デモンバスターズUltimate

 

  −7−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか大変なことになったみたいだね〜」

「まぁな」

 

祐一とさやかは並んで城の大廊下を歩いている。

パーティーの日から三日が経ち、既にほぼ全ての真魔は城を後にした。

最後まで一人で大広間に陣取って酒盛り宴会をしていたケルベロスも立ち去り、残っているのは祐一達とオシリスだけである。

今頃は各自の拠点に戻ったか、或いはもうどこかで戦い始めているかのどちらかであろう。

 

「舞台は魔界全土、時間無制限のバトルロイヤル。各自の持ち点は1で負ければ0、増える事はない。まさにサバイバルゲームだね」

 

単純なようで複雑。

やり方次第で誰にでも勝利が転がり込むこともあれば、絶対の強さがなければあっさり蹴落とされることもある。

 

「最低限のルールだけで争う・・・無秩序な魔界の覇権を決めるゲームとしては上出来だ」

「君はそれで勝ち残るつもりなの?」

「当然だろ」

「最終的にエリスちゃんやオシリスさんとも戦って?」

「望むところだ」

 

最後の勝者はただ一人。

ならば、親しい間柄の相手とは言え時が来れば戦う。

そして皆、それを望んでいる。

闘争を本質として持つ真魔の血が、そうさせるのだ。

 

「おまえはどうするんだ?」

「私? 私は出ないよ?」

「そうじゃなくて。ヘルとは随分仲がいいようだが、城に残らないのか?」

「ああ。うん、たまに戻ってくるよ。でも君達の戦いも間近で見たいし、ついていくつもり」

「そうか。誰についていくつもりだ?」

「ほぇ?」

 

話している内の正面玄関に到達する。

そこには既にエリスとオシリスが来ていた。

 

「イシスはどうした?」

「すぐに来るだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居間のところで、イシスはミドに呼び止められていた。

例の一件以来、二人だけで会うのははじめてだったが、顔を合わせるなりミドはイシスに向かって土下座をした。

 

「すみませんでした!!」

「は、はい・・・?」

 

これにはイシスも面を食らった。

謝られることなどあったかと考えを巡らせると、色々あったような気もするが、今この場でこうして謝る事柄と言えば一つしかないであろう。

 

「危うく、イシスさんに怪我をさせてしまうところでした。いや、たぶんオシリス様が割って入らなければ・・・ああ、僕はなんてことをっ!!」

 

頭を抱えるミドは本気で苦悩しているようだった。

先日対峙した時と本当に同じひとかと思わず疑いたくなる。

こうまで平謝りにされると、怒るを通り越して呆れてしまう。

 

「本当に、なんて言ってお詫びすればいいのか・・・・・・」

「・・・・・・はぁ・・・もう、いいわよ。何事もなかったんだし、それどころの騒ぎじゃなくなったし・・・」

 

ミドやヘル、そしてノルンの行動がロキを思っての行動である事はわかっている。

そしてその気持ちも、イシスにはよくわかった。

もし逆の立場で、祐一やオシリスのことが絡んでいたら、イシスも同じことをしたかもしれない。

だから、この件についてあれこれ追求するつもりはイシスにはなかった。

それよりも今は、祐一とオシリスが戦うかもしれないという事実の方が気がかりなのだ。

 

「それで、その・・・こんなことを言える立場じゃないのはわかっているんですが・・・」

 

だがミドの方はまだ何か話すことがあるようだ。

少しだけうんざりしながらイシスはミドの言葉に耳を傾ける。

 

「好きです、イシスさん」

「は、はぁ!?」

 

今度こそイシスは完全に呆れ返った。

というよりも、唐突過ぎて思考がストップした。

 

「す、すみません! 突然、こんなことを・・・」

 

まったくである。

と言いたいところだが口を開く余裕はイシスになかった。

 

「今まで、その、異性というものを特に意識したことはありませんでした。それに、父は僕のことはあまり気にかけませんし、兄はあの通りですし、姉も物事に無関心なことが多くて僕のことでもそれは変わりませんでした。ノルン達はそもそも父のことしか考えていませんし・・・とにかく、身近で僕に優しくしてくれるひとというのは今までいなかったわけでして」

 

いつもへらへらして何を考えているかわからない男が、やたら饒舌になって話している。

しかもいつにも増して興奮しているようで、それを見ている内にイシスの方は少しずつ冷静になることができた。

 

「ですから、イシスさんに優しくされて、嬉しかったんです。最初は、それだけで、けど一緒に過ごしてる内に変わってきて、好きになったというか・・・」

「・・・ふぅ・・・とりあえず、立って」

「は、はい」

 

言われるままに、ミドは立ち上がる。

 

「それから、ひとにものを伝える時は相手の目を見る」

「す、すみません」

 

さっきからずっと、ミドは視線を逸らしながら話していた。

それをイシスに言われて、二人は正面から向き合う。

 

「今の言葉、本気? 嘘偽りはない?」

「はい、ありません」

 

じっと見詰めあう。

普段からミドは表裏のない青年であるが、今もその目に嘘はなかった。

だからこそイシスも、きちんと答えを返すことにした。

 

「なら、私も本気で答えるわ」

「・・・はい」

「あなたのことは、嫌いじゃないわ。むしろ、私の近くにいたひと、兄上や祐様は私にとってどちらも“兄”だったし、ルシファーも一応年上だったし、年下といえばエリスは妹みたいなものだけど、最近すっかり生意気になってかわいくないったら・・・・・・ってそれは置いておいて。とにかく、年下の兄弟とはあまり縁がなかったの。だからあなたを見てると、手のかかる弟みたいな感じがするのよ。年上のくせにね」

「あはは・・・」

「そういう意味ではあなたのこと、好きよ」

「イシスさん・・・」

 

ミドの表情が穏やかになる。

とぼけていても、頭の良い男である。

今の言葉に込められた意味を察したのだろう。

イシスはそれを、はっきりと言葉にして伝えた。

 

「だけど、私が愛するのは、この世で唯一人、祐様だけよ」

「・・・わかりました」

 

伝え終わると、イシスは踵を返した。

居間を出て行く手前で、背後からミドに呼び止められる。

 

「もし・・・よければ。また遊びに来てください。その・・・姉弟として」

「・・・・・・フェンリルのいない時にね。私、あのひとは苦手だから」

「あはは・・・僕も兄君は苦手です・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐様、兄上、お待たせしました」

「何してたんだ?」

「いいえ、なんでもありません」

 

にっこり笑って祐一の傍らに寄り添うイシス。

何かあったような気配を祐一は察したが、なんでもないというならあえて追求することもないと、何も聞かなかった。

それよりも、前後から向けられる視線の方が痛い。

 

「じゃあ、私達も出発しようかー!」

 

さやかが祐一の腕を取りながら声を上げる。

対抗してイシスも祐一の腕を取って頷く。

無言でオシリスが先頭を切り、祐一達もその後につづく。

 

「・・・・・・」

 

エリスは一度、じっと城の奥へと顔を向けた。

この戦いの果て、最後に倒すべき敵の姿を、思い描きながら、エリスは踵を返して城を後にする。

 

 

 

城を出てしばらく行ったところで、彼らはすぐにその存在に気付いた。

 

「2、30人・・・といったところか」

「まぁ、予想はしてたがな」

 

いずれも先日のパーティーに出席していた真魔に違いないだろう。

下位のものが上位のものを打ち破る手段の一つ、それは徒党を組んで戦うことである。

一対一では絶対に敵わない相手にも、この方法ならば勝てる可能性もある。

 

「肩慣らしにはちょうどいい。やるか、オシリス」

「ああ、いいだろう」

 

祐一が剣を抜き、オシリスも槍を手にとって前に進み出る。

 

「エリスちゃんはやらないの?」

「雑魚相手に三人もいくことないでしょ」

 

そう言いながら、エリスの本音は別にあった。

エリスは、それなりに以前からオシリスのことを知っている。

だがその能力については、死者蘇生のもの以外はまったく知れない。

彼の実力さえも。

強いのは間違いないが、それだけの情報では足りない。

今後いずれ戦う時のために、オシリスの実力を見ておきたかった。

 

「祐様・・・兄上・・・」

 

イシスはまた違った視線を二人に向けていた。

今、二人は背中を合わせて潜んでいる敵に備えている。

それは、かつての二人の姿に違いなかった。

いつか、話していたことはある。

祐漸が、オシリスと戦ってみたいと。

オシリスが、祐漸と戦ってみたいと。

だがそれは、二人だけの勝負であり、こんな魔界の覇権をかけた争いの中でなど行われるものではないと、イシスは思っていた。

一体今、二人の胸中にあるものはなんなのか、それが知りたかった。

 

「さて、来るぞオシリス、用意はいいか?」

「無論だ」

 

周囲の茂みから、一斉に人影が飛び出た。

それぞれが押さえていた魔力を解放し、武器を手に祐一とオシリスに襲い掛かる。

 

「祐漸! オシリス!」

「千年前の最強伝説も今日で終わりだ!」

「その首もらったー!!」

 

下位といえ、彼らも真魔の血脈。

魔神と呼ばれる魔族の最高峰に連なる者達である。

一人一人の実力は確かなものであった。

しかし、相手が悪かった。

 

ドンッ!!

 

祐一が伏せると同時に、オシリスが槍を360度全方位に向けて薙ぎ払った。

敵の第一波をまとめて吹き飛ばしたところで、すり抜けてきた敵を祐一が起き様に斬り捨てる。

最初の一斉攻撃をあっさり防がれた敵に早くも動揺が走る。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

挑発を受けて、魔神達が再び一斉に動き出す。

この辺りはしっかりと統制が取れているようだ。

だがそこから先は、よくできた舞台の殺陣を見ているような感じだった。

主役は祐一とオシリス、斬られ役が向かってくる魔神達。

魔神達の攻撃は二人に掠りもせず、逆に二人は次々と敵を斬り、突き、薙ぎ、その力を奪っていく。

二人の連携も完璧であった。

さやかは、その動きに見惚れた。

エリスは、その強さに目を見開く。

イシスは、懐かしい光景に心を弾ませる。

千年前、魔界に謳われた闘神祐漸とその片腕と言われたオシリスの伝説は健在だった。

 

ザシュッ!

 

何人目かの魔神が斬撃を受けて倒れる。

既に半分ほどが戦闘不能にされていた。

 

「さて、そろそろ決めるか」

「そうだな」

 

二人の魔力が膨れ上がる。

地面は冷気が包み込み、上空には雷雲が立ち込める。

 

「氷神烈壊!」

「ライトニングイグニション」

 

ズドーーーンッ!!!

 

祐一の放った冷気の魔力が辺り一帯を凍りつかせる。

そこへ、オシリスの放った落雷が落ちた。

圧倒的破壊力の前に、残っていた全ての魔神は倒れた。

さすがに真魔の血脈だけあって半分以上のものがまだ息があったが、いずれも既に戦闘不能である。

見ていると、彼らの手の甲から紋様が消えていくのがわかった。

ゲームへの参加権を失った証拠である。

 

「腕は鈍ってないようだな、オシリス」

「おまえもな」

 

武器を納めると、二人はさやか達のもとへと戻った。

 

「おつかれー」

「大したことじゃない」

「言うねぇ〜」

 

地上にいた頃ならば、今の魔神達一人一人も充分脅威となるレベルの敵だったはずである。

それをオシリスと二人がかりでとはいえ、圧倒的強さで一掃した今の祐一の力はその頃の比ではない。

祐一も、そしてオシリスも、戦った直後だというのに涼しい顔をしている。

 

「行くぞ、イシス」

「はい?」

 

そのオシリスの言葉に、イシスが目を丸くする。

 

「あの、行くって、どこへ?」

「城へ帰る。おまえも来い」

「え? え? えーっ!?」

 

驚きの声を上げるイシスが祐一とオシリスを交互に見る。

祐一の方は、オシリスの言葉にあまり驚いていないようだ。

 

「ゆ、祐様?」

「イシス、そいつのこと見張っておいてくれ。そう見えて放っておくと何するかわからないからな」

「でも・・・」

「頼む」

「イシス。祐の邪魔をするな」

「・・・・・・はい」

 

まだ納得しない表情をしているが、祐一の頼みで兄の言いつけならばと従うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オシリス・イシスの兄妹と別れた三人は、道が分かれている場所でまた立ち止まる。

 

「分かれ道だな」

「分かれ道だね」

「分かれ道ね」

 

分かれ道と言うと、ロキの城へ至る前の時のことが思い出される。

今度はそういった仕掛けは何もなく、ごく普通の分かれ道である。

 

「どっち行こうか?」

「俺は右へ行く」

「なら、アタシは左に行くわ」

「ほぇ?」

 

意外なやり取りに、今度はさやかが目を丸くする。

だがこのことにも、当の二人はまるで意に介していない。

まるで、当然のことのように。

 

「オシリスさんと言い、どうしたの君達?」

「互いに馴れ合いを続けてたら、このゲームには勝ち残れないわ。祐一もオシリスも、このゲームをやると決めた時から敵よ」

「そういうことだ」

「・・・さっき誰についてくつもりだって聞いたのはこれかぁ」

 

改めて考えると、彼らの性格からすればそうなるかとさやかは思う。

 

「じゃあ、私は・・・」

 

そのさやかの背後に、不意に現れる気配があった。

 

「っ!」

 

ズンッ!!

 

気付いた瞬間、振り下ろされた拳が地面の砕いた。

土煙の中から現れたその姿に、祐一とエリスが身構える。

 

「おまえ・・・」

「ガネーシャか」

 

3メートルあまりの巨体に、象頭の魔神。

暴君ガネーシャである。

 

「人間の小娘めが、このガネーシャ様に逆らった報いよ!」

 

拳を上げるガネーシャ。

砕かれた地面の上に、さやかの姿はない。

 

「粉々に霧散しおったか」

「何のつもり、おまえ?」

「知れたことよ! 我に逆らった者の末路を辿らせてやったまでのこと」

 

パーティーの席では、主催者のロキや他の魔神の存在を気にして引き下がったが、どうやらそれで気が収まったわけではないようだった。

さらにガネーシャは、祐一とエリスに対しても殺気を向けている。

 

「ついでだ。この場で貴様らも片付けてくれるわ、祐漸、魔竜王!」

「君ってさぁ」

「!!」

 

そのガネーシャに、離れた場所から声がかけられる。

今自らの手で殺したと思った相手に声に、ガネーシャの顔が驚愕に彩られる。

 

「ほんとにどうしようもないひとだね」

「貴様・・・何故!?」

 

ガネーシャはもちろん、祐一とエリスにも今のさやかの動きは見えなかった。

だが、予測はできた。

 

「(瞬間的に冥界門を開いて発生した小さな次元の隙間を利用して転移したのか)」

「(さやかの奴、いつの間にそこまで・・・)」

 

驚き戸惑うガネーシャに対し、さやかはすっかり冷めた表情をしている。

 

「なんかもう、怒るのも馬鹿らしくなっちゃった」

「そうね。不意打ちでしとめられなかったくらいで取り乱すなんて、小物のすることよ」

「こいつは昔からこんなものだ」

 

東の三魔神と謳われていた者はいずれも実力伯仲であったが、実際にはシヴァは驕りが過ぎ、ガネーシャは弱者としか戦わない小心者だった。

闘神祐漸が最初に有名になった東の三魔神との戦いの後、阿修羅王とシヴァは幾度も祐漸に再戦を挑んだが、ガネーシャだけはついに二度目の戦いを挑むことはなかった。

 

「本物のクズにクズって言われたって、ベルゼブル君も大して気にしないよね」

「貴様・・・どこまでもこの我を・・・!! もう許さん! 叩き潰してくれる!!」

「そうだね。君のことはやっぱりむかつくから、私が倒しちゃってもいいんだけど・・・。ゲームの参加者じゃない私がやっちゃうのも、二人に悪いよね」

 

横で見ている祐一とエリスに向かって、さやかがウインクをしてみせる。

 

「どうする? 祐一」

「俺はパス。先約がある」

「ならこいつは、アタシがやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 いまいち出番の少ないオシリスとイシスの兄妹の見せ場の回。イシスは改めて祐一への想いの深さを見せ、オシリスは初のバトルとなった。が、二人は今回で一時退場。次の出番は少々先のことに。一方祐一達はガネーシャと遭遇。まずはエリスvsガネーシャ、そして祐一は・・。