闘いは、描きません。というより・・・描けません・・・。これまでの幾多の戦いで出せるものは出し切ってきたので、それを超えるこの闘いは、もう私の表現力が追いつかないです・・・。なので二人がどんな闘いをして、どんな結末を迎えたのかは、みなさんで想像してみてください。

 さて、これでUltimate本編は終了となります。次回からは後日談的エピソードを外伝として書いていきます。主役はさやかで、おひさしぶりな面子も登場します。
 しかしまぁ・・・そろそろZEROやファンタジアの方も書かないと・・・・・・。