デモンバスターズUltimate

 

  −8−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガネーシャの相手をエリスに任せ、祐一はあの場を離れた。

散々コケにしてきたが、ガネーシャは決して雑魚ではない。

おそらく魔力の総量に関しては、フェンリルを除けば全魔神の中でも一二を争う。

ゆえに両者の戦いが気にならないでもなかったが、祐一には先に行くべきところがあった。

そして、さやかもそんな祐一についてきている。

 

「大丈夫かな? エリスちゃん」

「大丈夫だろ、あいつなら」

「それもそうだね」

 

さやかも、エリスの心配はしていなかった。

それよりも、エリスとガネーシャの戦いを見もせずにあえて行こうとしている先の方が気になっている。

 

「で、君はどこ行くの?」

「行くべきところさ」

 

そう言ってもうかなりの距離を移動していた。

魔界の地理には詳しくないさやかだが、色々聞いているうちに大体わかるようになった。

ロキの城があった場所は、西地方のやや北寄りに位置するらしい。

そして現在、最も近い大勢力を持つのは、西の三魔神とのことだ。

だとすると、今祐一が向かっているのはその三魔神のいずれかのところかと、さやかは思う。

 

「む」

 

やがてそこへ近付くと、それが誰なのかさやかにもはっきりわかった。

まだ少々離れているが、気配でわかる。

隠そうともしていない激しい魔力と闘気が、まるで祐一を呼んでいるように放たれているのだ。

 

「先約ってこのこと? いつの間に約束なんてしてたの?」

「そんなものは必要ない、が、強いて言うなら、ずっと昔に、か」

 

開けた場所に出る。

森の中心に抉られたような地形があり、そこだけ一切植物の類が存在していない。

荒野となったそこは、幾度もそこで激しい戦いが行われたことを如実に物語っている。

その中心地に突き出た岩の上に、その男は腰掛け、敵の訪れを待っていた。

 

「待ってたぜ、祐漸」

「ああ、待たせたな、ベリアル」

 

獣魔王ベリアル。

さやかも以前戦ったからこそわかる、魔界屈指の実力者である。

そしてイシスとは違った意味で、どの魔神よりも千年前の伝説の存在に拘っている男だった。

パーティー会場で見た、同じように以前闘神祐漸に敗れたという者達、アスモデウス、阿修羅王、ガネーシャらも、そしてあのシヴァも、皆これほどまでに祐一に執着したりはしていないように感じられた。

バベルの塔では別の相手に執着を見せていたが、今こうして対峙している相手、かつての闘神祐漸、祐一に対する執着は変わっていないようだ。

むしろ、地上で遭遇した時よりもさらに強く、その思いを感じる。

 

「覚えてるか祐漸、この場所をよ」

「もちろん、覚えてるさ」

「俺様とおまえがはじめて会い、はじめて戦い、はじめて俺が敗れた場所。そしてその後幾度も俺達が戦った場所だ」

 

ベリアルが立ち上がり、祐一の方へ向かって歩き出す。

それに対して祐一も前に進み出て、さやかは邪魔にならないように後ろへ下がる。

互いに前進した二人は、10メートルほどの距離を保って向き合う。

 

「そして今日、俺様達の因縁が終わる場所だ」

「いいぜベリアル。望みどおりにしてやるよ」

 

祐一は背負った剣を抜き、そしてその場で地面に突き刺した。

さやかから見てはっきりわかるほど、祐一の魔力の質が変わった。

時々ちらちらと感じることはあった、本来の祐一とは別の力の存在。

それが今、祐一の身を包んでいる。

 

ガンッ!

 

両の拳を打ち合わせ、祐一は獰猛な笑みを浮かべ、その眼光がベリアルを射抜く。

 

「今日だけは特別だ。今、この時だけ、俺は祐漸として戦う。決着をつけようぜ、ベリアル!」

「上等だっ、祐漸!!」

 

ドンッッッ!!!

 

ベリアルの全身が爆発したかと思われるほどの魔力が一気に放出される。

それだけで、大地と大気が震えているようだった。

いや、二人の魔力がぶつかり合っている場所では、間違いなく全てが打ち震えている。

もはや、誰の介入も許されない。

今ここに、二人の魔神の闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

「むぅ!」

 

戦闘中のエリスとガネーシャは、凄まじい魔力の波動を感じて動きを止めた。

かなり距離は離れているが、はっきりと感じられるほど強力なものである。

 

「祐一、始まったみたいね」

「祐漸とベリアルか。ならばこちらもそろそろケリをつけてくれる」

「・・・ケリをつける、ですって?」

 

エリスがキッとガネーシャを睨みつける。

 

「魔竜王の称号を継いだとはいえ所詮は100年やそこらしか生きていない小娘。力の程など知れておるわ。とっとと叩き潰して、早々に我を愚弄したあの人間の小娘を捻り殺してくれるわ!」

「それは無理な話ね」

「なんだと?」

「おまえじゃアタシはもちろん、さやかにだって勝てやしない。理由を教えてあげるわ」

 

魔剣レヴァンテインを持った右手を下げ、エリスは左手の指を立ててみせた。

 

「一つ、おまえの戦い方は力任せでまるで戦術というものがない。それじゃあ雑魚には通じても、本当に強い奴には勝てない。二つ、戦いに対する志が低い。おまえは弱い奴を甚振って、それで自分を満足させているだけで、闘争心がない」

「ぐぬ・・・」

「そして三つ。実にシンプルな理由よ」

 

エリスは、手にしたレヴァンテインを納める。

魔力の質が変わり、眼は真紅に染まり、角と翼が出現する。

 

「アタシの方が、おまえより強い」

「き、きさま・・・その姿は・・・!?」

「ケリをつけると言ったわね。いいわよ、望みどおり、つけてやるわ」

 

魔竜の咆哮が、魔界の地平に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉおおおおおお!!!!」

「うらぁああああああ!!!!」

 

両者の拳と拳が激突する。

ぶつかり合った場所から放たれた衝撃波が荒野を駆け抜け、周辺の木々をも揺さぶる。

押し合う両者の力はほぼ互角に思われた。

 

ガガガガガガガガッ!!!

 

一撃の衝突から一転、ラッシュの打ち合いへと変わった。

速度もまったくの五分、どちらの攻撃も相手の拳に阻まれて体までは届かない。

 

「ちぃっ!!」

 

数百発は打ち合っただろうか。

二人は同時に跳び下がり、ベリアルは同時に魔力を右手に溜め込む。

 

「喰らえ祐漸!!」

 

ベリアルの放った魔力球が祐一を襲う。

 

「ふんっ!」

 

バァンッ!

 

それを祐一は片手で弾き飛ばす。

軌道を変えられた魔力球は遥か彼方へと飛んでいき、地平線の彼方で大爆発を起こした。

爆風と閃光が遠く離れたこの場所まで届く中、祐一は再び動き出す。

最初のように正面からではなく、隙をつくように相手の周りを旋回する。

 

「その程度の動きで!」

 

背後へ回り込んだ祐一に向かって、ベリアルは背中を見せたまま跳躍した。

 

「俺様の裏をかけると思ったかぁっ!!」

 

祐一に接近したベリアルは振り返りながら後ろ回し蹴りを放つ。

ガードした祐一は勢いを殺しきれずに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

追い討ちをかけようとするベリアルに対し、祐一がカウンター気味に拳を突き出す。

まともに喰らわせたところへ、さらに両拳を固めて振り下ろした。

 

ズンッ!

 

今度はベリアルが地面に叩きつけられ、その威力でクレーターができた。

 

「少しは効いたか?」

 

そう言った瞬間、真下から巨大な魔力波が放たれ、あわやのところで祐一は回避する。

 

「にゃろう」

「まだまだだぜ、祐漸よぉ」

 

しばらく二人は離れて向き合っていたが、再び同時に踏み込んで激突した。

 

 

 

 

 

 

さやかは、じっと二人の闘いを見詰めていた。

誰よりも率先してこの闘いへの参加を決めた二人。

かつて最強と謳われた魔神の転生と、自ら最強を名乗る魔神。

その名に相応しい、熱く、激しい闘いであった。

 

「(・・・なのに、なんだろう? この感じ・・・)」

 

闘いが進めば進むほど、さやかは奇妙な違和感を抱き始めていた。

それが何なのかはわからない。

違和感と言うのが具体的にどういうものかも、説明のしようがなかった。

二人が本気で闘い、それを心底楽しんでいるのは間違いない。

そのはずなのに、見ているさやかは、無性に切ない気持ちを抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

祐一とベリアルの闘いは尚も熾烈を極めた。

空を裂き、大地を割り、互いの魂を削りあって、二人は激しくぶつかり合う。

己の持てる力の全てをつぎ込み、闘志を極限まで燃やし、命を懸けて。

ただ求めるのは、勝利。

いつまでも続くかに思われた両者の闘いも、やがて求める瞬間に向けて、決着がつこうとしていた。

 

「はぁああああっ!!」

 

ドンッ!

 

「ぐぅっ!」

 

祐一の放った一撃がベリアルのガードを突き抜けた。

ラッシュの競り合いでも、徐々に祐一が上回りだしている。

段々と押し込まれていくベリアルに、祐一の攻撃が次々に決まっていく。

 

「ぐぉおおおお・・・!!」

「終わりだ! ベリアルッ!!」

 

ドゴォーンッ!!!

 

特大の一撃を喰らって、ベリアルの身が地面に叩きつけられる。

隕石が落下したような衝撃によって巻き起こった土煙が晴れた時、ベリアルはまだ立っていた。

しかし、受けたダメージが相当のものであることは明らかだった。

対する祐一も疲弊してはいるが、まだ力は残っている。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

「・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

ベリアルの方が息遣いが荒い。

魔力の大きさにも、眼に見えて差が出ている。

祐一はそれでも、まだまだ油断はしない。

だが、既に勝負は決したかに見えた。

 

「そろそろダウンか、ベリアル?」

「・・・・・・ぐふっ!」

 

突然、ベリアルの息がさらに乱れる。

激しく咳き込むと、口元からは血も溢れ出してきた。

それ以上に祐一の目に留まったのは、胸部から流れ出る大量の血だった。

 

「ベリアル・・・おまえ・・・!」

「・・・ちくしょう・・・もう限界かよ・・・くそったれ・・・!」

 

胸部から流れている血は、今の闘いでついた傷によるものではない。

ここまで出血するほどの傷は負わせていないはずだった。

ベリアルの胸の傷は、魔神と言えども致命傷と呼べるほど、深かった。

 

「その傷・・・豹雨か?」

 

他に、ベリアルにこれほどの手傷を負わせた存在は思い浮かばなかった。

半年前のバベルの塔での戦いの結果は知らない。

だがその後、魔界に戻ってからのベリアルは彼に似つかわしくないほど大人しかった。

その理由が、これなのかと、祐一は悟る。

 

「おまえ、よく・・・」

 

その傷で生きていられる。

そう祐一は思った。

だがベリアルは致命傷を負って生きているどころか、今まで戦ってきた中で最高の力を出しているのだ。

とんでもない化け物振りである。

しかしそれもここまで。

もうとても戦えるようには、これ以上生きていることさえできそうになかった。

 

「・・・ちっくしょう・・・・・・なんで・・・なんでだぁっ!!!」

 

傷を押さえて俯いていたベリアルが天を仰ぐ。

さらに胸と口から血が溢れ出るのも構わず、ベリアルは叫んだ。

 

「なんでだよちくしょうっ! 俺は! 俺様は! 最強の魔神になるために生まれてきたはずなのにっ、なんでこうなるんだぁっ!!!」

「ベリアル・・・!」

 

気性の荒い男ではあった。

けれども祐一は、こんな風に叫び声を上げるベリアルを見たのは、はじめてだった。

 

「そうさ! 俺様は生まれた時から最強になると決めてたはずじゃねぇか! なのに、俺が魔神として力をつけた時には、もうアシュタロスとアスモデウスの奴らがいやがった! 奴らと並び称され、西の三魔神なんて呼ばれたこともありやがったが、俺はそんなものがほしかったんじゃねぇ! 俺はたった一人、最強の称号がほしかったんだ!」

 

心の奥底にあるものを全て吐き出すように、ベリアルは叫び続ける。

 

「だから俺はさらに力をつけた。そして! ようやく奴らを超える力を身につけられたと思った矢先に・・・てめぇが現れやがった! 祐漸!!」

 

キッとベリアルの視線が祐一を射抜く。

その眼は、今ここにいる祐一ではなく、その向こう側を見ているようだった。

 

「てめぇは俺の築き上げてきたもの全部、叩き潰していきやがった。その上、俺がずっと超えたかったアスモデウスの野郎まであっさり倒しちまいやがってよ! あの時俺は生まれてはじめて、本物の敗北感てやつを味わった!」

「・・・・・・」

「だがな、俺は逆に考えることにした。その後も勝ち続けていたてめぇに・・・最強と謳われる奴をこそ倒せば、俺様が真の最強になれると。その日から、てめぇを倒すことが俺の生き甲斐になったんだ。それを! てめぇは突然どこかへ消え、地上なんぞでくたばっちまいやがった! あの時の空虚感、てめぇにわかるか!!」

 

あれは祐一・・・祐漸自身が望んだ結末ではなかった。

しかし、それを言った見たところで詮無いことだった。

要は結果が全て。

祐漸は、ベリアルや他の魔神達との決着をつけられないまま死んだのだ。

 

「千年・・・俺は待った。そして、再びてめぇに会った。やっと闘えると思ったら、てめぇはまだ力に覚醒してなくて、ひどくくだらねぇ気分になった。そこへだ、あの野郎が現れたのは! 人間風情のくせに、この俺様に手傷を負わせた男! 昔のてめぇと同じ・・・『俺が最強なんだよ』って顔に書いてるような野郎が、人間の分際で俺様と互角の勝負をしやがった。屈辱を感じる反面、俺は思った・・・こいつを倒せれば、いずれ覚醒したてめぇに勝てると、そう思ったからあの野郎と戦った! 結果・・・この様だっ!!」

 

ベリアルは服の胸元を引きちぎる。

その有様に、祐一は顔をしかめ、端で見ていたさやかは思わず口元を覆った。

どす黒く変色した血、そして肉は半ば腐りかけている。

本当に、その傷でよく今日まで生き、これほどの死闘を演じられたものだった。

 

「祐漸。俺は・・・俺様は・・・!!」

「!!」

 

祐一は驚きに目を見開く。

あの、魔界全土にその名を轟かせる魔神、獣魔王ベリアルが、その眼から涙を流していた。

 

「俺様は!! この魔界で、一番強ぇ奴になりたかったんだ! 生まれた時からずっと、それだけのために生きてきた!! なのに俺は、今まで一度も・・・ただの一度だって、本当に勝ちたい野郎に勝ったことがねぇっ!!! 俺が最強のはずなのに・・・この魔界は、俺より強ぇ奴らばっかりだ!!」

 

天に向かって泣き叫ぶベリアル。

それはまさに、魂の慟哭だった。

 

「同じ時、同じ地に生まれた奴ら、アシュタロスとアスモデウスに勝てねぇ! あの化け物、フェンリルにも勝てねぇ! 挙句、そいつらに勝つために死ぬほどこの身を鍛えたってのに、俺様よりさらに下から這い上がってきたベルゼブルの野郎にも!! そしててめぇらだっ、祐漸! 豹雨!!」

 

もう祐一には、わかっていた。

ベリアルは、己の限界を知ってしまったのだ。

例え限界の一つや二つ知ったところで、その不屈の闘志がくじけるような男ではない。

だが、ベリアルにはもう時間がなかった。

命の灯火が消えない間に、さらに上を目指すことは、もうできないのだ。

 

「ベリアル・・・!!」

 

その思い、悔しさ、祐一にはわかる。

かつて祐漸も、同じ思いを抱いて死んでいったのだから。

 

「・・・・・・だがな!」

「っ!」

「俺様は、ここで終わりだ。だが、ただの終わりじゃねぇ。今、ここで、祐漸ッ! てめぇを倒して、最強の称号を手にしての終わりだぁっ!!!!」

 

ドンッ!!!!!

 

もほや尽き掛けたかと思われたベリアルの魔力が爆発した。

それも、今までよりもさらにさらに大きく、熱く、激しく。

 

「くっ・・・この力、フェンリル・・・いや、サタンすら・・・!!」

 

今のベリアルは、バベルの塔で千年溜め込まれた魔力を無限に吸い続けて世紀の怪物フェンリルすら凌駕する魔力を手にしたあのサタンすらをも、超えていた。

いったい、どこにそんな力が残っていたのか。

答えは、簡単だった。

 

「命の炎を・・・燃やしてるのか、ベリアル!」

 

消える直前のロウソクのような、消滅する寸前の流星のような、最期を迎える瞬間に放たれる輝きを、今のベリアルは放っていた。

燃え尽きようとする命を、魂を燃やして、一瞬の閃光のような魔力に換えているのだ。

 

「ごぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

天をも衝く、ベリアルの超魔力。

それが今まさに、解き放たれようとしていた。

 

「くっ・・・!」

 

その力に圧されて、祐一の体が後ろへ下がる。

圧倒されながらも、祐一はベリアルの一撃を防ぐべく、残る全ての魔力をつぎ込んで障壁を生み出す。

 

「くたばれぇぇぇぇぇーーーーーーっ!! 祐漸ーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」

 

全身に魔力をまとい、拳を振りかぶって、ベリアルは祐一目掛けて跳んだ。

突き出された拳が、祐一の生み出した氷魔壁と衝突する。

 

ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!

 

最初の数枚は、いとも容易く貫かれた。

それでもまったく威力を殺しきれず、まだ障壁が残っているにも関わらず圧力が祐一の体を押し下げる。

その祐一の背中に、当たるものがあった。

 

「!!」

 

咄嗟に祐一がそれを手に取ったのと、最後の障壁をベリアルが打ち抜くのはほぼ同時だった。

手に取ったもの、デュランダルを立ててガードしようとする祐一。

そして、ベリアルの渾身の一撃が、爆発した。

 

 

 

 

 

ドゴォーーーーーーーン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

静けさが、辺りを包み込んだ。

一瞬前まで、大地と大気を揺るがせていた激しい震動も収まっていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

静寂の中、剣を盾としたままの体勢で、祐一は目を見開いている。

眼前には、拳を突き出したままの姿勢のベリアルがいた。

拳は、剣に届く寸前で止まっている。

その拳、手の甲に刻まれていた赤い紋様が消えていくのが見えた。

 

「ベリ・・・アル・・・・・・」

 

獣魔王ベリアルは、最期の一撃を放った姿勢のまま、絶命していた。

紋様が消えたのは、命を失った、ゲームへの参加権を失った証だった。

 

「・・・・・・」

 

最期の一撃、果たして止められたかと、祐一は思う。

止めて、耐えてみせたと、祐一の自信は言う。

だが、彼我戦力を正しく見極める祐一の冷静さは、防ぎきれなかっただろうと言っている。

魂の一撃を放った瞬間、ベリアルは確かに、祐一を超えていたのだ。

どんな戦いにおいても、最後に生き延びた者こそが勝者だと、祐一は思っていた。

今も、その気持ちは変わらない。

だが、それでも、この闘いは・・・。

 

「・・・・・・おまえの勝ちだ、ベリアル・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ベリアルの魔力が、消えた・・・。祐一、勝ったの?」

 

倒れ付したガネーシャに背を向けて歩き出したエリスは、遠くの地でベリアルの魔力が一瞬跳ね上がり、爆発した瞬間に消えたことを感じていた。

ここからでは、何が起こったのかを正確に窺い知ることはできないが、ベリアルの魔力が消え、祐一の魔力が残っているのなら、結果は明らかだった。

 

「だけど、まだまだお互い、これからよね」

 

倒すべき敵は、まだまだいる。

それを全て倒すだけの力を得るため、エリスは今一時、祐一のもとを離れることにした。

 

「絶対勝つ。約束、忘れるんじゃないわよ」

 

次に会う時は、二人が・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一とベリアルの闘いは、終わった。

勝敗については、さやかは考えないことにした。

生き残ったのは祐一、重要なのはただそれだけである。

 

「(さっきの違和感は、ベリアルの体のことだったんだね・・・)」

 

彼は、心底祐一との闘いを望み、楽しんでいた。

なのにひどく、生き急いでいるように、さやかには見えたのだ。

それは、死を悟った者が纏う気だったわけである。

 

「(あまり自慢できない特技だけど、死相とか見るのは結構得意なつもりだったんだけど)」

 

まったく、あの傷を見せる瞬間までそれを感じさせなかったベリアルという魔神の肉体と精神の強さを、改めて実感させられた。

そして、命を賭した最期の一撃は、見ている者の心すらも揺さぶった。

魔界の巨星、ベリアルは逝った。

だがその名は、これからも長く語り継がれることだろう。

 

「・・・・・・」

 

こうして、祐一の魔界での最初の大一番は終わった。

そしてさやかは、闘いの最中に感じた“もう一つの違和感”の正体が、ずっと心に引っかかっていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 どんな形になっても、まず最初に入れたかった祐一(祐漸)とベリアルの決着。最強になれる器を持ちながら最強になりきれなかった男の最期・・・うまく描ききれただろうか? それにしても・・・我ながらこの作品の魔神達は人間くさいこと・・・。命を燃やして最後は祐一を超えてみせたベリアルに対し、散々小物小物言われてきたガネーシャは戦闘描写すらないまま退場。同じ魔神でもまったく扱いが違うものよ。
 しかし今回も結構長くなった。基本的に書く際には各話の長さが均等になるようにしているのだけど、Ultimateではこの先も結構それが乱れそうな予感。
 さて、次回は果たして、誰と誰の戦いが・・・?